日本興亡学入門②『グロバリゼーションで総敗北するガラパゴス・ジャパン』
2015/01/02
日本興亡学入門 ② 08年9月1日
グロバリゼーションで総敗北するガラパゴス・ジャパン
前坂 俊之
(静岡県立大学国際関係学部教授)
年をとるにつれ、時の経つのは<超早い>と痛感します。
一時、「ドッグイヤー」(犬の生命は人間の約7倍の速さ)とか、「シケーダイヤー](セミ命で、2週間)とはやされましたが、その通り世界はいまやインターネット超情報社会となり、そのスピード変化には一層ついていけません。
ITメディアが吐き出す幾何学的な情報量は人間の脳コンピュータを容量オーバーし、処理スピードが追いつかず、ごみ情報[ノイズ]の氾濫にふりまわされて、間違った解釈、判断、誤断、誤情報]というバグ続出の事態です。
特に、日本の政官財、マスコミの癒着、談合という構造的な特異性(日本病)によって、
①メディアのタテ割り、中央集権、画一化現象(新聞・出版・テレビ・ネットなどが系列
化が進み、情報の画一化、寡占化が進んでいること)
②、これにほぼ日本語のバリアに守られた日本人のみ、日本語のメディアでコミュニ
ケーションをしているガラパゴス島的な特殊なメディア空間が形成される
③この一方的な視点で、世界を見て判断し行動するので、情報摩擦、情報対立が生じて、対外コミュニケーションギャップが拡大し、外交、国際交渉、対外情報発信などのコミュニケーションのすべてで失敗が繰り返されることになります。
一方、ニュース発生のスピードも一層加速していますが、メディアはニュースを前に前にと追っかけるだけで、後ろを振り返らない。現象をワンパターンに伝えるのが精一杯で、ニュースの意味、背景を深く伝えてくれません。「マスコミ」から「マスゴミ」と化してしまいました。
1・・「マスコミ」から「マスゴミ」へ。
考えてみれば、20世紀は大マスコミが一方的に大量の情報をたれ流すだけの「マスゴミ」の時代でした。それがインターネットの出現によって21世紀は個人個人が国家のわくを超えて、ボーダレス(国境なし)に世界中(グローバルに)の個人個人と双方向で、リアルタイムにコミュニケーションする「パーソナルコミュニケーション」(個人メディア)の時代に180度変わったのです。
しかも、ケイタイ、パソコンなどで個人が「いつでも、どこでも、どんな状況でも、簡単に、双方向で、自由自在に」(ユビキタス的)にコミュニケーションする「ユビキタス・パーソナル・コミュニケーション」の時代になり、個人がHPやブログ、SNSで自由に情報を発信して、ビジネスもできる時代へとパラダイムシフト(文明の枠組み転換)しました。
そこでは巨大なパワーシフトが起こります。モノから情報(カネ)へ。情報は有料から無料へ。大から小へ、マス[集団]からパーソナル(個人)ヘ、大国から小国へ、男性から女性へ、老人から若者へ、活字から写真、さらには動画へ。中央集権から権力分散へ、垂直ピラミッド型の組織からフラット[水平型]分業へ、カネのかかる資本主義から安く、物々交換の資本主義へーなどの大転換です。
従来は別々だった生産者と消費者が融合・直結するプロシューマー(プロデューサー×コンシューマー)の誕生によってボーダレス、シームレスな「世界単一マーケット」(グローバルeコマース)が形成されつつあります。
ここではグローバルスタンダードによって、ヒト、モノ、カネ、コンテンツが世界中で一番、価値の見合ったところに取引されていくのです。松坂大輔投手がレッドソックスに高額の契約金でヘッドハンティングされたように、世界の大学、企業が優秀な留学生、学生をあつめようと大競争しています。
グロバリゼーションとは正に「世界なんでもかんでも大競争大会」そのもので、各国の特殊事情は考慮されません。その中で、日本は国家、経済システム、価値観、思考形式などが旧体制仕様そのもので変化に対応できず、改革もスローモーで、それ以上に門戸を閉ざしひきこもっている間に、競争に敗れ続けている状況なのです。
2・・「お家芸」だからこそグロバリゼーションで敗北する
7月、8月中旬は北京オリンピック一色でした。途中でグルジアへのロシアの武力侵攻、新冷戦に逆戻りかといわれ、9月1日夜に福田首相の突然の辞任劇、自民党の総裁選挙、年内解散が議題とめまぐるしく変わっています。ここに共通する「日本病」とはなんでしょうか。
北京五輪は21世紀が『中国の世紀』になることを、世界に告げる一大イベントになりました。絢爛豪華な開会式は世界的映画監督のチャンイーモウ演出で中国が単にハードだけでなく、映像文化、ソフトパワーでも世界最先端にあることを示しました。
