●クラスター爆弾の非人道性と日本の姿勢
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平成15 年6 月1 日号 新聞通信調査会報 <プレス・ウオッチ>
●クラスター爆弾の非人道性と日本の姿勢
池田 龍夫 (ジャーナリスト)
対人地雷禁止条約に基づいて、日本が一九九九年から進めてきた地雷約百万個の
廃棄処理が終了した。イラク攻撃をめぐり国連安保理で激論が展開されていた二月
八日、小泉首相出席のもと滋賀児新旭町で行われた最終処理式で、世界に先駆けて
日本の良心を鮮明にしたことを評価したい。
九九年三月発効した対人地雷禁止条約は「日本の軍縮外交の柱」となるもので、現
在百三十一カ国が締約しているものの、米国、ロシア、中国などの大量保有国が加
盟していないため〝地雷廃絶の道″はなお険しい。世界の核軍縮・核不拡散の悲願
達成はさらに厳しい国際情勢だが、せめて通常兵器削減・規制への努力は続けなけ
ればならない。
1・防衛庁「第二の地雷」購入
国連安保理でのフランス、ドイツ、ロシアなどのイラク大量破壊兵器査察継続の主
張を拒否して米国が戦争に踏み切った結果は、米国の勝利の陰に深刻な国際的不
安要因を残した。
当初の戦争目的だったイラクの大量破壊兵器はいまだに発見されないばかりか、非
人道兵器使用によって多数のイラク民衆が犠牲になったことは、〝無謀な戦争〟の
実態をさらけ出した。大量破壊兵器は「核兵器、化学兵器、生物兵器」と一般に定義
されているが、クラスター(収束)爆弾など大量殺戟兵器が野放しにされている現状は
憂慮に堪えない。
クラスター爆弾は、親爆弾から二百個以上の子爆弾をばらまく兵器で、広範囲、無差
別の殺傷力を持つ。しかも、子爆弾の二割から三割が不発弾となるため、「第二の地
雷」と恐れられている。
直接の被弾でなく、不発弾による民衆の犠牲は後を絶たず、戦争が終わった後でも、
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手足を失った子供たちの惨状が頻繁に報道されている。
まさに 「第二の地雷」 である。そのクラスター爆弾を、航空自衛隊が1987-200
2年度の16年間で148億円分も購入し、保有しているとの報道にがくぜんとさせられ
た。「対人地雷廃絶」の先頭を切った日本政府の姿勢は何だったのか。
「毎日」四月十七日朝刊のスクープに、衝撃を受けた人は多いだろう。
同紙の報道によると、一九九〇年当時の単価は約一万四千ドル(約百七十万円) で
空自の保有数は数千個と推計されるが、予算書に「弾薬」と一括計上されていたため、
一部の防衛関係者以外は知る由もなかった。驚くべきことだが、朝日十七日夕刊以
外の他紙が後追い報道しない姿勢も不可解だ。
2・非人道的なクラスター爆弾
「クラスター爆弾の非人道性を防衛庁が認識していないはずがなく、指摘されるまで
黙っているのはおかしい。不発弾は最大3割あり、戦場に残って多くの非戦闘員に被
害を与えている。日本は対人地雷の処理を率先して行ったのに、首尾一貫しない。国
会には予算委のほか決算委もあるのに全く機能していないことも今回のことで明らか
になった」と、前田哲男東京国際大教授が指摘(毎日4・18 朝刊)する通りだ。
四月十八日の「衆院武力攻撃事態への対処に関する特別委員会」で石破茂防衛庁
長官は、「敵が侵攻した場合に使うもので、他国住民を非人道的に殺傷する目的での
使用は想定していない」と苦しい答弁。
対人地雷を廃絶した日本が「第二の地雷」を保有する矛盾は明らかで、「クラスター爆
弾購入の経緯を精査して、今後の対応(廃棄を含め)を考えたい」とでも答弁すべきで
はなかったか。
米国も加盟する特定通常兵器条約で、クラスター爆弾を「非人造兵器」として規制し
ようとする交渉が三月から始まっていたのに、イラク戦争での大量使用は許せない。
報道機関は「この無法」を徹底的に糾弾しなければならない。
3・ 毎日カメラマンの爆発事件
「戦争報道」は、戟場の危険ばかりでなく、記者個人の資質と各報道機関総体の姿
勢が問われる。
この点で、毎日新聞カメラマンが所持していた手荷物から爆破物が発見され、点検中
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に死傷事件を引き起こしたことに衝撃が走った。
五月一日夕 (現地時間) のヨルダン・アンマンのクイーンアリア国際空港。帰国途
