前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

日本リーダーパワー史(730)<国難突破力ナンバーワン・出光佐三を見習う③ 『石油メジャーに逆転勝利した最強のリーダーシップ』、「首切りなし」「定年なし」「出勤簿なし」という破天荒な「人間尊重」「大家族主義」「独立自治」「黄金の奴隷たるなかれ」

      2016/08/29

日本リーダーパワー史(730) 

<記事再録、2011年8,01>

日本リーダーパワー史(180 

<国難突破力ナンバーワン・出光佐三を見習う③

石油メジャーに逆転勝利した最強のリーダーシップ』

        前坂 俊之(ジャーナリスト)

2008,9年と石油価格の暴騰が世界経済を直撃したが、日本にとって忘れられない歴史的事件があった。日本国際ビジネス戦争史上で初めてといってよい痛快な勝利である。

 

昭和28年(1953)5月9日、出光興産(出光佐三社長)の日章丸二世(1万9千トン)がイランからの石油を満載して川崎港に帰港し世界をアッといわせた。

 

当時、石油争奪戦争が勃発していた。世界有数の産油国イランは1951年(昭和26)に突然、『石油国有化法』を議会で可決、イラン石油の全権を握る英国アングロイラ二アン社(BPの前身)を一方的に接収して国際紛争に発展した。

怒った英国はペルシャ湾に海軍の艦隊を派遣、イラン石油の売買は盗品にあたるとして、買い付けにきた外国タンカーは撃沈するとの声明を出して、海上監視を強化していた。これに引っかかったイタリア、スイス共同資本のタンカーはアラビア海で英海軍に拿捕され国際紛争に発展していた。

世界の石油業界は今もそうだが、欧米の国際石油資本(メジャー)が市場を国際カルテルを結んで独占していた。独立系の民族資本・出光興産は「消費者に安いガソリンを提供する」を企業理念に掲げて、長年メジャーと闘争を続けてきた。一方、イランは産出国として初めて巨大メジャーに挑戦して各国に売却を呼びかけてきたが、英国の報復を恐れてどこも手を出すものはなかった。

こうした事態に石油界の反逆児・出光は一挙に勝負に出たのだ。イランと極秘に交渉し、世界有数の大型タンカー『日章丸』を船員には一切行き先を告げずに秘密裏に派遣した。

 

発見されれば撃沈か、さもなければ拿捕か、浮遊機雷に接触する危険性もある。こうした二重三重の危機をすり抜けながら決死的な航海で「日章丸」はイランアバタン港に入港し、イラン全国民の熱狂的な歓迎を受けた。

 

石油を満載して帰途に着き、今度は英国の反撃をかいくぐって奇跡的に日本に帰港した。英ア社は日章丸の積荷の所有権を主張して、東京地裁に提訴したが、出光は「日本国民として腑仰(ふぎょう)天地に愧じない行動をいたします」と証言し、裁判は出水側の全面勝訴となった。

大国イギリスを相手に国際正義にのっとった出光の行動は、米占領からやっと独立したばかりの日本人に大きな感動と勇気を与え、出光は一踵国際的な経営者として脚光を浴びた。

出光佐三は明治18(1885)年8月、福岡県宗像市に生まれた。同42年、神戸高商(現・神戸大)を卒業、従業員3人の石油販売店にテッチ奉公に入り、友人たちから「学校の面よごしめ」と批判された。

このスタートからして、出光の面目躍如たるものがある。25歳で出光商会を設立、人の意表をつく奇想天外の行動でのし上がっていった。

大正初めにいち早く満州に進出、満鉄に不凍油を納入して成功をおさめ、独自の潤滑油や搬械油を飼発してメジャーを抑えて地位を築き、満州、朝鮮、台湾までの幅広い海外市場を押さえた。しかし、敗戦によって、海外資産を一挙に失った。

この時、出光は還暦60歳である。

出光は、終戦の二日後に不安と途方にくれる従業員に対して「愚痴をいうな。世界無比の三千年の歴史を見直せ。そして今から建設にかかれ」と訓示し、従業員は「一人たりとも首を切らない」と宣言した。

 

中国や海外から千人以上の従業員が次々に引き揚げてきて、巷には失業者があふれ、出光興産にも全く仕事がない。

出光はビクともせず「まだ仕事は見つからないが、人間しばらく眠る時間も必要、各地に待機して活眼を開いて眠っておれ」と訓示した。

その後、難局を突破して、出光興産は再び、日本を代表する民族系石油会社に発展していくが、「首切りなし」「定年なし」「出勤簿なし」という破天荒な「人間尊重」「大家族主義」「独立自治」「黄金の奴隷たるなかれ」「生産者より消費者へ」を実践。大企業なのに、株式も上場せず、労働組合もないーなどやることなすこと、「日本一の異色企業」となった。

出光は〝昭和の紀伊国屋文左衛門″、石油業界の異端児、ユダヤ商人、石油王、横紙破りなど、さまざまなレッテルを貼られた。また、出光は95才まで生涯現役で活躍した長寿経営者でもある。

彼ほど一貫して日本人としての誇りと信念を持ちつづけた経営者はない。回りがヘキヘキするほどの強烈な日本主義、天皇主義者である。しかし、明治初期の生れの人たちは大なり小なり、似たようなものである。

 

