●<近藤 健の国際深層レポート>『米大統領選挙を見る眼―米国の人口動態から見た分析』
見た分析』ー大統領選挙を左右する要因とは何か
ー動員力の問題
近藤 健<元毎日新聞外信部長・ワシントン特派員、元国際基督教大学教授
共和党の支持基盤である保守というよりは反動勢力の支持を得るべく党候補を決める予備選挙で立候補者たちは、テレビ討論やテレビ広告で政策論争よりも互いに相手の人格や弱点の非難合戦に終始し、そのさまは悲劇とも喜劇ともいえる様相を呈している。選挙は、どの国でも、誰が勝つかにどうしても関心が向くのは避けがたいし、メディアも共和党候補はロムニーかギングリッチか、といったいわゆるホースレース報道に傾斜しがちである。
それはそれとして、より注目すべきは、いまアメリカに起こりつつある社会の変動、その選挙そして今後の政治への意味合いであろう。共和党を占拠した観のあるティーパーティ運動、オバマ大統領の「公正な社会」のための「政府の役割」というメッセージ(年頭教書)、などは、この変動にたいするそれぞれの反応ということができる。なぜそういえるのか、今年の大統領選挙をみる一つの視角を提供してみたい。
この調査に基く将来予測では、2041年頃に白人人口は50%を切り、少数派となるとされている。要因は、ヒスパニック系アジア系移民増大と彼らの出生率の高さ、逆に白人の出生率の停滞である。この変化のより著しい現象は、若者の人口構成に表れている。18歳以下の若者人口では、この10年間の伸び率は白人マイナス10%、黒人マイナス2%に対し、ヒスパニック系アジア系はプラス38%、その結果、現在の若者人口の46%強はいわゆるマイノリティ=少数派集団である。現在、カリフォルニア州、アリゾナ州など10州で白人若者は少数派となっている。(因みに、非ヒスパニック系白人が少数派となっている州はカリフォルニア、テキサス、ニューメキシコの3州)。ブルッキングス研究所の人口学者ウイリアム・フレイによるいと、若者人口で白人が少数派となるのは当初2023年と予測されたが、この勢いではそれは2019年ごろにやってくるという。
人口50万以上の大都会地域(メトロポリタン)の郊外住居者の三分の二は依然白人ではあるが、史上初めてこの地域ですべての少数派集団の過半数が中心都市でなく郊外に住むようになっている。すなわちアジア系の61.9%、ヒスパニックの58.7%、黒人の50.5%が郊外住居者である。この傾向は、60年代の公民権運動以来、居住差別は違法となり、またマイノリテイィの中産階級化が進むにつれて、徐々に促進したが、ここ10年移民たち特に増大するヒスパニック系の落ち着く先は郊外あるいは地方のスモールタウン、農村地域へと広がっている。
要因の一つは、仕事(特に建設業)のある場所を求めての移住である。そうなると白人たちはさらに外に出て「外郊外地」をつくり、そこにもマイノリテイィの進出が著しければさらに外へと向かうという二重三重の郊外化が進み、外へ行くほど白くなる。
税金は誰のためか、資源配分の問題である。周囲を見回して「こんななはずではなかった」と、古くからの白人はつぶやくのである。高齢化の進む白人層と、若くて貧しい非白人の若者の急増という、世代間ギャップ。生活習慣、異質なものへの寛容度、異人種結婚、価値観の相違という文化摩擦などなど。これは州政府、連邦政府の政策選択と直接かかわってくる。例えば、急速にヒスパニック人口が増えているアリゾナ州の共和党知事は、不法移民徹底的取締を主張する。
また、彼が本物の「アメリカ人」ではないというオバマ攻撃は、ギングリッチ共和党候補をはじめ保守派が言外ににおわせていることである。ティーパーティ支持者のこのようなパーセプション、不満と不安は、運動支持者とのインタヴューに如実に顕示されている。たとえば、63歳の元ダンス教師は、すべての人が医療保険加入を義務付ける改革法(民間保険へ加入、低所得への補助など。日本のような政府管掌あるいは組合管掌の皆保険とは異なる)は、ごく少数の恵まれない人びとを助けるために多数者から奪い取る誤った考えといい、年配の男性は「俺は、無から出発して生活を築いてきた。
だから他人の何者かがおれのポケットに手を突っ込んで金をとって、何の努力もしないものに与えるなんて許すつもりはない」という。努力しない他人の何者かとは、貧困者とくに黒人、ヒスパニックを暗に指す。税金が彼らの生活保護などの援助に使われることへの不満である。
