梶原英之の政治一刀両断(7)『世界経済の動揺で大国難を迎えた日本』<反省しない人物はエリートから追い出す>
梶原英之の政治一刀両断(7)
『世界経済の動揺で大国難を迎えた日本』
<反省しない人物はエリートから追い出す。それしか国を立て
直す手はない>
直す手はない>
梶原英之(経済評論家)
● 八月に新次元に突入
八月四日に日本の政治経済は、新しい<次元>に入った。大げさにいっているのではない。なにせ米国の国債格付けが引き下げられ、為替引き下げ競争の中で日本だけが超円高。日本の経済運営の基軸だった日米経済同盟が一時的に無意味になったからだ。
3・11敗戦説は筆者が唱えたものだが、当時から未曾有(初体験)の危機は原発放射能に止まらず、再度の大地震、外交問題が打ち続く鎌倉時代末期の元寇、飢饉、政権崩壊といった大危機が来るのではないかという不安はあった。
敗戦を上回る大国難説である。
ポイントは日本の政治経済システムで対処できない日本の国際的位置の変化を怖れる議論だった。ただ占い的な発想だったので恥ずかしいから言わなかっただけである。
●原子力安全庁法など、すぐ改正される
しかし米国債の格付け引き下げに端を発した世界金融動揺が始まる八月の第二週からは世界金融恐慌と、原発、財政危機の三大国難に国民は怯えざるを得ない。
原発賠償支援機構法、原子力安全庁(仮称)どころか復興基本法でさえ、数年どころか、ポスト菅の直後に廃止、改正される可能性を否定できない。そんな馬鹿な何かが出来るだろうという批判もあるだろうが、いずれもこの時期の賠償問題に対処するためのドロナワの対症療法だからだ。多くの国民は今決まったことが長く維持されるなどと期待していない。政治家も官僚も期待してないだろう。
だいたい民主党と自民党は八月初めに、民主党の看板政策「こども手当て」の名前を消すという看板書き換えで、しばらく解散しないで行こうと手を結んだ。
これで菅首相は八月以降も首相の座にいるだろう。野合である。菅下ろしなど国民をだましたのである。
理由は現在の政治家は全員<国難>に対する対処法どころか、<国難>のイメージもないのである。イメージがないのは、どうしようもない。
● 日本は二十年暗い。国民の腹がすわった。
一方、八月のはじめに、国民の腹が座ったことが救いである。
国難に日本の<保守政党・官僚支配>システムの有効性が試されている時に、多くの国民は政治に何も期待していない。
八月初めに国民が二十年くらいは、日本は大変だと気がつき腹固めに入った。
日本の過去の<ショック>のように、ここをしのげば、二、三年でまた元の<自民党・官僚支配>の良き時代が戻ってくるのではない。今度はそういう<予定調和>が日本国からなくなったことを思い知らされた歴史的記念日になるだろう。
●経済産業省の三幹部更迭は必要だが、経産省、電力業界の解体につながるか?
その中で経済産業省の主要3幹部の更迭が海江田経済産業相により発表された。
これから二十年にわたり国政に混乱をもたらす可能性のある電力・エネルギー・経済産業省改革の第一歩である。
しかしこの程度の改革が太平洋戦争敗戦後に現在の九電力体制(現在は十電力だが歴史的名辞として使います)に落ち着き、高度成長の支えになった松永安左エ門改革のように安定をもたらすと<日本の予定調和(日本はなんとかなる)神話>から見ている国民はいないだろう。
むしろ国民は電力国策など、どーでも良い。全国一律などと言う官僚支配の言い替えなどより、地域地域で安全で安い電力のシステムがありそうだと受け止める智恵が出てくるだろう。それこそ電力に対する最も正しいスタンスだ。
経済産業省の3幹部の更迭は一歩ではあるが、政権が菅首相でなくても、必然的に行なわなくてはならない終戦処理の第一歩だった。ところが(あるいは、だから)マスコミは、<総マスコミ菅下ろし報道>でしか考えられなかったことに注目したい。
●菅下ろし報道で、海江田行政の意味は忘れられている
マスコミは国民より遅れている。
5日の東京新聞は「原発3首脳更迭なぜいま」「首相が手柄横取り!?」の見出しの下、首相が辞めたい海江田経済産業相をいかに、辞めさせず「菅首相がこれを許さず“官僚たたき”による政権延命策に仕立て上げたというわけだ」(記者による地の文)。菅首相は歌舞伎の高野師直のような悪役権力者である。
首相は省庁の幹部人事に口を出す法的権限がないという議論まで7日のテレビ報道であった。これは戦前、「軍部大臣の現役制」に見られた首相の権限縮小につながる大議論である。戦前、首相の権限が弱かったことで日本は戦争への道を歩んだ。菅首相下ろしの議論が、物しらずの中で行われていることに驚く。
