前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

『日本リーダーパワー史』(1234)ー『2023年―戦後安保の歴史的な転換点』★『昭和戦後一貫して否定してきた敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有、防衛関連予算を2027年度に国内総生産(GDP)比2%へ倍増も明記』

      2023/02/20

2023年―戦後安保の歴史的な転換点

政府は2022年12月16日、外交・防衛政策の長期指針「国家安全保障戦略」など新たな安保関連3文書の改定を閣議決定した。戦後一貫して否定してきた敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有や、防衛関連予算を2027年度に国内総生産(GDP)比2%へ倍増させることも明記した。

岸田文雄首相は記者会見で、ミサイル技術を急速に進化させている中国や北朝鮮を念頭に、「現在の自衛隊の能力はこの国を守り抜くには十分ではない。抑止力になる反撃能力は不可欠になる」と強調。「憲法などの範囲内で、専守防衛を堅持していく」と述べた。

この結果、戦後70年余り続いた日本の安全保障政策(憲法9条、専守防衛)の呪縛を解く、歴史的な転換点となったが、私には余りに遅すぎる、スローモーな決断だと思う。

22年2月末からのウクライナへのロシアの大量ミサイル攻撃で、民間人数万人の犠牲者を出している殺戮、破壊の生々しい映像が連日流れた。また、北朝鮮のミサイル発射回数の激増、台湾有事を想定した中国軍機の領空侵犯など、日本海周辺は戦争前夜の雰囲気に包まれ平和ボケの政治、国民は大きなショックを受けて現実の脅威切迫にやっと目を覚ました感じだ。

その危機感から、「反撃能力保有」に関する日経新聞の世論調査(11月28日)では、「賛成」が65%、「反対」は24%。2015年の同社の調査では、「集団的自衛権の行使容認」は「反対」が57%、「賛成」は25%だったので、今回は逆転したわけだ。

また朝日の世論調査(11月17、18日)でも「賛成」が56%、「反対」38%で、国民の過半数が反撃能力を支持していた。しかし、防衛費の拡大は「賛成」46%、「反対」48%と割れていた。

 

「台湾有事はあるのか」という日中両国民への2022年世論調査(日本の民間非営利団体「言論NPO」と中国国際出版集団共同)では「数年以内」,「将来的」に軍事紛争が起きるとの回答は中国は56.7%、日本も44.5%に上った。両国民の半数近くが台湾有事の懸念を持っていることが浮き彫りになった。

その中国で異例の三期目に入り、独裁的政権運営を一層強化している習近平主席の核心的利益政策の1つの強軍化政策では、中国人民解放軍の「建軍100年」にあたる2027年をメドに「台湾の武力統一を可能にするための十分な戦力の構築と整備」の軍拡路線を拡大している。

 

この結果、気になるのが「米中ロの核戦力:2030年代の「拮抗リスク」とは」

https://www.nippon.com/ja/in-depth/d00870/

である。

米国防総省は中国の軍事・安全保障に関する最新報告書で「2035年には中国の実戦用の核弾頭保有数が1500発に増える」と予測し、「あと13年ほどで中国が核大国の米ロと肩を並べて、歴史上初めての「三者拮抗(きっこう)」の時代を迎える」と指摘している。

三者拮抗の場合の最悪のシナリオは、中国とロシアが結託して米国に核の脅しをかけること。中ロの核弾頭数を合計すれば約3000発になるのに対して、米国は1550発しかなく、「2対1」で中ロが優位に立つ。そうなれば、米国が同盟諸国の安全を守るために提供している「核の傘」(拡大抑止力)は破れて機能せず、日米同盟の死活問題となる。

今回、米国が日本、EUに対して防衛力共同増強と防衛費(GDPの2%)の応分の負担を求めたのも、この「三者拮抗」リスクを回避するためだ。

ジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は「今後10年間が決定的に重要になる」と警告している。

  • 「戦争は武力以外が8割」

ロシア軍を指揮するゲラシモフ参謀総長は「非軍事的手段(サイバー防衛、攻撃)と軍事的手段(ミサイル反撃、攻撃能力)の割合は4対1だ」「戦争は武力以外が8割」と明言している。(日経12月20日付)

このため、ロシアは「マルウエア」などによるサイバー攻撃に力を入れており、軍事侵攻(2月24日)前からウクライナ政府機関、金融、航空、防衛、通信インフラなどに3波にわたる大規模攻撃を加えた。しかし、ウクライナ側は事前にサイバー防御体制を築いていたために防御に成功した。その後、サイバー民間防衛隊を活用し反撃に転じて、5分5分の戦いに持ち込んだ。

マイクロソフト社はロシアのウクライナ侵攻後に世界40か国のネットワークに侵入を実験し「その国のサイバーセキュリティ―・レベル」をチェックして6月に発表したが、日本は最低レベルだったという。日米同盟の軍事的一体性と同時に、サイバー防衛の能力向上こそが緊急の課題なのである。

