世界史の中の『日露戦争』⑩『ついに開戦―ドイツ、フランス、ロシア、イギリスはどう対応したか』(ドイツ紙)
外国紙は「日露戦争をどう報道したか」⑩
『ついに日露戦争開戦へ』―『ドイツ、フランス、ロシア、
イギリスは日露戦争にどう対応したか』
<独『フランクフルター・ツアイトゥング』夕刊
1904(明治37)年2月9日<開戦2日目>—
(注・日清戦争(明治27年)での日本の勝利に対してドイツは音頭をとってロシア、フラ
ンスと組んで『三国干渉』の武力をバックに恫喝外交を展開し、日本から遼東半島の権利
を放棄させた。ドイツ、ロシアは中国からこれを一方的に租借して、権益を拡大、特に
ロシアは満州を植民地として開発し、さらに朝鮮を支配下におさめる軍事行動に出てきた
これが、日露戦争の原因である。このドイツ紙はドイツの態度を弁明している)
かくてロシアと日本の間の戦いは実際に始まった。外交関係の断絶はほんの第1歩に過ぎず,当然のごとく第2の段階に入った。この段階に入る決定的な1歩を踏み出したのは,またしても日本だった。宣戦布告が出されないまま,日本の水雷艇は昨夜旅順港に停泊中のロシア艦隊を攻撃し,いくらかの損害を与えた。
そして戦争状態が始まったのだ。ロシアは今もって防戦一方の姿勢を保っている。つまり,開戦の責任を日本の側に負わせているのだ。もちろん,必ずしも始めた方が悪いとは言えない。防衛のための攻撃はあり得る。しかし攻撃をかけた側の正当性がだれの目にも明らかではない場合.平和的解決への手段を十分に講じなかったとの疑いは常に免れ得ない。
少なくとも,攻撃側はそれが及ぼす結果についてとともに,開戦が正当であるかどうかについて責任を負わねばならない。たとえば数年前ブール戦争(南アフリカ)を仕掛けたイギリスがそのよい例だ。今回の戦争では一般に,日本側が外交関係の断絶と開戦を強いられていたわけではないとの印象がある。
その結果日本は,戦争に走ったことで道義的な責任が問われているのだ。一方、ロシアは,仕掛けられて戦争を始めたという,道義的に有利な立場にある。だがロシア外交がここ数か月の間,この立場を手に入れるため意識して努力してきたことを考えれば,ロシアの道義上の優位もいくぷん減少するだろう。
もっともロシアはくり返しすばらしい努力を見せてきたので,その点ではお世辞を言ってもよいだろう。
列強の各当局の一部では最近まで楽観的な見方が強かったが,各国とも開戦によってかなりの衝撃を受け,今やそれぞれの戦争に対する立場を明らかにしている。まず興味深いのは,ロシアと同盟関係にあるフランスがどのような態度を見せるかという問題だ。
フランスは,ロシアと同盟によってのみならず,経済的にも利害を共にしている。フランスの預金者がロシアに貸し付けている総額は,正確には分かっていない。普通70~80億と言われているが,またそれ以上ともささやかれている。そこでフランスの納税者が開戦を腹立たしげに見守るのも当然だろう。
戦争によってロシアの債務者の返済は大幅に遅れるだろうし,そうなればフランスが得るはずの利子のみならず.資本そのものも危険にさらされる。
加えて,フランス自身がもしかしたら戦争に巻き込まれるかもしれないという問題がある。もちろんその心配はまずない。露仏同盟は一般に確認されているように,ヨーロッパに適用範囲が限られていて,東アジアには適用されない。東アジアでは,ロシアはだれの助けも借りずに自国の利益を守らなければならない。しかし,もし戦争の過程でロシアが苦境に陥ったら,いったいどうなるのだろうか。
同盟国に救いの手を差し伸べることはフランスの政治的・道徳的義務とはならないのか。もしそんなことになれば,これは他の列強が軍事介入をするきっかけとはならないのか。これらの問題は,パリの新聞ですでに活発な論議を呼んでいる。
しかし政府与党の各主要機関紙は,ロシアに好意的でない傾向の返答をしている。急進派のランテルヌ紙はこう語っている。
「フランスは平和を望む。フランスはロシアとの同盟によって,ヨーロッパにおけるフランスの地位と世界平和の維持が保証されると見ていた。しかし,もしこの同盟のために,友好国イギリスに対し,東アジアにおけるロシアの利益を守るために戦うことが強要されるとしたら,フランスはこれを納得しないだろう。
