★『オンライン/天才老人になる方法⑦』★元祖ス-ローライフの達人「超俗の画家」熊谷守一(97歳)③『(文化)勲章もきらいだが、ハカマも大きらいだ。ハカマがきらいだから、正月もきらいだという。かしこまること、あらたまること、晴れがましいこと、そんなことは一切きらい』
記事転載
百歳学入門(153)
元祖ス-ローライフの達人・
「超俗の画家」の熊谷守一(97歳)③-ゆっくり、のんびりズム
熊谷の若い頃の話で、絵が売れず生活が苦しい時代、紹介されたコレクターの家へ作品を持っていった。
その人から、「この絵の出来栄えをどう思いますか」と聞かれると、熊谷は即座に「あまり良い出来とは思いません」と正直に答えた。「描いた本人が不出来というなら買うわけにはいかない」と怒り断られてしまった。
また、広島県の知事をした湯沢三千男が(熊谷画伯の代表作とも言われる『ローソク』の所蔵者)から「十点くらい描いて送ってくれれば売ってあげる」と言われた時も、期限までにとうとう一枚も描かず、それを聞いて東郷育児さんがあきれていた、という詰も伝えられている。
熊谷は戦争のさなかに、庭に防空壕らしき深い穴を掘ったが、その底にきれいな地下水が溜まって、小さな池のようになった。夏は絶好の涼み場所となったらしくその周辺に座って、黙々ときざみたばこを手製のパイプで吸いながら、ひとり悠然と時を過ごしていた。
昔から、人工的に手を加えない庭が好きだった。垣根に沿って栗、桃、柿、いちじく、クルミ、ねむの木、あけびなどが植えてあって、庭には格好の木陰ができていた。
戦争をはさんで窮乏生活が続くなか、夏になると庭の土の上にゴザを敷き、その上で手製の木枕をして昼寝をする。
目がさめるとそのままの姿勢で地面に動き回るアリを眺め、その動作をしみじみと観察し、「アリを上から見下ろすのと、ゴザの上に横になって水平に近い位置から眺めるのとでは、ずいぶん違うものだ」と秀子夫人に語ったりする。
絵の題材に対する観察は、まことに鋭いものがあった。庭の植物や身近な動物、風物への愛情のこもった作品は、こうした視点から完成されていった。
熊谷は八十歳を過ぎた頃から、あまり外出をしなくなった。村山祐太郎が秀子夫人に尋ねると、「目まいがするので外出を嫌うようになって、写生にも出かけなくなりました。もう歳ですからねえ」とのことである。
耳鳴りもするので、部屋中ラジオを持ち歩き、仕事をする時でも画架にかけ、お風呂場にまで持ち込んでいるという。ラジオの音で耳鳴りのわずらわしさをまぎらせていたのであろう。
「その耳鳴りも弱くなるにつれ、耳が遠くなってきましてね。庭に出ることもだんだん少なくなり、油絵は五月から九月頃までに二、三枚がやっとになりました」
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1968年(昭和43)、熊谷は88歳で文化勲章受章者に内定した。ピカソ、マチスと並び称される画家であることは、すでに多くの人々によって位置付けされていたが、野にあって全くの自由人であった熊谷を文化勲章選考委員によって評価されたのだ。ところが熊谷さんはそれを喜ぶどころか、「これ以上人が来てくれては困る」と断ったのである。
文化勲章は年金も付き、日本では評価が最も高い勲章で、これまで辞退した人はいない。坂本繋二郎が、いったんはことわったが、結局受賞した。1972年(昭和47)の勲三等叙勲も辞退した。その後の、文化勲章の辞退者は大江健三郎をはじめ多くいる。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%87%E5%8C%96%E5%8B%B2%E7%AB%A0#.E8.BE.9E.E9.80.80.E8.80.85
村山は、文化勲章で宮内庁が再三にわたって熊谷さんを説得していると聞いて、早速、熊谷邸を訪れた。
「社会的な功業を顕彰する最高の栄誉です。なんともお目出度い。先生は辞退されるということですが、そんなことおっしゃらずに、どうかお受けになってください」
いくら無欲といっても、向うから呉れるというものを戴かない法はない。実業界で活躍している人間からすれば、こんな有難い話を断わるという気が知れない。「貰っておいても邪魔にはなりません」と、村山は一生懸命に口説いた。
家族のためにも素直に受けてほしかったのである。画壇や親しい人達も、大いに説得したようである。
だが、「めんどうで煩わしい」と言って、がんとして聞き入れなかった。さらに説得すれば、「欲しがっておられる方もあると聞いてますから、どうかその方に差し上げてくださればよい」と言う。宮内庁にもそう固辞して、とうとう最後まで譲らなかった。
日が経つにつれ、村山は、やっと理解できた。
熊谷が文化勲章を受ければ、世間の評判は高まるには違いないが、その半面で静かな日々は失われる。熊谷にしてみれば、無心に芸術三昧の日々を送る方がふさわしい。なまじ勲章を受けて、世間に引っ張り出されては堪らないであろう、と考えた。
「芸術新潮」(昭和42年5月号に「画家のことば」として熊谷御夫妻のこの件の話が出ている。
夫人ー「普通はよほどの人でも地位とか名誉みたいなもの、どこか好きですよね。ですから田舎の人なんか、そういうことわからないらしいですよ。本当にいらんということはあると思えないらしいです。文化勲章でも、そんなものいらんと言うたんだからといっても、いや又言ってきますよっていって、わからないんです。
ただ私はね、やっぱりそういうものを貰っておいたほうが、国でも作品を大事にしてくれるというようなことを、これでもいろいろ考えるんですから。私は俗の俗ですから」
熊谷 ー「やりきれないんだよ。私はね、小さいときから勲章はきらいだったんですわ。よく軍人が勲章をぶらさげているのを見て、どうしてあんなものをべたべたさげているのかと思ったもんです」
熊谷は続けて「勲章もきらいだが、ハカマも大きらいだ。ハカマがきらいだから、正月もきらいだという。かしこまること、あらたまること、晴れがましいこと、そんなことは一切きらい。結婚式に招かれてもハカマははかない。モンペで通すこと」などを話した。
その翌年、座臥を報じたある新聞で、熊谷は淡々と次のように語っており、村山はそれを読んで、改めて自分の未熟さを恥じいったという。
「…犬が横になって寝るのも、猫が病気になると地べたに寝ころんで眠るのも天の理。私はゴザをしいて庭に寝ころんで眠り、アリが走ればそれが絵になる」
「絵を上手に描こうとは思わない。上手になってどうするんだ。絵は描いているうちにどうなるかわからない。そこがおもしろい。腹が減ったら食う。食うときが旨いので腹がふくれればおわりだ。いまはなにも欲はない。しいて欲しいと思うのは、いのちだけだ」
(以上は田口栄一『天真のふたり・熊谷守一と村山祐太郎の世界』(星雲社、平成2年刊より)
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