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高杉晋吾レポート⑩『滔滔たる利根川を高水数字と難解語が流る、?!八ッ場ダム珍百景「高水論争」』

   

高杉晋吾レポート⑩
 
滔滔たる利根川を高水数字と難解語が流る、?!
八ッ場ダム珍百景「高水論争」
 
 高杉晋吾(フリージャナリスト)
 
皆さん、高杉晋吾です。私は前回皆さんに国民に分からない難解語で語り、裁判をリードするダム反対運動についての批判を紹介しました。
 
なぜ、私が、こういう批判を繰り返すのかということについての説明をします。
この難解語は八ッ場ダム反対運動が住民に理解できなくて、反対運動がやせ細る原因になり、惨憺たる連戦連敗を招く重要な一つの原因になっているからです。
 
難解語を作りだし、地域自治体や、反対運動などに提供してくださるのは八ッ場ダムを作りたいダム開発事業者、土木関連ご用学者、国交省たちです。
難解語は、八ッ場ダムを作りたい側の「高水」という数字をめぐって発生しています。この八ッ場ダム作りの根拠となった高水という「群馬県伊勢崎市八斗島(やったじま)のカスリーン台風時の洪水をめぐる水量の数字」が、八ッ場ダムを作る側の数字的な根拠になっているのです。
 
さてこの難解語を批判する側が、生な難解語を使って反論する光景は奇妙なものではないですか?
此処で難解語のモデルを紹介します。反対運動をリードするまさのあつこ氏が持ち込んだ記事のようです。
 
記者にも分からなかった難解『検証』。分からない話を取材させても分からないままに報道せざるを得ない「むにゃむにゃ記事?」
T新聞2〇11年6月26日記事(抜粋)
八ッ場ダム根拠再計算、学者の検証を市民が検証
セミナーを企画したのは『治水の在り方シフト研究会』。代表はまさのあつこ氏。
(以下、要約・抜粋)日本学術会議分科会は八ッ場ダムの根拠となった利根川の最大流量(基本高水)の再計算を妥当としたが、市民らは疑問があるとして同分科会の検証を検証するセミナーを始める。
 
「検証を検証する柱は国交省が『飽和雨量』を何度も変えたのに、最終的に基本高水がほぼ変わらなかったことだ。飽和雨量は保水力を示す係数で、基本高水を『貯留関数法』で計算する際に使う。一般的に保水力が上がって数字が大きければ、川に流れ出す水の量が減る」
 
此処までの記事を見て普通市民の感覚で、書かれていることが理解できるでしょうかねえ?記者の苦心もわかります。前回私が紹介した6月28日セミナーの難解語の連発「基本高水」「パラメーター」「飽和雨量」「ハイドログラフ」「貯留関数法」の一部がこの記事でもほとんどが生でつかわれている。この記事を持ち込んで説明した反対運動者が、生で説明したのでしょう。記者もそれなりに理解し、記事にするために苦心惨憺したのだろうと思います。
 
熟練した記者でさえ難解語の翻訳はできない
分かりにくい話を市民に分かりやすく書くことに長けている記者でさえ、こんな分からない記事を書かざるを得ないのが国交省や御用学者が作り出す難解語の効用なんです。分かりやすくしたのでは国民に高水の詐術と欺瞞性が分かってしまうから、日本語ではない難解語で国民を欺瞞の泥沼に引きずり込むのです。
 
同記事は、記事全文を紹介したいですが、この暑いさなかに頭が痛くなり熱中症を悪化させてはいけませんから、紹介は、次の文章の紹介にとどめておきましょう。
「国交省が2008年に裁判所に提出した資料では、利根川の上流全域の飽和雨量を48ミリで計算。基本高水を2万2千立方メートルとした。森林の飽和雨量は通常100―150ミリのため、48ミリはかなり小さい。その分基本高水が過大計算されたのではないかという声が上がったが、同省は同じ計算モデルで十分再現性が高い」《05年、河川整備基本方針検討小委員会》等として、検証済みと強調していた」
この霧の中の迷路のような記事は、二つの問題を示しています。
一)反対運動の側の難解用語説明能力の限界を物語っている。
二)このような論争にかかわること自体の誤りを物語っている。
 
どちらにしてもこういう論争が現実に災害にどん底の苦しみを味わっている被災住民にとっては「高級で暇な人びとのふざけた遊び」にしか見えないでしょう。
 
この「高水」は、実は、実際にあった洪水の実測数字ではなくダムを作りたい側の願望による推測です。実際にあった洪水量を計って『これだけの洪水水量をカットするには、これだけの洪水水量を洪水時に一時溜めこむダムを上流に作っておいて水が引いてから、たとえば発電したり治水・利水に使えばよい』という建前上の数字が高水というわけです。
しかし、この数字的な根拠がおかしいというのが一部反対論者による高水論争なわけです。だが地球活動は数字や難解語の遊びではありません。
私の感想としては、どちらの頭にも現実の洪水というイメージはなく、利根川を数字が流れるという感じです。「数字が渦をなして流れ、難解語が押し寄せてくる」というイメージな訳です。
 