昭和30年以降生まれの人たちには出光の実践は全く理解を超えた発想と行動力だが、「100万人ともわれ行くかん」と実践してきたその信念と行動力と成功してきた経営実績は近代経営史でも例のない破天荒のものである。

 

日本的経営なるものが、大半は英米ビジネスモデルのコピーだが、出光の『人間尊重』経営はその対極にある、唯一のジャパンビジネスモデル。「和を以って尊としする」日本式経営モデルの極致といえるだろう。

 

その出光佐三の独創力はどこからきたのか。

出光は子供のころから病弱で、とくに目が悪かった。

年をとるとともに悪化し、視力は0,01ほどで、ご飯のおかずも懐中電灯で照らし、眼鏡をかけた目をくっつけて見て、やっと見えるほどの弱視状態。それでも出光は悲観せず、「日がよく見えないから、オレはよく考える。だから、独創的なのだ」と豪語していた。

「金の奴隷となるな」が口癖で、出光が一番好きな言葉が「逆境にあって楽観し、順境にあって悲観せよ」「金の奴隷となるな、人問がしっかりしておれば、金は自然に集まってくる。」

逆境にいて、楽観せよ

人間主義を唱え、「金の奴隷となるな、人間がしっかりしておれば、金は自然に集まる」という出光の、もう一つのモットーが 「逆境にいて、楽観せよ」である。

出光はこの言葉が大好きで、「悪い時にへトへトになるな。これを突き抜ければ、あとはいいぞとガンバる。逆境に屈せず、楽観してガンぼるんです。小さな水溜りにでも風が吹けば波が立つんです。波のない世の中なんかありえますか」と言う。

一見、大時代的に思える出光の人間主義と努めて苦難にぶつかって克服していく主義は石油メジャーに対抗して、独自の道を模索しながら、巨大な地歩をいた出光の発展の歴史に刻まれている。不景気大いに結構、苦労するほど人間が立派になるし、人間の呼吸がわかってくる。大きく行き詰まれば、大きく道は開かれる。

「世の中の中心は人間ですよ。金や物じゃない。その人間というものはね。苦労して鍛えられてはじめて人間になるんです」とあくまで出光は苦労を歓迎するのである。

 - 人物研究, 健康長寿, 現代史研究

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
『ガラパゴス国家・日本敗戦史』㉓『大日本帝国最後の日⑦阿南陸相の徹底抗戦とその日の陸軍省、参謀本部』

  『ガラパゴス国家・日本敗戦史』㉓   『大日本帝国最後の …

no image
日本リーダーパワー史③・女に殺された初代総理大臣伊藤博文

  女に殺された伊藤博文                             …

『オンライン/-『早稲田大学創立者/大隈重信(83歳)の人生訓・健康法] 『わが輩は125歳まで生きるんであ~る。人間は、死ぬるまで活動しなければならないんであ~る』

  2018/11/27 記事再録/知的巨人たちの百歳学(112)- …

史上最大級の台風10号が沖縄接近中の鎌倉/稲村ケ崎サーフィン(2020/9/5 /800)ー今年一番のビッグウエブ到来に待ちかねた約100人のサーファーが挑む「サーファーズ/パラダイス!」★『逗子大崎海岸/マリーナ前カブ根サーフィンー今年一番のビッグウエブ到来に約50人のサーファーが挑む』★『明日6日午前6時にはサーフィン/撮影にレッツ・GoGo!』

  #前坂俊之チャンネル 鎌倉サーフィンチャンネル 史上最大級の台風10号が沖縄 …

no image
日本メルトダウン脱出法(715)[天津大爆発でさらに強まる原油価格の下押し圧力-米国では大型シェール企業の倒産が秒読み」「経済財政白書が示す日本経済が抱える根本的課題とは」

日本メルトダウン脱出法(715)   天津大爆発でさらに強まる原油価格 …

no image
日本リーダーパワー史(482)「明治大発展の国家参謀・杉山茂丸の国難突破力に学ぶ」今こそ<21世紀新アジア主義者>出でよ

   日本リーダーパワー史(482) 「夢野久作と杉山3代研 …

『F国際ビジネスマンのワールド・カメラ・ウオッチ(117)』ピカソが愛した女たち《ドラ・マール》の傑作2点「泣き女」との対比

『F国際ビジネスマンのワールド・カメラ・ウオッチ(117)』 「パリ・ぶらぶら散 …

no image
日本メルトダウン脱出法(632)「現在の日米関係」を映し出す映画」「日韓の反目を危惧する米国」など6本

 日本メルトダウン脱出法(632) ◎「現在の日米関係」を映し出す映画 Writ …

no image
速報(82)『日本のメルトダウン』●『<循環注水冷却>はうまくいかないー2策、3策に英知を結集し、国家対策で取り組め』

速報(82)『日本のメルトダウン』 ●『<循環注水冷却>はうまくいかないー2策、 …

no image
『リーダーシップの日本近現代興亡史』(217)/『百年前にリサイクル事業によって世界的コンチェルン(財閥)を築いた「日本セメント創業者」の浅野総一郎』★『リサイクルの先駆的巨人・浅野総一郎の猛烈経営『運は飛び込んでつかめ』★『明治時代にタダの自然水を有料販売、トイレの人糞を回収して肥料で販売、コークスからセメントを再生し、京浜海岸地区を埋め立てて一大コンビナートを築いた驚異のベンチャー王』

    2010/11/27 &nbsp …