前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

日本リーダーパワー史(680) 『日本国憲法公布70年』 『吉田首相のリーダーシップと憲法論と神学論争』吉田が偉大なリアリストであり国際政治経済への「先見の明」があったことは確かだ

   

日本リーダーパワー史(680)

『日本国憲法公布70年』

吉田首相のリーダーシップと憲法論と神学論争』

吉田が偉大なリアリストであり国際政治経済への

「先見の明」があったことだけは確か。

前坂俊之(ジャーナリスト)

 

現憲法がマッカーサーの命令で、GHQが1週間で改正草案が作り上げことはよく知られている。

マッカーサーは1946年(昭和21)2月3日に憲法草案作成を命令、13日に日本側にGHQ案を提示、3月4日朝 から30時間かけての日米翻訳会議で日本語の憲法案が完成、同6日の臨時閣議で最終草案要綱は了承,発表されるという超スピード技である。

なぜ、マッカーサーは急いだのか。

天皇制廃止と北海道占領を主張したソ連(現ロシア)、オーストラリアなど「極東委員会」(連合国11ヵ国で構成)は「憲法改正の第一次審査権と改正採択協議への参加を要求し、マッカーサーと対立していたが、この「第2回会合」がワシントンで開催される7日の前に間に合わせて憲法草案を発表し、既成事実化を図った。

さらに4月10日に総選挙を実施して、マスコミ、世論を動員して日本の保守勢力を一掃して、日本国民の自由意思により新憲法が受け入れられたことを証明し、極東委員会や米国の反対を封じ込めるこめる狙いがあった。

この背景にはそれまで連合国として共に戦ってきた米英ソの対立が決定的となり、3月4日にはチャーチル英首相が「鉄のカーテン」演説を初めておこなうなど、国際情勢は緊迫化し、日本の憲法改正問題はこの代理戦争の色彩を帯びていた。

その中で反共主義者のマッカーサーは天皇擁護の姿勢を示し憲法に、『天皇の象徴化』「戦争放棄」の2項目が盛り込めれば『極東委員会』の介入を排除できるとしたのである。同じ反共主義者で臣茂を自称する国士と英国的な民主主義者の両面を持つ吉田はマッカーサーと意気投合し、天皇さえ安泰ならば「主権在君か、主権在民か」の憲法学者の神学論争的なテーマには関心がなかった、

「わが国の当面の急務は講和条約を締結し、独立・主権を回復すること。1日も早く、民主国家、平和国家の実を内外に表明し、信頼を獲得する必要があった。憲法改正は大事だが、立法技術的な面などにいつまでもこだわるのは得策ではない」と「回想10年」(中公文庫、2014年)と判断した。

このために、さっさとGHQの憲法案をのんで、一件落着させ、当面の大問題である餓死寸前の多数の国民の要求である「米よこせデモ」にみる食糧難の解決に全力を挙げ、マッカーサーに働きかけて、食糧援助を勝ち取る強力な政治力を発揮したのである。

1952(昭和年27)9月のサンフランシスコ講和会議を前に『全面講和』か『単独講和』かをめぐって国を2分する神学論争的な対立が激化したが、リアリスト吉田は進歩的知識人やマスコミの多くが唱える『全面講和論』を「曲学阿世の徒の空論」と批判し、世論の猛反対の中で『単独講和』を選択し、日米安保条約も日本側は吉田一人の署名だけで、調印した。

この間、アメリカのダレス国務長官が、主権回復後の日本の再軍備を強く要求したのに対し、吉田は「経済もいまだ回復していないのに、再軍備をするのは愚の骨頂」と憲法9条を逆手にとって反対、軽武装、経済重視路線に邁進した。

『単独講和』で西側陣営に属したことで、日本はアメリカの仲介で、早々にIMF(国際通貨基金)、世界銀行(国際復興開発銀行)、GATT(関税および貿易に関する一般協定)にも加盟でき、ブレトン・ウッズ体制の利点をフルに活用して1950、60年代を通じて、20年間以上、GDP年間成長率10%以上という驚異の『高度経済成長』を達成できたのである。

もし「全面講和」を選択しておれば、国際社会への復帰は大幅に遅れ、国際経済体制に乗り遅れて、6-70年代の『高度経済成長』と『経済大国化』はなかったであろう。それはソ連,中国などの「東側陣営」が経済発展をしなかったのをみれば一目瞭然である。

いずれにしても吉田が偉大なリアリストであり国際政治、経済への「先見の明」があったことだけは確かである。

 

 - 人物研究, 現代史研究

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
梁山泊座談会『若者よ、田舎へ帰ろう!「3・11」1周年――日本はいかなる道を進むべきか』②『日本主義』2012年春号

  《日比谷梁山泊座談会第1弾》 超元気雑誌『日本主義』2012年春号 …

no image
日本興亡学入門 ③ 米金融資本主義の崩壊による世界大恐慌へ突入!

cccccccccc 日本興亡学入門 ③                     …

『Z世代のための最強の日本リーダーシップ研究講座(42)』★『金子サムライ外交官は刀を持たず『舌先3寸のスピーチ、リベート決戦」に単身、米国に乗り込んだ』

  『金子サムライ外交官は『スピーチ、リベート決戦」に単身、渡米す。 …

no image
『F国際ビジネスマンのワールド・ウオッチ㉛』◎「BBCのネルソンマンデラの弔文記事“武闘派から一転、聖人君子の道へ”を読む①」

『F国際ビジネスマンのワールド・ウオッチ㉛』   ◎「BBCのネルソン …

no image
日本リーダーパワー史(163)『戦わずして勝つ』ー塚原卜伝の奥義インテリジェンスこそ『無手勝流』

日本リーダーパワー史(163)   『戦わずして勝つ』剣道の秘義・塚原 …

『オンライン講座/真珠湾攻撃から80年➄』★『 国難突破法の研究➄』★『ハワイ・真珠湾攻撃は山本五十六連合艦隊司令長官の発案だった②」

  2010/06/28  日本リーダー …

no image
速報(222)『日本のメルトダウン』★『迫りくる<日本沈没>は不可避か』●今、『インテリジェンス(叡智)と行動力が問われている』

速報(222)『日本のメルトダウン』 ★『迫りくる<日本沈没>=巨大地震・内部被 …

no image
日本リーダーパワー史(525)直面する5大国難は複雑性を増している。国民全体の熟慮と決断、断行 が求められている➁

 日本リーダーパワー史(525)   現在直面する5大国難は …

no image
日本メルトダウン脱出法(711)「安倍談話に沈黙する北京と対中懸念強めるワシントン」「 日本企業「中国撤退」のきっかけに!? 天津「爆発事故」の被害で」

日本メルトダウン脱出法(711)   安倍談話に沈黙する北京と対中懸念 …

no image
世界が尊敬した日本人③6000 人のユダヤ人の命を救った勇気ある外交官・杉原千畝

2005年3月20日記事再編集 前坂 俊之 1940 年(昭和15年)7月27日 …