前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

『中国紙『申報』などからみた『日中韓150年戦争史』㊷「日清戦争への引き金となった上海での金玉均惨殺事件」

      2015/01/01

  

 

『中国紙『申報』などからみた『日中韓150年戦争史』

日中韓のパーセプションギャップの研究』

 

 

 1894(明治27521日 英国『タイムズ』

 

上海の政治的暗殺事件(金玉均惨殺事件)

日清戦争への引き金となった

 

 

 

327日午後,上海で発生した朝鮮の元首相,金玉均の暗殺事件にまつわる事情は,この事件が政治的暗殺事件史上,たとえ東洋においてもまれに見るものであることを示している。

 

今からおよそ10年前,この人物の経歴ならびに,彼の突然の失脚と祖国からの亡命を招いた一連の異様な事件について,本紙で取り上げたことがあった。

しかし.すでに時が経過したので.先ごろ発生した悲劇を説明する上で,当時の経緯をここにもう1度要約しておきたい。

1884124日夜,朝鮮の郵政局総弁は.ソウルに開設された郵政局の開設記念晩餐会に自国の全閣僚のみならず,各国の公使,領事を多数招待した。午後10時ごろ,会場に聞入してきた男が,外で火事が発生していると通報した。権勢を誇る氏一族の有力者の1人が.招待客に心配させまいとして様子を確認すべく席を立った。そして建物の外の通りに出たとたん,刀を持った暗殺者の一団に襲われ,重傷を負った。招待客は混乱のうちに散会し,その夜のうちに朝鮮の大臣7人が暗殺された。その後,直ちに発足した新政権の首相が,このほど上海で暗殺された金だった。

 

その翌晩.中国の駐在官とその軍勢の扇動.支援を受けたといわれる民衆が新内閣を打倒し,数人の大臣を殺害した。金と2人の大臣は,日本の協力を得てソウルの港,済物浦に逃れ,日本へ渡った。国王に支援を求められて宮廷を占拠した日本軍は.暴徒や中国兵に包囲され.かろうじて自国の軍艦の待機する済物浦にたどりついた。

 

その後の外交交渉に関しては,すでに周知のとおりだ。この血なまぐさい争いは,表向きは金と,そして権力の座にある氏一族との間でくり広げられたものだが,実際に敵対していたのは,使節として東京に派遣されたことのある金を支援する日本と氏の後ろ盾となった中国だった。問題は.朝鮮の野望に燃える両勢力のいずれが権力を掌握するかということではなく.中国と日本のどちらがこの朝鮮半島で優位に立っかということだった。

 

結果は,朝鮮の激動の歴史に残る前回の事件と同様.この事件で

も中国とその恐るべき駐在官,袁世凱が勝利を収めた。金は亡命者として日本にとどまり,日本政府の扶助を受けていたが.政府に、もてあまされるようになってからは,当時日本に併合されたばかりのボニン【小笠原】諸島と呼ばれる太平洋のはるか沖の孤島に追放されていた。

 

今から数年前,東京に戻ることを許されて後は,比較的ひっそりと

暮らしてきたが,今回の悲劇で再び世の注目を浴びることになった。

 今となってみれば,彼は常に暗殺の危険にさらされていることを自覚していたものと思われるが,日本政府当局による保護態勢が整っていたことからすれば,日本にとどまっている限り.少なくとも命が保証されていたことだけは確かだ。彼がなぜ中国訪問の誘いに乗ったのかは判明していない。一説によると,東京で知り合った李鴻章の息子の招きで中国旅行に出たという。

いずれにせよ,金は326日,日本から汽船で上海に到着した。彼に同行したのは,長年,行動を共にした日本人の従者と東京の中国公使館通訳の呉,そして,洪という名の朝鮮人だった。一行は皆日本名をかたって旅し,上海の大きな日本旅館に投宿,洋装の日本紳士風で.いかにも親しげにしていたという。

 

327日の午後.呉が宿を離れると,浜は日本人の従者を使いに出した。こうして金と洪の2人が後に残り,金はベッドに横になっていた。

 

