イラク戦争報道・米テレビはFOX がCNN に勝つ
1
イラク戦争報道・米テレビはFOX がCNN に勝つ <2003,3>
米英軍によるイラク攻撃の19 日(米東部時間)開始に伴い、米テレビ局も報道合戦
に突入した。ケーブルテレビ(CATV)ニュース専門局の視聴率争いではFOX ニュー
ス・チャンネルが先行、CNN は出遅れた。
米4 大ネットとニュース専門局は19 日午前11 時のラムズフェルド国防長官の状況
説明を皮切りに通常番組をCM 抜きの特番に差し替え、戦争報道態勢に入った。
ニュース専門局の視聴者数は急増、ニールセン・メディア・リサーチによると、19 日午
前9 時半から20 日午前零時までの平均視聴者数はFOXニュース710 万人、CNN660
万人、MSNBC340 万人に上り、FOX がCNN を上回った。
ニュース専門局への視聴者の関心はその後も高く、開戦後最初の日曜日となった23
日のプライムタイムの平均視聴者数はFOX ニュースが580 万人、CNN470 万人、
MSNBC250 万人だった。
FOX ニュース、CNN の取材団はバクダッドから追放され、フリーランス記者に依存し
ているのに対して、MSNBC だけは当初、湾岸戦争時にCNN 特派員として開戦をいち
早く報じたピーター・アーネット氏がドキュメンタリー番組取材班の一員としてバグダッ
ドに残り、MSNBC、NBC 向けに現地報告を送っていた。
一時は視聴率争いでMSNBC の躍進が期待されていたが、同氏が3 月30 日(イラク
時間)、イラク国営テレビのインタビューで「米国のイラク攻撃は失敗した」との趣旨の
発言をしたことで米国内世論の反発を買い、解雇された。
同氏はその後、英タブロイド紙デイリー・ミラー紙と契約、4 月1 日付同紙にコラムを掲
載している。
ネットワークの報道番組も高い視聴者数を獲得、戦争が始まった週のNBC の看板
ニュース番組「NBC ナイトリー・ニューズ」の平均視聴者数は1320 万人となり、2000
年11 月の米大統領選以来の視聴者数を記録した。
ニールセンによれば、テレビ全体の視聴率も上昇、同週のプライムタイム視聴率はそ
れに先立つ4 週間の視聴率を約4 ポイント上回った。
2
一方、イラク戦争報道をめぐっては、中東の衛星放送局アルジャジーラがニューヨー
ク証券取引所(NYSE)の取材から締め出された。NYSE はその理由として、同証取内
での取材を、経済ニュースを中心に伝える放送局に制限しているためで、アルジャジ
ーラのイラク戦報道内容が理由ではないと説明している。これに先立ち、米軍当局者
は米兵捕虜の様子を伝えたアルジャジーラの報道姿勢を非難していた。(以上は『民
間放送』4 月3日付)
(2)『新聞通信調査会報』(2003,6,1)で,放送評論家・大森幸男氏は『急成長の
FOX テレビ』としてイラク戦争では「”陰の勝利者″はFOX グループ」であった、と次の
ように書いている。
イラク戦争報道でFOX テレビが際立った政権よりの放送
「イラク戦争が終わって、マスコミ界の一部には「アメリカで、ジャーナリズムは死ん
だ」という声が出ている。比ゆ的な論議の一つには違いないが、「”陰の勝利者″は
FOX グループ」と言われるほど、政府寄りのこのグループが報道合戦で勝利したから
である。
24 時間ニュース専門ケーブル局「FOX ニュース」は開戦後あっという間に、ライバル
局「CNN ニュース」を抜き去った。一週間の視聴者数一日平均四百四十万人はCNN
を七十万人上回った。
愛国心をあおり、かき立て、一貫して米軍の戦いを熱く賛美して「流すのはニュースで
なくてオピニオン」 (米メディア監視団体FAIR)とまで言われた。〝米政権のチアリー
ダー〟と皮肉られても意に介せず、戦争に反対したフランスを徹底的に批判し、戦後
の復興・再建についても「動きが鈍くて、古い国連」とこき下ろす始末。
地上波のFOX テレビも同じこと。際立った娯楽路線でブルーカラー層を取り込み、
NBC、CBS、ABC 三大ネットワークに並ぶ〝四大ネット″にまで急成長しているのだ
が、この戦争に関しては「テレビに娯楽だけを求める層を〝米国応援団″に仕立て
た」とされる。
そして、フセイン像引き倒しのシーンを「これを見てブッシュ政権の人たちは喜んだこ
とでしょう」とコメントしたABC を視聴率で抜き、三大ネットの一角を崩している。
3
政府方針との車の両輪。コマーシャリズムがジャーナリズムを圧倒するあざとさはそ
れとして、そういう印象が土壇場で露呈するお国ぶりなのだろう。これを見てケーブル
局も地上波局も、政権寄りの発言をしそうなキャスターの獲得に動き始めている、と
共同電は伝える (4・29新聞協会報)。
FOX グループは「世界のメディア王」とも「メディア商人」とも呼ばれるルパート・マー
ドック氏率いる豪ニューズ・コーポレーションが握る。一九一五年にハンガリー出身の
ウィリアム・フォックスが設立した映画会社がルーツ。八〇年代にコーポレーションの
傘下に入り、まず地上波のFOX テレビが三大ネットワークに追いすがって「四大ネッ
ト」にまで急成長。
そして九六年にはケーブル局「FOX ニュース」が創設され、前記したようにCNN と肩を
並べた。エロ・グロ路線のテレビ。政権寄りそのものでブッシュ大統領の七〇%を超え
る支持率に貢献したニュース局。