中のカメラマンの軽率な行為が、惨事を招いてしまった。戦争取材の緊張から解放さ
れた気の緩みとはいえ、常軌を逸した不法行為の罪は重大である。
イラク国内の道端に散乱していた釣鐘型の物体を拾い、「使用済みで、爆発はしな
い」と思い込んで記念に持ち帰ろうとしたという。石ころを拾うような気分だったのだろ
うか。従軍カメラマンとして戦後も道路脇に放置された〝危険物?〟との認識がなか
ったことは、あまりにも軽率だった。
ヨルダン当局その後の分析によると、釣鐘型の爆発物はクラスター・子爆弾の可能
性が濃いとのこと。当初、日本の軍事専門家も判断を下しかねていたもので、「第二
の地雷」 の危険性を持つ子爆弾なら、その爆破物自体のニュース性は高かったは
ず。
それだけに、カメラマンの着眼点がよければ、クラスター爆弾の危険な正体を告発す
る取材につながったと推察でき、爆発事件とは全く逆の〝特ダネ″を生んだとも考え
られるのである。
毎日新聞社は、社長ら幹部がヨルダンに急行して謝罪と原因究明に当たったが〝
異常な戦争報道の一断面″との認識を持ち、報道機関全体への教訓として危機管
理態勢の整備、記者教育拡充に臨むべきである。
毎日新聞は五月十日朝刊で二ページ全面を割いて「検証・アンマン空港爆発事件」
と題する詳細な報告を行った。この中で、柳田邦男氏 (毎日「開かれた新開委員会」
委員) が提起した一文は特に説得力に富み、参考にすべき問題点が多いので、一
部を引用させていただく。
4・はまった落とし穴
「平穏な日常では想像の困難な戦場という『異次元空間』では、人間の感覚や判
断力が異常になってしまうものだ。爆発物の残がいを拾う心理、それを持ち歩き仲間
に見せる心理、『記念品』にしたくなる心理、セキュリティーを通れると思ってしまう心
理-数々の『落とし穴』にはまってしまったのはなぜか。
それらの 『落とし穴』 は、裏返してみれば、事件を防ぎ得たチェック関門だったはず
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なのに。……戦争、ゲリラ活動地域、テロなどの現地取材のあり方について、日本の
メディアはこれまで外国のジャーナリストたちの経験から学ぼうとする発想が欠けてい
たと言える。手取り足取りのマニュアルを作れというのではない。
取材活動の根本的な心得、何が起こるかわからない『異次元空間』における予想もし
ない事態に対する基本的なハンドブックが必要ではないかということだ。
……報道人はたとえ他社の失敗であっても、そこから得られる教訓をわが身の問題
として内面化すること。当然、失敗の調査・分析結果の公表が前提となる。このような
対応が定着したら、日本の政治、行政、企業などの情報公開にかかわる文化的風土
を変革する強力な刺激剤になるだろう」
4・ 日本独自の軍縮政策を貫け
クラスター爆弾に関連する2つの主題を考察したが、劣化ウラン弾、バンカーバスター
爆弾など新型兵器の脅威も見逃すわけにはいかない。世界の市民の多くは「大国が
率先して軍縮の音頭を取り、戦争を回避すべきだ」と願っている。
しかし、二十一世紀に入ってからの世界は、新たな「パワーゲーム」に突入したような
様相を深めている。米国は二〇〇二年初め、戦略核兵器削減の方針を打ち出したも
のの、戦術核兵器については、地中深くにある標的を破壊するための新たな核兵器
開発・製造の可能性も示唆されている。ブッシュ政権はCTBT (包括的核実験禁止条
約)を依然批准せず〝死文化″を狙っていると勘繰れる。
日本はCTBT をはじめNPT(核拡散防止条約)、化学兵器禁止条約、生物兵器禁止
条約を批准、対人地雷禁止条約など小型武器規制に外交努力を続けている。非核三
原則を国是とし、武器出を行っていない国として、独自の軍縮外交を期待したいところ
だ。だが、「地雷廃絶」を達成しながら、クラスター爆弾保有の矛盾が今回明らかにな
った。
中東の戦火が一応終息したのに、自衛隊イージス艦のインド洋での給油を11月1日
まで延長した政策判断もおかしい。米国の外交圧力で揺れ動き、政府内に統一され
た安全保障政策のないことを物語っているのではないだろうか。日本独自の外交路
線の確立こそ急務であろう。
<池田氏は元毎日新聞東京本社整理本部長、新聞研究室長、紙面審査委員長 >
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