前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

『Z世代のための日本近現代興亡史講座(下)』★『「日露戦争の日本海海戦で英海軍ネルソン提督を上回る完全勝利に導いた天才参謀・秋山真之のインテリジェンス②』★『ジョミニ(フランスの少将)、クラウゼヴィッツ、マハン、山本権兵衛の戦略論』

   

 
ロシア海軍を視察、極秘中の極秘の「一等戦艦の図面」を1分間ほど見せてくれたが、秋山はすぐ便所にはいる。頭に焼き付け設計図の図面、長さ。幅、曲線、鋼鉄の断面の数字を、便所から出てきてから紙を出せといって、全体の図面を転記したという、驚くべき記憶力であった。
 
ロシアに行ったときに、今計画中だという一等戦艦の図面を出して、極秘中の極秘のものを、拡げて見せてくれた。
わたくしと鳥巣玉樹大佐、米内、三宅など五、六人で見ているわけです。鳥巣は、私の級の人で、非常に頭のよい人であった。私などは、こうして見て帰ってくると、なにも覚えていない。
ところが秋山さんは、帰ってくるとすぐ便所にはいる。そしてしばらく考えている。便所から出てきてから紙を出せという。そこへ図面を書く。長さと幅の比例とか、曲線の具合とか、断面の鋼鉄の具合とか、よく覚えている。
 
だいたい今日見たロシアの計画の線、どうかね、みんな覚えているかね」というと、だれも覚えていない。あの一分か三十秒の間に、ナポレオンみたいに、秋山さんの頭がくるっとまわって、体操するようなものだろうと思うのである。
 
 あの頭の働き具合はわれわれの知っている海軍の先輩のうちでは、秋山さんひとりの持ちものであった。要点が五つか六つあるのを、それをくるっと頭の中で電燈のようにまわすのである。そして覚えていて、図を書くのである。
 
 それから、ドーバー海峡に戦争中に防潜網が敷設されていた。ドーバーに司令部があって、ヴィコン子中将がいた。ここの防備施設はイギリスの現役の将官でもはいれなかった。秋山さんとわれわれもはいれない。
ところがヴイコンテー中将というのは、わたしらが「三笠」で少尉で行っていたときに大佐で、はじめてイギリスが潜水艦五隻をヴィカースで造ったときの監督官だったから知っていた。
 
そこでドーバー海峡の防備図面を出して見せてくれた。ほんの一分か二分。帰ってきてから、これを秋山さんが書いた。この辺から曲がって、こっちを向いてと、あの頭の働き具合というものは、ちょっと普通の人は、まねのできることではない。そのような頭の働き具合であった。
 
 秋山さんは本当に偉いりっぱな人でして、そして、アメリカの海軍から、図上清習、兵棋演習を学び、それから海の上にスクエヤーを書いて地点を作る、ああいったようなやり方を導入して・日本の海軍の兵術の基礎を植えた人であった。
(昭和四十一年十一月二十一日講話)
 
今度はジョミニについて話す
 
秋山将軍は海軍大学校で、私たちの教官でした。ジョミニ(フランスの少将、後にロシアの陸軍大学校の創設者)の名はよく出されましたが・クラウゼヴィッツの話は、されたことはありませんでした。
 これは、ジョミニの言葉なんですが、「ひとことで言えば、戦争は学(science)ではなくて、術(art)である。笛を吹いたり、相撲をとったり、テニスをやったりする『わざ』と同じである」と、くどく言っております。
 
 さらにもうひとつ、よいことを言っております。
 
知識」というものと、熟練というものは、まったく違った二つのものである」。
 
例えば相撲をとるのに、こういう手を使えば、うまくいくということは知識であるが、やってみて、うまくいくか否かは、能力ではなくて技であるというのです。
 ジョミニは「野球でもテニスでも、こうやればこうなるというのは知識(knowledge)であって、それが、そのとおりうまくいくかどうかということは、熟練による技(Skill)であり、これはまったく別個のものである」。
簡単なことですが、ジョミニの言葉はなかなか味があります。
 