このとき洪は拳銃を抜いて発砲したものと見られる。銃弾は金の左頬の上部に入り込み.なにごとかとベッドから振り向いたとおぼ

しき金は腹部に2発目を浴びた。

 

このとき彼は廊下伝いに逃げようとしたようだが,あとを追いかけられて3発目を左肩甲骨の下に浴びた。金は階段の上で倒れ,銃声を聞きつけて駆け上がってきた人々に血だまりの中で発見された。洪はその間に逃走していた。殺害された人物と殺人犯の着衣の取調べから,彼らの身元が判明した。

 

翌日.外国人居留地の警察が,汽船で逃亡してきたものと思われる洪を上海川河口のウースンで逮捕した。その懐中からは,彼が普

通の犯罪者でないことを示す多くの文書が発見された。洪は数年間,パリのセルパントル・ホテルに滞在し,著名人とも手紙のやりとりをしていたようだ。

 

ヤサント神父や身内からの手紙が発見されているが,そのうちの1通.1893722日付のものには次のように書かれている-

「親愛なる友よ,どうか楽しい船旅を。あなたがたに神のご加護のあらんことを祈ります」。

また,フランス当局と取り交わした紹介状も何通かあり,どうやら,昨年7月,マルセイユから東洋へ向けて出立したものと見られている。洪は逮捕されると金の殺害を速やかに認め.それが朝鮮国王の明白な命令を受けての犯行であることを明らかにした。そして,自らの行動についても包み隠さず自供し,殺害後に逃亡したのは,金

の日本人従者の仇討を恐れたからだと説明した。その取調べの間.日本人従者が不審な動きと犯人に対する激しい憎悪を見せたために警察の手で犯人から遠ざけられたところを見ると.その言い分もあながちでたらめではなかったようだ。

洪は後に.ロシアや日本と通じていた金を殺害した者には国王から報奨が与えられることになっていたと言明した。また,上海に到着するまで計画を実行せずにいたのは,金から可能な限りの情報を引き出すためと説明したが,実際は金の友人の多い日本で殺害することを恐れたものと思われる。

 

また.金を日本から中国へおびき出したのは,当局からの共感を得やすい土地で殺害するためだったとも考えられる。洪には豊かな資産のあることが判明した。イギリスのソヴリン金貨14枚を所持していたはか,祖国の銀行にはおよそ5000ドルの預金があった。

彼は1884年.暴徒に八つ裂きにされ,その家族も毒殺された同姓の朝鮮政府高官の一族と見られている。

 金の日本人従者は,遺体に妨腐処置を施した後目本に運んで埋葬することを望んだが.中国は朝鮮当局の要請に応じ,洪の身柄と金の遺体を引き渡した。殺人犯とその犠牲者の遺体は中国の軍艦で済物浦に護送されたが,最新情報によると,犯人は英雄として出迎えられたものの,遺体の方は寸断された上でさらしものにされたという。

この事件が東洋全体にこれほど大きな波紋を投げかけることになったのは.事件にまつわる異常かつ不可思議な経緯と,波乱万丈の血なまぐさい生涯に劇的結末がつけられたことによるものと言えるだろう。

 

 - 戦争報道 , , , , , ,

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

『オンライン昭和史講座/白洲次郎の研究②』★『日本占領から日本独立へマッカーサーと戦った2人の日本人』★『吉田茂とその参謀・白洲次郎(2)』★『戦争に負けても奴隷になったのではない。相手がだれであろうと、理不尽な要求に対しては断固、戦い主張する」(白洲次郎)★『憲法問題の核心解説動画【永久保存】 2013.02.12 衆議院予算委員会 石原慎太郎 日本維新の会』(100分動画)

