知的巨人の百歳学(135)ー昭和天皇(88歳)-『皇太子時代のヨーロッパ青春の旅で、広く世界に目を開き、人格・思想形成の原点となり帝王学の基礎となった。』
昭和天皇は皇太子時代のヨーロッパ訪問で、広く世界に目を開き、人格・思想形成の原点となった。
昭和天皇は皇太子時代の大正十年(一九二一)三月から、約半年間にわたってヨーロッパ旅行に旅立った。日本の天皇が外国旅行したのはこの時が初めてである。
お召艦「香取」に乗船された皇太子は横浜港を出航、まずイギリスに到着、フランス・ベルギー・オランダ・イタリアの計五カ国を訪問した。ヨーロッパは第一次大戦後で、戦争の混乱から立ち直っていなかったが、各国の王室や国民から温かい歓迎を受けた。それまで、まったく〝カゴの鳥″であった皇太子は、この旅行で広く世界へ目を開かれ、立憲君主制の精神を身をもって体験した。
この外遊を、強い反対を押し切って実行したのは、原敬首相であった。将来、天皇になる皇太子に対して「国際的な視野と見識を身につけてほしい」と期待からであった。もし万一のことがあれば責任を取る覚悟で 原首相は出発前に自ら〝遺書″をしたためるほどの決意でのぞんだ。
お召艦「香取」、供奉艦「鹿島」に随行団はそれぞれ分乗して、大正十年三月三日に横浜港を出港、約二カ月余の航海を終え、英国ポーツマス港に着いたのは五月九日。英国皇太子プリンス・ォブ・ウェールズも桟橋で待ち受けていた。
お召列車に同乗された両皇太子は歓迎一色のロンドン・ビクトリア駅へ到着。ここには、わざわざ英国皇帝ジョージ五世が出迎えるという最上級の歓迎ぶりであった。
同夜、バッキンガム宮殿で百二十八人の王族・名士を招待して晩餐会が催され、東洋の“日の出ずる国のプリンス″を一目見ようと集まった。皇太子のスピーチは大音声で会場にギンギン響くほどであった。マイクなどない時代、「二十歳であれほどの声が出るとは、よほどすぐれた人物に違いない」とロンドン警視総監が感心するなど、出席者は度肝を抜かれた、いわれる。
英国訪問で皇太子に一番印象深かったのは、アソール公爵の賓客となってスコットランドの広大な領地を訪れたこと。アソール公爵は英王室に匹敵するスコットランドの大豪族。皇太子はここで三日間静養され、フィッシング・ドライブ・ゴルフ・散歩などを楽しまれた。
公爵はスコットランド名物のスカート姿で出迎え、バグパイプなどで演奏して大歓迎した。
最後の日、盛大な送別晩餐会が催されたが、ダンスが始まると近所の農民たちが普段着のまま集まり、百人をこえる踊りの輪が広がった。そこは身分の分けへだてもなくオープンな雰囲気で、公爵夫人も農夫とステップをかわした。皇太子は公爵の質素な生活ぶり、領民との平等で自由な人間関係に驚きと感銘を受けた。「アソール公爵のやり方をまねたら、日本にも過激思想などおこらないと思う」と皇太子は新聞記者に語り、生涯得がたい体験となった。
英国をあとにした一行は、フランスを五月三十日に訪れ、七月七日まで滞在。途中、ベルギー・オランダを計十日間ほど訪問されたものの、一番長く滞在した。昭和天皇は戦後の会見で、「暮らしてみたいのはやっぱりパリだね」 というほど、自由な生活を楽しまれた。
フランス訪問の目的は「エッフェル塔」「カタツムリ料理」「戦場見学」の三つであった。皇太子の強い希望で「カタツムリ料理」を召し上がられたが、有名な料理店「エスカルゴ・ドール」に頼み込んで日本大使館まで出前してもらって、皇太子が一つ一つ味わいながら五、六個食べたところでストップをかけられた。「それ以上は毒になっては……」という理由であった。
皇太子がパリで一番気に入ったものは「それは地下鉄(メトロ)さ。ルーヴルから、エリゼまで乗った。実におもしろかった」
また、第一次大戦の激戦地ベルダンンをペタン元帥の案内で視察した。数千人の戦死者の十字架が見わたす限り並んでおり、「戦争とはかくもむごいものか」と語り、戦争の悲惨さ、むごたらしさを深く胸に刻み込まれた。
「香取」が横浜港に帰港したのは九月三日。原首相は涙を流して無事の帰国を喜んだ。その原首相が外遊に反対する右翼にそそのかされた少年によって東京駅で刺殺されたのは、この約二力月後である。
