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『リーダーシップの日本近現代史』(317)★『日本近代化の父・福沢諭吉が語る「徳川時代の真実」(旧藩事情)③』★『徳川時代の中津藩の武士階級(1500人)は格差・貧困社会にあえいでいた』★『福沢諭吉の驚くべき先見性で「人口減少・少子化社会」の対策を明示している』★『日本は真の民主国家ではない』

   

 

 ①福沢はなぜ「門閥制度は親の敵(かたき)でござる」と言ったのか

②「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」に変わったのか

  2014/03/19  

NHK歴史大河ドラマを見ると歴史の真実はわからないー福沢諭吉が語る「サムライの真実とは・・」(旧藩事情)③徳川時代の武士の生活中津藩の武士階級(1500人)は上士族・下士族の超断絶社会で下士族は貧困階級で内職に追われていた。その貧乏士族たちの武力革命が明治維新―

       前坂俊(ジャーナリスト)

-公用とは一体どのような御用か

この公用とは公儀(幕府)の御勤、江戸藩邸の諸入費、藩債の利子、藩内の武備(防衛費、)城普請(城の修繕・補修)、藩内の橋梁、堤防、貧民の救済手当、藩士文武の引立(教育・研修)等などである。
この諸費用も結構かかる。江戸汐留の藩邸の上屋敷は広さ一万坪余(3万3000平方m)でサッカーコート4面)、周囲およそ五百間(900m)。松板で高さ二間(約3・6m)の五百間(900m)の外囲をつくると、天保時代の金でおよそ三千両もかかる。

7-上士族は婢僕(ひぼく、下男や下女)を使用し、下士族にはなかった。

 

上士族は主人はもちろん子供までも、自から町に行って物を買う者はいない。銭湯に入る者もない。外出時は袴(はかま)に双刀(刀2本)を帯びる。夜行は必ず提灯を携える下僕を従える。
外に出でて物を買うことを賤しんで、物を持つこともまた外聞が悪いと思い、剣術道具や釣竿の外は、小さな風呂敷包さえ手に持つことはなかった。
一方、下士は婢僕を使わなかった。昼間は町に出て物を買う者は少なかったが、夜は男女の別なく町に出るのを常とした。男子は手拭(タオル)を以て頬冠(ほおかぶり)りし、双刀(2本刀)を帯する者もあり、一刀なる者ある。昼の隣家の往来などには丸腰(無刀のこと)のこともあった。
以上のように、上下の士族は、権利、骨肉、親愛の情、貧富、教育、生計、風俗習慣を異にする者なので、その栄誉、利害の関係も異ならざるを得ない。
下士族にとっては、動かすことのできない社会秩序ならば、疑念や憤怒を我慢するしかなく、忘れることにしたのである。

 

8-では、どのようにして変革の芽は生まれたか

 

下士族は生計の内職に追われて、衣食以上を考える余裕もなく二、三十年続けていると、下士の内職も繁盛して、最初はただ杉檜(すぎひのき)の指物、膳箱などを製造し、元結の紙糸をひねるだけのものが、次第にその仕事の種類が増え、下駄傘(げた、かさ)を作る者、提灯を張る者、白木の指物細工に漆を塗って品質を高めるものが増えていった。
戸障子等を作って本職の大工より巧くなる者あり、近年になって手工業の外に商売を兼ねて、船を造って荷物を仕入れて大阪に海を渡る者や、船に乗る者もでてきた。仲間の資本を借りて、商工業に従事しタンス預金などもでてきて、金の流通もはじまり、利潤もまた少なくなかった。

 

上士族も往々ひそかに資本を出す者でてくるが、如何せん理財(経済・生計)に詳しくないため、下士に依頼して商法を行っても、うまくいかない。
下士の輩は財産を増やして、衣食の足りるものが多くなる。衣食を得て時間ができれば、上士の教育を羨んで子弟を学塾に入れたり、他国に遊学させる者もあり、文武両道の精神が活発となった。

 

9-恵まれた地位の上士族から堕落していく

 

これに反して上士族は、昔より藩中では最も恵まれた地位を占めていたために、次第に堕落、衰弱していった。二、三十年前から酒を宴を開く風習を生じ(元来、飲酒・会宴の事は下士に多くして、上士は質素であった)幕末には、諸侯の妻子を解放して国元に帰す命令が出された時は、古来江戸の中津藩邸に住居する藩士も中津に移住し、妻子と共に江戸の軽薄な生活を文化を田舎藩に持ち帰ったので、すでに惰弱なる田舎の士族は、これに眩惑され、華美軽薄の風に流れた。故に中津の上等士族は、天下多事のために士気を鼓舞すべき時に、懶惰不行儀(怠惰堕落不品行)の傾向を進める結果となった。