日本政府は16日に防衛3文書を改定し、ようやくサイバー防衛を強化する「能動的サイバー防御」を打ち出したが、法制度の整備や人材教育、デジタル装備など問題山済みだ。

日経(12月20日付)によると、中曽根平和研究所主任研究員・大沢淳氏は「サイバー空間は領空や領海のように明確な境界はなく「専守防衛」の概念はない。米欧は2010年代半ばにサイバー防衛を国の責任と定め、攻撃者に働きかける「アクティブ・サイバー・ディフェンス(積極的サイバー防衛)」に転じた。日本はまず憲法の「通信の秘密」は国民に限定される権利だと解釈を明確にすべきだ。電気通信事業法を改正し安全保障上の懸念事項がある外国との通信を監視可能にしてはどうか。」と提言している。

 

 - 戦争報道, 現代史研究

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
日本敗戦史(44)「終戦」という名の『無条件降伏(全面敗戦)』の内幕<ガラパゴス日本『死に至る病』東條首相誕生の裏側➂

日本敗戦史(44) 「終戦」という名の『無条件降伏(全面敗戦)』の内幕 <ガラパ …

no image
日本メルトダウン(948)『鈴木敏文氏が語る、GMSの衰退に歯止めがかからない理由』●『 ユニー、ファミマとの統合で大量閉店の衝撃–スーパー、コンビニ以外にも大ナタ』●『MRJ、5度目の納期遅延なら致命傷になる理由』●『日銀有力OB2人が語る金融緩和「限界論」と総括検証の行方』●『世界で闘う「日本の女性」55 リスト全公開!』●『総合SNSが焦る、「スナップチャット」の猛威–フェイスブック陣営に迫る、お化けSNS』

  日本メルトダウン(948) 鈴木敏文氏が語る、GMSの衰退に歯止めがかからな …

no image
『日本占領・戦後70年』「1946年(昭和21)元旦の天皇の『人間宣言』はなぜ出されたのか、『地方巡幸』はその結果始まった。

 『日本占領・戦後70年』 「1946年(昭和21)元旦の天皇の『人間 …

no image
日本リーダーパワー欠落史(748)『 対ロシア外交は完敗の歴史、その歴史復習問題』  欧米が心配する『安倍ロシア朝貢外交の行方は!?』 プーチンの恫喝外交に再び、赤子(お人よし外交) の手をひねられるのか!?北方領土の悲劇―ロシアの残虐殺戮、無法占領の責任を追及せず、 2島返還で経済援助までつける安倍外交の失敗』★『戦争終結後に非戦闘員3700人を大虐殺』●『軍人ら約60万がシベリアに送られ、強制労働に従事させられ、6万3000人が死亡した』

  日本リーダーパワー欠落史(748) 対ロシア外交は完敗の歴史、その歴史復習問 …

日銀の黒田総裁が27日に日本記者クラブで「原油価格と物価安定」と題して講演し、「PB黒字化は第一歩」財政再建に強い意思を示した

 日銀の黒田総裁が27日に日本記者クラブで「原油価格と物価安定」と題して講演し、 …

『リーダーシップの日本近現代史』(237)/『日本人に一番欠けているものは自由と正義への希求心』ー冤罪と誤判の追及に生涯をかけた正義の弁護士・正木ひろし氏を訪ねて』★『世界が尊敬した日本人―「司法殺人(権力悪)との戦いに生涯をかけた正木ひろし弁護士の超闘伝12回連載一挙公開」』

    2017/08/10 &nbsp …

『世界漫遊記/ヨーロッパ・パリ美術館ぶらり散歩』★『ピカソ美術館編⑨」★『ピカソが愛した女たちー画家の精力絶倫振りは、超弩級、地球人とも思えません』

    「ラ・セレスティーナ」、1904年 ピカソ23才の作 …

no image
『世界サッカー戦国史』⑦『ベルギー戦・西野ジャパンは2-3で惜敗するも大健闘!』★『グローバル化する世界で多民族国家がほとんどの中で唯一の「ガラパゴス・ジャパン」(ほぼ単一民民族国家日本)の永遠の課題がこの試合でよく見えた』

W杯サッカー、西野ジャパンの惜敗するも大健闘!   予選敗退確実とみら …

no image
『F国際ビジネスマンのワールド・ニュース・ウオッチ(140』VW不正事件―4兆円どころか、もっと天文学的数字になるのではない でしょうか?何にしても、一人のリーダーの狂気が悲劇的な結末を招いたのです。

『F国際ビジネスマンのワールド・ニュース・ウオッチ(140』 VW不正事件―4兆 …

no image
『F国際ビジネスマンのワールド・ニュース・ ウオッチ(225)』<日馬富士暴行傷害事件の問題点>『急速な少子化、サッカー、野球などの他スポーツへの若者の傾斜、過酷な肉体労働の忌避など、乾坤一擲の策を講じても「日本人中心の相撲界」の将来性は相当厳しいのではと感じられます』

『F国際ビジネスマンのワールド・ニュース・ ウオッチ(225)』  <F国際ビジ …