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野口 恒のグローバル・ビジネス・ウオッチ①『パナソニックの瀕死の重体の決算内容。事業構造を変革なくして赤字脱却は困難』

   

野口 恒のグローバル・ビジネス・ウオッチ①
 
『パナソニックの大幅赤字、瀕死の重体の決算内容だ!
事業構造を根本から変えない限り、赤字脱却は難しい』
                                  
   by 野口 恒(ジャ-ナリスト) 
 
 家電大手のパナソニックは、2013年3月期の連結最終損益(米国会計基準)の見通しを500億円の黒字予想から一転7650億円の赤字に引き下げると発表した。
 
前期(2012年3月期)が7721億円の赤字だったので、わずか2年間に1兆5000億円以上の大幅赤字を計上したことになる。この決算内容は、人間の健康状態に喩えると瀕死の重体に相当する。
 
「当社は普通の会社ではないと自覚するところから始めないといけない」と津賀一宏社長が言うように、普通の企業なら倒産してもおかしくないほどひどい内容だ。株主への年間配当も1950年5月以来63年ぶりにゼロ(無配、前期は10円)に転落した。
 
 すでに同社は2012年3月期に経営再建・黒字決算を目指して「構造改革費用」(下記の項目)7700億円の巨額資金を投入したばかりだ。その内訳は次のとおり。
 
(1)固定資産の減損損失(テレビ事業2700億円、半導体事業500億円)
(2)三洋電機ののれん減損損失2500億円
(3)早期退職一時金1000億円

 
  それにも関わらず、1年後にまた巨額赤字決算だ。2013年3月期決算の見通しは前期に続いて7650億円の大赤字を連続計上することになった。いったいこの1年間の収益回復・経営再建努力は何だったのか。巨額な構造改革投資はまったく効果がなかったということか。経営トップはその責任を厳しく問われても仕様がない。
 
2013年3月期の赤字決算の損失内容をもう少し詳しく見てみよう。
 
(1) 収益回復事業として期待した民生用リチウム電池・太陽電池・携帯電話事業は軒並み想定したほど利益が見込めなかった。とくに、最も期待した民生用リチウム電池は、韓国メ-カ-の価格競争に太刀打ちできず、大幅の事業縮小に追い込まれた。
 
(2) 民生用リチウム電池・太陽電池の事業縮小により、三洋電機の買収で発生したのれん代ほか無形固定資産は減損処理に追い込まれた。
さらに、携帯電話事業ではスマ-トフォンの展開が遅れたことにより、旧松下通信工業買収で発生したのれん代も減損処理を余儀なくされた。これにより、当初三洋電機・松下通信工業の買収(M&A)で期待した成長戦略は完全に破綻した。
 
 
(3) それでは本業の主力製品はどうか。白物家電は中国での不買運動の影響が懸念されるし、またデジタル関連製品・環境関連製品は売上高の見通しが下方修正されるなど、主力事業も不振または伸び悩みである。
とくにデジタル関連製品は薄型テレビ、ブル-レイディスレコ-ダ-、デジタルカメラ、携帯電話など、ほとんどの製品が不振に喘いでいる。(1)(2)(3)などの損失費用により、構造改革費用は前期に続いて2013年3月期も3525億円も計上されている。
 
(4) 構造改革費用の積み増しに加えて、さらに将来の税負担軽減を見込んで計上していた繰り延べ税金資産も4125億円取り崩すことになった。
 
 これら損失拡大要因を見ると、すべてにおいて経営トップの重大な判断ミスと意思決定
の遅れによって発生したものがほとんどである。
 
具体的に上げれば、薄型テレビ事業では液晶よりもプラズマテレビへの巨大投資、プラズマに拘ったことにより液晶テレビへの立ち遅れ、携帯電話事業の展開の遅れ、民生用リチウム電池や太陽電池など電池事業の価格競争戦略の失敗と敗北、三洋電機の買収など甘い見通しとのれん代の評価損。構造改革費用を積み増して「財務的リスクを一掃することで今度こそ膿を出し切る」と津賀社長はいうが、中村・大坪時代の構造改革の取り組みや経緯が何ら検証されず、構造改革の甘い見通しだけが提示されるだけで、次なる成長戦略が具体的に見えてこないことなど。
 
これだけの巨額の赤字決算に転落した最大の責任は、これらすべての事業を決断し、推
進してきた中村邦夫元社長、大坪文雄前社長ら当時の経営トップにある。とくに赤字決算のほとんどが中村・大坪時代の事業失敗やその減損処理に当てられていることを考えると、2人の経営責任はきわめて重大だ。
 
津賀社長はまずもって2人の経営責任を明確にし、度重なる経営判断のミスを連発した「中村・大坪時代の経営戦略の徹底的な否定」から出発しなけばならない。それでないと、社内に後ろ向きの無責任体質が生まれ、真面目で優秀な社員もやる気が起こってこないだろう。
 
とくに中村元社長は、社内で“中村天皇”とさえ言われ、経営判断や人事権限を集中させた超ワンマン経営を行なったことにより、以前のように社員が率直かつ闊達にものがい言えた自由な雰囲気がなくなった責任は非常に重いものがある。
 
 パナソニックは、これまでの事業構造やビジネスモデルを根本から変革しない限り、赤字体質から脱却するのは難しい。家電産業(とくに白物家電)はすでに成熟産業になっており、技術の標準化が進み、製品の差別化も難しく、価格競争が勝負のコモディティ(汎用量産型)産業で、日本の家電メ-カ-が国内・海外市場で中国、台湾、韓国など新興国のメ-カ-と競争して勝ち残るのは難しい。

 

確かに同社の白物家電は営業収益こそ2013年3月期も黒字であるが、ただ白物家電のもの造りだけを見るともはや決して収益性の高いビジネスとはいえない。これからは、もの造りそのものに価値や利益の源泉を求めるのではなく、もの造りの捉え方、価値観、常識を根本から変えることだ。
 
(1) ライフイノベ-ション(消費者の生活革新に役立つ)の実業としてのもの造り
(2) ライフソリュ-ション(消費者の課題解決に役立つ)の実業としてのもの造り
(3) ライフサポ-ト(高齢者などの生活支援に役立つ)の実業としてのもの造り
 
すなわち、これまでのように製品の性能・機能・品質・価格に価値や利益の源泉をおいたもの造りではなく、消費者の生活上のイノベ-ション・ソリュ-ション・サポ-トにより大きな価値や利益の源泉を求めるもの造りに大転換すべきである。
幸いなことに、この分野はパナソニックを始め日本の家電メ-カ-の得意とするところであり、中国など新興国がまだ手をつけていない分野である。
IBMやアップル社が、物理的なもの造りからソリュ-ション・アプリケ-ションの実業としてのもの造りに価値や利益の源泉をおいたメ-カ-に大胆に変身したように、パナソニックがどこまで企業変身できるかが生き残りのカギを握る。
 
(1)(2)(3)の視点から、今後有望と予想されるのは、製品寿命が長く、消費者の生活インフラに密着し、新興国に比べて競争優位性があって、利益率も高い冷蔵庫・空調・照明・メンテナンスサ-ビスなどの分野であろう。それと新たな市場の開拓だ。 
 
今もっとも大切なことは、もの造りの価値観や常識を大胆に変えることだ。
 

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