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速報(45)『福島原発事故2ヵ月』悲惨を極める原子力発電所事故―終焉に向かう原子力講演①<小出 裕章>

   

速報(45)『福島原発事故2ヵ月、100年廃炉戦争へ①』

悲惨を極める原子力発電所事故―
終焉に向かう原子力講演①
<小出 裕章(こいでひろあき):京都大学・原子炉実験所>

<菅首相は東電に任せるのではなく、国家総動員態勢で放射能阻止、
原子炉廃炉の100年戦争に当たれ>
 
3・11福島原発事故以来、2ヵ月が経過した。チェルノブイリと同じレベル7の最悪の事故の収束の見通は全く見えていない。やっと中の一部の場所に作業員が入れる状態になったが、水素爆発の原因も特定できていない。
燃料プールの状態も少し判明してきたが、建屋の中の状態、原子炉、格納容器の状態などがどうなっているのかも、まだわからない状態だ。中の高濃度の放射能汚染で作業員が入れない状態が続いているためだ。東電が示した工程表は実現の見通はない。

原発事故は核戦争と同じである。核爆発した後の処理をやっているわけで、一旦放出された放射能、放射線物質を回収することは困難であり、チェルノブイリの10分の1、広島型原爆にかん算すると50個分の放射能が排出されたのだ。いまだに福島原発では完全に閉じ込められていないので、風、強風、台風によって放射性物質は大気中にまき散らされており、燃料棒や原子炉を冷やすために放水して放射能汚染水がたまり続けている。
この処理も大変だ。アレヴァ (仏:AREVA SA、Euronext: CEI ) が処理を1手に引き受けているが、1トンの汚染水処理に2億円かかる。合計すると、15、6兆円という国家予算を食いつぶす汚染処理費用となる。

しかも、原子炉の廃炉、水棺、石棺にするにしても、海外の専門家の話では、50年、100年はかかるという途方もない事故なのである。
そして、今回の福島原発の水素爆発はどうして起こったかも、まだまったくわからない状態である。爆発原因がわからなければ技術対策は立てようがない。封じ込めも出来ない。東電の工程も単なる希望的な観測にすぎないことがわかる。
このように一旦破壊された原子炉、燃料棒の処理は大変難しいという話しだが、周辺の避難地域、汚染地域が今後どうなっていくか、住民の健康被害がどうなっていくかはーチェルノブイリのケースを徹底して学ぶ必要がある。その面で、日本の原子力専門家で、早くから原発の危険性と恐るべき被害の実態について警告を鳴らし続けてこられた小出裕章氏の論文が、今後の福島原発処理の対策にとっては必読となる。
以下で、2011年4月29日(金)「終焉に向かう原子力」 第11回~チェルノブイリ原発事故25周年 東海地震の前に浜岡原発を停止させよう~ 明治大学アカデミーホールでの講演のレジメ全文を2回にわけて転載さしていただいた。(前坂俊之)
 
悲惨を極める原子力発電所事故―
終焉に向かう原子力講演
<小出 裕章(こいでひろあき):京都大学・原子炉実験所>
.チェルノブイリ事故から25年  

原子力発電が抱える危険の大きさ

 原子力発電とはウランの核分裂反応で生じるエネルギーで蒸気を発生させ、それでタービンを回す蒸気機関です(図1参照)。蒸気機関であることを取り上げれば、それは 200年前の産業革命で生まれた技術で、原子力発電のエネルギーの利用効率はわずか 33%しかありません。
今日標準的となっている100万kWの原子力発電所は毎日 3kgのウランを核分裂させ、そのうち1kg分だけを電気に変換し2kg分は利用できないまま環境に捨てる装置です。広島の原爆で核分裂したウランは 800gでしたから、1基の原子発電所は毎日広島原爆 4発分のウランを核分裂させていることになります(図2参照)。
そしてウランが核分裂してできるものは核分裂生成物、いわゆる死の灰です。1年間の運転を考えれば、広島原爆がばらまいた死の灰の優に 1000発分を超える死の灰を生み出します。万一であっても、それが環境に放出されるような事故が起きれば、破局的な被害が生じることは当然です。原子力を進めてきた人たちは、死の灰は厳重に閉じ込めて環境に出さないから安全だと主張します。
事実として起きた破局事故

