『オープン講座/ウクライナ戦争と日露戦争①』★『ロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」がウクライナ軍の対艦ミサイル「ネプチューン」によって撃沈された事件は「日露戦争以来の大衝撃」をプーチン政権に与えた』★『児玉源太郎が指揮した日露戦争勝利の秘訣は軍事力以上に外交力・インテリジェンス・無線通信技術力・デジタルIT技術にあった』
ウクライナ戦争でロシア侵攻作戦の要であるロシア黒海艦隊の旗艦・ミサイル巡洋艦「モスクワ」(約1万2500トン)がウクライナ軍の対艦ミサイル「ネプチューン」によって沈没させられた事件は「日露戦争でバルチック艦隊を全滅させた日本海海戦の敗北」以来の衝撃をプーチン政権に与えている。
120年前に侵略寸前の明治日本が日露戦争で恫喝・強権国家ロシアに完全勝利した明治トップリーダーの「ITデジタル戦争」に学びたい。
前坂 俊之(ジャーナリスト)
2011/11/29 日本リーダーパワー史(212)再録
<クイズ・『坂上の雲』の真実とは・・>『日露戦争勝利の秘訣は軍事力以上に
① 『日英同盟締結の外交力
② インテリジェンス(諜報力)
③ 海底ケーブル、無線通信技術力――にある。
④今後の日本再生にも『物づくり』以上にIT・ロボット・グリーン技術-の駆使しかない。
日露戦争最大の勝因は日英軍事インテリジェンス
日露戦争でこれまで余り注目されてこなかったのが、日英同盟の影に隠された日英軍事協商であり、日英の諜報の全面協力である。諜報と言う性格もあってこの軍事密約の締結そのものが秘密裏に処理され、その後も明らかにされてこなかった。
当時、世界を支配していた大英帝国『パックス・ブリタニカ』の秘密は軍事力と同時にこのインテリジェンス、情報力にあった。世界中に海底ケーブルをはりつめて電信網を築き、ロイター通信社を支配し、情報を集めて情報機関で分析して世界制覇したのである。
一八五〇年代に英国は「世界制覇は海底ケーブルにあり」との世界戦略で、海底ケーブルの布設に取り組んだ。実に半世紀をついやして明治三五年、最後に残った南アフリカ連邦とオーストラリアの海底ケーブルでつないで、世界中にある植民地とロンドンを結ぶ世界電信網(All Red Route)を完成させた。このおなじ年の1月30日に日英同盟条約が調印された。
超大国英国がそれまでの『栄光ある孤立』政策を捨て去り、アジアの4等国日本と同盟に踏み切ったことに世界は驚いた。「月とスッポン」の結婚に例えられたが、1年半も続いた南アフリカのボーア戦争で窮地に立っていた英国は極東アジアでは日本と手を結び、中国の利権を守り、日本は英国を対ロシアと戦う後ろ盾にしたかったのである。
同盟の内容は日本は英国の中国での権益を擁護し、英国は朝鮮、中国における権益を擁護し、一国と交戦した場合は同盟国は中立を守り、2国以上の場合は参戦を義務付けていた。露仏同盟に対抗して、フランスの日露戦争への参戦の歯止めとなり、ヨーロッパへの戦争の波及を防いだ。日本は日露戦争になった場合に満州戦線での英国陸軍の参戦を要請していたが、これは拒否され、英国は中立を維持することになる。
イギリス、フランスとも世界一,二の植民地帝国であり、世界の重要な拠点、港は両国のいずれかががおさえていた。英国はこの全海域に海底ケーブルを敷設したわけで、日露戦争が勃発すると、一応中立を保ちながら軍事協商の密約によって諜報協力や、ロシア海軍へのサボタージュ、バルチック艦隊の寄港、燃料の石炭の補給などを妨害して、艦隊の日本到着を遅らせて日本側をバックアップした。
フランスもまた、この条約にしばられて、同盟国ロシアへの軍事援助に足かせをはめられてしまい、日英の外交的な勝利につながるのである。日英軍事協商の日本陸軍代表だった福島安正少将は「この軍事協商こそが陸軍が日露戦争に踏み切る最大のバックボーンになったものであり、英国から提供された対ロシア情報こそ日本が受けた利益の最大のものであった」と、後年、述べている。(佐藤守男『情報戦争としての日露戦争―参謀本部における対ロシア戦略の決定体制1902―1904-(5回連載)』(北大法学論集51巻4号)
日英軍事協商と諜報の全面協力体制
日英同盟成立から約四ヵ月たった5月14日、海軍横須賀鎮守府内で英国側はブリッジ東洋艦隊司令長官、日本側は山本権兵衛海相、陸軍からは参謀本部田村怡与造次長の福島安正同第2部次長らが出席して日英軍事協商の秘密会議が開かれた。