オリッピツクは国力の反映であり、金メダルの数は国力にほぼ比例したものです。スポーツ力、経済力、政治力、知力などを総合したその国の競争力の指標です。
その点で、金51個、合計100個の中国はダントツのトップで、2位の米国(金36個、合計110)、3位ロシア(金23、同75)、4位英国(金19、同47)で完全に圧倒しました。
一方、日本はどうだったのか。第7位の韓国(金13、同31)に次ぐ第8位(金9、銀6、銅10合計25個)です。アテネ大会(2004年)と比べると、日本はこのとき第5位(金16、合計37)で、韓国9位、イギリス10位だったので、この4年間で金は半減、メダルは中国のわずか五分の一と韓国に抜かれ、英国の大躍進と、日本の凋落ぶりが際立ちました。
前回触れた、GDP(1人あたりの)、国際競争力、IT競争力の比較データとほぼ一致しており、このオリンピックの敗因の冷静な分析なくして、日本興亡学研究はありません。
五輪では「日本のお家芸」と言われた野球、マラソン、柔道、男子サッカーなどが総崩れしました。また女子マラソンのように突然の出場辞退、棄権も目立ちました。これも日本の政治の本家本元である自民党政治の首相二代が相次いで国会本番前に政権投げ出し、棄権ひきこもる前代未聞の事件と軌を一にしています。
2度あることはすでに構造的な問題であり、「日本病」の発症です。スポーツも、政治も、経済も、社会も総崩れの状態なのです。
日韓経済競争では、かつて日本のお家芸で世界を席巻した「ソニー、パナソニックなどの総合家電メーカー」がIT,デジタル家電の世界シェアーではサムソンなどの韓国勢に圧倒的されて、今や見る影もない状態です。
米国ではソニーブランドを、サムソンが凌駕しており、日本流にこだわる、のお家芸だからこそ余計にグロバリゼーションで敗れるのです。
野球の惨敗について、星野ジャパンは「アジアの野球の盟主」という根拠なき思い込みで、試合前から金メダルを公言、十分な事前研究もせず、負けると「ストライクゾーンが違った。審判の判定がおかしい。ボールが大きい。けが人が誤算」など、弁解に終始しました。一方、韓国は五輪勝利に向けて野球界が一体となって国際試合ルールにあわせて、ボール、ストライクゾーン、ジャッジも統一、研究するなど準備万端で臨みました。結果は明らかです。国際試合なのに、相手に合わせず、自己ルールにこだわって、審判(国際ルール)に文句をつけるなど下の下です。
柔道でも、日本は「一本勝ち」こだわりました。ところが、世界スポーツとなった「JUDO」は、限りなくレスリングに近いものに変質しています。この国際ルールで勝つしかないのに、日本流にこだわっていては勝てません。
「敵を知り、己を知らば、百戦危うからず」の兵法の第一条を知らず、負けるべくして負けたのです。結果責任をとるのではなく、ルールが悪い、相手が悪いと責任転嫁する。これこそ「日本病」なのです。
3・・・日本流にこだわっていては勝てません。
福田首相の辞任の弁も同じです。政治を漂流させて国民に多大な迷惑をかけた点への反省、謝罪の言葉はなく、民主党とのねじれ国会、小沢代表の何でも反対によって辞任せざるを得なかったと責任転嫁していました。日本の最高権力者としての福田首相も自民党も、永田町政治そのものも、肝心の勝負になると、途端に決定力不足となるのです。
その点で、水泳で金メダル2個の連覇だった北島康介の「勝負脳」とは正反対の大舞台では縮みあがる「敗北脳」で、こそこそ「日本病」なんですね。
W杯サッカーで、日本チームはフォワードの決定力不足が永久的な課題となっていますね。野球、スポーツでも、各界でも同じですが、結局、日本選手は天才・イチローのような技術的なの器用さはあっても世界の一流選手と比べると、肝心のパワー、スピード、決定力は残念ながら劣るのです。
この「敗北」を冷静にかみしめるしかありません。政治家、経済人、サラリーマン、広く国民に共通した実力のなさ、決断力のなさ、問題先送りの体質、ベンチャー精神不足の伝統的、保守的な体質が、「ひきこもり現象」をうみ「死に至る病」=「日本病」につながっているんですね。
これを克服する方法はないのか。世界のサッカークラブや米メジャーリーグが世界中から優秀な選手、人財を集めて強いチームづくりを目ざしているように、「閉鎖国日本」を開国して、門戸を大きく開いて世界中優秀な外国人を集めるしかありません。
でも、実際の日本の政策はこの逆です。開国に伴う痛みこわがって、グローバリズムの大波をジャパンルールの高い規制の壁をさらに築いて必死に守ろうとしているのですから、なにをかいわんやです。
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