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地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

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『Z世代ための異文化コミュニケーション論の難しさ①』★『日本を開国に向けた生麦事件の発生、その結果起きた薩英戦争を19世紀の「植民地大帝国」の英国議会ではどう論議されたか①ー <英国「タイムズ」文久3年(1863)7月22日の報道、英国民主主義の凄さ>

   

   『リーダーシップの日本近現代史』(143)の記事再録

  

  『日本世界史(グローバル・異文化・外交コミュ二ケーション史)』<日本の現代史(明治維新からの明治、大正、昭和、平成150年)は日本の新聞を読むよりも、外国紙を読む方がよくわかる>

<英国「タイムズ」文久3年(1863)7月22日の報道>

①  この記事は19,20世紀にパックスブリタニカで世界の覇権を握ったイギリスの帝国主義、植民地主義的行動パターンを考えるうえで大変参考になる。

②  19世紀のイギリスはアジア、中近東、アフリカに進出して「世界帝国」を築いたが、その過程は対外戦争、侵略地支配の繰り返しである。物資の獲得、貿易を目指して世界に進出して異民族、異文化と接触すると、摩擦、衝突、対立が生じて、殺戮、戦争に発展する。

③  その面では、海賊のイギリスが「7つの海」を支配し世界帝国の確立のプロセスは海軍力の進出、対外戦争の歴史であり、一方「ユーラシア大陸」の北の巨熊・ロシアがヨーロッパから中央アジア、シベリア、樺太、満州までを侵略して、イギリスに対抗して日露戦争に発展したロシアの帝国主義・植民地主義も同じものである。

④  150年前の生麦事件、薩英戦争は日本の最初の対外戦争である。台湾戦争、日清戦争(明治37)などよりよほど前である。薩摩藩の参勤交代の大名行列の前を乗馬した英国人らが横切って、斬り殺されたという「異文化衝突」の事件であり、この賠償金と犯人の処罰を巡って、薩英戦争に発展する。

⑤  この英国議会での論議を読むと、まず世界に先駆けの民主主義・英国議会の情報公開による議員の知的レベルの高さと、英国の紳士道、自由闊達な意見交換と、合理的な判断力、その底にあるイギリス民主主義の土台のすごさを痛感する。

⑥  150年後の今の日本の国会での日本の対外紛争の論議(対中国、北朝鮮などの)比較しても、これだけのレベルであるのかどうか。日本の政治は政治家は本当に成熟しているのか。国民も同じだが・・

⑦  それにつけても、日本の国会レベルの論議で比較すると、いまから76年まえの日中戦争(1936年、昭和12年―この時、いまでも論争の続く南京事件も起きた)で斉藤隆夫議員が「聖戦とはなんぞや」としっもんして、議員を除名されたのと比較しても、150年前のイギリス議会での「ジャパンプロブレム」の論議は、いまのTPP参加問題などと比べても非常に興味深い。

<イギリス下院 721日火曜日>

B・コクラン氏は前もって通知していた動議を提出し,以下のように述べた。日本との関係についてなんの意見も表明せずに議会が散会するのは甚だ不適当と思われる。

わが国が日本と実際に交戦していないからといって,将来戦争は起こりそうもないと言うわけにはいかない。いったいわが国の役人に,日本に敵対行為をとる正当な理由があるのか.しかも本国からの指示なしに宣戦布告することが許されているのかどうかについて.責任当局の意見を聞きたい。

日本との関係については,コッカーマウス選出の議員閣下が.中国についてのりっぱで包括的な演説を行った際,もうそのことについて話しているので,それ以上にさかのぼる必要はない。1853年,アメリカが日本と条約を締結し,1854年にはスターリング提督が日本から同様の譲歩を得た。

だが1858年エルギン卿が日本を訪れるまでは.これはあまり効果のないものだった。スターリング提督が受け入れた条件の1つに,軍艦は江戸から一定の距離以内に停泊してはならないというものがあったが,エルギン卿はこれを破った。大君にヨットを献上するからというのがその口実だったが,大君への贈物としては,それはいとも妙なものだった。なぜなら大君は年に1度天皇を訪問する以外は,住居でもあり牢獄でもあり墓場でもあるその居城から1歩も出ないからだ。スルタンがローマ法皇に妻を献上するのと同じようなものだ。