7月7日にはイギリス陸軍省で、伊集院五郎軍令部次長、福島らが出席して日英軍事協商に合意、おもに海軍の協力が中心の次の「陸海軍協約」八項目を締結した。
① 共同信号法を定めること。
② 電信用共同暗号を定めること。
③ 情報を交換すること。
④ 戦時における石炭石炭(日本炭、カーディフ炭)の供給方法を定めること。
⑤ 戦時陸軍輸送におけるイギリス船の雇用をはかること
⑥ 艦船に対する入渠修繕の便宜供与をはかること。
⑦ 戦時両国の官報をイギリスの電信で送付すること。
⑧ イギリス側は予備海底ケーブルの布設につとめること。
驚くべきことだが協定の過半が通信関連の問題であり、日英の参謀本部のトップは来るべき日露戦争は『情報戦争』「インテリジェンス戦争」であるという共通認識を持っていたのだ。
戦争に当たって一番大切なのは兵力や武器以上に情報とその分析である。その情報収集のために、まず情報通信のインフラ(海底ケーブル、有線通信)を整備し、通信のプロトコル(通信規約)を決め、暗号を共同化して、諜報した内容(コンテンツ)を通信して送受信する。このインフラ、ハードとソフト(暗号、諜報)はインテリジェンスの両面である。
もしどんな秘密情報をスパイしたとしても、それを伝える通信手段がなくては何の役にも立たない。古代からの戦争の歴史をみても、通信、コミュニケーションの歴史である。ノロシ、タイコ、ホラガイ、早馬、伝書バトなどで敵を知らせる通信手段に使ってきたが、日露戦争前に有線通信、無線通信、電報、電話、写真などの近代通信技術が一挙に発達し、通信スピードは飛躍的に向上していた。
葬儀の時に後藤新平が「百年に一人の知将だった」とのべた児玉源太郎総参謀長はこの情報通信の重要性を認識していたインテリジェンスの持ち主だった。また、児玉の先輩の「日本参謀本部の父・川上操六」も全く同じで、日清戦争直前に東京―下関間の直通電信線、朝鮮半島での釜山―京城間電信線を最初に提案し、児玉が先頭に立った九州―台湾間海底ケーブルも川上が深く関与した。
日英軍事協商でもう1つ大切な点は、次の諜報交換の密約をかわしたことだ。
『情報を制する者が世界を支配する』セオリーを実践した英国側から強い要請があり、次の3点の密約が交わされた。
① ロンドン、東京の日英公使館付各海陸軍武官を通してすべての諜報を相互に自由に交換する。
② 両国の公使館付武官はいずれの任地でも自由に情報を交換する。
③ 両国海軍連絡将校の各艦隊付、両国陸軍連絡将校のインドと日本間の交換派遣、戦時における陸海軍従軍武官の各司令部配属などが決定された。
この結果、50年かかって世界中に張り巡らせた英国の通信ネットワークとは、その後児玉がロシア側に情報漏れを防ぐため陣頭指揮で海底ケーブルを敷設して、ドッキングさせた。
この結果、東京からの電報の場合は、東京~九州(大隅半島)~台湾(基隆)~台湾(淡水)~福建省(福州)と伝達され、そこのイギリス局から香港を介して、南シナ海を抜けボルネオを経由しマラッカ海峡を通りインド洋を横断して紅海から地中海に抜け、そしてロンドンへという経路で伝達された。(石原藤夫著『国際通信の日本史―植民地化解消への苦闘99年』東海大学出版会、1999年)
この軍事協商の締結で、日本陸軍は、ロンドン駐在陸軍武官からの対ロ戦略情報とインド方面でのロシア陸軍の情報が容易に入手出来るようになった。一方、ロンドンでもスピーディに日露戦争の情報を収集できる体制が整った。日露戦争で英国は22人もの観戦武官を戦場に送り込んで情報を収集し本国に伝えた。
『明石工作』の暗号電報も、この回線を使って東京に速報された。
佐藤前掲書によると、「この合意によって、日露戦争中、おもに恩恵を受けたのは日本であった。というのも、大英帝国が、他の列強と対略し、植民地を巧みに支配するため、世界中に築き上げてきた諜報網を、さしたる労力もなしに利用できたからである。
その窓口となったのが、宇都宮と在英公使館付海軍武官の鏑木誠大佐。とくに、宇都宮は、戦争中、英陸軍参謀本部作戦部のエドワード・エドモンズ少佐と親交を重ねていた。このエドモンズこそが、当時世界中からロンドンに集まってくる各国の陸軍情報を英参謀本部内で掌握できる立場にあった。ロシア陸軍部隊の動員状況について、宇都宮が逐次、東京に報告しそれに基づき満州の露軍兵力が算定されるなど、イギリス陸軍情報は、参謀本部の作戦計画策定に寄与していた」と書いている。
つづく(4回連載)
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