 旧ソ連チェルノブイリ原子力発電所 4号炉が事故を起こしたのは、今から25年前の 1986年4月26日でした。ソ連きっての最新鋭の原子力発電所で、モスクワの赤の広場に立てても安全だといわれていたその原子炉は 1984年の初めから運転を始め、ほぼ丸 2年間順調に発電を続けてきました。初めての定期検査に入ろうとし、出力を徐々に下げていき、完全に停止する直前に突然核暴走事故を起こして爆発してしまいました。
 発電所の所員と駆けつけた消防隊員が燃え盛る原子炉の火を消そうとしてまさに懸命の活動をしました。そして、特に重い被曝をした31人が生きながらミイラになるようにして、短期間のうちに悲惨な死に至りました。

 当初事故を隠そうとしたソ連政府は、すぐに隠しきれない事故であることを理解し、まず周辺 30km圏内の住民 13万 5000人に「 3日分の手荷物を持って迎えのバスに乗るよう」指示を出しました。そして、累積で約 60万人に上る「リクビダートル(清掃人)」と呼ばれた軍人・退役軍人・労働者が事故処理作業に従事しました。3ヶ月後には強度の汚染を受けた土地が原発から 300kmも離れた彼方にもあることが分かり、ソ連政府はさらに 20数万人に及ぶ住民を強制的に避難させました。
 一言で、核分裂生成物、死の灰と呼ぶものの正体は約 200種類に上る放射性核種の集合体です。代表的な放射性核種の一つにセシウム137(Cs-137)がありますが、その Cs-137を尺度にして測ると、チェルノブイリ事故では広島原爆 800発分が放出されました(図2参照)。
広がった汚染と破壊された生活

 放射性物質が環境に放出されれば、それは他の有害物質と同じように風に乗って流れます。チェルノブイリ事故で放出された放射性物質も当時の風に乗ってあちこちに流れ、大地を汚染しました。その結果、「放射線管理区域」に指定しなければならない程の汚染を受けた土地の面積は、チェルノブイリから 700kmの彼方まで及び、その面積は日本の本州の6割に相当する 14万5000km2(東京都の面積は 2188km2、関東地方1都6県合計の面積は3万2424km2)になりました(図3参照)。「放射線管理区域」とは「放射線業務従事者」が仕事上どうしても入らなければならない時だけに限って入る場所です。普通の人々がそれに接する可能性があるのは、病院のX線撮影室くらいしかありません。しかし事故の影響もあり、ソ連は1991年に崩壊してしまい、前項で述べたように、避難させられたのは、特に汚染の激しい地域(15キュリー/km2)の約 40万の人だけでした。

 しかし、40万という人々の数はどれほどのものでしょう?集落の数でいえば、おそらく 1000にも達する村々が忽然と廃墟になってしまいました。放射線管理区域で働く人間の一人として、放射線管理区域内に一般の人々を生活させることを私は到底許せません。ましてや、そこで子どもを産み、育てるなどということは決してしてはならないことです。当然人々を避難させるべきと思います。
しかし、「避難」とは、そこで住んでいた人々をその土地から強制的に追い出すことであり、そうすれば生活自体が崩壊してしまいます。今なお、本来なら放射線管理区域にしなければならない汚染地域に、子どもたちも含め500万を超える人々が生きています。その人たちを避難させるべきだとは思いますが、もしそうすればその人たちを生まれ育った土地から追うことになります。一体どうすればいいのか、私は途方にくれます。
地球被曝

人為的に引かれた国境は放射能の拡散にとってはまったく意味のないものです。チェルノブイリ事故で放出された放射性物質もやすやすと国境を越えて、汚染をソ連国外にも拡げました。私の職場である京都大学原子炉実験所は大阪の南の端にありますが、そこはチェルノブイリから直線距離で約 8100km離れています。いくら原子炉が破壊されたとはいえ、原子炉の中にあった物(放射性物質も物質です)が地球の裏側のようなところまで飛んでくるとは、当初、私は思いませんでした。
しかし、それでは私の仕事が勤まらないので、事故のニュースを知った4月29日から、原子炉実験所で私が毎日吸っている空気中の放射性物質の測定、あるいは雨の中の放射性物質の測定を始めました。測定を始めた当初は私の予想通り、異常な放射性物質は検出できませんでした。しかし、事故が1週間経った5月3日になってついにチェルノブイリからの放射性物質が私の吸っている空気の中に姿を現しました。もちろん、その放射性物質は原子炉実験所だけでなく日本各地で検出されるようになりました。愕然としながら私は測定を続けました。そして、時とともに、空気中の放射性物質の濃度は減って行ってくれ、半月後には約100分の1程度まで減ってくれました。ところが、その後、空気中の放射性物質の濃度は再度増加を示し、 1週間後には10倍近い汚染を示すまでに回復してしまいました。すなわち、一度日本に届いた放射性物質がその後も風に乗って太平洋を越え、アメリカ大陸を汚染し、そして再度ヨーロッパを汚染し、ソ連国内をまた横断して日本まで戻ってきたのでした(図4参照)。
.悲惨な被曝
 
