前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

『日中韓150年戦争史』㉚『日中韓のパーセプションギャップの研究』ー「日本の中国異端視を論ず」(申報)

      2017/07/04

 

 

 

『中国紙『申報』からみた『日中韓150年戦争史

日中韓のパーセプションギャップの研究



以下の新聞記事を読むと、中国人の思考形式、中華思想と

西欧列強(日本も含む)のパーセプション(認識)ギャップ
(思い違い)が
どんなに深いかがよくわかる。

タイトルの「日本の中国異端視を論ず」は正しく

「中国の日本異端視論」、「日本敵視論」でもある。

 

 


前坂俊之(ジャーナリスト)

 

 

1887(明治20)年63日 光緒13年丁亥412日「申報」

日本の中国異端視を論ず

 

私は以前論説でこう述べたことがある。中国が近ごろ西洋各国と通商を始め,中国にいる西洋人は日に盛況を呈しているが,中国の法律を若干改変し.西洋と相通じさせ,その行動を規制することが現在の最も緊要なことであると。これは中国の法律が西洋を従わせるに不十分だというのではない。

 

 

西洋に西洋の法律があるように中国にも中国の法律があり,代々受け継いで今に至り,おおよそ完備している。中でも刑法はことごとくその公平さを備えているので再び論ずることはない。ただ.西洋の法律はだいぶ中国と違う。西洋人が中国の役人の裁判を見て大いに驚くのなら,どうしてわれわれに従わせることができよう。そこで両者をやや通融させようと考えたのだ。およそ国際間の案件については.西洋の法律を用いているが,もし西洋人が中国と西洋の刑法に大きな相違がなく,章規も相似していることを知れば,彼らも従順に中国の刑法に服するだろう。

 

しかしながらこの説も不完全なものであり,言うは易く行うは難い。卑見を受け入れる者がいないとしても致し方ない。

 

ただし,日本の新たな条約を見ると.心動かされ黙って口をつぐむことはできない。日本は近ごろ.西洋諸国と条約を改定し,西洋各国の者が皆日本の内地に入ることができ,どんなところでも自由に出入りできるようにした。ただし.日本にいる西洋人は必ず日本の法律を守らなければならず.西洋人が事件を引き起こしたら日本の役人によって処理され,さらに大金をもって西洋の弁護士を招き.西洋人が彼を招いて法廷にのぼらせ弁護させるのを認めるという。

これは2年後に始め,15年間試行し.その後再び施行するかどうかを決定する。しかし中国のみは例外であるという。

 

そもそも日本は中国と同じアジアに属し.西洋よりも親しくするべきである。つまり,日本は中国に対しても西洋と同じようにすべきなのにこれはなぜだろうか。中国人が日本の法を守るのを潔しとせず.ともにこのことを論じようとしないとでもいうのだろうか。それとも中国人が日本へ赴くことを日本人が欲しないのだろうか。

 

これを推し量るに,日本が中国を異端視しているのであり,中国がこの条約に参加するのを願っていないわけではない。

 

なぜかといえば.日本は中国を恐れているがためにねたみ.ねたむがために仇としているからだ。思うに,日本がこのように中国をねたみ仇とし,常に,事件がもちあがったら巧みな悪だくみを用い.隙に乗じで侵入しようとし,中国に対してたくらを抱くのは,中国もまた日本に対してたくらみを持っていると疑っているからだ。故に中国人をその内陸に入らせないのだ。

 

さらに,日本人で中国にいる者は少なくない。もし中国をこの条約に参加させれば.日本にいる中国人は日本の法を守り.日本の役人の処置を聞くべきであるばかりでなく.中国にいる日本人もまた中国の法を守り,中国の役人の処分を聞くべきだ。これは当然の理だが.日本が甚だ願っていないことでもある。

 

このことから.この条約に中国を加えていないのは日本の意によることがわかる。法律を時に応じて変化させ.西洋人が喜んでわれわれに従うようにすることは中国のなすべきことだが,それを中国がなさずに日本が先になした。これは中国の失敗だ。西洋各国には日本の内陸を往来するのを許し,中国のみを例外としている。日本が中国を除外しているのはまさに日本が中国を疑っているからだ。

