前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

『百歳学入門(203)』-記事再録『 文化勲章のもらい方ー文化勲章は大嫌いの「超俗の画家」熊谷守一(97歳)と〝お金がもらえますからね″といって笑った永井荷風〈当時72歳〉の『人間の品性について』

      2018/02/17

記事再録/百歳学入門(155)

「超俗の画家」の熊谷守一(97歳)と永井荷風〈当時72歳〉

の『人間の品性について』

2016/07/22

前坂 俊之(ジャーナリスト)

http://kumagai-morikazu.jp/

私は新聞記者時代に春秋の叙勲の取材を何度かしたことがある。主に政治家、経済人、公務員、各種団体の長など,功なりとげた人物が年功序列的に、国から褒章が出るわけだが、もらった人は『ありがたがる人が半分』、あとは「さしてありがたくもないが、ただし断るわけにもいかず」といった感じであった。

自由を信条としている知識人、学者、芸術院会員の中にも『学士院会員』「芸術院会員」になるために、運動し、裏から手を回すひともあるらしいが、まして文化勲章ともなると、熱心に運動してでも欲しがる人が多い。

私も、若い時には福沢さん(Ж福沢先生は慶應義塾では先生も生徒も対等なので「福沢さん」と呼ぶようにと言って、私が入学した時の、担任の第一声もこの先生ではなくてさん付けで呼ぶという話だった)『天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず』を至言と心得え、このあとに「天は人の上に人をのせて、人を造る」などと放吟したものだ。

福沢さんの「独立自尊」の精神こそ、自らの信条として、「強く、正しく、美しく」人生を生きたいと願いながら、トボトボ、フラフラ、ずっこけながら歩んで来たが、今や日暮れて道遠しで、タイムアウト寸前である。

そんなわけで、熊谷翁の生き方にますます共感する。

元祖ス-ローライフの達人・「超俗の画家」の熊谷守一(97歳)③

『(文化)勲章もきらいだが、ハカマも大きらいだ。ハカマがきらいだから、正月もきらいだという。かしこまること、あらたまること、晴れがましいこと、そんなことは一切きらい』http://www.maesaka-toshiyuki.com/longlife/18517.html

 

この国の文化風景の中で、熊谷翁は全く稀有な超俗な人、純粋無垢なそれこそ『強く、貧しく、美しい』稀有な人であろう。まさしく、奇人,稀人ナンバーワンである。文化勲章といえば、

もう1人の奇人、永井荷風にふれないわけにはいかない。

荷風の文化勲章受賞は昭和二十七年だった。理由は「温雅な詩情と高邁な文明批評と透徹した現実鑑賞のニ面が備わる多数の創作を出し、江戸文学の研究に新分野を拓き、外国文学の移植に業績をあげ、近代史上に独自の巨歩を残した」ということだった。

日本風狂人伝(23) 日本『バガボンド』ー永井荷風散人とひそやかに野垂れ死に ③http://www.maesaka-toshiyuki.com/person/3635.html

日本風狂人伝(22)日本『バガボンド』チャンピオンー永井荷風と楽しく 野垂れ死に ②http://www.maesaka-toshiyuki.com/person/3636.html

当時、千葉県市川に住んでいた荷風は、新聞記者にこう言っている。

「そんなことウソだろう。勲章なんてうれしくない。感想なんかないよ」(「読売新聞夕刊」昭和27年10月21日)

「うれしいかって~ それはうれしいが、受賞に行くにも焼けて洋服(モーエソグ)も黒いクツもないから夕方デパートに行って注文するよ。借りて行くわけにもいかないからね。賞金は貯蓄しておいて生活のために使うよ。生活に追われながらいいものは書けぬからね」

(「朝日新聞千葉版」昭和27年10月21日)

以下、濱川博「現代のアウトサイダー」浩文社、昭和50年3月刊によると、こう書いている。

芸術院会員を断った荷風のことだから、文化勲章も一蹴するのでは……。当時の文部官僚も、世間のおおかたもそう見ていた。最初は文部省の受賞候補者リストにも上っていなかった。

下駄ばきで浅草のストリップ劇場をうろつく『四畳半襖の下張』の作者に、頭のかたい官僚には、受賞の対象と考えられなかったのだろう。しかし、選考委員の間で強く荷風を推す意見が出て、受賞が決ったといういきさつがある。

「文学は糊口の道でもなければ、栄達の道でもない」と言った荷風の勲章ぎらい、官僚ぎらいは有名だった。北原武夫は、荷風の受賞をこう書いている。

荷風氏が勲章をもらったことは、大いに驚嘆に値する。恐らくだれしも荷風氏は勲章などは辞退するであろうと考えていたに違いない。もちろん筆者もそう考えていた一人である。

文学的価値から言えば、現代日本文学を圧する至宝であって、当然勲章に値するものではあるが、作風から言って勲章をやるぞなど言われたら、ふふんと冷笑するはずだと、だれしも考えるからである。

……伝え聞くところによると、勲章をもらった理由について、荷風氏は〝お金がもらえますからね″といって笑って答えたという。永井荷風勲章受賞の珍事を、荷風文学化した至妙の一言である。荷風氏の文学精神はやはりまだ衰えてはいない。(「東京新聞」昭和27年10月22日)

