日本風狂人伝(43)ジョークの天才奇才(1)内田百閒のユーモア『美食は外道なり』(1)
2015/01/01
前坂 俊之(ジャーナリスト)
内田百閒(ひゃっけん)をしらずして、日本のオヤジは語れんぞ。
「おかずの名前を知るは貧乏人なり、おいしい物しか食べぬは外道なり、おいしくない物を好むはなお外道なり」とさ。
百閒は大の食通であり、美食家であったが、「美食は外道なり」と断じていた。
「おかずの名前を知るは貧乏人なり、おいしい物しか食べぬは外道なり、おいしくない物を好むはなお外道なり」(昭和十一年七月)を主義にしており、食べ物にも事欠いた戦争下でも戦後の窮乏時代も毎日の「お膳日誌」だけは欠かさず書いていた。
戦争末期の昭和十九年には旨いものを食べたいとその品名を並べた『餓鬼道肴疏目録」を書いたり、食べもののなくなった昭和二十一年には「御馳走帳」まで出版している。
人生最高の楽しみ!毎朝、今晩のおかずを考えろ 百閒は毎朝、起きると布団の中で、まず今晩のおかずをどうするかを考えた。一番大切なことは午後五時(夏は七時)からの夕食であり、このため玄関に「夕刻以降お目にかかりません」の面会謝絶の張り紙を掲げた。
晩酌がまずくなるので間食をとったり、昼間に呑むことは決してしなかった。こりに凝ったメニューを必ず書きとめた。
ある日のメニューをみると何とも豪勢である。
『鯛刺身、鯛切り身焼き、塩さば、ベーコン、小松菜、サトイモ、ふきの葉のふき味噌、おろし大根、納豆、かつぶし、豆腐の味噌汁、塩しゃけ、アジの干物、つけあみなど十九品目にビール三、酒おかん一』(三月三一日)といった具合で、百閒流の究極のこだわりがあり、なんともゼイタクな夕食である。
生家が造り酒屋であり、自分が好き放題呑みまくり、長年お世話になった「酒」に対して、とても「呼び捨てなど出来ないし、出来た義理でもない」のじゃね。
東京大空襲で、命からがら逃げ回る際も一升ビンを「これだけは、いくら手がふさがっていても、捨てていくわけにはいかぬ」と手放さず、逃げまどいながら、ポケットに入れてきたコップで酒を飲んだ。
しばらくして「休め!」と声をかけてから、やおらその中の一つで食べられたがっているものを探し出しては、つまんで食べた、いうから恐れ入る。
ああ疲れるね、内田先生と文章だけでお近づきになるのもね。
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