それはともかく、海江田氏は官邸と軋轢(この程度の軋轢は今後二十年続発する。いやなら大臣にならなければいい)があっても経済産業相として事績が残せたのだから、よかったではないか。
読売新聞は海江田経済産業相の単独インタビューをしているがインタビューの切っ掛けである3幹部の更迭については「人事権は私だ」、つまり菅首相の指示ではなかったと答えさせている。
聞きたいのは経済産業省をどうもって行くのか、経済産業省の解体ではないのか、原子力ムラをどうするのと考えているのかーーーそれを聞かなくては国民が判断に困ることをインタビューして欲しいの。
ところが冒頭で「ストレステストで老朽化などによる廃炉が明らかになれば廃炉にすべきだ」「(危険な原発の)排除が進み自然に減ってゆく」と経済産業相はストレステストの狙いを説明した。それが見出しに取ってある。
そして「原子力発電所はすぐにゼロには出来ない」と述べ「脱原発には反対の立場を表明した」としている。大体日本人の<嫌原発感情>通りで、筆者も同じようなものである。読売好みの話をしてくれたのを、読売新聞が納得しているだけである。
要するに菅にくしで思考停止しているのだ。
●政治家や官僚を甘く見るな。
つらつら考えるに<総マスコミ菅下ろし報道>は担当記者もデスクも国鉄改革とかバブル後の政党と官僚が生き延びるための政争が<日本の構造改革>の過程つまり<責任のナスリ付け合い>と<利権争い>だということを見てきていない若い記者たちなのだということだろう。
●マスコミこそ無力感にとらわれている
ある雑誌の編集長が言うには「かつて新聞は書いたら当った。当らなければトクダネを書かなかった。政治や経済がどうなると着地点が分かったから着地点を求めてトクダネを競ったが、いまは、全社そろっても菅を下ろす力はないから、読者が読みやすいように(売れるように)、ライバル政治家の言うとおり菅は人格的に問題だとまで書いているだけ」と言うのである。
ただ筆者は編集長に質問した。それでは「読者は、東京電力からお金が出たとしか考えない。ところがオタクにもカネが流れていないように、今たいした情報操作は誰もしていない。こういう時こそ、政権が脱原発に傾いたときには、完全には信じられなくても、脱原発の方向にリードしないと国民は、マスコミはカネ貰っているに違いないと信じる。損をしているだけだ」。
マスコミがやせ我慢をするのは、貰ってもいない利益を疑われないための手法。発言権を維持するための手法だったのだが、それも忘れてしまったようなのだ。
だからそろっての<総マスコミ菅下ろし報道>はヘン。筆者も決して菅首相が長く続くとか、ここで問題が解決するとか考えていない。国民の疑念は二十年続くのだからマスコミも立ち直らないと、権力の思うツボだと編集長には申しあげておいた。
●原発は政治で、政治は恐いものだ
その証拠に、菅下ろしに気を取られてニュースの中身を追及しない報道の下で、事態は進んだ。例えば玄海原発の再開に関して起きた<やらせ発言>では、今になって古川知事が九州電力に<やらせ>をほのめかした会談内容が段々明らかになった。
そのメモには「危惧される国サイドのリスクは菅首相の言動だ」とあったと報道された。(東京では六日付けの朝日新聞。もとはアエラの記事と文中にある)
たしかに九州経済の中核・九電の会長、社長の更迭問題にまで進んだことには疑問がった。しかし知事が不用意に、電力会社と組んで首相など“内閣倒壊”を狙ったことが、資源エネルギー庁に伝わったとすれば得心が行く。これでは経済産業省も資源エネルギー庁も九州電力などを守りきれなかったのが真相に違いない。
つまり原発再開をめぐる政争だったのだ。しかし理屈は内閣(首相も経産省も)を倒そうとすることは原発どころか、地域独占と言う異例の電力体制の根本を崩すことになる。九州電力は不用意に、知事の床屋政談に耳を傾けるべきではなかったのである。
しかし実態は<総マスコミ菅下ろし報道>のムードに酔った、中央政治の事情を知らない遠方の政治家と実業家が甘い判断をした交通事故だったとしかしか思えない。
政治の権力闘争は恐いものだ。原発問題では、こうした地方政治の苦境が二十年も続く。
● 「政治家が当ったためしはない」の怠慢
