『リーダーシップの日本近現代史』(296)日本興亡学入門⑩1991年の記事再録★『百年以上前に<企業利益>よりも<社会貢献>する企業をめざせ、と唱えた公益資本主義の先駆者』ー渋沢栄一(日本資本主義の父)、大原孫三郎(クラレ創業者)、伊庭貞剛(住友財閥中興の祖)の公益資本主義の先駆者に学ぶ』
2019/01/09日本興亡学入門⑩記事再録
『企業利益よりも社会貢献する企業をめざせ』
元毎日新聞情報調査部副部長・前坂俊之
以下の文章は今から18年前の1991年にある雑誌に書いた文章です。当時から日本株式会社のあり方に警鐘を鳴らすために掲載しました。
″日本株式会社″は今年で創業百二十二年目を迎える。明治二年(一八六九) に福沢諭吉、早矢仕有的らによって横浜に設立された貿易商社「丸屋商社」(現・丸善)が日本で初の株式会社である。
以来、百二十年余。今や世界一の〝日本株式会社国家〟に成長したが、喜ぶのは早すぎる。あらゆる組織は内部要因によって崩壊するといわれるが、このところ、日本の政治、経済には大きな亀裂、赤信号が激しく点滅している。
この数年間のバブル経済の常軌を逸した狂乱のツケが今、襲ってきている。その無残な象徴が住友銀行・イトマン事件にみる金融機関の暴走であり、″リバイアサン〟と化した企業は貿易摩擦を世界中で引き起こし、国内的には鼻つまみ者の一億総にわか成金と化し、サラリーマンが真面目に一生働いても家一軒買えないという異常事態を生んでしまった。
この結果、コレステロールが全身にたまった高血圧症の老人に似た、重症の肝臓病患者に日本経済もかかってしまった。
「経済は一流、政治は二流」とこれまで言われてきたが、経済も一流どころか三流であり、湾岸戦争での日本の政治に至っては五流以下であるお粗末さを示した。日本の成功は二十一世紀までもたないのではないかと思う。
その理由は政界や財界のトップリーダーの″老害化〟そのものであり、その志の欠如、哲学の貧困であり、何よりもリーダーたちの社会的責任感の欠如である。戦前、世界を知らぬ無知な軍人たちのオゴリと老害による軍国主義の暴走によって日本は自滅してしまったが、今度は会社主義、お家大事主義の無知とオゴリと無責任で同じ失敗の道を歩むのではないかと気になる。

あくまでポストにしがみつき、誤断して組織を荒廃させ企業倒産に至る老残、老醜の経営者や、国を崩壊させる国家リーダーるが多い中で、全く見事な退き際であった。
伊庭は住友の本山・別子銅山が大争議でつぶれるかどうかの瀬戸際を奇跡的に解決した人物だが、「老害」きびしく戒めて、以後の住友大発展の精神に魂を入れたのである。
二十一世紀に向け急速なパワーシフトが起きている現在、日本のあらゆる組織の中でガン化している老害こそいち早く克服しなければ「死にいたる病」となる。明治には伊庭のような毅然とした志の高く、私益よりも公益を重んじた人物が少なからずいて、今日の日本経済の発展の基礎を作ったのである。

明治初め、ガス事業は公共事業であり、東京府(現在の都)の所轄であった。ところが、営利事業を行うのはけしからんと、浅野総一郎(日本セメント創業者)らが、ガス局の民間払い下げを要求した。
当時、ガス局長であった渋沢に対し浅野は「十五万円の分割払いで払い下げてほしい」と迫ったが、巨額の投資をしていた渋沢は府民の財産に損害を与えるとこれを敢然と拒否した。
浅野は「利益の一部を贈るから」と渋沢にワイロ戦術に出たが、これに対して渋沢は「盗賊と同じ」とカンカンにおこって、より激しく拒否した。二年後に渋沢自ら二十五万円で払い下げたのが、現在の東京ガスの前身である。資本主義における〝公正〟(フェア・プレー)を渋沢は体現していたのである。
過剰な輸出によって「貿易黒字」を積み上げて自国だけもうける一方で、輸入することを知らない。「富を外国に回していく」、相手にも利益になる金の使い方を全く知らない日本、この金を使う哲学のない日本が不公正な日本、ずるい日本として、世界中から批判されたのです。最近、その反省からか「企業メセナ」(文化的支援)「フィランソロピー」(企業の社会的貢献)がにわかに注目を集めている。