そんなことではなんの利益も守れないし,得られないではないか。たかだかロをつぐみ,言いなりになり,金を払う自由しかないロシアの国民は,その支配者にふさわしい場所へ行けばよいのだ。われわれには関係ない。フランス共和国の市民は,これに対しもっと別の権利,とりわけ政府に責任を求める権利を持っている」。
さらにラディカル紙は手厳しい。
「事態をどのように見ようと.戦争の本当の原因は,全アジア大陸を併合しようとするロシアの飽くことない野心だ。シベリアは,圧制の帝国にとって作戦基地でしかない。カフカス側では,すでにぺルシアに向けて進軍中だ。今や中国にまでその勢力は及んでいる。この次には英領インドを襲うだろう。アジアはほどなく1つのロシア領土と化す。ヨーロッパが用心しなければならない材料はいくらでもある」。
しかしまた穏健な諸紙も,フランスはいかなる場合でも戦争に巻き込まれるべきではないという見解を示している。たとえば現上院議員で元大臣デュピュイのプチ・パリジャン紙も,突然上がった火の手が局地的にとどまり,とんでもない世界的な大火事に燃え広がらないことを切実に望んでいる。
さらにナショナリスト諸紙は,ロシアはアジアにおける自分の仕事をひとりですべきだと見ている。つまりフランスは,ロシアとの間に益のない冒険に飛び込むための同盟を結んだのではない,という
ことだ。タン紙,ジュルナル・デ・デバ紙などの数多くの新聞は,フランスの軍事介入は問題にならないことを顧い,また期待している。
こうした意見はまた,誠実に平和を維持しようと努力するフランス政府の姿勢とも一致している。同政府は目下.おそらくフランスの利益に資するよりむしろ害をなすような発言がありそうな質疑応答を避けようとしている。いずれにしても仏露同盟は現在,重大な負荷テストを受けているところだ。
イギリスの反応もまたわれわれの興味をそそる。一般に,イギリス人が戦争へとけしかけた,あるいは日本人をひそかに戦争へと励ました責任があると言えるだろう。
タイムズ紙は事態が急を告げるや,直ちに日本の正当性に支持を与えた。日本は他のすべての列強の権利を代表しているし,日本はすべてのイギリス人の同感を得ているというのだ。当面イギリス人は戦火から遠ざかっている。
1902年1月30日に,日本との問で結ばれた同盟条約には,日本と他の1国との戦争に第三国が干渉した場合においてのみ,イギリスは日本側の援助のために介入することになっている。目下の状況に合わせて言えばこういうことだ。
つまり,フランスがロシア側について日本と敵対して初めて,イギリスはイギリスで日本を支援する。同じような条項が,仏露同盟条約でも決められている。ロシアが2か国の攻撃を受けた場合,フランスはロシアを支援することになっている。フランスの介入はそれ故イギリスの態度いかんにかかっていて.それはちょうどイギリスの介入がフランスの態度いかんにかかっているのと同様だ。
この2つの条約は互いに打ち消し合い,第三国の介入はなく,したがって戦争は局地的にとどまるだろう。この間イギリスは,すでに戦争を利用する準備を進めている。
昨日イギリスのチベット遠征についての文書が公表されたのは,全く偶然のことではない。
この文書は,もしもロシアが今にも大戦争を始めようとしていなければ,めったに公表されないような話を伝えている。イギリスがチベットか,ぺルシアか,あるいは東ヨーロッパに自国の利益を求めようとしていると考えて間違いはないだろう。これがロシア側の損失になるのは明らかだ。ブール戦争の間,イギリスの窮状につけ入らないと明言し,また実際に親英的な態度をとることによって,イギリスに敵対しブール側に有利になるような同盟の結成を阻んだロシア皇帝へのお返しがこれだ。
ドイツが厳格に中立を守るのは,どう見ても確実で当り前の話だ。われわれの東アジアでの利益は,ドイツの介入を正当化できるはど重大なものではない。われわれは努力家で行動力のある日本の民衆に敬意を払っている。ドイツの学問と教養は,日本文化に貢献してさえもいる。だがわれわれは,彼らの名誉欲のめざすものがわれわれとは違っていること,また彼らがこの目標を,われわれが承認できない手段で達成しようとしていることは見過ごせない。「白か黄色か」と言われたら,われわれは黄色ではなく白の側につこう。
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