六日の新聞に自民党の元官房長官が民主党提案の再生可能エネルギー法案の取り扱いについて「結論からいうとどっちでもいい。政治家が何を考えても当った試しはない」「実態が合わなくなったら民主党のせいに(すればよい)。こだわらずに気楽に決めましょう」と発言し唖然とさせたとあった。名言である。
だが国会に蔓延している<国難>への無力感を代表している。原発政策の責任者である自民党の有力者にしてコレであるが、驚くには値しない。
原発政策は半世紀、自民党の中でも一部権力中枢と原子力学者が自民党にさえ情報を与えず進めたのである。これは恐るべきことである。
いま自民党の山本太一議員が新エネルギー政策を出し、政権奪還の弾みにしているが、自民党がうかうかと原発政策の自民党的見直しを表明することは、国民には自民党の責任論を再認識させる結果になるだろう。そして、菅首相が<総マスコミ菅下ろし報道>の影で隠れて進めてきた経済産業省改革の裏話を知るだろう。
●原発の戦犯探し
なぜなら国民は原発と経済苦境の<戦犯探し>を始めているからだ。八月末には経済の出口のない長期苦境感に捕われる。景気がその後、どうなるかは別として(また別の機会に書く)、全国民が生活苦の長期化を認識すること。生活苦には構造的要因があり<戦犯>がいると考え出した。政治家、官僚にとって重要なことである。オイルショック以来のことではないかではないか。
そこで官庁は仕方がないとしてどこかの政党が<戦犯>はわが党だと言い出す度胸があれば賞賛し、微力ながら政権取りに協力するが、期待薄である。
八月の第一週は、そんな<国難の形>を国民の頭に呼び覚ました。
●政治家にだまされないのは報道の第一歩
ところが六月二日の内閣不信任案否決で、マスコミの上では、完全に覆い隠されていた。半数のマスコミが菅嫌いになってゆくことはあるだろうが、<総マスコミ菅下ろし報道>は異常である。この間の記事の総集編をだす新聞社もないだろうが、経済コラムが「こんな内閣では出来るはずがない」で結ばれていた。
各官僚であれ官僚であれ、二ヶ月も何もしないことはない。<政治権力がどの方向で動いている>かを報道するかは、政治部の責務であり、代金の主要部分だ。それが<いつ辞める><辞める条件作りに幹事長が努力している>などと言う記事は政党に騙されただけだ。
●責任者を免責してはならない
しかし<総マスコミ菅下ろし報道>は形を変えて尾を引き日本政治の状況を分かりにくくしている。さらに悪いことに、原発について反省すべき政治家を<免責>している。
せっかく八月初めに日本の<国難>が分かったのだから、せめてエリートには意識変革をした人を選びたい。解散も呼びかけないで新しい政治のリーダーシップ出現を期待する報道はやめよう。
●「原子力安全庁」は反省した原子力関係者だけ採用すべきだ
同じことは原子力関係者について下級の問題である。
電力会社の経営陣も、原子力安全庁の幹部職員も、だれかがならなくてはならない。しかし、だれがなろうと、十年後に原子力再開の夢を持とうと、廃炉ビジネスを新たな収入源にすることを望もうと、フクシマ原発がなぜ起きたのかについて反省の表明がない人物は再任用すべきではない。
● 官僚の無謬性ってのがこの国にはあるのだ
首相も閣僚も同じである。筆者が解散を急かせるのも同じ意味である。
最近話題にならなかったが日本の官僚は行政裁判でも<官僚の無謬性>というおかしな議論で地位が守られている。しかし、この原子力問題では原子力ムラの<官僚の無謬性>が、事態をここまで悪くした。
自己批判と復権は、辛亥革命以後の中国政治のお家芸で、天皇制の日本になかったものだ。中国は時代の流れに強固に見えるが実は日本のほうが硬直的だ。いま、それが国力の差になっている。
この日本はうまく行っていた神話の上に立っていただけに、<国難>に対処するには、反省した人物をエリートに認定するしかないのだ。投票で決まる新エリートは、無力感のある人物は排除されるだろう。
しかし日本の官僚は、人事で強制されないと変わらない。原子力安全庁が内閣のどこに属するかなど小さなことに過ぎない。問題は原子力安全庁職員は、保安院から自動的に写れるのか、どうかだ。
内閣、原子力委員会は、原子力政策を続ける以上、職員には論文テストすべきだ。それはいずれ訪れる電力再編での新エリート社員でも大学の原子力学者でも、同じことだ。反対の人が去るのは仕方がない。多くのエリートは完全な年金で守られているのだから、公務員の地位問題にはならない。しかし「原子力関係者任用法」は真っ先に必要なのである。
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