高水詐術に引っかかる反対運動は連戦連敗だ
この高水という洪水水量に関する数字は、一般的にいえば既往(過去の歴史上)で最大の洪水水量を記録から拾って、その高水を基礎にするはずです。しかし実際はそうではありません。私も、様々な日本のダムの歴史を調査し、一九八〇年に『日本のダム』(三省堂選書)一九八六年に「水が滅びる」(三一書房)、最近では『谷間の虚構、八ッ場ダム』《一九一〇年三五館》という本を書きましたが、それらの調査では国交省、政界、ゼネコンのダム作りには次の様な詐術が横行していることが分かりました。
 
無かった洪水、実測なし大洪水、事実をいえば首が飛ぶ役所・マスコミ、好き勝手に作られる高水、
この正体暴露こそ明らかに
「高水の根拠は、既往最大どころか、測定していないのに、でたらめな数字をでっちあげて『高水』を作りだす。」
「お役所の担当部門、マスコミ記者などが、実測などによる本当の洪水の事実を提起するとその人間を追放する」
「既往最大の洪水その物が存在しない」
 
「測定したという二〇社の「測定業者によってほぼ二〇通りの『高水』が作り出される」
その他無数の〔高水詐術とでっち上げ陰謀〕が横行していました。
つまり私の調査でも、高水や、それによるダムの規模は実際に起こるであろう洪水に対する治水を図る根拠を元にして作られるものでは全くないことを明らかになっていました。
だからダムの規模などはでっち上げでしかない。
 
実際にダムを作ったら洪水をなくすどころか、ダムにせき止められた河川の岩石や砂礫によって十数キロ上流にまでどんどん堆積が上がり、河床が上昇し、今までにない大洪水が大発生し、住民は死に、地域は崩壊するのです。
高水論によって作り出されたダムは、人びとを苦しめ、地域を滅ぼしてきました。そういうわけで、この詐術の数字に対して、その数字は間違っている等というのは変な話ではありませんか?
 
前回も申し上げましたが、「この詐術の数字が間違っている」というのなら『正しい詐術の数字』があるということにしかなりません。高水の数字論争は「高水論の論拠も根本が間違っているから相手にしない」「高水論を作りだす現実の姿を暴露する」で済む話です。
高水論の間違いを克服したら勝利した実例は多いのです。川辺川ダムも、近畿の大戸川ダム、槇尾川ダムの勝利も「高水論争自体が間違っているから相手にしない」という態度で、ダム被害市民、農民、漁民に依拠して戦いぬいて行政を動かし、裁判所をやりこめて勝利したのです。
 
そうでないと高水論争を反対運動に対する猫じゃらしとして出してくる国交省、建設業界、政治屋どもによって果てしない猫じゃらしの猫にされてしまっている果てしのない連敗の泥沼から抜け出せません。
 
ダムを作って儲けたいダム事業屋さん、建設業者がダム建設によって大儲けすることができる金額とダムの規模をまとめて「高水」を作りだし、結論は地球が大災害という形で出してしまう、というわけです。
数字遊びの猫じゃらしで遊んでいると、地球が大災害で現実を明らかにしてしまいます。
なお前回の原稿は嶋津暉之氏に送っておきました。御意見を聞かせてくださいと書いておきましたが返事はまだありません。皆さんも期待してください。
6月26日の講演者関良基さんから私の批判に対して、極めて丁重な釈明文が寄せられました。紹介させていただきます。
 
高杉様、前坂様 
 日ごろのご活躍に敬意を払います。この記事で批判されている関良基です。集会の趣旨をご理解していただけなくて残念でした。「エリートの自己身分保障語」。このような事は断じて思っておりません。

 難解用語は、国交省が住民・市民をケムに巻くため、まさに「高い視点から見下ろすように、常態的に使っているものです。市民には理解できない言葉と計算で彼らはダムを正当化します。しかし、その難解用語と計算も一皮むけばウソだらけの詐欺でした。彼らの犯罪を立証するには、こちらも仕方なく彼らの土俵に立って彼らの用語を用い、その虚構を暴くという手順が必要になります。消し去るために、暫定的に相手の土俵に立たざるを得ません。

 国は現行の河川法に基づいて貯留関数法と基本高水を駆使してダムを造り続けようとします。それを拒否し、河川法を改正し、貯留関数法と基本高水のない治水を目指すためには、その虚構を暴き、誰もが「ああ、こんなインチキやって、河川の憲法なんて言って押しつけていたんだ。こんなインチキな数値に縛られる必要はないんだ」というコンセンサスを社会的なものにせねばなりません。

 私も、「基本高水」のない治水、「貯留関数法」によるゴマカシのない治水を目指しています。虚構の数値を満たすために延々とダムを造りつづけるという現行の「定量治水」ではなく、どのような洪水が来ても被害を最小化する減災の哲学に基づく治水を目指すべきだと思います。そうした点で、高杉さんと立場を同じくすると思います。
 このようなことを書かれて、大変に残念に思います。

 コンクリート防災の限界に関しては、私も自分のブログでたびたび書いてきました。たとえば以下の記事をご参照ください。

http://blog.goo.ne.jp/reforestation/e/1796558429bf4a45b9df5cc88a99d7c9

 
 
この関さんの趣旨は私としてのかなり納得のいく御見解だと思います。
 
しかし、この見解を以てしても、「高水論争」が運動を迷路に誘うという事実については否定できません。問題は論争の数字に対して災害にあった人間と、事実を以て答えようろしない反対運動の数字と難解語の連用による反論の姿勢が問われているからです。
事実を以て戦うのが私の見解です。数字好きのリーダーの遊びに付き合っていると誤りを拡大するだけです。
 

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