『日本戦争外交史の研究』/『世界史の中の日露戦争』⑦1903(明治36)年4月30日『英ノース・チヤイナ・ヘラルド』 『ロシアは満州撤退せず』『ロシアと日本』
2016/12/25
『日本戦争外交史の研究』/
『世界史の中の日露戦争』⑦
1903(明治36)年4月30日『英ノース・チヤイナ・ヘラルド』
『ロシアは満州撤退せず』
もし1898年にロシアがイギリス軍艦の旅順からの撤去を要求してきた際,イギリス政府がなんらかの気骨を持っていることを証明していたなら,今,われわれが極東において世界平和がまもなく破られるのではないかと危惧する必要もなかっただろう。
ロシアの思うつぼとなったその要求は一種のブラフ(脅し)であり,それ以来ロシアはわれわれにブラフをかけ続け,多少なりとも成功を収めてきた。ロシアは満州撤退と中国の3省返還を何度かはっきりと誓約した。
しかし,約束が行われた時点にせよ,その後にせよ.だれもその約束を信じなかった。
長年の経験から,約束を果たすべきときになれば.ロシアが誓約を果たしたいという真筆な意欲と,周囲の状況がロシアにとり厳し過ぎることへの深い遺憾の念を表明することを知っていたのだ。
だが,ロシアは単にブラフをかけているだけだ。他の関係国が厳然と約束の実行を迫れば.あっさりと撤退をし,ロシアに撤退の意志がないと考える人がいたとは,と十分にもっともらしい驚異の念を表明するだろう。
特別な利害関係を持つ列強は大英帝国と合衆国と日本だ。全列強は自ら中国の保全を維持する決意を実際に表明してきたが,ここにきて何か国かにその立場を脱しようとする動きが見られる。
その口実はこの点に関して,自分たちは常に中国を全18省のみから成る国と解釈し,満州はロシアが飢えている場合にロシアにのみ込まれるべく除外されると見なしてきた,というのだ。
わがイギリスはかつてドイツと明確な協約を交わしたが,眼識あるわが外相は,調印してからその協約が決してロシアの満州奪取を妨げるものではないこと,かといって,われわれが所有者の目印を付けて久しい揚子江流域の先取権を,われわれに与えるものでもないことに気づいたのだ。
今では,ベルリンとロンドンの両方から次の明確な発表が出ている。
「ドイツは常に満州をロシアの勢力圏と見なしてきた。したがって利害関係を持っ者は各自.ロシアと問題解決を行うべきである」。それも大いに結構だ。
しかし,それならランスダウン卿はドイツ宰相に次のように知らせるべきだ。つまりかつての協約作成時に双方に明らかに誤解があったこと,ドイツが.ロシアの実質的な満州併合から始まる中国の分割に反対ではないことが明白なこと,さらには.その結果として,われわれは線子江流域に対する所有権を再び手にし,必要な場合は武力によって守る意図があるが.どこでもそうしているように通商の門戸は開放しておくということだ。
今.ドイツがとっている方針は,フォン・ビューロー宰相が同帝国の外交政策をビスマルク的方法に戻す決意をしたという.最近の発表が正しかったことを証明している。その方針とは次のようなものだ。
「ドイツは,海外における栄光を休みなく求めること,および母国に関する限り感情的な利益しか得られないようなできごとへの介入は,別の国民と別の時
代にゆだねるものとする」
いわゆる満州撤退を続行するにあたりロシア側はいくつかの条件を打ち出してきたが,もちろん中国の保全の維持に最大の関心を有する列強3国が大幅に見解を変えない限り,それが受け入れられることはない。
中国がもしそれに同意した場合,中国はもはやどの国に対しても中国の独立を尊重するよう求めること息できなくなり,この点に,広西の反乱鎮圧を援助したいというフランスの想像される意向より,はるかに大きくより緊迫した危険が存在するのだ。
実際のところフランスがこのような意向を持っているかは非常に疑わしい。
としても,広西と広東の人々が王之春といった無能な役人を信任し続ける宮廷に全力で最も活発な抵抗を行うことは,全く正しい。
われわれは,大英帝国と日本が中国を真剣に支持すれば,ロシアが中国への要求に固執し続けるとは思わない。というのも,ロシアが今フランスのことを4,5年前とは違って熱心な同盟者と見なすとは思いがたいからだ。
これはありそうなことだが.合衆国がロシアの背信行為に不快を覚え,ロシアの倣慢な要求に抗する中国を支援すべく英日と心から結びつけば,ロシアは少なくとも当面の間は間違いなく譲歩するだろう。
しかしながら,慶親王は,かってドイツの上海撤兵の際の秘密の譲歩で見せたように,あまりに弱腰なので,友好的列強3国が彼になんらかの力を与えることができる以前に,譲歩する可能性が高い。
そのあかつきには,大英帝国と日本が中国に十分な見返りを要求する番になる。われわれに対する見返りは,揚子江流域を排他的勢力圏として取り戻すことになるはずだ。中国の保全に現在腐心しているわれわれに支援を拒む列強には,これに不満を述べる資格はないだろう。
1903(明治36)年5月21日『英ノース・チヤイナ・ヘラルド』
『ロシアと日本』
先月14日のベキン・アンド・テンシン・タイムズ紙によれば,2日前,同紙は牛荘のさる確実な情報筋に打電し,ロシアが占領した同港の実状について照会したところ,以下の返電を得た。
「ロシア軍は依然として街路のパトロールと川の警備に当たり,布告を発し,現地の税関を管理し,外国税を蓄えている。将校はほほえみ,外国人は顔をしかめ,現地人の質問には次の返事が返ってくる。ペテルプルグの命令があれば出ていく」。