人知を超えて不思議なこと
 この世に不思議なことはいくらでもあります。大きなものに目を向ければ、宇宙があります。私たちが住んでいる地球は太陽を回る一つの惑星です。太陽は銀河系と呼ばれる小宇宙に属する一つの恒星です。銀河 (galaxy)には1億から1兆個もの星が集まっており、その銀河が多数集まって銀河群・銀河団となり、それがまた集まって超銀河団になるというように階層構造が広がり、その総体が宇宙です。そして、宇宙の果てがどこにあるのかも未だによく分かりません。その上、宇宙の実体は実は無数にある星ではなく、ダークマター(暗黒物質)、ブラックホールと呼ばれる正体不明のものが占めているのだそうです。
生き物という不思議
 一方、一番身近なものである私たち自身についても、不思議なことは山ほどあります。今、世界にはおよそ70億人近い人間が住んでいますが、誰一人として同じ人間はいません。それは遺伝子が異なるからです。遺伝子とは個々の細胞の核に含まれている DNA(デオキシリボ核酸、糖と燐酸の分子が並んだ物質)に記録されています。個体としての人間が生まれる一番初めは、父親からの精子と母親からの卵子が合体してできたたった1個の、いわゆる万能細胞です。
その細胞には父親から得た染色体と母親から得た染色体が23個ずつ含まれており、それぞれの染色体はDNAの鎖で作られています。その1個の細胞が分裂して、同じ染色体、つまり同じ遺伝情報を持った2個の細胞になり、それぞれの細胞が分裂して同じ細胞を 2個生じというように細胞分裂を繰り返して行きます。成人の大人は約 60兆個の細胞からなっていますが、それらが持っている遺伝情報はすべて同じです。
しかし、いつしか目の細胞は目に、皮膚の細胞は皮膚に、血液は血液にと、それぞれの役割だけを分担する細胞が分化していきます。みなさんも自分の身体を見てください。手の細胞、爪の細胞、血管が見えるならその細胞、中を流れている血液の細胞、それらを見ている目の細胞、すべては同じ遺伝子を持った細胞ですが、まったく異なる機能をそれぞれが担っています。
放射線が持つ巨大な力

 DNAは二重の螺旋になっており、2本のDNAを繋ぎとめているのはチミン(T)、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)と名付けられた4種類の塩基です。そして、チミンとアデニンがセットになり、グアニンとシトシンがセットになって梯子状に2本の DNAを結び付けています。この梯子状に並んだ T-AとG-Cがどのような並び方で並んでいるかに遺伝情報が記されています。
もちろん、子孫を残す時にもその情報が大切ですし、個体が生きる時にもその情報に従って個々の細胞が機能を果たしています。そして、これら DNAに含まれる糖と燐酸、4つの塩基がお互いに結びつけあっているエネルギーはエレクトロンボルト(eV、電子ボルト)と呼ばれる大変微小なエネルギー単位で測られる程度です。ところが、放射線が持つエネルギーは数百 keV~数MeVという桁のもので、私たちの遺伝情報を記録するためのエネルギーに比べれば、数十万~数百万倍も高いものです。そんなエネルギーを持った放射線が細胞に飛び込んでくれば、遺伝情報はずたずたに切り裂かれてしまいます。

 1999年9月30日、茨城県東海村の核燃料加工工場JCOで「臨界事故」とよばれる事故が起きました。その事故で、大内さんと篠原さんという2人の労働者が大量に被曝しました。それぞれの被曝量は 18グレイ当量(グレイ当量は中性子の急性放射線障害に関する生物学的効果比を1.7として換算した被曝量)と12グレイ当量でした。物体1kg当たり1ジュール(0.24カロリー)のエネルギーを吸収した時の被曝量が1グレイです。被曝する物体が水の場合、1グレイの被曝で水の温度は1000分の0.24上昇します。
人間は、8グレイ被曝すれば100%死亡します。人体も主成分は水ですので、100%の人間が死亡する時に、人体が放射線から受けたエネルギーによって体温は1000分の2しか上昇していません。大内さんも篠原さんも被曝によって得たエネルギーでは1000分の数度しか体温が上がりませんでした。ところが、日本の医学会が総出で治療に当たりながら、彼らは筆舌に尽くしがたい苦悶の内に命を奪われました。被曝から6日目に得られた大内さんの骨髄細胞の顕微鏡写真には、本来あるはずの染色体はなく、写っていたのはばらばらに切断されて散らばった黒い物質でした。彼は自分の身体を再生する能力をまったく失っていたのでした。篠原さんも同じでした。移植を受けた皮膚は鎧のように硬くなり、死後の解剖を行った医師はメスを入れた時に「ザザッ、ザザッ」とかつて聞いたことがない音を聞いたと述べています(1)。
被曝量が少なくても被害はある