 

しかも.ただ疑っているのみならず,実は.恐れるがためにねたみ.ねたむがために仇としているということによる。故に.新しい条約から除外されたからといって中国が日本に侮辱されたとするには当たらない。ただ日本人が同じアジア人を重視していないことがわかるだけだ。

 

とはいうものの,中国が日本に異端視されているのは法律が通い合わないためだ。ある西洋人の友人がこう言ったことがある。

「西洋の罰はただ絞首のみで,中国には絞首のほかになお斬罪があり,凌遅【手足を切断してから殺す極刑】がある。西洋の罪は軽いものは罰金刑・禁固刑・労役に過ぎない」。

 

中国の軽い罪は鞭打ちや流罪だ。流罪は労役に相当するが.西洋と比べて厳しいわけではない。鞭打ちは流罪より軽いのだが,西洋人はこの苦しみがよくわかっていない。これが西洋と異なっているゆえんである。しかし.調書ですでに罪ありといるとしてもその用い方は同じであり,奇異とする必要はない。

 

ただ,中国の裁判はだいぶ異なり,原告が訴え出たなら被告を法廷に召喚.して尋問するという点ではおおよそ同じだが,被告が出頭すれば原告が訴えた内容が事実か否かを問わず,被告が白状しなければこれをたたき.またそれ以前のこともする。

 

 

いわゆる「●(足編に危ない)錬」というのは,大きな鉄の鎖を床にぐるぐる巻きにして置き.被疑者をその上にひざまずかせ,すぐ白状しなければしばらくひざまずかせ,1日白状しなければ1日中ひざまずかせる。時間が長くなると鉄の鎖がひざにくい込み.その痛みは並たいていではない。どうして白状しないでいられよう。また.いわゆる「天平架」というのは十字形めかせの上に人をひざまずかせ.手を槙に広げさせてつなぎ,弁髪をかせに縛りつけてあお向けに体を伸ばさせ,白状するまでおろさない。甚だしくはひざを折り曲げさせて棒をその間に挟み,れんがをももの上に載せる。さらに甚だしくはその棒を踏み,その上鉄鎚でその両足をたたく。これらの厳しい刑ではどうして白状しないでいられよう。

 

これはいわゆる「三木【首・手・足にはめる3本のかせ】の下.何ぞ求めて得られざらん」というものだ。西洋ではこれらはもともとない。西洋では必ず弁護士を招き.原告・被告が互いに論じ合い,確かな証拠があって,さらに論ずべきことがなくなってからその罪を決定し.まだ罪が決定する前には刑を用いず,しかも拘禁もしない。

 

 

中国の,逮捕者の罪が決定する前に収牢されるのとは同じではない。そもそも中国がこのようにしているのは,人情が狡詐であってすぐには白状させられないので,これらの刑罪を作って実際の供述を得るのだ。また,刑は被告のみが受けるのではない。もし原告に誣告の疑いがあれば,被告と同じ方法で罰し,謹告していない者でさえ自ら謹告したと認めるぐらいだ。しかし,もし盗賊やごろつきであれば.これらの刑罰を用いても,拷問に耐えて白状しないすべを知っているのだ。そのため.中国人はこれらを見ても奇異だとは思わないが.西洋人がこれを見ると,もともと見たことのないものを見るのだから非常に異様に思うのだ。

 

西洋人がいぶかしく思うからには,どうして日本人も奇異でないと思うことができよう。中国が奇異だと思うからあえて中国に接近しようとせず,中国が西洋と異なっているように考えるのだ。

 

これはいったい日本人が隣国の情に乏しいのであろうか,それとも中国の刑罰や法律を他国と通じさせなければならないのだろうか。これについて中国がはっと気がついて悟り.今後卑見を採用し,国際間の案件についてはその法律を時に応じて変更したならば,西洋人もまた喜んで中国の法に従うだろう。もし西洋人が中国の法に従ったならば,日本もそれに倣うだろう。