それがいっも明日には発令されるという。中国商人は不安がっており,貿易は活気を失っている。不穏なうわさが飛び交っているが,1つとして確実なものはなく,鉄道用の石炭を積んだ貨物船が続々と入港している。道台として赴任すると思われていた李は北方を素通りして錦州に向かった」
わが同業紙は上記の電文に対し次のコメントを行った。
「上の電文から,『撤退』と呼び得ることがこれまで一切行われていないのは明らかだ。牛荘の外国人居留地あるいはその数マイル付近にロシアが数百人の兵士を配備しているか否かは,2次的な問題だ。
同地の行政がロシアの手に握られている限り,また,港の利益がロシアの懐に流れてしまう限り,牛荘は実質的にも.法的にも,外交的にも,ロシアに「占領」されていることになり,断じて撤退とは言いがたい。
撤退とは完全な引き揚げ,もしくは,その管理をはかの手に引き渡すことを指す。すなわち,それまでそこを満たしていたものをすべて空にすることを言うのだ。もちろんあふれるまで詰め込むことと空にすることの間には多くのバリエーションがあり,ロシアはそのバリエーションの披露を楽しんでいる。
部隊を要塞から出して地方に移してみたかと思えば,部隊を集結させ,軍の活
気と管理体制で同港を震撼させる。しかし,このような軍隊の移動は,それだけでは外交上の占領にも撤退にもあたらない。真の占領は,すなわちその場所の民政が.われわれの先の考察のように,継続して維持されていることにあるのだ」
ロシア人はロをそろえて、露日間に戦争が起こるという意見をばかげていると言う。
ロシアの金庫番で,それ故ロシアの大実力者であるド・ヴィッテ氏は戦争を決して容認することはないだろう。また陸軍大臣のクロバトキン将軍は現在東京訪問の途上にある。これは.ロシアに戦争の意志がない明白お証拠だ。
しかし,一介の傍観者の目には.ロシアの現在の行為は.欲しいものを掌中に収めるまで周囲を静かにさせておくための方策に思える。これは,ロシアに対する批判勢力が既成事実を覆すためにロシアと戦争することはないと確信して
のことだ。
ロシアは,中国とその友好国をあらゆる約束ではぐらかしながら満州支配を固めている。ロシアは彼らの信じ込みやすさを十分に確信しており,ロシアが今破りつつある約束に対する十分な補償として行っている約束を彼らが受け入れることをあてにしているのだ。
ロシアは,遼河と鴨緑江での地位を日ごとに強化しており,その最も最近の口実は,木材伐採事業を容易にするために鴨緑江河口の両岸を保持する必要があるというものだ。だが不運な朝鮮は,ロシアには同地域の伐採権は全くないと抵抗している。
ロシアは中国に突きつけた7項目の要求を撤回したが,ロシア自身の声明によれば,もとよりその要求を行ったことはないという。
事実,ロシアがその要求を行ったことはなく,もし北京のロシア代理公使がそれを行ったとしても,彼にはその権限がなく,そして,ロシアがすでにそれを引きげたことは,われわれの知るところだ。
だがロシアはそのうちの3項目の要求を再度行い,中国がそれをのまない限り満州撤退はあり得ないという。
その3項目とは,満州は決して譲渡されないこと,満州内では牛荘以外のいかなる地も外国貿易に門戸を開かないこと,満州における現存の統治システムを一切変更しないことだ。
日本の真の困難は中国の脆弱さにある。ロシアに満州の無条件撤退を強要するのはどこよりも中国自身の義務だ。しかし,北京には.張之桐が外務大臣に相当する地位を与えられない限り.政治家と呼べる人間は存在せず,信頼できる情報源により確認されたところでは,皇太后に助言すべき役目にありながらお茶をにごして済ませている連中は,1度も皇太后にあえてこの状況に関する真相を告げたことがない。
ロシアの侵略により深刻な脅威を受けているのは,むしろ中国よりもわが同盟国の日本だ。しかし,日本の政治家はロシアとの戦争を避けたがっている。それが引き起こす結果の重大さを承知しているからだ。そして他のいかなる国も,日本にロシアの侵略を武力で阻止するよう促し,その責任をとることはできない。
さらには.ロシアはすでに満州を手に入れ,それを維持するつもりであり.た
とえ今押し戻すことができたとしても,近い将来,またいっそうの戦力と決意で戻ってくるだろう,という一般感情が存在する。
この確信は.たとえ意識されていなくとも,ロシアを大きく助けていることは疑いない。合衆国はすでにこの見解を実質的に受け入れているようだ。その結果,今では,自国の満州貿易が差別的関税率によって妨げられてはならないと主張することだけを決意しているようであり,中国の保全を維持する決意はゆらいでいるのだ。
ドイツはとうの昔に満州を狼に投げ与えている。フランスの場合は依然としてロシアにおざなりの援助をしている。中国を中国自身から守るのは,大英帝国と日本の役目ということになるが,問題はこの勝負が大戦争になる危険を冒すだけの価値があるものかどうかということだ。
しかし,英日には,使い方によっては非常に有利なことが1つある。ロシアが戦争を望まないのを知っていることだ。外交戦への道は開かれているのだ。だが日本が,この間題をだらだら長引かせて.自らを不利にしロシアを有利にす
るようなことを許すとは思えない。
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