ところで、ジョミニも、クラウゼヴィッツも歩いた道は、よく似ておりまして、両方とも本国では、あまり重用されませんでした。ジョミニは、ナポレオンの参謀長のベルティエという人と非常に仲が悪く、両人とも知恵があって、偉いのですが、謙虚さがなく、お互い張り合って対抗していたので、ナポレオンも仲裁に困り抜いていたものでした。
 
 ジョミニはフランスでは少将以上には昇進できないと思い中途からロシアの陸軍に行き、ロシアの陸軍大学校の創設者になり、ロシアの位では大将にまでなったのであります
 
 クラウゼヴィッツもまた、プロシャの軍隊では偉いところまでいかず、ジョミニと同じ時機にロシアに行き、ロシアの軍隊に入ったのであります。クラウゼヴィッツの師は、ドイツの名将シャルンホルストです。クラウゼヴィッツは、『戦争論』という本を書きました。これは、彼が書きためてしまってあったものを、夫人が夫の死後に、その本を発表して全世界にセンセーションをまき起こしたものです。
 
クラウゼヴィッツ批判
 
 ジョミニは・クラウゼヴィッツの本を批評して、
「この本には、哲学や心理の研究があまり多く入り過ぎていて、要するに、説明がくどい。もう少し簡単にはっきりしていないと、読む人のためにならない。ところで、自分の本には、ことを決めるのに、こうすればよいのだという説明には必ずWhatとWhyがついている。だから、私の本を読んだ人は、得るところが多いのではないかと思う」
 
と言っております。ジョミニは「戦争には、兵器がいかに変化し、時代が変わり、場所が変わったとしても、不変の基礎的原則があり、それによって戦争の勝敗が決まるのである」と言っていますが、これはフォッシュ元帥が言ったことと同じであります。
 
 アメリカの参謀思想や、組織、テクニックというものは・ジョミニの教訓のたまものだといわれております。アメリカ海軍の後方連絡(Communication)という思想は、ジョミニの陸上戦の教訓から来ているものであります。マハンは、ジョミニの著書をずいぶん勉強して、ジョミニの理論は、海軍戦略にも適用できるものであると言っております。
 
「日本海軍の父」山本権兵衛について。
 
これは山梨大将の証言ではないが、「日本海軍の父」山本権兵衛について書く。
 

日露戦争』の真の立役者は秋山でも東郷でもない、日本海海軍創設者、海軍CEOの山本ですよ。日露戦争中は海軍大臣となり、また大命を拝して内閣総理大臣たること二回であった。
     

その容貌はいかにも猛将らしく多紫で眼は怪光を放っていた。石坂浩二とはちとばかり違うな。その議会における応酬は、口をヒンまげて相手をねじふせる如く猛虎一声の感があった。昭和十六年七月号『日本及日本人』に代議士・田中善立はこう書いているよ。
 
 「権兵衛の弁舌は有名なもので、快弁満々として何時問でもしゃべり続けて対者を傾聴せしめる。しかし聴いている間は面白くても、後で何を話されたのか、さっぱり解らぬことがある。ことに議会の演説においてそうだった。ある時、副官だった黒井大将がそのことを問うたら、権兵衛は澄ましたもので、議員などというものは揚足を取ることばかり狙っている。
 
なまじ、筋の通ったことをいうと穽が出来ていたりする。いろいろの道具立てだけを並べて見せると、奴等はそれに眩惑してどうしていいか分らなくなってしまうのだ。だから、わざとああいうんだ」といった。
 
 山本内閣時代、『明治天皇まで惑わしたと言われる』隠田の行者・飯野吉三郎が、何やらの護符を三方に載せて縮緬の服紗をかけたものを捧げて高輪の権兵衛邸にきて、「昨夜、国家の一大事について神様のお告があった。よって総理大臣たる閣下にお知らせする。是非とも閣下に御面接したい」といった。
 
そうしたら権兵衛は取次にこう答えさせた。「自分にも昨夜神様からお告があった。飯野吉三郎なるものが行くかも知れぬが、そんなものを相手にしてほならんとの御詫宜だ。神様のお告だから面会は相成らん」とピシャリとやった。飯野も全く歯が立たなかった。
伊藤博文、山県有朋らを手玉に取った杉山茂丸も山本は門前払いして一切会わなかったと言うから格が違うよ。
 