このように、上士の気風はだんだん衰え、逆に下士の力は進歩していった。

中津の士族は他国に出ることが少なく、藩外の事情を知る由もなかった。下等士族は心の底では常に上士を蔑視していたが、世間知らずの田舎者なので、他藩の例にならって藩士を結集して改革をすることができなかった。

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福沢の大略は以上のようなものだが、
①学校制度,教育制度の充実「学問のすすめ」
②上下士族相互に婚姻する風習をすすめるーことの二ヵ条を最後に提言、
 
②については次のように述べている。

 

「今日に至って(明治15年)、稀に上下結婚する者も出てきたが、互に婚姻すれば、旧藩社会とは別に新たな家族血縁関係が生まれ、その功能は学校教育の成果にも劣るものではない。」

 

10-福沢諭吉の驚くべき先見性「人口減少・少子化社会」の対策を明示

 

今、日本は世界の歴史上例のない猛スピードで「人口減少・少子化、超高齢社会」に突入している。政府は日本再生のキーワードとして、①グローバルに活躍できる国際教育の必要性、②少子化対策、出生率の向上策を検討されているが、150年前の福沢の提言とまるで同じであり、その先見性に驚く。

 

福沢の有名な「天は人の上に人をつくらず、人の下に人をつくらず」とは「学問のすすめ」(明治5年)の一節だが、アメリカ合衆国の独立宣言からの引用である。

 

近代民主社会において人間はすべて平等であり、個人の自由と権利と独立が勝ち取られた上に、平等社会が築かなければ、封建主義から脱皮はあり得ない。アジアでいち早く起きた明治維新はフランス革命、アメリカ独立戦争などの世界的な近代革命の流れの一環だが、武士階級内部の政権争い内乱であり、宮廷、公家と一体となった王政復古、維新運動で、
「士農工商」の身分社会、門閥制度を打倒し、個人の自由と人権の確立と独立の方向性ははなはだ弱かった。

 

福沢は「学問のすすめ」その他で「独立自尊」「一身(個人)の独立なくして、一国の独立なし」と主張した。

 

民主主義の根本は「言論表現の自由」にありとして、英語の「スピーチ」を演説と翻訳し、明治8年に日本で最初に慶応義塾に「三田演説館」を作って、学生に侃侃諤諤、議論する、ディスカッションをはじめさせたのである。江戸時代の「物言えば唇寒し」「3猿主義」の伝統を敢然と否定し、戦ったのである。

 

「旧藩情」のポイントは、武士と農工商間の階級、厳しい身分差別と同時に、武士の中でもこと細かく身分が固定され、上士族と下士族の間は超えられない断絶が存在したことを明らかにしたことである。
それは現在のサラリーマン、労働者、社員の企業・組織・役所・学校などでの肩書、待遇、給与、人間関係とその差別の実態は「旧藩情」と同じ差別構造が連綿と続いているということだ。

 

昨今、格差社会の問題点、アルバイト、契約社員、非正規雇用と正社員の格差、差別問題は、ちなみに藩の役職名と現在の企業・役所などでの役職ポストを対比させると、藩主は(オーナー)大名 (社長 )、国家老・城代家老 (専務、常務など)取綿役 江戸家老 (重役・局長・東京支社長など)
組頭・小姓組・奉行・給人(管理職・局長・部長・課長 )、徒士・中小姓・旧厩格、供小姓、小役人(平社員 ,正規社員、契約社員)中小姓、旧厩(うまや)足軽、帯刀(非正規社員、アルバイト 、日雇い労働者)といったところだろう。
上下士族の圧倒的な隔絶という点では、国家公務員制の高級官僚高級の登用、昇進のキャリア制度(キャリアシステム)に引き継がれている。国家公務員上級試験(1種)に合格してキャリアは「特急」「新幹線」のようにスピード出世し、高級官僚ポストをほぼ独占する。それ以外入った職員(「ノンキャリア」)は「鈍行」「各駅停車」の昇進で,まったく身分が隔絶している。
結局、現在日本が陥っている社会的閉塞感は徳川時代の階級・身分差別社会・門閥制度の残滓がいまだに克服できていないということだ。
「日本は民主主義の先進国」であると人々は思っているが、男女平等の問題だって、女性の社会的な進出、管理職での女性の割合も世界最低水準であり、一票の格差もいまだに是正されず、世界の大半の国が18歳以上の選挙権を認めているのに、日本はいまだに20歳以上なのである。
福沢諭吉が今日生きていれば嘆くことは間違いない。

 - 人物研究, 戦争報道

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