大原はもうけた金をすべて社会や文化的な事業につぎ込んで、社会に還元しその額は現在の金額で一千億円近くになる。日本の実業家の中で、こんな多額の金を社会に還元した実業家はいない。
一体、何のために企業はあるのか。国家のワクがボーダレス化している中、社会へ貢献する企業こそ、今後求められるものに違いない。日本経済の創業者精神を今一度かみしめるべきときである。
関連記事
-
-
池田龍夫のマスコミ時評(36) 『原発依存」社会から脱却をー自然エネルギー転換への願い高まる』
池田龍夫のマスコミ時評(36) 『原発依存」社会から脱却をー自然エ …
-
-
人気記事再録/日本天才奇人伝②「国会開設、議会主義の理論を紹介した日本最初の民主主義者・中江兆民―②<その眼中には、国家のほかは何ものも影じない。兆民は伊藤博文、大隈重信ら元老連をコテンパンに罵倒す>
前坂 俊之(ジャーナリスト) …
-
-
日本風狂人列伝(32)日本奇人100選③、熊谷守一、宮崎 滔天、黒岩涙香、和田垣謙三、三田平凡寺、青柳有美、坂本紅蓮洞・・・・
日本風狂人列伝(32) 日本奇人100選③、熊谷守一、宮崎 滔天、黒岩 涙香、 …
-
-
★5『 京都古寺巡礼のぶらり旅!』『秀吉ゆかりの「京都醍醐寺」全動画案内30分(9/3)』―わが 『古寺巡礼』で深く感動した古刹、庭園③』1150年前に建てられた5重塔(国宝)の燦然と輝く、建築美の極致
『 京都古寺巡礼のぶらり旅!』 『秀吉ゆかりの「京都醍醐寺」全動画案内30分』― …
-
-
日本リーダーパワー史(137) 関東大震災での山本権兵衛首相、渋沢栄一の決断と行動力に学ぶ
日本リーダーパワー史(137) 関東大震災での山本権兵衛首相、渋沢栄一の決断と …
-
-
軍神・東郷平八郎の真実
1軍神・東郷平八郎の真実静岡県立大学教授 前坂 俊之1 『タイム』の表紙に掲載さ …
-
-
池田龍夫のマスコミ時評⑱米国連銀に、無利子預金1億300万㌦―財務相が「広義の密約」を認める
池田龍夫のマスコミ時評⑱ 米国連銀に、無利子預金1億300万㌦―財務相が「広義の …
-
-
日本リーダーパワー史(502) 勝海舟の外交突破力④オランダ、イギリスとの紛争をアッっという間に解決した>
日本リーダーパワー史(502)   …
-
-
日本メルトダウン脱出法(819)『日本株が間もなく「落ち着き」を取り戻す理由―底打ちを示唆するシグナルが出揃いつつある』●『資源価格下落は日本への未曾有のボーナス(野口悠紀雄)』●『中国AIIBは、のっけから課題が山積しているー「格付けなし」で、どう資金を調達するのか』●『人民元安でも中国の輸出は拡大しない』
日本メルトダウン脱出法(819) 今回の下落相場は、まだ下げき …
-
-
日本リーダーパワー史(364)山県有朋、児玉源太郎の原典伝記を読んで『日露戦争』を当事者の苦悩とともに学ぶ
日本リーダーパワー史(364) 明治のトップリーダーは国難とどう戦ったのかー 山 …
- PREV
- 『リーダーシップの日本近現代史』(295)★『芥川龍之介の文学仲間で、大正文士の最後の生き残り作家・小島政二郎(100歳)の人生百歳訓ー 『足るを知って分に安んずる』★『いつまでもあると思うな親と金、ないと思うな運と借金』★『起きて半畳、寝て一畳、天下取っても、二合半』
- NEXT
- 『リーダーシップの日本世界近現代史』(297)『歴史は繰り返されるのかー1940年「東京オリンピック」は日中戦争により返上したが、その二の舞になるのか!』★『新型コロナウイルス感染症の「パンデミック化」(世界的大流行)によって、東京オリンピック開催も中止の議論が起こってきた①』★『世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は27日、パンデミックになるつつあることを初めて認めた』