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池田龍夫のマスコミ時評(39) ★『沖縄密約文書「廃棄の可能性」―不可解な「無いものは無い」判決―』

   

池田龍夫のマスコミ時評(39)
 
★『沖縄密約文書「廃棄の可能性」
―不可解な「無いものは無い」判決―』
 
池田龍夫(ジャーナリスト)
 
 
 西山太吉・元毎日新聞記者ら25人が訴えた「沖縄返還密約文書開示」控訴審判決で、東京高裁(青柳馨裁判長)は9月29日、国に開示を命じた一審・東京地裁(杉原則彦裁判長)判決=昨年4月9日=を取り消し、原告側の請求を退けた。
青柳裁判長は「問題の文書を探したが無かった」とする国側の調査結果に従って一審判決を覆したものの、判決理由には、一審が指摘した「密約文書の存在」を〝推認される〟と記している。しかし「いくら探しても問題文書は見つからなかった。無いものは無い」との〝三百代言〟的な逆転判決に愕然とさせられた。情報公開法に基づく開示義務を無視したもので、民主主義国家とは言えない司法判断に、原告をはじめ多くの国民の怒りが高まっている。こんな欠陥判決を許すことはできず、原告側は10月12日最高裁へ上告した。
 「事案の概要」や「争点」を記した判決理由はA4判60㌻もの長文だが、一審に比べ歯切れが悪く、「情報公開をめぐる重大な訴訟」との認識が著しく欠如していると言わざるを得ない。末尾の文章に「本件各文書の管理状況については、通常の管理方法とは異なる方法で管理されていた可能性が高く、また、その後に通常とは異なる方法で廃棄等がされた可能性がある」と記述していたものの、後段で「外務省及び財務省が本件各不開示決定の時点において本件各文書を保有していたことを認めるには足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はないというほかはない」との牽強付会な理屈で、「不開示決定は適法」との逆転判決が下されたのである。要するに「密約文書は廃棄されたと〝推認〟されるが、いくら探しても見つからない。無いものは無い」と、原告要求を蹴散らしてしまった。
 
       「情報公開法」無視に驚く  
 
一審の杉原裁判長が「国民に知らせないまま財政負担することを、米国との間で密約を結んでいた。国民の知る権利をないがしろにした国側の対応は不誠実」と断じて、「外務大臣及び財務大臣は、原告らに一連の行政文書を開示せよ」との明快な判決を下したのに比べて、控訴審判決の次元の低さには呆れ果てる。「情報公開法の重要性」に耳を傾けず、国家権力に追従するような司法では、民主主義国家の根幹が揺らぎかねない。
 
情報公開法(2001年4月施行)の前年に密約関係重要文書が廃棄されたことは、原告団の詳細な調査や先の外務省・有識者委員会調査で暴かれており、控訴審判決理由でもその点は渋々認めざるを得なかったのである。

米国公文書館に両国が交わした〝密約文書〟が保管されていることが10年前に明らかになっているのに、日本政府は「無いものは無い」と何時までも強弁し続けるのだろうか。原告団が強く要請しているように、「日本側に文書が無いならば、米公文書の写しを取り寄せて精査すれば明確になる」ことなのである。

 
        新聞各紙が「不当判決」と論評
 9月30日の朝刊各紙を点検すると、毎日新聞が「密約文書『廃棄の可能性』」との見出しを掲げて1面トップ。朝日新聞も1面2番手で「国が秘密裏に廃棄した可能性」と大きく報じ、両紙とも社説に取り上げ、「過去の問題ではない、廃棄疑惑に国は答えよ」と迫っている。
「逆転敗訴とはいえ、『国民の知る権利』に基づき、政府に真相をただし続けた裁判の意義が失われることはない」との受け止め方(『朝日』社説)に共感する。

「そもそも開示請求対象の文書の写しは米国立文書館で公開されており、元外務省局長も文書に署名したことを認めている。密約文書はあったというのが国民の抱く常識的感覚だ。…公文書は役所のものではなく、国民の共有財産である、という自覚が、日本の行政には著しく欠けてはいないだろうか」と『毎日』社説が指摘する通りである。
 

他の全国紙、主要県紙も「密約の存在が明らかなのに、何故『文書が無いから仕方ない』と判断したか納得できない」との見方が共通していたことを確認できて、敗訴にも拘らず〝権力監視〟の重要性を痛感させられた。
 
