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『日露インテリジェンス戦争を制した天才参謀・明石元二郎大佐』⑦終 『ロシア革命影の参謀、レーニンとの関係、ロシアの国情分析』

   

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『日露インテリジェンス戦争の情報将校・明石元二郎』⑦終

『ロシア革命・影の参謀、レーニンとの関係、ロシアの国情分析

                 前坂俊之(ジャーナリスト)

 

明石大佐とレーニンとの関係ーロシア観察の大要-

日露戦争当時、その特殊任務を見事にこなし、影の世界で活躍をした明石大佐は、ロシアの国情をくわしく調査し、これを本国に報告したが、その結論はまさに次の一文からうかがうことができる。

「ロシアの前途を観察すると、悲観派と楽観派と多少その見解を異にするが、その差は政府の力を推論する軽重にあるだけで、積年の弊害で政府は著しく腐敗し、政党は国家主義を脱して、偶人主義へと発達することは争えない事実である。

ロシアは、1億3千万の人口を有するといえども、その1億3千万の人口は数を示すのみにて実力を示すものではない。なんとなればポーランド、フインランド、コーカサス、バルチック諸国のような植民地の民も入った数字なので、ロシアに対しての反発、憎悪は根深く、対立感情があり、ロシア人そのものも各個各別に相争っている民族なのだ。

独り民間において然るのみならず、宮中、内閣一としてまとまった、団結心はなくバラバラの政府で、開戦前においても明かにその事情を示す所にして、これはロシア人の先天特質性というべきものだ。

昨年11月15日、ロシアびいきのフランスの「エコールド・パリ」の記者とキリシル親王との問答の如きまた之を見るに足る。親王いわく「予が侍従武官の職を奪われ、他郷に流宿する何んぞ問うに足らんや。皇室典範は予が職を奪うべきの箇条を掲げず。而して予は流浪の人となる。予は唯ロシア国の前途を憂うるの他なし。忠誠なる我父王ウラジミルは今や斥けられ、国務大臣はわれのかって姓名をだに聞かざる徒のみを以て其席を充たす。あに云うに忍びんや」と。

ロシア皇帝の従弟にしてかくの如し。宮中政党の多くも同じ状態。役人がワイロと収賄のまみれた腐敗の極致にあるのは世界に有名である。定論の存するあり.

この如きの国民なので不平の徒(革命党)が生まれるの当たり前である。ヘッテルが処刑される寸前に「我死すとも後世必ず志を遂ぐものあらん」と絶叫した如く。不平の空気、革命の胎動は絶えることがないのです。

歴代の政治的な腐敗、混乱は、その極に達するのみにあらず、遠くさかのぼってこれをみれば、ロシアのツアー帝国は実に脆弱なる基礎の上に立てられているのです。

此の如く脆弱なる帝室、腐敗せる政府を戴けるロシアの国民は、馬のごとく、羊のごとき無智の徒にして、ヨーロッパ・アジアの大帝国は荒漠たる牧場であるといっても過言ではありません。

ところが1700年代より、ヨーロッパに吹き荒れた自由の波は、或はフランス革命となり、或はスペインの革命となり、イタリア、スイスを犯し、ベルギー、オランダを掠め、ライン河を越えて、社会主義の潮流は年毎に、激烈にドイツ帝国を襲うに至り、どうしてロシアに入らないことがありましょうか。浅波の堤防がある此境内において、波勢はその形を変じて、一層の険悪な波と化します。

これはツルゲーネフ、バクーニン、チヤイコフスキーらの議論を、ドイツのベーベル、フランスのジオレス、クレマンソー等に比べれば、更に幾層の激烈さを加えた論議です。ロシアは大国です。故に全ロシアに自由及社会主義の伝播は、むしろ緩慢であっても、隣国がこれに侵されている今日、ロシアひとりその運命を免れることはできません。同じような険悪なる改革主義はこの国土に蔓延するにいたるでしょう。

人民は飢えに泣き、蒙昧にして迷い易く、愛国心に乏しきなどの、これに抵抗する素質を欠いているからです。既に未来といはず、現時点でさかんにその伝播を見る。いわんや形式に過ぎなくても、憲法の発布したものもある。もし自由党の主張する総投票が早晩行われれば、これが皇室瓦解の始めとなる。何んとなれば、職工と農民とが最も多く支持する両社会党は共和政治を目的としているからである。