 このように山本はナカナカ面白い一面もあったが、シーメンス事件、また虎の門事件などが起って長く政権を保つことができなかったのじゃな。

 - 人物研究, 戦争報道, 現代史研究

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
★「 熊本地震から2ゕ月」(上)『地震予知はできない』ー政府は約3千億円を つぎ込みながら熊本地震まで38年間の『 巨大地震』の予知にことごとく失敗した。(上)<ロバート・ゲラー東京大学理学系教授の 「地震予知はできない」の正論>

          「 熊本地震を考える」 『地震予知はできない』ー政府は約3千 …

『オンライン/東京五輪講座』★『ロンドン五輪(2012)当時の日本のスポーツと政治を考える』★『日本失敗の原因はスポーツ人と政治家の違い。結果がすべて実力のみのスポーツ人に対して、結果責任を問われない政治家、官僚の“無責任天国”なのが大問題!』

  2012/10/10  日本リーダーパワー史(333)< …

no image
速報(339)◎東アジア安全保障の進化を阻む日韓の歴史問題』◎『橋下徹氏は日本版ポール・ライアンか』 

速報(339)『日本のメルトダウン』   ◎東アジア安全保障の進化を阻 …

『オープン講座/ウクライナ戦争と日露戦争⓶』★『ロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」がウクライナ軍の対艦ミサイル「ネプチューン」によって撃沈された事件は「日露戦争以来の大衝撃」をプーチン政権に与えた』★『巡洋艦「日進」「春日」の回航、護衛など英国のサポートがいろいろな形であった』』★『ドッガーバンク事件を起こしたバルチック艦隊の右往左往の大混乱』

前坂 俊之(ジャーナリスト) 日英軍事協商の目に見えない情報交換、サポートがいろ …

日銀の黒田総裁が27日に日本記者クラブで「原油価格と物価安定」と題して講演し、「PB黒字化は第一歩」財政再建に強い意思を示した

 日銀の黒田総裁が27日に日本記者クラブで「原油価格と物価安定」と題して講演し、 …

no image
『国葬にされた人びと』・・元老たちの葬儀

1 <2005 年4 月> 『国葬にされた人びと』・・元老たちの葬儀 前坂俊之 …

「Z世代のための約120年前に生成AI(人工頭脳)などはるかに超えた『世界の知の極限値』『博覧強記』『奇想天外』『抱腹絶倒』の南方熊楠先生の書斎訪問記(酒井潔著)はめちゃ面白いよ①』南方熊楠の方法論を学ぼう』

   2015/04/30/ 「最高に面白い人物史①記事再録 …

no image
●<記事再録>巨大地震とリーダーシップ②3・11から5年目に熊本地震発生―危機突破の歴史リーダーシップに学ぶ②関東大震災と犬丸徹三(帝国ホテル創業者)

 (記事再録)2011/04/03  日本リーダーパワー史(136)  帝国ホテ …

『オンライン講座/日本国憲法制定史①』★『吉田茂と憲法誕生秘話ー『東西冷戦の産物 として生まれた現行憲法』★『GHQ(連合軍総司令部)がわずか1週間で憲法草案をつくった』★『なぜ、マッカーサーは憲法制定を急いだか』★『スターリンは北海道を真っ二つにして、ソ連に北半分を分割統治を米国に強く迫まり、トルーマン米大統領は拒否した』★『憲法問題の核心解説動画【永久保存】 2013.02.12 衆議院予算委員会 石原慎太郎 日本維新の会』(100分動画)①

  2016/02/27 日本リーダーパワー史(675)『日本国憲法公 …

no image
『ガラパゴス国家・日本敗戦史』⑳ 『日本帝国最後の日(1945年8月15日)をめぐる死闘―終戦和平か、徹底抗戦か⑤』8月13日の首相官邸地下壕

  『ガラパゴス国家・日本敗戦史』⑳     『日本の最も長い日―日本帝国最後の …