前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

『オンライン現代史講座/『日本が世界に先駆けて『奴隷解放』に取り組んで勝利したマリア・ルス号事件(明治5年7月)を指揮した」『150年前の日本と中国―副島種臣外務卿のインテリジェンス』

   


 

 

  2019/04/08日本リーダーパワー史(976)ー

  

150年前の日本と中国―副島種臣外務卿のインテリジェンス

前回、一八七三年(明治6)3月、副島種臣外務卿(初代外相)が中国始まって以来の前例を破って、直接、清国皇帝の拝謁を賜わった話を書いた。

http://www.maesaka-toshiyuki.com/person/33444.html

 

この時の副島の秘策を榎本武揚(後、農商務相、外相,文相)は次のように語る。

李鴻章(直隷総督、北洋通商大臣)について副島は事前に徹底して調べ上げた。李鴻章は学識が極めて高いことを自慢していた。当時、当代きっての漢文通で、書道の大家であった副島は学識が高いといっても恐らく、自分と同じく評判ほどではなかろうと一計を案じた。

「相手の誇り(プライド)をくすぐれ」である。

そこで副島は支那で有名な言葉や比喩、絶句、名訓の数々を、すっかり暗記して、李鴻章に会ったときにぶつけた。

副島は漢書の名文を書いて、「閣下はどれがお好きですか」と尋ねると、李鴻章は副島に「貴方のように学識の高い方は、この清国にも私の外には数える程しかいない」とほめた。実はこの書の中に全く意味のないものを故意に入れて李鴻章の学識をテストしてレベルをチェックしたのだ。

副島は素知らぬ顔で「貴方が清国宮廷から最も信頼を得ているわけはその御人格と学識が高さと信じていましたが、今回お会いできて、その判断の正しいことを確認できた点は、最大の収穫でした」と最大限、持ち上げた。

さらに畳みかけて「日本の高官で清国を訪ねた者は少なく、閣下が清国第一の知識人で清国皇帝から絶大な信頼を得ている事実を見た者がいないのは残念でたまりません。今回の私の訪問の目的は、閣下が皇帝に信頼されている事実をこの目で確認して日本の高官に伝えることであります。是非、皇帝に秦上していただきとうございます」と請願した。

気を良くした李鴻章は早速、皇帝に秦上し、「日本の賢人を皇帝が引見なさることは皇帝の御高徳を一層日本にも普及することになりましょう」と李鴻章の立会のもとに、前代未聞の同治帝との使臣謁見の儀が実現したという。(島貫重節著「福島安正と単騎シベリア横断(上)」原書房、1979年)

以来、清国では各国の外交宮への態度を改め、対等に扱い、各国から副島は感謝された。

しかし、これにより清国宮廷が日本を対等の国として認めたわけではなかった。

翌明治7年、日清修好条約により、柳原前光が駐清国特命公使として北京に赴任したが、清国側は日本を東夷(東の野蛮人)して、日本へ公使を派遣しなかった。国交が回復して四年目の一八七七年末になって、ようやく初代駐日公使が赴任してきた。日本の「同文同種」「親中的態度」に比べて、中国側の『反日的態度』は依然,変わらなかった。

「親中派」の副島の外交力、インテリジェンスは明治5年7月のマリア・ルス号事件でも発揮された。

明治五年六月四日、ペルーの帆船「マリア・ルス号」が清国人苦力二百三十二人を船室に閉じ込めて横浜に修理のために入港した。この清国人たちは、ぺルーに売られていく奴隷で食事も与えられず、虐待で餓死寸前の者も多かった。外務卿・副島種臣はこの非人道的行為を見逃さず、神奈川県参事の大江卓に命じ、同船の差し止めと同船長を告発した。当時、日本とペルーの間では2国間条約は締結されておらず、政府内には国際紛争をペルーとの間で引き起こすと国際関係上不利になるとの反対もあったが、副島は人権尊重と日本の主権独立を主張し、横浜に特設裁判所を開設、大江卓を裁判長に任命した。

独、仏、伊、デンマーク、ポルトガルの五領事は反対し、米、オランダの二領事は中立、英国領事は外務省の意見に賛成した。日本政府の陪審判事3人も不干渉論を唱えたが、副島は裁判長大江卓の意見どおり裁判させ、清国人解放の判決が下りて、苦力全員は無事中国に送還された。清国政府からは日本の友情的行動への謝意を表明された。