ならばどうして日本が異端視することを恐れよう。古人いわく.「欲を以て人を従わせれば.欲に従うことになる。良い結果になろうはずがない」。

 

 - 戦争報道 , , , , , , ,

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
 日本リーダーパワー史(767)『金正男暗殺事件にみる北朝鮮暗殺/粛清史のルーツ』福沢諭吉の『朝鮮独立党の処刑』(『時事新報』明治18年2月23/26日掲載)を読む➀『婦人女子、老翁、老婆、分別もない小児の首に、縄を掛けてこれを絞め殺すとは果していかなる国か。』『この社説が『脱亜論」のきっかけになり、日清戦争の原因ともなった』

   日本リーダーパワー史(767)   『朝鮮独立党の処刑』『時事新 …

no image
『昭和史キーワード』浜口雄幸内閣のロンドン海軍軍縮条約批准【1930年)に対して、海軍艦隊派が猛反対し統帥権干犯問題を起こし、軍部の政治介入を招き、 政党政治に終止符をうち、軍部専制を許す引き金となった。

『昭和史キーワード』 浜口雄幸内閣のロンドン海軍軍縮条約の批准 に対して、海軍艦 …

『リーダーシップの日本近現代興亡史』(225)/★『明治大発展の国家参謀・杉山茂丸の国難突破の交渉力」➃『『軍事、外交は、嘘(ウソ)と法螺(ほら)との吐きくらべで、吐き負けた方が大損をする。国家の命脈は1にかかって嘘と法螺にある。『 今こそ杉山の再来の<21世紀新アジア主義者 が必要な時」』

 2014/08/09 /日本リーダーパワー史(520)記事再録 &n …

no image
『日中韓150戦争史』(58)★「明治維新後の日朝交渉が長期に停滞した理由、「江華島事件」は起るべくして起った。

  『中国紙『申報』などからの『日中韓150戦争史』  日中韓のパーセ …

no image
終戦70年・日本敗戦史(110)日本兵はなぜ「バンザイ突撃」「玉砕」「餓死」など 「死んでも戦った」のか。その秘密は日本兵残酷物語「戦陣訓」と「内務班」にある②

                                        …

日本リーダーパワー史(925)人気記事再録『戦時下の良心のジャーナリスト・桐生悠々の戦い②』★『権力と戦うには組織内ジャーナリストでは不可能とさとり、フリージャーナリストとして個人誌「他山の石」(いまならSNS,ブログ)で戦った』★『言論機関は今、内務省と陸軍省の二重の監督下にある。私たちは『三猿』の世界に棲む。何事も、見まい、聞くまい、しやべるまいむ否、見てはならない。聞いてはならない。しやべってはならない「死の世界」に棲まされている』★『「言論の自由を圧迫し、国民をして何物をもいわしめない。これが非常時なのだ」』★『「畜生道に堕落した地球より去る」と 69 歳で壮絶死』

2010年1月26日  日本リーダーパワー史(34) 日本リーダーパワー史(34 …

no image
書評/河田宏著「第一次世界大戦と水野広徳」三一書房(1996)★『中野正剛と水野広徳を論議させたところはまるで「三酔人経綸問答」』

書評「図書新聞」(1996年6月15日)掲載 河田宏「第一次世界大戦と水野広徳」 …

『リーダーシップの日本近現代史』(310)★『明治維新の元勲・大久保利通の性格は典型的な武士気質の「寡黙不言・決断・断固実行型」―

     2014/10/01 /日本リ …

no image
世界/日本リーダーパワー史(914)-『米朝首脳会談(6月12日)で「不可逆的な非核化」 は実現するのか(上)

米朝首脳会談(6月12日)で「不可逆的な非核化」 は実現するのか 前坂 俊之(静 …

no image
近現代史の重要復習問題/記事再録/日本リーダーパワー史(293)ー『凶刃に倒れた日本最強の宰相・原敬の清貧の生活、非業の死、遺書、日記』★『原敬暗殺の真相はー「お前は「腹を切れ」といわれたのを、「原を切れ」と勘違いした凶行だった」』

        2012/08/12 /日本リーダーパワー史 …