日本の政府は一風変わっている。天皇が精神界の支配者であり.大君は俗世の支配者である。そしてこの2人を支配し,ほぼ無視しているといってもいいのが,大名という貴族階級である。そしてわれわれがその大名たちになんらかの影響を及ぼさない限り.条約はほとんど効力を発揮しないだろう。

エルギン卿は,日本の大評議会や高官が「200年前外国人を追放して以来.わが国民は非常に幸福に暮らしてきた。われわれは外国の商人や宣教師を信用していない。なぜなら外国人が入ってくると必ず戦争や略奪が起きるからだ」と抗議したにもかかわらず,通商条約署名に固執した。

日本人というのは強制,説得あるいは誘惑にはなかなか乗っそこない。というのは,日本人が言うのに「ハムやシャンパンのにおいが強い民族と条約を締結してごらん,その履行がうまくゆかぬと彼らが見てとれば,次には戦争をしかけてくるに決まっている」からである。

日本人は何か野蛮人の仲間のように言われているが,サー・R・オールコック,オリファント氏や,日本人について書き記している人はだれもが,日本人は高度の文明を持つ国民だと述べている。

サー・R・オールコックは大名の権力と地位についてこう述べている。大名行列の壮観さやその権力のしるしをまのあたりにすると,まるで16世紀か17世紀のヨーロッパへ迷い込んだかと思うばかりだと。彼が日本に着任したとき,人々は条約実施を決していやがってはいなかった。彼らは狭量でも暴力的でもなく,むしろその全く逆で.イギリス人に乱暴を働くこともなかった。

サー・R・オールコックはヨーロッパ人が1度も訪れたことのない村をいくつも通り過ぎ聖なる山へ旅をしたのだが,彼は公文書の中で,人々の親切さや善良な性質,そして人々の間で秩序が困難なく守られていることを立証している。もしわれわれが通商のために,その国民の願いに逆らい.むりやりある国に乗り込もうとするなら,われわれの意図の最良の実施方法についてその国民の助言を取り上げるのが賢明だろう。

サー・R・オールコックが日本に赴任したとき,外国人居留地が神奈川にではなく槙浜に建設されているところだった。ところで,現在日本との間に生じている困難な状態の打開についてどういう方針をとるべきだろうか。われわれが日

本政和こ求めたおもな賠償要求は,イギリス人1人が殺されたある事件,つまり有力大名の1人薩摩侯の随員と,遠乗りに出かけたイギリス人一行との遭遇から生じたものだ。(生麦事件のこと)

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%9F%E9%BA%A6%E4%BA%8B%E4%BB%B6

しかしながら.われわれは予想される事態について警告を受けていたということを忘れてはならない。

サー・R・オールコックは,日本政府が戦わなければならない障害の存在を認めていた。彼は,さらに条約が日本人の間で不人気なことを認めた。この条約をむりやり押しつけられた日本人に,いったいなんの過失があるというのか。日本人は聡明な国民であり,イギリス政府にその問題を考慮するよう強く促している。そして私は実を言うと,これら日本人のわが国の善意への呼びかけ壷読みとると,われわれがかの国民に対して行ったやり方を恥ずかしく思う。

サー・R・オールコックが指摘しているように,日本人は自由な通商を許すことで,自分たちの国の伝統を180度転換せねばならず.それ以来困難と危険のみが生じた。われわれが日本にもたらそうと願った文明とは,そういうものだったのだろうか?

