前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

日本リーダーパワー史(180)<国難突破力ナンバーワン・出光佐三を見習う②>『石油メジャーに逆転勝利』

   

 日本リーダーパワー史(180)
 
<国難突破力ナンバーワン・出光佐三を見習う②>
石油メジャーに逆転勝利した最強のリーダーシップ』

                      前坂 俊之(ジャーナリスト)
 
 
 
2008,9年と石油価格の暴騰が世界経済を直撃したが、日本にとって忘れられない歴史的事件があった。日本国際ビジネス戦争史上で初めてといってよい痛快な勝利である。
 
昭和28年(1953)5月9日、出光興産(出光佐三社長)の日章丸二世(1万9千トン)がイランからの石油を満載して川崎港に帰港し世界をアッといわせた。
 
当時、石油争奪戦争が勃発していた。世界有数の産油国イランは1951年(昭和26)に突然、『石油国有化法』を議会で可決、イラン石油の全権を握る英国アングロイラ二アン社(BPの前身)を一方的に接収して国際紛争に発展した。
怒った英国はペルシャ湾に海軍の艦隊を派遣、イラン石油の売買は盗品にあたるとして、買い付けにきた外国タンカーは撃沈するとの声明を出して、海上監視を強化していた。これに引っかかったイタリア、スイス共同資本のタンカーはアラビア海で英海軍に拿捕され国際紛争に発展していた。
 
世界の石油業界は今もそうだが、欧米の国際石油資本(メジャー)が市場を国際カルテルを結んで独占していた。独立系の民族資本・出光興産は「消費者に安いガソリンを提供する」を企業理念に掲げて、長年メジャーと闘争を続けてきた。一方、イランは産出国として初めて巨大メジャーに挑戦して各国に売却を呼びかけてきたが、英国の報復を恐れてどこも手を出すものはなかった。こうした事態に石油界の反逆児・出光は一挙に勝負に出たのだ。イランと極秘に交渉し、世界有数の大型タンカー『日章丸』を船員には一切行き先を告げずに秘密裏に派遣した。
 
発見されれば撃沈か、さもなければ拿捕か、浮遊機雷に接触する危険性もある。こうした二重三重の危機をすり抜けながら決死的な航海で「日章丸」はイランアバタン港に入港し、イラン全国民の熱狂的な歓迎を受けた。
 
石油を満載して帰途に着き、今度は英国の反撃をかいくぐって奇跡的に日本に帰港した。英ア社は日章丸の積荷の所有権を主張して、東京地裁に提訴したが、出光は「日本国民として腑仰(ふぎょう)天地に愧じない行動をいたします」と証言し、裁判は出水側の全面勝訴となった。
 
大国イギリスを相手に国際正義にのっとった出光の行動は、米占領からやっと独立したばかりの日本人に大きな感動と勇気を与え、出光は一踵国際的な経営者として脚光を浴びた。
 
出光佐三は明治18(1885)年8月、福岡県宗像市に生まれた。同42年、神戸高商(現・神戸大)を卒業、従業員3人の石油販売店にテッチ奉公に入り、友人たちから「学校の面よごしめ」と批判された。このスタートからして、出光の面目躍如たるものがある。25歳で出光商会を設立、人の意表をつく奇想天外の行動でのし上がっていった。
 
大正初めにいち早く満州に進出、満鉄に不凍油を納入して成功をおさめ、独自の潤滑油や搬械油を飼発してメジャーを抑えて地位を築き、満州、朝鮮、台湾までの幅広い海外市場を押さえた。しかし、敗戦によって、海外資産を一挙に失った。この時、出光は還暦60歳である。 出光は、終戦の二日後に不安と途方にくれる従業員に対して「愚痴をいうな。世界無比の三千年の歴史を見直せ。そして今から建設にかかれ」と訓示し、従業員は「一人たりとも首を切らない」と宣言した。
 
中国や海外から千人以上の従業員が次々に引き揚げてきて、巷には失業者があふれ、出光興産にも全く仕事がない。出光はビクともせず「まだ仕事は見つからないが、人間しばらく眠る時間も必要、各地に待機して活眼を開いて眠っておれ」と訓示した。
 
その後、難局を突破して、出光興産は再び、日本を代表する民族系石油会社に発展していくが、「首切りなし」「定年なし」「出勤簿なし」という破天荒な「人間尊重」「大家族主義」「独立自治」「黄金の奴隷たるなかれ」「生産者より消費者へ」を実践しし大企業なのに、株式も上場せず、労働組合もないーなどやることなすこと、「日本一の異色企業」となった。

出光は〝昭和の紀伊国屋文左衛門″、石油業界の異端児、ユダヤ商人、石油王、横紙破りなど、さまざまなレッテルを貼られた。また、出光は95才まで生涯現役で活躍した長寿経営者でもある。

 
彼ほど一貫して日本人としての誇りと信念を持ちつづけた経営者はない。回りがヘキヘキするほどの強烈な日本主義、天皇主義者である。しかし、明治初期の生れの人たちは大なり小なり、似たようなものである。
 
昭和30年以降生まれの人たちには出光の実践は全く理解を超えた発想と行動力だが、「100万人ともわれ行くかん」と実践してきたその信念と行動力と成功してきた経営実績は近代経営史でも例のない破天荒のものである。
 
日本的経営なるものが、大半は英米ビジネスモデルのコピーだが、出光の『人間尊重』経営はその対極にある、唯一のジャパンビジネスモデル。「和を以って尊としする」日本式経営モデルの極致といえるだろう。
  