荷風はこのとき72歳。後輩の志賀直哉や、谷崎潤一郎よりも遅い受賞であった。荷風散人と熊谷守一の二人の超俗的勲章ばなしは、どんな名優の名演技も、はるかに及ばない至芸というほかはない。

話を熊谷守一に戻す。

熊谷翁は幼少のころから「偉くなる」ことに反発してきた。自伝的エッセー『へたも絵のうち』に小学校時代の思い出が記されている。

先生が一生懸命しゃべっていても、私は窓の外ばかりながめている。雲が流れて微妙に変化する様子だとか、木の葉がヒラヒラ落ちるのだとかを、あきもせずにじっとながめているのです。

じっさい、先生の話よりも、そちらの方がよほど面白かった。先生はしょっちゅう偉くなれ、偉くなれといっていました。しかし、私はそのころから人を押しのけて前に出るのが大きらいでした。人と比べてそれよりも前の方に出ようというのがイヤなのです。

偉くなれ、偉くなれといっても、みんなが偉くなってしまったらどうするんだと子供心に思ったものです」

木村定三氏は『熊谷守一作品撰集』に「熊谷さんの人間像」を次のように書いている。

『熊谷さんの物の考え方も、こと芸術に関しては、人間の上に権威者としての人間を認めないのである。神や仏から〝お前は偉いから褒美をやろう″といわれたならば、熊谷さんも有難くもらうであろうが、同じ人間から〝お前は偉いから褒美をやろう″といわれても少しも有難いという気になれないのである。』どこまでも精神の自由を貫こうとする熊谷さんの面目がここにある。

(以上は濱川博「現代のアウトサイダー」浩文社、昭和50年3月刊から引用させていただいた)

 - 人物研究, 現代史研究, IT・マスコミ論

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
ANA(全日空)25/11/30/朝ー岡山空港発→羽田空港行の機内から富士山をスマホで撮影(2重窓の外側のガラスが雲っているので写真を拡大すると、富士山、地上もよりはっきりと見える)

駿河湾・相模湾・東京湾上から眺める小さい三角形の白雪富士山は素晴らしいよ!

no image
日本メルダウン脱出法(660)「中国の習近平氏「独裁」阻む3つの壁」「もうどの国にも止められない中国の人工島建設」など8本

    日本メルダウン脱出法(660) 「中国の習近平氏「独裁」阻む3つの壁」 …

no image
日本リーダーパワー史(435)なぜ安倍自民党政権は福島原発事故の未来,廃炉風景に目をつぶるのか。

 日本リーダーパワー史(435)   なぜ安倍自民党政権は福 …

no image
World Robot Summit 2018(10/17)-慶応大理工学部の「次世代人工知能・ロボットの「汎用人口手の研究開発」のデモ

日本の最先端技術「見える化」チャンネル Japan Robot Week2018 …

『Z世代への<日本史難問クイズ?>『リンカーン米大統領が奴隷の解放宣言をしたのは1862年(文久2年)ですが、日本で中国人奴隷(苦力)を解放したのは一体誰でしょうか⑲』★『西郷隆盛(参議・実質総理大臣)です。横浜港に入港した『マリア・ルース号事件』(清国人苦力=奴隷230人をペルーに運ぶ途中)で人権尊重の観点から外務卿・副島種臣に命じて停船を指示・船長を告発させ、裁判後に清国に送り替えした』★『「国の本来の政治は軍備の不備を恐れず、一国の運命をかけても、正論を以てこれを貫くべし」』

2019/07/27  日本リーダーパワー史(858)/記事再録 &n …

no image
日本リーダーパワー史(204)『辛亥革命100年』『日本は西洋覇道より,東洋王道を目ざせ』ー孫文「大アジア主義」演説全文

日本リーダーパワー史(204) 『辛亥革命100年』・今後の日中関係を考える③ …

no image
『ガラパゴス国家・日本敗戦史』㊳・徳富蘇峰が語る『なぜ日本は敗れたのか』➃<下剋上、末端の暴走、中央の統率力不足>

  『ガラパゴス国家・日本敗戦史』㊳   『来年は太平洋戦争敗戦から7 …

no image
『リーダーシップの日本史』(290)★『日本長寿学の先駆者・本邦医学中興の祖・曲直瀬道三(86歳)の長寿養生俳句5訓を実践せよ

 2013年6月20日/百歳学入門(76) 日本長寿学の先駆者・曲直瀬 …

no image
速報(455)『日本のメルトダウン』15分で読める『中国版サブプライム問題』 (シャドウバンキング)のバブルは破裂するか

  速報(455)『日本のメルトダウン』   <目 …

no image
日中北朝鮮150年戦争史(19 )世界史『西欧列強の植民地争奪合戦』 の中での日清戦争勃発〈1894年)②【福沢諭吉の開戦論】李鴻章・袁世凱の属国朝鮮の支配、教唆の証拠が明白なる以上、我が国は躊躇すべきでなく直ちに開戦せよ』

  日中北朝鮮150年戦争史(19 ) 世界史『西欧列強の植民地争奪合戦』 の中 …