知的巨人たちの百歳学(144)「センテナリアン(百歳人)の研究」➡超高齢社会を元気に長生きするために『長寿脳』を鍛える
2016/02/15
知的巨人たちの百歳学(144)
再録「センテナリアン」の研究(2009/02/21 )
超高齢社会を元気に長生きする『長寿脳』を鍛えるために
「センテナリアン・パワー」(百寿者)から学ぶ
静岡県立大学国際関係学部教授・前坂俊之
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%83%86%E3%83%8A%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%B3
「60、70はなたれ小僧、男盛りは百から、百から」「今やらねばいつできる、おれがやらねばだれがやる」(107歳・木彫家・平櫛田中)、『人間いつかは死ぬんやから、死ぬことなんか考えないの』(107歳・禅僧・大西良慶)、「60代までは修行、70代でデビュー、百歳現役」(105歳・日本画家・小倉遊亀)―
などなど、老後に不安を持つ高齢者にとって元気と勇気のわいてくる名言、名訓を集めた『百寿者百語―生き方上手の生活法」(海竜社、1500円)をこのほど出版しました。
現在、日本人の平均寿命は女性約86歳、男性約79歳で、100歳以上は3万6千人を突破しています。65歳以上の高齢者が人口の22%、70歳以上は2000万人を突破するなど、世界一の高齢化社会を迎えています。
このため、今後の「超高齢化社会」のモデルとなるような、生涯現役で90歳、100歳近くまで活躍した人物について調べてみました。
日本でも老年学、抗加齢医学など長寿者の医学的な研究は盛んですが、どのような長寿者がいたのかという長寿歴史学や、百歳学などはありません。そのため、各種人物事典、データーベースなどを調べて、生年、没年月日が正確に記録されている90歳以上500人の著名人をまずリストアップ。
『長生きの秘訣は百寿者の口ぐせに聞け』というわけで、実践に裏付けられた健康法や本当に役立つ養生訓を残している人を調べました。このうち、70人の名言百語を並べました。百寿者の言葉だけに、説得力があり千鈞の重みを感じます。
「百寿者」は英語で「センティナリアン」と言いますが、
日本の「センティナリアン」「ノナジェリアン」(卒寿者)
にはいくつかの興味深い特徴が浮き彫りになりました。
① 職業では、芸術家、画家、彫刻家、音楽家らに長寿者が多い。とくに、小倉遊亀、北村西望(彫刻家105)、片岡球子(同・102)ら画家、芸術家には長寿で、90歳代は多すぎて困るほど。昔から絵描きは長生きするといわれているが、好きなこと、創造的な仕事をやっていると年も忘れる典型です。
② 成功した経済人にも長寿者は少なくない。岩谷直治(岩谷産業創業者・102)、岡野喜太郎(スルガ銀行創業者・101)、中山素平(日本興行銀行元頭取・99)、御木本幸吉(ミキモト創業者・96)、松永安左エ門(電力の鬼・95)、瀬島竜三(伊藤忠元会長・95)、出光佐三(出光石油創業者・95)、松下幸之助(パナソニック創業者・94)、土光敏夫(東芝会長、経団連会長・91)ら日本の財界をリードした錚々たるメンバーです。こうした長寿経営者の健康法は経営学、企業長寿学と共通する部分が多く、不況にあえぐ経営者にとって大いに教訓となるものです。
③ 大西良慶、松原泰道(100、現役)ら禅僧、仏教者に長寿者が多いのは宗教心と日ごろの修行、簡素な生活のなせるわざであろう。
また、環境農業との関係で注目されるのは農業、食品企業の創業者に長寿者が多いことです。江崎利一(グリコ創業者・97)、杉山金太郎(豊年製油(現・J-オイルミルズ創業者・97)、蟹江一太郎(カゴメ創業者・96)、三島海雲(カルピス創業者・96)安藤百福(日清食品・96)、黒沢酉蔵(北海道酪農の父、雪印乳業創業者・96)、茂木啓三郎(2代)(キッコーマン発展者・94)、美智子皇后の父である正田英三郎(日清製粉発展者・95)、プリンスメロンやアンデスメロンを作った坂田武雄(サカタのタネ創業者・95)、文化納豆など納豆研究の先駆者・半沢淘(まこと)(東北大教授・94)ら、あげるときりがないくらい長寿者が多いのです。
