前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

終戦70年・日本敗戦史(60)徳富蘇峰の『なぜ日本は敗れたのか』⑪蒋介石が東条英機などより数段上であった。

      2015/04/23

 

終戦70年・日本敗戦史(60)

A級戦犯指定の徳富蘇峰が語る『なぜ日本は敗れたのか』⑪

            世界の大局に対する見通しは蒋介石が東条英機など

の田舎政治家とは、数段上であった。

 

大体としては、支那(中国)そのものについて、見当違いと言うよりも、むしろ見当無しに出掛けたが、さらに支那の相手として、その指導者たる蒋介石について、全くその人物の鑑識を誤まったと言わねばならぬ。まことに蒋介石の代りに、江兆銘を引っ張り出し、彼に賭けたなぞという事は、失策の一大上塗りであったと、言わねばならぬ。

即ち日本は、負ける馬に資本を注ぎ込んで、注ぎ込めば注ぎ込む程,損をしたものである。イギリスの首相ソルスベリー侯は、イギリスの保守党が、トルコに味方して、損をした事を白状して、我等は正さしく悪き馬に賭けたと言うたが、日本の王兆銘に賭けたのも、正さしくその通りであった。

元来、蒋介石なる者は、近世支那(中国)において、李鴻章、袁世凱、蒋介石と、1本の条(すじ)を引っ張って顔を出す可き漢(おとこ)である。蒋介石は、学識とか、経歴とかという事については、李鴻章には及ばぬが、袁世凱とは長短伯仲、まず互角の角力が取れる漢と見ねばならぬ。

その横著老獪なる点は、双方同一であるが、目先の見える事は、袁世凱が上手であったかも知れぬが、袁世凱の手腕は、むしろ局部の方面に動いて、大局の上では、危なき点が多かった。その為めに彼は失敗した。しかるに蒋介石は、袁世凱ほど小手は利かぬが、大局の見通しは、より以上であると、言わねばならぬ。袁世凱に比すれば、蒋介石の日本に対する智識は、むしろ精確であり、詳密であり、且つ徹底的であったと、言わねばならぬ。

日本人が支那(中国)及び蒋介石を知る程度に比すれば、蒋介石が日本及び日本の当局者を識る程度は、決して同日の論ではなかった。それに加えて、蒋介石は良く世界の大局を知っていた。この知識は、或る程度は、彼が中年以後に結婚したその夫人宋美齢に、負う所がすくなくなくなかったと、察せられるが、何れにしても、世界の大局に対する見通しは、東条英機などの田舎政治家とは、科(しな)を異にしていた。

要するに、時は支那(中国)の味方である事を知っていた。世界は支那の味方である事を知っていた。それで如何なる事があっても、戦争を永く引っ張りさえすれば、内輪を固くする事が出来、外に対しては、日本を弱くする事が出来、結局最後の勝利は、支那(中国)にある事を考え、辛抱強くその線に沿って動いた。

これに反して日本は、鹿を逐う猟師は山を見ずで、鹿狩同様鹿の後をつけ回し追い回わし、そのために鹿が疲れるよりも、猟師の方が疲れるというような状態となって来た。挙句の巣は猟師の方から、鹿に向って相談を持ち込むというような、醜態と言わずんば、変態を来たした。要するに蒋介石の方では、当初から廟算していたが、日本の方では、無算であった。

小磯内閣の時に、膠斌(みょうひん)なる者がやって来て、その男を仲介に、蒋介石と和を講じ、蒋介石の口入れによって、米英とも講和する方策を、目論んだ事もあるが、これによっても日本の外交没政策の真相が判かる。当り前の筋道から言えば、米英と講和し、その余勢に乗じて、支那と講和するが、当然の事である。元来米英宣戦の定石より見れば、かくあるべきが当然だ。しかるに今更ら困ったからとて、支那に頭を下げ、支那人の手で、蒋介石に依頼して、米英と和議を諮るなぞという事は、出来べる話ではない。バカもここまでやって来れば、むしろ滑稽と言った方が、良いかも知れぬ。

                            (昭和22年1月23日午前、晩晴草堂にて

 - 戦争報道

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
日中北朝鮮150年戦争史(8)『陸奥外交について『強引、恫喝』『帝国主義的外交、植民地外交』として一部の歴史家からの批判があるが、現在の一国平和主義、『話し合い・仲よし外交』中心から判断すると歴史を誤る。