故に今日においてロシアの取るべき方針は、抑圧主義の外、他に方法はない。しかれども政府の力がこれに堪えられるかどうかが問題です。題たるのみならず、既に憲法制度を採用するといっても、竜虎の勢がこれで変更できはしない。ただ、抑圧主義をとれば一伸一縮の間にその寿命がわずかに伸びるというだけの事。この場合においてわすかに一道の光明を宿すものは、自由党が意思貫徹後、食足りて満足するにあるも、諸党の如き多数の異分子を含むもの、かかる困難の時が来て、果して食止めることができるかは難しいと思う。故にロシアの前途は暗黒なり。

しかし、すべての学者が論じる如く、ロシアの皇帝政治と威圧主義は、原則として分離できない。車の両軸なり。故に皇帝政治の続く限りは兵力を維持せんと務めるので、我が国はこれに対する兵備を決しておろそかにしてはならない。

ロシアの取る手段は常に大胆である。既に今回の日露戦争をみてわかるように、宮城に襲撃を受けるまでは地方の反乱も、官有地の侵略も、宮林の押領も、ことごとく眼中に置かず度外しし、百難を忍び、戦線に兵力を増強することにしていく。

不平党(革命党)の言に、ロシア皇帝はその民を愛し、その国守るのではなく、その身を愛し、その宮城のみを守る君主であるというもの。それは真理なり。故に宮城を攻められない限り、無理算段して兵力を増加するので、我兵力の充実は今日も今後も緊急の課題である。

世人往々云う、バルカン半島の乱はロシアには苦痛を与えるだろう。苦痛は或はあるだろう。しかし、このようなロシアに取って縁辺遠き事は、その極東経営を妨げるものではない。故に皇帝政治の続く限りは、これに応ずる兵力の充実は必要なのである。

また、今日眼前においては、更に偶然の成行より来るべき結果を顧慮するもことも無益ではあるまい。極東より、内政混乱のため、還送を躊躇せる数十万の兵士を開拓兵として状勢に変化せることがこれである。これは自然国境防備の力を増加することになる。如何に腐敗するもロシアは、内地に、国境に、強大の兵力を有す。深くこれに備える道を講ぜべきである。

――――――――――――――

このように、明石大佐のロシア観は、まことに洞察深き卓見ともいうべきものである。いかにその鋭い感覚と理性とをもって、的確にロシアの未来を予見していたかを知ることができる。

レーニンとの交遊―

明石大佐は、社会党の一首領してのレーニンとは、日露開戦前から親しく交遊する間柄であった。

レーニンは一日、明石大佐にたいし、大衆運動を起こす場合の心得を説いて「武器を手にしてはならない。武器を手にしない騒乱はいかなる暴虐な官憲いえども、これをどうすることもできない。もしこちらが武器を用いれば、これを鎮圧する方でも必ず武器をもって応えるであろう。その結果は、結局われわれにとって不利である」と語った。

レーニンは目的のためには手段を選ばない非情の人間のようにもみなされているが、その本質はあくまでも自分の主義には忠実であり、それに生命をかけ私利私欲に溺れることがなかった。

かくて明石大佐はかれの将来を洞察し、当時ある親友に向って「革命の大業を成就するもの一は、あのレーニンであろう」と語ったといわれる。

またあるとき、将軍が葉巻をくわえていると、それはあまり上等のものでもなかったのに、居合わせたレーニンがそれを見とがめ「君はなかなかりっばな煙草を吸ってるなあ」といった。

将軍はこの一言を解釈して、かって第三者に語っていうのに「多数の部下を率い、時に多数の労働者らの上に立つ身分になっては、1本の煙草にせよ、細心の注意をせねばならぬということだ」と。

 ー明石大佐の社会主義評-

明石大佐は近時の思想をのべた論文の中で、社会主義の恐るべきこと、その空想性を指摘したのち、

「思うに、かかる思想をもって一国の主権者となれるは、東西古今わずかにかのレーニンを出せるのみである。そしてこのロシアで革命が成功したのは、ロシアの性格によること大きく、一般に考えられるほど普遍的な思想の成功ではない」とのべている。

ロシアに入った過激思想は、次第に培養され、まずかれらの思想の実行に最も便宜な道具である労働者を自己陣営に引き入れ、ついに欧州大戦を機として、労働者に加うるに兵卒をも抱き込み、一九一七年二月をもって、ペテログラードに革命の煙火をあげ、ついにロシア政府をくつがえした。

明石大佐はこのロシア革命を陰で動かした重要人物であったが、その世界史をかえたスパイ活動について、世界でもそうだが、肝心の日本ではほとんど知られていない。また、日本では「ゾルゲの活躍」は過大に評価され、「明石工作」過小評価されすぎている。

終り

 

 - 現代史研究

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