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日本興亡学入門⑨ 『ガラパゴスジャパンをぶち壊せ』ー世界の非常識「永田町ガラパゴス」「霞が関ガラパゴス」

      2017/01/11

 
日本興亡学入門 ⑨                              09年6月15日
 
『ガラパゴスジャパンをぶち壊せ』
 
                            前坂 俊之
                               (前静岡県立大学国際関係学部教授)
 
① 世界の非常識「永田町ガラパゴス」「霞が関ガラパゴス」
 
私は現在の日本の行きづまった閉塞、崩壊状況を「ガラパゴスジャパン」と呼んでいます。
 
「ガラパゴス現象」とは日本のケイタイ、デジタル家電のように国内市場では世界最先端の高機能化によって圧倒的なシェアを押さえながら、海外市場では全く通用せずグローバルスタンダードを握れない状況を指す言葉として生まれましたが、この現象は政治、経済、文化、歴史、思考方法、コミュニケーションなど日本のすべての分野に及んでおり、まさしく「ガラパゴスジャパン」化そのものです。
 
外敵の侵入のない状況で特異に進化(退化?)を遂げ安住しているガラパゴスの動物たちは、グローバルゼイションの大津波に襲われると一挙に崩壊、絶滅の危機に直面します。いま日本も同じ状態で衰退から崩壊へ、活力のない国から絶滅への危機に遭遇しているのです。
 
世界大恐慌の震源地米国について、米国の国家戦略を練っているCFR(外交問題評議会)のレスリー・ゲイブ会長は最近「米国は覇権を失って衰退しているのに、いまだにその深刻さに気づかない人がいるので驚く」と書いています。(田中宇国際ニュース解説「ドル崩壊の夏になる」5月26日付)
 
日本も米国同様に深刻な崩壊に見舞われているのに、政治家、官僚、企業のリーダー、メディアの多くが相変わらずの永田町の徳川幕藩体制の見まがうような官僚主導体制の古い自民党、民主党の田舎芝居や大盤振る舞いの景気対策にうんざりしながら、見て見ぬふり、傍観している態度には全く驚くばかりです。
 
 世界大恐慌の再来を予言、的中させたノーベル経済学賞のクルーグマン米プリンストン大教授は与謝野馨経済財政担当相とのテレビ対談で日本の経済対策について「定額給付金はゼロ点だ。米国などでは失敗した。なぜ日本が実施するのか理解できない。(日本経済は)最悪の状況を脱したものの、いつ退院できるかは分からない。5年、10年先かもしれない」(朝日5月25日付)と悲観的な見解を述べましたが、与謝野経財政相は反論できませんでした。
 
グローバリズムとガラパゴス化は相対立する概念です。グローバリズムとは地球化、国際化であり、国境を越えてヒト、モノ、カネが世界中に自由に双方向に流れるフラット(平面)、フリー(自由)、公平、平等、革新的な関係になることを示します。
 
逆に、ガラパゴス化とは国が閉じられてヒト、情報の流れを遮断、閉鎖、制限し、引きこもり、鎖国化、孤立化することであり、その主要な関係が上下、垂直型、ピラミッド型(中央集権的)の旧来型で国内中心、政策も伝統重視の保守化体質から抜け出ることができないマイナス面があります。ここからは改革やダイナミズム、外来種との混血によるハイブリットや新種が生まれにくいのです。
 
この間、ガラパゴス化の警告の赤信号が激しく点滅しているのに「みんなで渡れば怖くない」体質の日本人はそのことに一向に気づいていないのです。
冷戦崩壊後の20年間、世界はグロバリゼイションの大波に翻弄された結果、日本は政治、外交、経済、IT、インターネット、生活、福祉、年金、教育、文化など多くの分野で総崩れの状態です。
 
まず、政治を見るといやはや惨憺たる状況です。2代続いて首相の政権投げ出し事件が続き、世襲議員は国会議員全体の3割を超えています。歴代首相にいたっては過去一四年で森喜朗以外は橋本竜太郎、小渕恵三、小泉純一郎、安部普三、福田康夫、麻生太郎と軒並み二,三世の世襲議員です。
 
② 世襲制は封建制度のなごり
 
首相が世襲以外になれないガラパゴス状態です。日本が議会制のモデルにした英国ではこの三〇年近く、サッチヤ(保守党)、メージャー(同)、ブレア(労働党)、ブラウン(同)と四代首相になっていますが、もちろん世襲議員ではなく、2大政党での政権交代がきちんと機能しています。米国も共和党・ブッシュに変って、初の民主党の黒人大統領オバマが登場し「チェンジ」をスローガンに、「核のない世界」、核廃絶を初めて演説しました。これは超変化です。
 
ところが、日本は議会制民主主義を標榜しながら戦後60年間、自民党の一党支配の政権が続き、本格的な政権交代がありません。これは一党支配の共産主義、独裁主義以外に、議会制民主主義をとっている先進国では世界に例のない異常事態で、文明発展の世界トラックで2周遅れの日本の政治は完全にマヒしています。議会制選挙はタテマエで封建時代の大名、藩主、貴族のような親から子へ、孫へと特権が家業として引き継がれる世襲議員が続出する事態はまさに、世界の非常識「永田町ガラパゴス」「霞が関ガラパゴス」です。
 