だが選挙において、政策論争において人種の要素はずうっとつきまとっている。共和党予備選挙で、ロムニー候補の決め台詞は、オバマ大統領は「受給権社会entitlement society」 を創ろうとしている。この選挙は「アメリカの魂」を守るかどうかの選挙だ、というものである。ロムニーのいう「受給権社会」とは、生活保護とか貧困者むけの食料切符、医療保険補助などを支給される権利を保障する社会をさす。ロムニーのいう「アメリカの魂」とは、自助精神、成功失敗は個人の努力と能力次第、自由市場尊重を指す。これは、アメリカ保守の伝統的な主張だが、「受験者社会」と対比させたところに、受給者は黒人やマイノリテイィであり、その負担は誰がするのかという暗示である。
III.大統領選挙を左右する要因 動員力の問題
つまり、民主党にとって、この支持層をできるだけ投票させることが、勝利につながる。ところが、若年、低所得者の投票率は常に相対的に低い(どの国で同じ傾向)。オバマ大統領は、経済不況、失業、生活不安が広がる中で、08年と同じ様な熱意をこの層に掻き立てることができるだろうか。共和党の一般的強みは男性票(ウオーターゲート事件後の76年、第三党個候補がいた92年を除く)、それも白人男性票を72年以来一貫して相対多数を獲得している。〇八年でも55%を獲得した(男性全体ではオバマ49%、マケイン48%)。ここで注目されているのが、年収3千ドルから7万5千ドルで教育水準は高校までという白人労働者階層である。
この層は、08年でも52%対46%でマケイン共和党候補がオバマに勝っている。実のところ、70年代から、すでに指摘した収めた税が誰のために使われるかという保守派の言説に左右され、共和党寄りの傾向を強めてきた層である。しかし、争点が、「ウオール・ストリート占拠」に示されたような、所得格差の拡大、公正の問題に移るとすれば、彼らの票がどう動くか、共和党にとって大きな懸念である。自党支持に向けどう動員できるか、場合によっては選挙を左右する。彼らは、経済不況にもっとも打撃を受けている人々である。このように、それぞれの潜在支持者をどれだけ自党に投票させるか、投票率が低いだけに、1~2%の底上げはきわめて貴重である。(数字は出口調査から)
しかし、大学院までの経験、経歴からはオバマのほうが庶民に近い。オバマの大統領としての支持率は40%半ばを行き来して決して高くないが、オバマ個人の好感度は比較的高い。2012年1月のピュー・リサーチ調査では、オバマの好感度と非好感度は51%対45%である。これにたいし、ロムニーのそれは31%対45%。もちろんこの数字は本番選挙になって変わるかもしれない。ロムニーの父親はミシガン州知事で、60,70年代の共和党実力者の一人。いわばなんの不自由もなく「乳母日傘」で育った息子のロムニーは、会社買収を専門とする金融ファンド経営で2億ドルを超える財産を作った。「庶民を知らない」という批判が、予備選の段階で同じ共和党内から出ている。これが、本番選挙でどうでるか、まだわからないが。
さらには「大きな政府」か「小さな政府」か、である。こうしたに二項対比は現実の選択としては不毛であり間違っていると批判はできても、単純なだけに明快でわかりやすい。日本の小泉政権時代にいわれた「ワン・フレーズ・ポリティクス」の類である。白人層の不安、不満を味方にするスローガンといえる。そして、具体的には、経済大不況、高い失業率はオバマの失政とする攻撃となる。
一方、オバマ大統領は、1月24日の一般教書で、公正な社会を唱え、貧富・所得格差是正のための政府の役割を「スマートな政府」という表現で訴えた。オバマのこのより公正で平等な社会をという語り口は、実のところ、08年の選挙運動中から首尾一貫していることに、むしろ驚きを感ずる。医療保険改革、金持ち優遇を是正する税制改革、学校格差・学力格差縮小の教育改革などは、09年の一般教書や予算教書をはじめ、その後、折り触れて、語っている。
ただ、2010年の中間選挙でねじれ議会となり、共和党の何でも反対のオバマ下し戦略で実現できず、またオバマ自身の融和を目指す政治姿勢から、共和党と直接対決する言動を避けてきた。これが、リベラル派の不満の種になってきたが、選挙が近づくにつれ、昨年末から対決姿勢を強めている。「ウオール・ストリート占拠」に刺激されたこともあろう。ただし「スマートな政府」は、単純明快ではない。税制改革、インフラ整備の公共事業といった説明を付けざるを得ないところに、リベラル派の語り口の浸透能力が試されているといわれるのである。
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