さて、二十歳を迎えたばかりの若き皇太子にとって、このヨーロッパ訪問はどんな意味を持ったのだろうか。昭和天皇の人格・思想形成の原点になるほど大きな役割を果たした。原敬・皇太子はこの外遊で、広く世界に向かって目を開き、本場の立憲君主制や王室のあり方を深く考えるきっかけとなったのである。
関連記事
-
-
百歳学入門(237)ー近藤康男(106)の「七十歳は一生の節目」「活到老 学到老」(年をとっても活発に生きよ 老齢になるまで学べ)』★『簡単な健康法を続ける。簡単で効果のあるものでなくては続けられない。大切な点は継続すること。』
百歳学入門(237) 「七十歳は一生の節目」「活到老 学到老」(年をとっても活発 …
-
-
『リーダーシップの日本近現代史』(108)/ 記事再録☆『世界からは尊敬され、韓国からは逆恨みされ暗殺された伊藤博文(初代総理大臣)の悲劇』★『日韓コミュニケーションギャップ、反日韓国のパーセプションギャップ(誤解、逆恨み)ルーツがここにある』
日本リーダーパワー史(107) 伊藤博文④日本、韓国にとってもかけがえのない最大 …
-
-
『オンライン/日本興亡学講座』( 2009/06/06 の記事再録)★ 『西武王国と武田家(武田軍団)の滅亡』(創業は易く、守成は難し、2代目、3代目が潰していく)★『「売り家と唐様で書く三代目」(初代が苦心して財産を残しても、3代目にもなると没落してついに家を売りに出すようになる)』
2009/06/06 前坂 俊 …
-
-
速報(202)『日本のメルトダウン』●「被曝はどんなに少なくても危険なことは現在の学問の到達点」 小出裕章』他4本
速報(202)『日本のメルトダウン』 ●『細野原発相「20mSv発がんリスク低い …
-
-
クイズ『坂の上の雲』ーベルツの『日本・中国・韓国』五百年の三国志①<日露戦争はなぜ起こったのか>
クイズ『坂の上の雲』 アジアの観察者・ベルツの『日中韓』三国志の5 …
-
-
日本メルトダウン(966)『小池氏猛攻で石原兄弟“落選危機” 豊洲疑惑直撃 慎太郎氏、公開聴取ならブランドに傷』●『豊洲問題「盛り土せず」8人に責任 現職副知事ら関与、東京都が11月1日に公表』●『パリピも黙る!「池袋ハロウィン」の超絶進化―小池百合子知事も登場、今年のコスプレは?』●『ハロウィンの何が日本人を夢中にさせるのかー外国人も目を見張る衝撃的な熱狂ぶり』●『「130万円の壁」放置が若者を下流老人予備軍にする』
日本メルトダウン(966) 小池氏猛攻で石原兄弟“落選危機” 豊洲疑惑直撃 慎 …
-
-
鎌倉カヤック絶景大漁フィッシング(6/3)ー 『第1投から大アジ、大ウマズラを連発、すごいよ!』★『老人と海』-美しすぎる鎌倉海で?(魚)とたわむる、チョー楽しいよ!」
鎌倉カヤック絶景大漁フィッシング(6/3)ー 『第1投から大アジ、大ウマズラ …
-
-
記事再録/歴代最高の経済人とは誰か②ー『欲望資本主義を超克し、21世紀の公益経済学を先取りしたメッセの巨人』~大原孫三郎の生涯①ー『単に金もうけだけの経済人はゴマンとおり、少しも偉くない。本当に偉いのは儲けた金をいかに遣ったかである。儲けた金のすべてを社会に還元するといって数百億円以上を社会貢献に使いきったクラレ創業者・大原孫三郎こそ日本一の企業家
歴代最高の経済人は誰か②ー『大原孫三郎の生涯① 2019 …
-
-
「75年たっても自衛権憲法を全く変えられない<極東のウクライナ日本>の決断思考力ゼロ」★「一方、ウクライナ戦争勃発3日後に<敗戦国ドイツ連邦議会>は特別緊急会議を開き、防衛費を2%に増額、エネルギーのロシア依存を変更した」★『よくわかるオンライン講座/日本国憲法制定真相史①』★『なぜ、マッカーサーは憲法制定を急いだか』★『スターリンは北海道を真っ二つにして、ソ連に北半分を分割統治を米国に強く迫まり、トルーマン米大統領は拒否した』』
  …
-
-
近現代史の復習問題/記事再録/2013/07/08 日本リーダーパワー史(393)ー尾崎行雄の「支那(中国)滅亡論」を読む(中)『中国に国家なし、戦闘力なし』
2013/07/08 日本リーダー …