       「民主主義国家」が恥ずかしい
 
判決後の記者会見で、原告共同代表の桂敬一氏(元東大新聞研究所教授)は「密約文書が相手国(米国)にあってここ(日本)にないのはおかしいと、一審は明快な判断を下した。文書がなぜ無いのか、その理由を明らかにすべきだという説明責任が国にあるとした判決の意義は非常に大きい。

これに対し、国側は二審で『有識者委員会でも調査したが、文書が無いという結論は同じだ』と主張を繰り返した。こちらは(原告で作家の)澤地久枝さん、小町屋育子弁護士を中心に調査チームを作って、国が(2010年度に)公表した外交文書4500㌻から、係官の手書きメモなども丹念に調べ、密約合意に至る過程を時系列に並べた。そうすることで密約協議の経過が分かったが、私たちの求める密約文書だけがない。これはどう考えてもおかしい。

国家権力が自分の利害に絡む行為をしたとき、それが適法なのかどうかをみんな知りたい。それが満たされることが、民主主義の成熟につながる。国の作為で事実が隠匿され、結果的に国民に不利益を与えている。日本の情報公開制度の在り方が問われているのだ」と語った。

このあと西山太吉氏も「判決は、特定の職員が特定の方法で管理し、廃棄した可能性に踏み込んだ。だが『捨てたのだから、無いものは無い』と言い、廃棄について遺憾の『い』も言ってない司法の独善、限界が露呈された。情報公開とはそんなものか」と語気鋭く迫り、原告側それぞれが「大勝利と同時に大敗北」と異口同音に語った熱気に、「情報公開」請求への決意を強く感じ取った。
 
    「知る権利」に答えぬ政治姿勢
 「もし、文書を廃棄したうえで不存在を主張することによって、結果的に情報公開を免れることが許されるのであれば、制度の趣旨が否定される。公文書の作成、管理に関する規定があいまいだった日本の後進性がこの事態を招いたことは教訓として反省すべきだ」と堀部政男・一橋大名誉教授は指摘する(『朝日』9・30朝刊)。波多野澄雄・筑波大教授(元外務省有識者委員会委員)も「密約関連の文書は外務省が情報公開法施行前に大量廃棄した文書の中に入っていると思っている。訴えは認められなかったが、外務・財務両省の責任は残る」(『毎日』9・30朝刊)と、文書管理のズサンさを糾弾していた。
 山田健太・専修大准教授は「改めて〝消極的〟な司法に失望。知る権利を相変わらず防御権的な自由権に押しとどめ、この間の研究成果や立法作業の進展を顧慮することがない。すでに法案が示される段階に差しかかる情報公開法改正案では、第1条の目的に、『知る権利』を明記しているにも拘わらずである。

文書の廃棄は仕方ないと割り切ったように読める判決だが、ことは国を左右するような重要な国家間の密約である。そうした歴史に対する冒涜ともいえる愚挙を、訴訟の本筋からするりと見逃す態度はいかがなものか。これは結果的に、政府の秘密体質(捨て得)を追認することになりかねない」と、琉球新報9・30朝刊で見事な分析をしていたが、民主党政権になっても改まらない〝隠蔽体質〟が嘆かわしい。

 藤村修・官房長官は控訴審判決後、「請求文書を保有していないという従来の政府の主張が認められた」と記者団に語り、山口壮・外務副大臣は「無いものない無いから、済みません」と平然と述べたというから驚く。
 
  「いつまでも人民を愚弄できない」
 一審の原告最終弁論で、「すべての人をしばらくの間愚弄するとか、少数の人を常にいつまでも愚弄することはできます。しかしすべての人々をいつまでも愚弄することはできません」と、リンカーン米大統領が奴隷制度廃止に関する演説(1858・9・8)の一節を引用して、「情報公開」を迫ったことを想起し、最高裁に持ち込まれた「密約訴訟」の成果を見守っていきたい。
 
 (注)情報公開法第1条(目的)この法律は、国民主権の理念にのっとり、行政文書の開示を請求する権利につき定めること等により、行政機関の保有する情報の一層の公開を図り、もって政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに、国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資することを目的とする。
        
 

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