奴隷売買が世界的に横行していた時代に、大国に追随せず正義と人権を守り通した判決が出たのは、副島外務卿のヒューマニズムにあふれる決断力で断固として反対派を押さえたためだった。

翌年2月、判決に不服のペルー政府が謝罪と損害賠償を日本政府に要求してきたため、ロシア皇帝アレクサンドル2世による国際仲裁裁判がサンクトぺテルブルグで開催されることになった。この時、日本側の全権大使として出廷したのが榎本武揚である。ロシア皇帝は「日本側の措置は国際法に適合したものである」との判決が下した。

これはわが国最初の国際裁判で勝利したケースであり、まだ多くの国で奴隷売買、奴隷労働が続けられていた時代に、世界に先駆けて敢然と『奴隷解放』に取り組んで勝利した画期的な事件であった。副島外務卿と、榎本、大江の人権派コンビは国際的にも大きな賞賛を浴びた。

翻って、現在の米中貿易戦争、覇権争いで中国の新疆ウイグル自治区で約200万人にものウイグル人を強制キャンプに収容して大規模な洗脳を行っている人権弾圧問題がクローズアップされている。米国務省は「中国政府によるウイグル人弾圧は現在の全世界でも最も大規模で残酷な人権弾圧だ。1930年代のナチス・ドイツのユダヤ人弾圧にも等しい」と非難、中国当局は「内政干渉」と強く反発している。

「中華思想」「漢民族優先のエスノセントリズム」(自民族中心主義、自文化中心主義)は習近平永久国家主席になって「中国の夢」として再び強烈によみがえっている。

 - 人物研究, 戦争報道, 現代史研究

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
速報(342)●『8月22日原子力ムラ, 東京電力がぬくぬくと生きてるのは野田さんがその主犯だと思います 小出裕章(MBS)』

速報(342)『日本のメルトダウン』 ●『8月22日原子力ムラ, 東京電力がぬく …

no image
日本メルトダウン脱出法(855)日本人を元気にする岡崎慎司(レスター)のウルトラ・スーパーゴール/オーバーヘッドで決勝ゴール‼︎(決定動画)スゲーよ★☆

   日本メルトダウン脱出法(855) オーバーヘッド弾で評価一変!岡崎がこじ開 …

no image
高杉晋吾レポート⑰ルポ ダム難民①超集中豪雨の時代のダム災害①森林保水、河川整備、住民の力が洪水防止力

高杉晋吾レポート⑰ ルポ ダム難民① 超集中豪雨の時代のダム災害① 森林保水、河 …

no image
日本リーダーパワー史(463)「西郷隆盛」論④明治維新で戦争なき革命を実現した南洲、海舟のウルトラリーダーシップ

 日本リーダーパワー史(463) 「敬天愛人」民主的革命家としての「西 …

no image
 世界も日本もメルトダウン(961)★『アメリカの衰退を示す、史上最低の米大統領選挙』ー『米共和党、トランプ氏のわいせつ発言暴露で大混乱に』●『  暴露されたトランプ米大統領候補の女性蔑視発言の全訳』●『コラム:米国で感じた「トランプ大統領」の確率=佐々木融氏』●『  ヒラリーか、トランプか? アメリカ大統領選「第3の選択肢」まで浮上』

     世界も日本もメルトダウン(961)     『アメリカの衰退を示す、史 …

no image
日本最強の参謀は誰か-「杉山茂丸」の研究③伊藤博文の政友会創設にポンと大金をだし、金融王・モルガンを煙に巻く

 日本リーダーパワー史(477)     …

no image
日本リーダーパワー史(61) 辛亥革命百年④ 仁義から孫文を支援した怪傑・秋山定輔①

日本リーダーパワー史(61)   辛亥革命百年―仁義から孫文を支援した …

no image
『ガラパゴス国家・日本敗戦史』㉟『日本近代最大の知識人・徳富蘇峰の語る『なぜ日本は敗れたのか・その原因』①

『ガラパゴス国家・日本敗戦史』㉟ 『来年は太平洋戦争敗戦から70年目―『日本近代 …

no image
速報(448)『日本のメルトダウン』●『竹中平蔵「アベノミクスは100%正しい」●『中国バブル崩壊後、大相場がやってくる』

  速報(448)『日本のメルトダウン』   ●『竹中平蔵「 …

no image
★『人口急減社会』『消滅自治体』について増田寛也・日本創成会議座長の日本記者クラブ会見動画(16/9、100分)

     ●◎『人口急減社会』『極点社会』について …