 放射線が DNAを含め、分子結合を切断・破壊するという現象は被曝量が多いか少ないかには関係なく起こります。被曝量が多くて、細胞が死んでしまったり、組織の機能が奪われたりすれば火傷嘔吐脱毛、著しい場合にはなどの急性障害が現れます。こうした障害の場合には、被曝量が少なければ症状自体が出ませんし、症状が出る最低の被曝量を「しきい値」と呼びます。ただ、この「しきい値」以下の被曝であっても、分子結合がダメージを受けること自体は避けられず、それが実際に人体に悪影響となって表れることを、人類は原爆被爆者の経験から知ることになりました。

 「ヒバクシャ」というレッテルを貼られたそれらの人々を 60年以上調査してきて、どんなに少ない被曝量であっても、癌や白血病になる確率が高くなることが明らかになってきました。低レベル放射線の生物影響を長年にわたって調べてきた米国科学アカデミーの委員会(BEIR)は、2005年6月 30日、彼らが出してきた一連の報告の7番目の報告(2)を公表しました。その一番大切な結論は以下のものです。
 利用できる生物学的、生物物理学的なデータを総合的に検討した結果、委員会は以下の結論に達した。被曝のリスクは低線量にいたるまで直線的に存在し続け、しきい値はない。最小限の被曝であっても、人類に対して危険を及ぼす可能性がある。
.起きてしまった福島原発事故
 
防げなかった悲劇
 私は 40年間、原発の破局的な事故がいつか起きると警告してきました。その私にしても、今進行中の福島原発事故は悪夢としてしか思えません。
 原発は機械です。機械は時に事故を起こします。その原発を作り動かしているのは人間です。人間は神ではありません。時に誤りを起こします。その上、この世には人智では測ることができない天災もあります。どんなに私たちが事故を起こしたくないと願っても、時に事故が起きてしまうことはやはり覚悟しておかなければいけません。そして問題は、原発とは厖大な危険物を内包している機械であり、最悪の事故が起きてしまえば、被害が破局的になることが避けられないということです。

 放射能汚染地に人が居続けることを私は望みませんが、その地から人々を追い出せば、チェルノブイリ事故で起きたように、今度は生活が崩壊してしまいます。私にはどうすればいいのか分かりませんでしたし、そんな過酷な選択を迫られることがないように、何よりも早く原発そのものを廃絶したいと願ってきました。しかし、その私の願いは届かないまま、福島原発事故は起きてしまいました。
推進派も恐れる巨大事故と保険

 原子力発電所でもし大事故が起きた時にどのような被害を引き起こすかということは、原子力を推進しようとした人たちにとっても深刻な問題でした。特に、原子力を設置しようとする会社にとっては、事故を起こしてしまった時の補償問題をどうするかが決定的に重要でした。世界の原子力開発を牽引してきた米国では、初の原子力発電所の稼働を前にして、原子力発電所の大事故がどのような災害を引き起こすか、原子力委員会 (AEC)が詳細な検討を行いました。その検討結果は、「大型原子力発電所の大事故の理論的可能性と影響」(3)として、1957年 3月に公表されました。この研究では、熱出力 50万 kW(電気出力では約 17万 kW)の原子力発電所が対象にされ、その結論には以下のように記されています。
 「最悪の場合、3400人の死者、4万 3000人の障害者が生まれる」
 「15マイル(24キロメートル)離れた地点で死者が生じうるし、45マイル(72キロメートル)離れた地点でも放射線障害が生じる」 「核分裂生成物による土地の汚染は、最大で 70億ドルの財産損害を生じる」
 70億ドルを当時の為替レート( 1ドル当たり 360円)で換算すれば、 2兆 5000億円です。その年の日本の一般会計歳出合計額は 1兆 2000億円でしかありませんから、原子力発電所の事故がいかに破局的か理解できます。
原子力推進派が取った対策
破局的事故は起こらないことにした
 原子力を推進する人たちも万一破局的な事故が起きた場合、どんな被害が出るか知りたがっています。そのため、原子力開発の一番初めから、破局的事故が起きた場合の被害の評価を繰り返し行ってきました。しかし何度評価を繰り返しても結果は同じでした。もし破局的事故が起きると考えてしまえば、国家財政をすべて投げ出しても購いきれない被害が出ることが分かりました。