2013/03/14  /日本リーダーパワー史(368) 『吉田さんに …

no image
 日本メルトダウン(992)-『トランプ氏、キューバ国交再断絶を示唆 「より良い取引」要求』●『イラク派遣隊員29人が自殺 帰還隊員らが語ったPTSDの恐怖』★『“トランプ人事”で地金が見える? 躍起の各国と喜色満面・安倍首相が得た「果実」』●『焦点:債券から株への「大転換」、今回は本物の可能』◎『GPIFに現れた予期せぬ助っ人、収益増へ力強いレバレッジ効果』◎『ゆがむ韓国経済、財閥偏重の「疑似資本主義」が迎えた限界』●『東芝がまた不正会計、ついに「監理銘柄」入りか』

 日本メルトダウン(992) トランプ氏、キューバ国交再断絶を示唆 「より良い取 …

no image
★『地球の未来/明日の世界はどうなる』< 東アジア・メルトダウン(1080)>『トランプ対金正恩の「悪口雑言」で米朝開戦 となるのか?』★『ロケットマン×過去最大級の水素爆弾の実験と応酬』●『「第3次大戦の危機もたらす」有力議員がトランプ氏批判 』

  トランプ対金正恩の「悪口雑言」で米朝開戦 となるのか? 「『HUF …

no image
日本リーダーパワー史(738)『大丈夫か安倍ロシア外交の行方は!?』(歴史失敗の復習問題)『プーチン大統領と12/15に首脳会談開催。三国干渉のロシアと「山県・ロマノフ会談」の弱腰外交でていよくカモにされた②

 日本リーダーパワー史(738) 『大丈夫か安倍外交の行方は!?』 -プーチン大 …

no image
『リーダーシップの日本近現代興亡史』(218)/日清戦争を外国はどう見ていたのかー『本多静六 (ドイツ留学)、ラクーザお玉(イタリア在住)の証言ー留学生たちは、世界に沙たる大日本帝国の、吹けばとぶような軽さを、じかに肌で感じた。

 2016/01/28 /日本リーダーパワー史(651)記事再録 &n …

no image
『各国新聞からみた日中韓150年対立史②』日韓第一次戦争(1882年の京城事変、壬午軍乱)の『朝日」などの報道

 『各国新聞からみた東アジア日中韓150年対立史②』   ● …

no image
 日本リーダーパワー史(826)『明治裏面史』 ★『「日清、日露戦争に勝利」した明治人のリーダーパワー、 リスク管理 、 インテリジェンス㊵』★『ナポレオンも負けた強国ロシアに勝った日本とはいったい何者か、と世界各国の人種が集まるパリで最高にモテた日本人』★『レストランで「あの強い日本人か」「記念にワイフにキスしください」と金髪の美女を客席まで連れてきて、キスを求めたかと思うと、そのうち店内の全女性が総立ちで、次々にキスの総攻撃にあい、最後には胴上げされて、「ビーブ・ル・ジャポン」(日本バンザイ)の大合唱となった』これ本当の話ですよ。

   日本リーダーパワー史(826)『明治裏面史』 ★ 『「日清、日露 …

no image
現代史の復習問題/「延々と続く日中衝突のルーツ➈』/記事再録『中国が侵略と言い張る『琉球処分にみる<対立>や台湾出兵について『日本の外交は中国の二枚舌外交とは全く違い、尊敬に値する寛容な国家である』と絶賛した「ニューヨーク・タイムズ」(1874年(明治7)12月6日付)』

2013年7月20日/日本リーダーパワー史(396)   中国が尖閣諸 …

no image
日本の「戦略思想不在の歴史⑻」「高杉晋作のインテリジェンスと突破力がなければ、明治維新も起きなかった。

●「高杉晋作のインテリジェンスがなければ、 明治維新も起きなかった。 古来密接な …

no image
F国際ビジネスマンのワールド・ニュース・ウオッチ(238)ー『サウジ執行部とトランプは益々窮地に追い込まれています。』★『MBS(ムハンマド皇太子)とネタニャフの二人が一遍に失脚すると、米の対イラン戦略は完全に 空洞化します』

風雲急を告げる中東情勢 ≪F国際ビジネスマンの情勢分析≫ CIAによる、MBS殺 …