こうした創業者は食の研究と、生涯現役をつらぬくことによって長寿を達成したわけで、農林漁業(食品)と環境とは健康で長生きすることにつながることを示しています。
本書で取り上げた人物の1人1人の具体的な健康法については、本を読んでいただくことにして、「センティナリアン」の一般的な健康、病気、食事、信条などについては次のような予想外の事実がわかりました。
① 元気に生まれ育った人よりも、病弱だったが何とか病気を克服して、養生法を工夫した人のほうが意外に長生きして、天寿を全うした例が多い。
② 食事は粗食で腹7分、「カロリーを減らせば寿命は延びる」。少食にした方が長生きして、創造的な活動を続けることができるのです。
③ 脳や心こそが体を支配しており『脳も筋肉は鍛えるほど強くなる』のです。年をとっても脳は必ずしも衰えないのです。プロスキーヤー・三浦敬三(101・三浦雄一郎の父)のように100歳でスキー滑走をしたり、百歳でゴルフを続けた医師・塩谷信男(105)らはこれまでの老人観を覆しており、「センティナリアン・パワー」、精神力、気力の大切さを示しています。
④ 口ぐせを変えれば意識が変わるのです。老後を肯定的に考える人は否定的な人より長生きです。楽観的で前向きな人、明るく陽気な性格の人、クヨクヨ考えない人のほうが長生きするのです。
⑤ 「大豆は長寿王様」日本の伝統食は世界一の長寿食であるのです。
今、日本では老いも若きも「アンチエイジング」「ダイエット」ブームですが、日本社会の底流には年をとることに否定的な、老後を不安視する「嫌老社会」の風潮があります。国の高齢者対策もどちらかというと年金、医療問題、寝たきり、認知症、介護問題など後ろ向きで、消極的な面が目立ちます。
米国のセンティナリアンは日本以上にたくさんいますが、日本のように寝たきり長寿(日本では百寿者で元気なのは3割)は少なく、米国人の性格、お国柄の違いもあるでしょうが、ジョギング、筋トレを続けるアグレッシブなシルバーが多いのです。
日米の違いについては、米国で明るい老後を考えている高齢者が多いのに比べて、日本では老後の不安を訴える高齢者が多いのです。これは米国の統計ですが、「老いることに肯定的な見方をしている人は、否定的な人よりも平均7年半も長く生きた」というデータがあります。
この本の結論は「長寿の秘訣は食事、遺伝もありますが、それ以上に生涯現役を通す気力、精神力である」ということです。年をとっても現役で仕事を続けると、精神的な緊張がうしなわれず、困難を乗り越えようとして脳は絶えず活発に働き、心身両面で生きる力がわいてきて、長寿となるのです。足と脳はつながっており、歩くことによっての脳力は鍛えられます。脳は老いることはなく、創造的な仕事を続けられることを今回のセンティナリアンを見るとよくわかります。
日本だけではなく、世界の高齢者にとっても、また若い人にとっても「センティナリアン・パワー」(百寿者の口ぐせ)から学ぶことは大いに役立つことと思います。
-
略歴
- まえさか・としゆき 1943年、岡山市生まれ、69年、毎日新聞社入社。情報調査部副部長。93年から静岡県立大学国際関係学部教授。ITメディア論、社会論など専攻。「センティナリアン研究会」主宰。近著は「メディアコントロール」「太平洋戦争と新聞」(講談社学術文庫)、「百寿者百話」(海竜社)など多数。HPはhttp://sweb.u-shizuoka-ken.ac.jp/~maesaka/
関連記事
-
-
「Z世代のための、約120年前に生成AI(人工頭脳)などはるかに超えた『世界の知の極限値』ー『森こそ生命多様性の根源』エコロジーの世界の先駆者、南方熊楠の方法論を学ぼう』★『「 鎖につながれた知の巨人」熊楠の全貌がやっと明らかに(3)。』
