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★『日本経済外交150年史で、最も独創的,戦闘的な国際経営者は一体誰でしょうか講座①(❓) <答え>『出光興産創業者・出光佐三(95歳)』ではないかと思う。そのインテリジェンス(叡智)、独創力、決断力、勝負力、国難逆転突破力で、「日本株式会社の父・渋沢栄一翁」は別格として、他には見当たらない』

   

 

『戦略的経営者・出光佐三(95歳)の国難・長寿逆転突破力①

     前坂俊之(ジャーナリスト)

 

2019年6月、アメリカとイランの対立関係が再び激化し、ホルムズ湾のタンカーなどの航行の安全を確保するため米国は『有志連合』の結成を日本など各国に呼びかけた。日本はイランとは長年、友好関関係を築いており「有志連合」には参加せず、独自に海上自衛隊を派遣することになった。日本のイラクの最初の友好のキズナを築いたのが『国難・長寿逆転突破力』のある出光佐三です。

1953年(昭和28)4月10日、出光興産(出光佐三社長)の日章丸二世(1万9千トン)がイラン石油の買い付けにアバダンに入港したとの外電が流れか世界をアッといわせた。

当時、ペルシャ湾で石油争奪合戦が勃発していた。世界有数の産油国イランは1951年(昭和26)に突然、『石油国有化法』を議会で可決、イラン石油の全権を握る「英国アングロイラ二アン社(AI)」(BPの前身)を一方的に接収して国際紛争に発展していた。

怒った英国はペルシャ湾に海軍の艦隊を派遣、イラン石油の売買は盗品にあたるとして、買い付けにきた外国タンカーは撃沈するとの強硬声明を発し、周辺海域の監視を強化していた。これに引っかかったイタリア、スイス共同資本のタンカーはアラビア海で英海軍に拿捕され国際紛争に発展した。 

石油界の反逆児・出光はイランに秘密裏に交渉派遣

 

当時の世界の石油業界は欧米の国際石油資本(メジャー)が市場を国際カルテルを結んで独占していた。独立系の民族資本・出光興産は「消費者に安いガソリンを提供する」を企業理念に掲げており、長年、メジャーと闘争を続けてきた。

一方、イランは産出国として初めて巨大メジャーと対決、各国に売却を呼びかけてきたが、英国の報復を恐れてどこも手を出す国、企業はなかった。こうした石油危機に石油界の反逆児・出光は一挙に勝負に出た。極秘裏にイランと交渉を進めた。

佐三の弟・計介がイランに入りモサデク首相と、直接交渉した。同大統領は「すでに二十カ国あまりが買いに来て契約はしてゆくが、船は一つも輸入にこない。おまえもその類だろう」と疑った。「出光は石油メジャーと戦っている日本で唯一の「人間尊重」の会社で全国に販売網を持ち、消費者と直結している。日本人は約束は必ず守る。おれは船を必ずもってくる」と説得して契約にこぎつけた。ところが、海運会社に輸送を頼むと、どこからも断られてしまった。啓介が「これで万事休すか!」と困っていると佐三は「それな虎の子の日章丸を早急に回す」と即決断し、返電してきた。当時、出光にはタンカーは日章丸1隻しかなかった。その虎の子をペルシャ湾、英国包囲網に出陣させたのである。

その間、用意周到に準備した。運行ルートなどの問題点、アバダン港の深度、ルートなどの問題点、英国委側に拿捕された場合の保険、国際法上の問題点などあらゆるリスクを調査した。

3月23日、世界一の大型タンカー『日章丸』は船長、機関長以外には一切行き先を告げずに秘密裏に出港した。

英国軍艦に発見されれば撃沈されるか、さもなければ拿捕か、浮遊機雷に接触する危険性もある。こうした二重三重のリスクをすり抜けながら決死的な航海で「日章丸」はアバタン港に4月10日に入港し、イラン国民の熱狂的な歓迎を受けた。イランに日章丸のような巨大タンカーがはいったのははじめてで、乗組員が下船して映画館に行くと、観客全員が起立して、拍手で迎えてくれたほどの大歓迎だった。

  • 腑仰(ふぎょう)天地に愧じない行動をいたします

石油を満載して帰途に着き、今度は英国の反撃をかいくぐって川崎港に5月9日に帰港した。英ア社は日章丸の積荷の所有権を主張して、東京地裁に提訴したが、出光は「日本国民として腑仰(ふぎょう)天地に愧じない行動をいたしました」(天の神、地の神ににも、何ら恥ずべきところがない)と証言し、出光側の全面勝訴となった。

 超大国イギリスを相手に国際正義にのっとった出光の挑戦は、米国占領からやっと独立したばかりの日本人に大きな感動と勇気を与え、出光は一踵国際的な経営者として脚光を浴びたのです。

出光佐三は1885年(明治18)8月、福岡県宗像郡赤間町(現・宗像市)の藍問屋の8人兄弟の二男に生まれた。明治38年、神戸高商(現・神戸大学経済学部)に入学した。

 出光は、卒業論文で「石炭から脱して石油産業へ」をテーマに書いた。石炭全盛のこの時代にいち早く石油の将来性に着目し

  • 国内石炭資源の埋蔵量は少なく、坑道掘削が深くなるほど経費がかかり、国際際競争力は低下し石炭業は衰退する。

  • 日露戦争での日本海海戦を分析し、石炭燃料では『煙』によって、より早く敵から発見される、自艦の煙によって敵艦がよく見えず、射撃が狂うマイナスが大きい。石油を早急に戦略物資にすべきと提言した内容。

  • 英国のチャーチル海相(後首相)も海軍燃料の『石油化』を考えイラン石油の利権「英国アングロイラ二アン社(AI)」を支配下に置き、潜在的な艦隊戦力比でドイツより優位に立つことに成功した。出光がチャーチルに比肩するインテリジェンスの持ち主であることを示している。ところが、日本海軍は日露戦争での「日本海戦の勝利」が忘れられず、これから40年後の太平洋戦争でも「大艦巨砲主義」に固執して、戦艦大和を建設し、無用の長物と化し1945年6月の沖縄戦に出撃し、米軍機の餌食となり沈没した。

幼少年時代から眼が悪かった出光は東京高商(元一橋大)と並ぶ神戸高商(現・神戸大学)時代も、読書はあまりしなかった。「その代わり、おれは思索するんだ」と豪語していた。「本は大好きでよく買ってきては<積読(つんどく)>し、そして<放つ読(ほっとく)」だよと冗談をいい、おお笑いしていた。

 

1909年、出光は神戸高商(現・神戸大)を卒業する。佐三は当初は外交官志望だったが、父親から 「外交官といって、上からの命令で世界各地に飛ばされる。商人になれ。小なりといえども、商人は独立自存だ。自分の思想や信念が貫けるではないか」と反対され、従業員3人のちっぽけな神戸の石油販売店にテッチ奉公に入った。大会社で小さい1部門で働くよりも、一から勉強して全体が知りえる立場で経営術を学びたいと考えた。三井、三菱などの大企業に入社した多くの友人たちからは「高商を出たのにデッチ暴行するなど学校の面よごしめ」と非難された。このスタートからして、出光の面目躍如が見えてくる。

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