結果的に〝FOX 効果〟は否定しようもない。ニューズ・コーポレーションは4月8日、
米衛星放送最大手のディレクTV の親会社ヒューズの買収に成功したと発表した。マ
ードック氏は会長に就任する。とどまるところを知らない商魂。この人が日本で〝日本
版ディレクTV〟に失敗したことは、幸いだったかもしれない」と。
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡ ≡
戦争中も反戦の声伝えよ・英BBC が記者に報道指針 (3 月11 日)
七日付の英紙タイムズによると、英BBCは米英軍などによるイラク攻撃の報道に際し
「反戦意見、行動を国内外の現実として報道に反映させる」との指針をまとめ、記者に
周知した。
指針は、軍から提供されたスマート爆弾命中などの映像について「それだけで作戦全
般の成果を評価するのは通常不可能であり、軍が(爆弾の性能誇示など)目的があ
って映像を選択したことを視聴者に説明することが賢明だ」と注意深い扱いを指示し
た。
政府が説明した戦況などは「信頼できるかどうかを審査」し、政府が納得できる理由
なしに特定の情報を報道しないよう求めた時は「報道の是非はわれわれが決める」と
明記。
4
大量破壊兵器が使われたとの報道は、無用のパニックを防ぐため十分な確認を前提
とし、うわさ段階では決して大騒ぎしないことも定めた。
BBC の報道責任者は「国民世論は(戦争の是非で)大きく分かれており、客観的な
立場からいろいろな意見を報道に反映させる」と指針の目的を語った。
一方、与党労働党のリード幹事長は「イラクにいるBBC の記者がフセイン独裁政権の
報道統制を受けていることも明示すべきだ」と述べ、英政府批判に偏らないようBBC
をけん制した。 (以上は『日本新聞協会報』2003,3,11)
関連記事
-
-
『Z世代のための<憲政の神様・尾崎咢堂の語る「対中国・韓国論⑤」の講義⑬』★『日中韓150年対立・戦争史ー尾崎行雄の「支那(中国)滅亡論(下)」(1901年(明治34)11月「中央公論」掲載)『清国に政治的能力なし。なぜ税関の役人はすべて外国人か、日本人なのか?中国人はいない不思議の国?』
2013/07/12   …
-
-
『リーダーシップの日本近現代史』(129)/記事再録★『日野原重明先生(105歳)』★『92歳の時の毎日の生活ぶりだが、そのエネルギーと分刻みの緻密なスケジュールと仕事ぶりはまさに超人的!
2018/01/22   …
-
-
日本メルトダウン( 967)『東京五輪、反対してもいいですか?「やめる」を納得させる5つの理由』●『「悲惨なアメリカ」を証明した、二つの衝撃レポートの中身 大統領選の行方にも影響アリ?』●『ドゥテルテ大統領来日で再確認!アジア外交の主役はやはり日本だ 中国はこの接近に焦っている』●『 スマホが子どもにもたらす「隠された3つの弊害」』●『ウェブメディアの「検索回帰」が始まったワケーSNSのアルゴリズム変更に高まる不信感』●『ネットニュースの虚実に迫れるか 「Google News」に「ファクトチェック」タグ導入』
日本メルトダウン( 967) 東京五輪、反対してもいいですか? …
-
-
『Z世代へのための<日本史最大の英雄・西郷隆盛を理解する方法論>の講義⑳』★『「敬天愛人」民主的革命家としての「西郷隆盛」論(<中野正剛(「戦時宰相論」の講演録より>)』★『西南戦争では1万5千中、9千人の子弟が枕を並べて殉死した天下の壮観(中野正剛)』
2014/01/15   …
-
-
池田龍夫のマスコミ時評(113)従軍慰安婦問題、いぜん続く日本・韓国の対立を憂える(6/27)
池田龍夫のマスコミ時評(113) &nb …
-
-
『Z世代のための日中関係/復習講座』★『現代中国の発端となった辛亥革命(1911)で国父・孫文を全面的に支援した犬養毅、宮崎滔天、秋山定輔、梅屋庄吉』★『東京で中国革命同盟会が発足』
2010/06/25   …
-
-
池田龍夫のマスコミ時評(66)●「IPS細胞移植、臨床応用」の大誤報(10・14)●「復興予算」の勝手な流用は許せない(10・13)
池田龍夫のマスコミ時評(66) ●「IPS細胞移植、 …
-
-
池田龍夫のマスコミ時評(33) 「原発依存」社会から決別を–東日本大震災で崩壊した〝安全神話〟
池田龍夫のマスコミ時評(33) 「原発依存」社会から決別をR …
-
-
日本リーダーパワー史(839)(人気記事再録)-『権力対メディアの仁義なき戦い』★『5・15事件で敢然とテロを批判した 勇気あるジャーナリスト・菊竹六鼓から学ぶ②』★『菅官房長官を狼狽させた東京新聞女性記者/望月衣塑子氏の“質問力”(動画20分)』★『ペットドック新聞記者多数の中で痛快ウオッチドック記者出現!
日本リーダーパワー史(95) 5・15事件で敢然とテロを批判した 菊竹六鼓から学 …
-
-
戦うジャーナリスト列伝・菊竹六鼓(淳)『日本ジャーナリズムの光、リベラリストであり、ヒューマニストであった稀有の記者』★『明治末期から一貫した公娼廃止論、試験全廃論など、今から見ても非常に進歩的、先駆的な言論の数々』
日本ジャーナリズムの光、リベラリストであり、ヒューマニストであった …
- PREV
- 正木ひろしの思想と行動('03.03)
- NEXT
- 「センテナリアン」の研究