 
その出光佐三の独創力はどこからきたのか。出光は子供のころから病弱で、とくに目が悪かった。年をとるとともに悪化し、視力は〇・〇一ほどで、ご飯のおかずも懐中電灯で照らし、眼鏡をかけた目をくっつけて見て、やっと見えるほどの弱視状態。それでも出光は悲観せず、「日がよく見えないから、オレはよく考える。だから、独創的なのだ」と豪語していた。
 
「金の奴隷となるな」が口癖で、出光が一番好きな言葉が「逆境にあって楽観し、順境にあって悲観せよ」「金の奴隷となるな、人問がしっかりしておれば、金は自然に集まってくる。」
 
 
 逆境にいて、楽観せよ
 
 人間主義を唱え、「金の奴隷となるな、人間がしっかりしておれば、金は自然に集まる」という出光の、もう一つのモットーが 「逆境にいて、楽観せよ」 である。出光はこの言葉が大好きで、「悪い時にへトへトになるな。これを突き抜ければ、あとはいいぞとガンバる。逆境に屈せず、楽観してガンぼるんです。小さな水溜りにでも風が吹けば波が立つんです。波のない世の中なんかありえますか」と言う。
 
一見、大時代的に思える出光の人間主義と努めて苦難にぶつかって克服していく主義は石油メジャーに対抗して、独自の道を模索しながら、巨大な地歩をいた出光の発展の歴史に刻まれている。不景気大いに結構、苦労するほど人間が立派になるし、人間の呼吸がわかってくる。大きく行き詰まれば、大きく道は開かれる。
 
「世の中の中心は人間ですよ。金や物じゃない。その人間というものはね。苦労して鍛えられてはじめて人間になるんです」とあくまで出光は苦労を歓迎するのである。
 
 
 
 
 

 - 現代史研究 , , , , , , , ,

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
『地球環境大異変の時代④』/『日本災害列島から地球全体に例外なく気象大変動が毎年襲ってくる「世界大災害時代」へ』★『 「ハリケーン・フローレンス」米ノースカロライナ州に上陸』

  『地球環境大異変の時代へ④』 先週、日本は国家的危機(カントリーリ …

no image
 世界も日本もメルトダウン(961)★『アメリカの衰退を示す、史上最低の米大統領選挙』ー『米共和党、トランプ氏のわいせつ発言暴露で大混乱に』●『  暴露されたトランプ米大統領候補の女性蔑視発言の全訳』●『コラム:米国で感じた「トランプ大統領」の確率=佐々木融氏』●『  ヒラリーか、トランプか? アメリカ大統領選「第3の選択肢」まで浮上』

     世界も日本もメルトダウン(961)     『アメリカの衰退を示す、史 …

no image
終戦70年・日本敗戦史(56)A級戦犯指定・徳富蘇峰 『なぜ日本は敗れたのか』⑧大東亜戦争では陸軍、海軍、外交、廟謨(びょうぼ、政府戦略)はそれぞれバラバラ、無統制であった。

  終戦70年・日本敗戦史(56) マスコミ人のA級戦犯指定の徳富蘇峰 …

no image
知的巨人の百歳学(139)-『六十,七十/ボーっと生きてんじゃねーよ(炸裂!)」九十、百歳/天才老人の勉強法を見習え!』★『渋沢栄一(91歳)こそ真の民主主義者、平和主義者』★『「社会事業は私の使命である」が最後までモットー。日米関係を打開するため米国へ老体を鞭打ってわたり、「次回ここに来るときは棺を一緒に乗せてくるかもしれない、それでも私は必要とあらば参ります」と断固たる決意を述べた。』

 2017年8月9日記事再録/『晩年長寿の達人/渋沢栄一(91歳)④』 …

no image
『リーダーシップの日本近現代史』(251)/東武鉄道創業者/根津嘉一郎(79)ー「借金が恐ろしいのではない。利子が恐ろしい」「克己心」(己に克つこと)こそが健康長生法」★『長生する大欲のためには、日常生活での小欲を制しなけれならぬ』

     2015/08/20 知的巨人 …

no image
トラン大統領は全く知らない/『世界の人になぜ日中韓/北朝鮮は150年前から戦争、対立の歴史を繰り返しているかがよくわかる連載⑷』ー(まとめ記事再録)『日中韓150年戦争史の連載70回中、52-62回までを再掲載)

  日中韓異文化理解の歴史学ー (まとめ記事再録)『日中韓150年戦争 …

日本リーダーパワー史(631)日本国難史にみる『戦略思考の欠落』(24)『荒尾精の日清貿易商会、日清貿易研究所設立は 「中原正に鹿を逐ふ、惟に高材疾足の者之を獲る」

日本リーダーパワー史(631)  日本国難史にみる『戦略思考の欠落』(24)   …

no image
『オンライン講座/大阪自由大学読書カフェ』★『今話題の「人新世の『資本論』」(斎藤幸平著)のオンライン読書会で案内人は三室勇氏です(2021年4月17日)

読書カフェ「人新世の『資本論』」(斎藤幸平著)オンライン読書会2021年4月17 …

no image
日本リーダーパワー史(357)●『東西冷戦の産物の現行憲法』『わずか1週間でGHQが作った憲法草案 ④』

日本リーダーパワー史(357)                &nbs …

no image
池田龍夫のマスコミ時評(57)●『オスプレイの事故検証抜きで配備を急ぐ』●『原子力委員会が企んだ「秘密会議』

   池田龍夫のマスコミ時評(57)   ●『オスプレイの事 …