しかしサー・R・オールコックの公文書のほとんどが.私が議会に提出しようとしている意見の正当性を保証している。1859年11月23日付の文書の中でサー・R・オールコックは次のように述べている。

 

「閣下に既にお知らせいたしましたように,どう見ても,日本政府が外国との条約,貿易,関係をまぎれもない悪そのものとみなしていると信ずべき節があります。時と経験の積重ねにより人々の感情や願いがどこまで変化するのかという問題は.ここではふれません。しかし,現在の情勢や支配階級の外国人との交流に対する明白な反感-これはほうぽうの港で,特に首都のすぐ近くの神奈川で多くの外国人の分別やけじめのない行動から引き起こされたもので,実にもっともと思われます-実を言うと.われわれの将来にはあまり望みがあるようには思えないのです」。

ところでオリファント氏は.わが国が日本政府に条約を押しつけたことを認めている。そして高度の文明を持っ民と自慢しているわれわれが日本人に通商を押しつけたとしたら,日本に出かけていったイギリス人がちゃんとした振舞をするよう,われわれは気をつける義務があると思う。(謹聴,謹聴の声)

日本在住の商人たちの中にはりっぱな人物もたくさんおり,ややひどい目に遭ったモス氏もその1人だが,非難を免れないような行動をする人々がいると言わざるをえないのは残念だ。われわれが戦争を始めることになったり,所得税を来年度に1ポンドにつき2ペンスまたは3ペンス多く払うことになるのは,こういう紳士たちのおかげである。

というのは,もしひとたび日本と戦争を始めれば.間違いなくぼう大な 費用がかかることになるが,それは議会も認めざるをえない。私は今ここに,サー・R・オールコックが述べた通貨間題についての書類を持っている。

 「終わりに,外国人の金貨持出しに対して日本政府が見せている怒りや不安を静めるために,われわれはあらゆる努力を払うべきだということを付け加えたい。

250年前,日本にスペイン人とポルトガル人を完全追放させ,以来西洋諸国に対し鎖国政策を守り濁声せた,宗教上の反目や侵害などより.この問題のほうが重大だと私は信じている。われわれは今.自分たちの当座の利益さえ得られれば,後はどうなってもかまわないという人たちによって,同じ危険にさらされているのだ。しかし,一部の者たちに,このように両国関係を危うくさせたり.国家の永久的な利益を損ねさせたりしないようにするのが,すべての外国代の仕事であり義務である

むりやり押しつけられた条件のもとで貿易が行わられら,そんな貿易はないはうがよい。、 そして反感と衝突のあげく,戦争の危険しか生まれないような関係を持っぐらいなら,交流などしないほうがましだ」

 

日本人は貨幣の流通をやめる理由を作ろうとし,これ以上両替ができなくなることを期待し.実際に大君の居城をやき払おうとまでしたのだ。オールコック氏は.イギリス商人と思われる人々によって日本の財務局【運上所】に出された要求について次のように述べている。

「疑いもない事実だが,しばしば恐喝と暴力をもって,日本人に対し押し付けられる常軌を逸した要求,申請者がドルでは作り出せないばかりでなく,長々と書き連ねた数字以外では表示できない.しかも一生かかってもそれに対応する1分銀を数え切れないような金額を目の前にしてみると,その要求書類の多くを特徴づけている下品な軽薄さと下劣な趣味あるいは条約の諸条件や国家の利益または等しく表される評判の完全な無視,そのいずれが最も非難されてしかるべきなのかは断定しがたい。

しかしいくつかは,イギリス人という名前を持つ者,または,失うに足るほどの人格を持つ者にとって,疑いもなく恥辱となるものだ」

 - 人物研究, 戦争報道, 現代史研究

Comment

  1. 前澤 猛 より:

    実に貴重な資料です。そしてこれが2世紀も前の英国での言辞だというのには、驚きました。
    <大君にヨットを献上するからというのがその口実だったが…大君は年に1度天皇を訪問する以外は,住居でもあり牢獄でもあり墓場でもあるその居城から1歩も出ないからだ。スルタンがローマ法皇に妻を献上するのと同じようなものだ>は苦笑です。
    以下は、別件です。読売OBOGの月刊同人誌「萃点」というのがあり、小生が「冤罪の深層」を連載中です。その11月号に貴兄の旧著「冤罪と誤判」の「序」の初めの部分「冤罪の原因は警察の人権無視の捜査だけによるものではないし…まさしく『構造冤罪』なのである」を紹介させていただきました。遅ればせながら、お許しをお願いします。

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