日中北朝鮮150年戦争史(8)  日清戦争の発端ー陸奥宗光の『蹇々録』で読む。 …

no image
★『 地球の未来/世界の明日はどうなる』 < 米国メルトダウン(1066)>★『トランプ真夏の世界スリラー劇場』★『トランプ政権、バノン主席戦略官を更迭』★『金正恩氏は「賢い決断下した」トランプ米大統領が評価』●『米大統領:サイバー軍格上げ-ハッカー攻撃からの防衛や対ISで強化』★『ガンドラック氏:トランプ大統領は支持率20%割れない限り辞任せず』

 ★『 地球の未来/世界の明日はどうなる』 < 米国メルトダウン(1066 …

no image
★新連載<片野 勧の戦後史レポート>②「戦争と平和」の戦後史(1945~1946)②『婦人参政権の獲得 ■『金のかからない理想選挙』『吉沢久子27歳の空襲日記』『戦争ほど人を不幸にするものはない』 (市川房枝、吉沢久子、秋枝蕭子の証言)

「戦争と平和」の戦後史(1945~1946)② 片野 勧(フリージャーナリスト) …

no image
◎現代史の復習問題『日韓150年紛争の歴史はなぜ繰り返され続けるのか、そのルーツを検証するー「英タイムズ」「ニューヨーク・タイムズ」など外国紙が報道した「日韓併合への道』の連載②(11回→20回まで)』

記事再録/日本リーダーパワー史(872)   「英タイムズ」「ニューヨ …

『Z世代のための<日本政治がなぜダメになったのか、真の民主主義国家になれないのか>の講義⑥『憲政の神様/尾崎行雄の遺言』★『先進国の政治と比べると、日本は非常識な「世襲議員政治』★『頭にチョンマゲをつければ江戸時代を思わせる御殿様議員、若様議員、お姫さま議員のバカの壁』★『総理大臣8割、各大臣では4割、自民党世襲率は30%。米国連邦議会の世襲率は約5%、英国の世襲議員は9%』★『封建時代の竹刀腰抜けの田舎芝居政治を今だに続けている』

2018/06/29   日本リーダーパワー史(921)記事 …

「トランプ関税と戦う方法論⑬」★『日露戦争勝利と「ポーツマス講和会議」の外交決戦始まる①』★『ロシア皇帝ニコライ二世は「あの黄色子猿の日本軍」などは簡単に勝てる」と侮っていた』★『皇帝が寵愛したロシア総司令官・アレキセーエフと陸軍大将・クロポトキンの2重指揮体制が対立し分裂、混乱、敗戦した』

  2022/04/04 オンライン講座/ウクライナ戦争と日 …

no image
日本の「戦略思想不在の歴史」⑭「ペリー米黒船はなぜ日本に開国を求めて来たのか」<以下は尾佐竹猛著『明治維新(上巻)』(白揚社、1942年刊、74-77P)>『開国の恩人は、ペリーではなく金華山沖のクジラである』

  <以下は尾佐竹猛著『明治維新(上巻)』(白揚社、1942年刊、74-77P) …

no image
  世界、日本メルトダウン(1021)ー「トランプ大統領40日の暴走/暴言運転により『2017年、世界は大波乱となるのか」①『エアーフォースワンはダッチロールを繰り返す。2月28日の施政方針演説では「非難攻撃をおさえて、若干軌道修正」、依然、視界不良、行き先未定、墜落リスクも高い①

  世界、日本メルトダウン(1021) トランプの暴走暴言運転によって『2017 …

no image
『リーダーシップの世界日本近現代史』(293)★『安倍・歴史外交への教訓(5)』「大東亜戦争中の沢本頼雄海軍次官の<敗戦の原因>」を読む―鳩山元首相の「従軍慰安婦」発言、国益、国民益無視、党利党略、 各省益のみ、市民、個人無視の思考、行動パターンは変わらず

    2015/11/08 &nbsp …

no image
日本リーダーパワー史(116) 中国革命のルーツは・・犬養木堂が仕掛けた宮崎滔天、孫文の出会い

辛亥革命百年(18)犬養毅の仕掛けた中国革命・滔天と孫文との出会い        …