「経済のガラパゴス化」もひどいものです。国民1人当たりのGDPはトップから20年間で最下位の19位へと転落しました。この間の道路など公共事業の膨大な無駄使いで国の借金(債務残高)は846兆4970億円(08年末)。対GDP比の債務残高の国債比較では日本は179とダントツ、イタリア(114)米国(78)、仏(76)独(67)、英(64)で、2倍以上という最悪。09年度の一般会計の総額は100兆円を超え、国債の発行額が戦後初めて、税収を上回った。小泉政権の11年度までに国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化目標は、すでに達成不可能で、国債の暴落、金利上昇では国の借金倒産の危機が迫っています。
 
あああ『人材倒産』『『人材ガラパゴス』化も迫っているのに。人口減少社会、超高齢少子社会で、65歳以上の人口比23%、3000万人時代を迎えています。平均寿命は男女総合で世界一,男性は79で3位、女性は86,1で10年連続で世界一です。ところが、一人の女性が一生に生む子供の数を示す『合計特殊出生率』は1,27。世界平均は2.55なので日本は184位(195ヵ国中)と世界最低。子供、若者の少ない1人暮らしの老人衰退国家へとつるべ落とし。
 
国連の予測では今後五〇年間に日本の人口の三分の一が減少すると見込まれ、現在の経済の生産力を維持するには、二〇五〇年までに一七〇〇万人もの移民受け入れが必要だと言われています。ところが、移民受け入れ政策は一向に進んでいないのです。
 
『資源小国ガラパゴス』では日本の食糧自給率は40%、エネルギー自給率は20%(原子力を含む)、石油などではわずか5%と先進国ではもちろん最低、最悪です。これまであった膨大な貿易黒字によって海外から石油、エネルギー、食料などを買っていましたが、自動車の輸出減によって貿易黒字も大幅に減っており、中国などに買い負けするケースが増えています。
 
民主主義を支えている重要な柱はメディア、ジャーナリズムです。ところが、日本のメディアは内向き画一的でガラパゴスの動物そのものです。記者クラブという談合装置で官僚政治の情報垂れ流し機関になり下がり。国民の知る権利に応え、権力をしっかり監視するジャーナリズム、メディアが少ないのが問題です。以上、まだまだ上げればきりがありませんのでやめ。
 
こうしたガラパゴス化の根本にあるものは、ものごとを論理的に考えない、「見ざる、言わざる、聞かざる」という日本人のいい加減さと、矛盾を黙認しているシステムのインチキ性です。代表制民主主義の原則はすべての有権者が平等に与えられた一票を行使して、その得票数の多い政治家が選ばれるという制度です。小学生でもわかるよね。この有権者の投票価値(1票)に差があれば、選挙はインチキであり、八百長です。この人には1票なのに、あの人には3票の権利があるとすればだれもバカバカしくって投票など行かないよ。これでは代表制民主主義の選挙ではなくなります。
 
③ 最高裁が民主主義の根本を否定
 
ところが、日本では「一票の格差」が大都会と過疎地では広がる一方で、2倍から最大5倍までもが最高裁の判決で、認められてまかり通っているのだから驚き。元最高裁判所判事・福田博さん(現在は弁護士)が『世襲政治家がなぜ生まれるか』(日経BP社、20093月刊)の中で、「1票の格差が日本の民主主義を滅ぼすとして、最高裁に勇気ある告発しています。
 
最高裁の判例では、衆議院の場合は1票の格差が三倍まで、参議院の場合は六倍までなら合憲であり、これが四倍や七倍になると、憲法違反としています。つまり、法の下の平等に反し、有権者の住んでいる場所によって投票権は平等ではなく6分の1までに不平等、差別されても憲法に違反しないと、憲法の番人・最高裁が民主主義の根本である人権と平等を踏みにじっているのです。
 
この結果、昔ながらの選挙区が永続され、有力議員の選挙区割りが変わることがないため、議員の世襲化が23代とまるで家業か、既得権の伝達となって温存されている。
問題なのはこうした数多くの世襲議員の無能力、失敗が国益を大きく害しているとともに、優秀な政治家の出現を妨げる結果になっている。世襲制限は憲法に保障された「個人の自由、職業選択の自由を阻むものだ」などという世襲議員の反対は民主主義の自由と平等の原理を全く理解していないものです。世襲は民主主義に反する君主制、封建制度の遺制そのものですよ。
 
④ ガラパゴス脱出のための総選挙
 
いうまでもなく、民主主義体制は議会、行政、司法の三権がチェック・アンド・バランスの機能を十分果たすことによって維持、発展していきます。そうでなければ社会は停滞しますし、長期政権は必ず腐敗するものです。そのためにも、議会は定期的に解散することが必要ですし、金や地盤や世襲でなくても、新進気鋭で能力のある政治家が次々に議員に参入できる自由な選挙制度でなければ、その社会は民主主義的とはいえず、活力のない衰退社会となっていきます。
 
今、大きな曲がり角に立った日本の政治でこの秋までに衆議院議員選挙がおこなわれます。ガラパゴスの道をたどる日本にストップをかけるために、自民ガラパゴスにあくまで続けさせるのか、民主党に新しくやらせるのか、―この選択がとわれています。
 
 
 
 

 - 現代史研究

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