 そこで、彼らは破局的事故に「想定不適当事故」なる烙印を押して、破局的事故は無視することにしました。日本で原子力発電所を建設する場合には、原子炉立地審査指針に基づいて災害評価を行うよう定められています。そして、「指針」では、あらかじめ決めておいた重大事故仮想事故について評価を行うよう求めています。重大事故は「技術的見地からみて、最悪の場合には起こるかもしれないと考えられる重大な事故」と定義されていますし、仮想事故は「重大事故を越えるような、技術的見地からは起こるとは考えられない事故」と定義されています。それらの事故では原子炉が溶けてしまい、炉心に溜まっていた放射能が格納容器の中に放出されると仮定されています。
そんな事故になれば格納容器の健全性も破壊され、大量の放射能が環境に漏れる可能性が高いのですが、重大事故や仮想事故ではいかなる場合も格納容器は健全だと仮定されています。そんな仮定をしてしまえば、住民に被害が出ないことは当然です。そして、格納容器が破壊されるような事故は決して起こらないとし、そうした事故を「想定不適当事故」と呼んで無視してしまうことにしたのでした。
 もちろん誰だって原子力発電所の巨大事故など望みません。巨大地震や巨大津波を望まないのと同じです。しかし、どんなに巨大地震や巨大津波が起こらないように望み、仮にそれが起こらないと思い込もうとしたところで、時にそれらの天災はやってきます。
電力会社を破局的事故から免責した

 次に彼らがやったことはどんなに巨大な事故が起きても、電力会社は責任をとらなくてもいいという法律を作ったことです。米国議会[億円]では WASH-740の結果を受け、直ちに原子力発電所大事故時の損害賠償制度が審議され、9月にはプライス・アンダーソン法が成立、1957年12月18日のシッピングポート原子力発電所(電気出力 6万kW)の運転開始を迎えたのでした。
 日本でも、日本原子力産業会議が科学技術庁の委託を受け、WASH-740を真似て、日本で原子力発電所の大事故が起きた場合の損害評価の試算を行いました。その結果は、1960年に「大型原子炉の事故の理論的可能性及び公衆損害に関する試算」としてまとめられましたが、その結果が WASH-740と同様に破局的なものであったため秘密扱いとされてしまいました。それでも、電力会社を原子力開発に引き込むためには、どうしても法的な保護を与えねばならず、大事故時には国家が援助する旨の原子力損害賠償法を1961年に制定したのでした(図5参照)。

 米国の「プライス・アンダーソン法」、日本の「原子力損害賠償法」は、破局的事故時の賠償の上限を定め、それ以上の賠償を電力会社から免責しています(図5参照)。さらに、日本の「原子力損害賠償法」の場合には、「異常に巨大な天災地変又は社会的動乱災」つまり、地震や戦争などの場合にはもともと電力会社は一切の責任を負わないでいいと記されています。誠によくできた法律というべきでしょう。
原発を都会には作らないことにした
 原子炉立地審査指針に基づいて「重大事故」「仮想事故」について評価し、その結果をもとに、立地の適否を判断しますが、その基準は以下のように書かれています。
———————————
 立地条件の適否を判断する際には、(中略)少なくとも次の三条件が満たされていることを確認しなければならない。
 1 原子炉の周囲は、原子炉からある距離の範囲内は非居住区域であること。
 2 原子炉からある距離の範囲内であって、非居住区域の外側の地帯は、低人口地帯であること。
 3 原子炉敷地は、人口密集地帯からある距離だけ離れていること。

———————————
 そして、実際に、原子力発電所は一つの例外もなしに、過疎地に押し付けられました。
 2007年 7月16日に事故を起こした柏崎・刈羽原発(7基、821万 kW)は東京電力の原発ですが、それは新潟県にあり、東北電力の給電範囲です。そして今回事故を起こした福島第1原発(6基、470万 kW)、福島第 2原発(4基、440万 kW)もまた東北電力の給電範囲です。東電は、自分の給電範囲に原発だけは作ることができなかったのでした(図6参照)。関西電力も同じです。 11基(980万 kW)の原発を自分の給電範囲に作ることができず、北陸電力の給電範囲である福井県若狭湾に林立させ、長大な送電線を敷いて、関西圏に電気を送ってきたのでした。
 
 
 

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