2009/10/04 日本リーダーパワー史 (24)記事再録 前坂 …
-
-
★日本の最先端「見える化』チャンネル(1/30)『省エネ大賞を受賞した三菱電機の家庭用エアコン『霧ケ峰FZシリーズ」の高い技術力がよくわかるプレゼン動画(15分間)』
「ENEX2019 第 43回地球環境とエネルギーの調和展」(1/ …
-
-
日本リーダーパワー史(758 )―『10日日米首脳ゴルフ会談はどうなるか』ー安倍外交の「国際ルール守れ、価値観外交」の建前、看板を下ろし「すりより外交」「小切手朝貢外交」を展開。『仲良くしなさい』「ケンカはだめよ」「怒鳴るのはもっとダメ」とおとなしい「安全安心教育」された日本の政治家ではトランプ、プーチンの悪役プロレス政治家には全く歯が立たない
日本リーダーパワー史(758) ドナルド・トランプ米大統領は10日、安倍晋 …
-
-
『F国際ビジネスマンのワールド・ニュース・ウオッチ(147)』『アブーバクル・バグダディの「イスラム国宣言」についてーイスラム国自称カリフーを読み解くー「イスラム主義のグローバル化が進行し、民主主義、世俗主義、国民国家との戦いが これから延々と続く。
『F国際ビジネスマンのワールド・ニュース・ウオッチ(147)』 「イスラム主義の …
-
-
★『米朝核戦争勃発を防げ!、今こそふりかえれる日本史上/最強の勝海舟のリーダーパワー史(879)ー『英雄・偉人・大バカ・軍人・凡人・みな屁なチョコよ』<「ナアニ、明治維新の事は、おれと西郷とでやったのさ!』
日本史上/最強の日本リーダーパワー史(879) 日本リーダーパワー史(15 …
-
-
『Z世代への伊藤博文による明治維新講義①』★『なぜ、ワシは攘夷論から開国論へ転換したのかその理由は?ーわしがイギリスに鎖国の禁を破って密航し、ロンドン大学留学中に 「英タイムズ」で下関戦争の勃発を知り、超大国イギリスと戦争すれば日本は必ず敗れると思い、切腹覚悟で帰国したのだ』
★『1897年(明治30)3月20日に経済学協会での『書生の境遇』講演録から採録 …
-
-
日本リーダーパワー史(946)ー『日中関係150年史』★『日中関係は友好・対立・戦争・平和・友好・対立の2度目のサイクルにある』★『日中平和友好条約締結40周年を迎えて、近くて遠い隣人と交友を振り返る」★『辛亥革命百年の連載(31回)を再録する』②(8回から15回まで)
日本リーダーパワー史(66) 『日中関係150年史』★ 『日中関係は友好・対立・ …
-
-
『Z世代のための明治大発展の国家参謀・杉山茂丸の国難突破力講⑫』★『杉山の「バカとアホウの壁」解説②」★『約三千人の宮女に家の中で駈けっこをさせたいと「阿房宮」(長さ百里)を作ったのが「阿房(あほう)の語源』
明治末期の今の時代には、権力者や富豪の前へ出ても、違った事にも頭を下げ、「ご無理 …
-
-
『リーダーシップの日本近現代史]』(21)記事再録/『山岡鉄舟の国難突破力⑤『金も名誉も命もいらぬ人でなければ天下の偉業は達成できぬ』
2011/06/22   …
- PREV
- 日本リーダーパワー史(665)『昭和の大宰相・吉田茂のリーダーシップと先見性、国難突破力』①(1945年)「この敗戦必ずしも悪からず』★「(外交鉄則)「列国関係に百年の友なく、百年の敵なし、今日の敵を転じて明日の友となすこと必ずしも難からず」(動画つき)
- NEXT
- 日本メルトダウン脱出法(835)「米国株(10日):S&P500種4日続落、FRB議長証言で売り止まらず』●「蘇るリーマンショックの記憶、金融不安を高めるマイナス金利』●『コラム:問題児に転落したドイツ銀のハイブリッド債』●『爆買いから「爆学」へと進化し始めた、―中国人の日本リスペクトぶり』●『世界史が教える日本の大学の構造的欠陥―このままでは日本から大学が消えていく』
