池田龍夫のマスコミ時評(91)●『ワシントン・ポスト身売りの衝撃(8/23)●『ガーディアン、NYTと提携 当局圧力に対抗』
●『ワシントン・ポスト身売りの衝撃(8/23)
ジャーナリスト 池田龍夫
米国の有力紙「ワシントン・ポスト」が大手IT企業「アマゾン・ドット・コム」のジェフ・ベゾスCEOに買収されるというニュースは、インターネットが新聞業界に変化を迫った象徴的な出来事として世界を駆け巡った。
「グラハム一族がポスト紙を売却する」――8月6日付のWポストは、大きな見出しでこのニュースを報じた。8月8日NHK特派員電によると、「グラハム会長は8月5日、本社講堂に社員を集め『これから話すことに驚くかもしれないが、しっかり聞いてほしい』と語りかけ、何度も言葉を詰まらせながら、Wポストが22億5000万㌦(240億円余)で、アマゾンのベゾスCEOに売却されることになったと伝えた。社員は、全く予想外の出来事に質問に立つ人もおらず、広い講堂を沈黙が支配した」という。
ウォーターゲート事件調査報道に名を残す
1877年に創刊したWポストが歴史に名を刻んだのは、何と言っても1970年代のウォーターゲート事件を巡る報道。1972にボブ・ウッドワード記者とカール・バーンスタイン記者の若手2人が始めた調査報道は、当時のニクソン政権の不正を暴き、ついに大統領を辞任に追い込んだのである。同紙はその後も首都ワシントンを拠点に優れた報道を続け、ニューヨーク・タイムズと並んで米国を代表するクオリティー・ペーパーに成長。
ピーク時の1993には83万部を超える勢いだったが、その後、新聞を取り巻く環境は一変、活字離れが進んだ。インターネットの普及によって購読者の減少が目立ち、今年6月時点では44万部にまで激減してしまった。この結果、広告収入の減少に歯止めがかからず、営業利益がこの6年間で44%も減少するなど業績は悪化するばかり。Wポストの今年4月から6月までの4半期決算を事業別にみると、売上高の53%を資格試験や予備校などの教育事業が占めており、次いでケーブルテレビ事業が20%、新聞事業の売上高は全体の14%に落ち込んでしまった。
米国では今月に入って、1872年創刊の日刊紙「ボストン・グローブ」が大リーグ、ボストン・レッドソックスのオーナーに、また、1933年創刊の週刊誌「ニューズウィーク」が新興のメディアに売却されるなど、活字離れによる広告収入の激減によって、紙媒体に未来の展望は皆無と言っていい。伝統ある米国でオーナー経営を続けているのは、NYタイムズだけとなったショックは大きい。
ニューヨーク・タイムズが孤軍奮闘
朝日新聞8月9日付夕刊によると、NYタイムズ発行人のサルツバーガー・ジュニア氏は、「将来の成長に必要な資金を安全にまかなえる。NYTは革新のためのアイデアと資金を両方持っている」としている。
NYTの今年4~6月期決算は、デジタル版の有料購読者が増えたことなどで純利益が2013万㌦(約19億円)となり、前年同期の8762万㌦(約84億円)の赤字から黒字に転換したという,しかしNYTも傘下のボストン・グローブを手放すというから、経営が安定軌条に乗ったとは信じがたい。
技術革新が進んでも、「コンテンツ」が重要
毎日新聞8月9日付朝刊「経済観測」で、鈴木幸一氏(インターネットイニシアティブ会長)の指摘に共感したので、概要を紹介しておきたい。
「あらゆるメディアは、インターネットと言う新しい情報通信インフラの上で配信されるようになる。私自身は、ニュース以外は、昔ながらの紙媒体になじみ、書物に埋もれて暮らしているのだが、世の中の仕組み全体を変える技術革新は誰も止められないと、自らの趣向はさて置いて、その流れを見続けている。
(中略)長い歴史をメディアがインターネットというブラックホールに吸い込まれていくのも当然と思うのだが、私には、現実の進行はずいぶんと、ゆったりしていると感じる。
ベゾス氏がWポストのどこに、多額の資金を投じる価値を見たのかと言えば紙媒体作りに必要な印刷から販売までの工程抜きに、ただ、そのコンテンツを作る魅力ではないかと思うのだがどうなのであろう」――クールに時代の流れを捉えていると思う
「いかに技術革新が進もうとも、ニュース源を追い、分析する力は紙媒体にかなうまい。日本新聞界もインターネット対策に当たって、〝コンテンツ〟の重要性を真剣に議論すべきである。
(いけだ・たつお)1953年毎日新聞入社、中部本社編集局長・紙面審査委員長など。
●『ガーディアン、NYTと提携 当局圧力に対抗]
http://www.asahi.com/international/update/0824/TKY201308240196.html?google_editors_picks=true
●「機密の暴露、公益にかなう」英ガーディアン編集長語る
http://www.asahi.com/international/update/0822/TKY201308220417.html?ref=reca
関連記事
-
-
『 Z世代にためのス-ローライフの研究』★『元祖ス-ローライフの達人・仙人画家の熊谷守一(97歳)のゆっくり、ゆっくり、ゆっくり』★『小学校の時、先生はいつも「偉くなれ、偉くなれ」というので、「みんなが、偉くなったら、偉い人ばかりで困るのではないか」と内心思った』
仙人、超俗の画家として生前も人気の高かった熊谷は没後,評価はますますうなぎのぼり …
-
-
「Z世代はチャットGPT大学をめざせ!」★『2023年はチャットGPT戦国時代②』★『生成型AI時代へ』★『AI大規模言語モデルのトップ①「オ-プンAI」②グーグル「スイッチフォーマ」➂中国「悟道2.0」のパラメータ数は1兆6千億~7千億だが、日本『ハイパークローバ』はわずか820億しかない。何と60分の1で、この決定的な差がデジタル最貧国日本の没落の原因である」
「チャットGPT」と日本の没落 昨年11月、グーグル …
-
-
野口恒のインターネット江戸学講義(18)『江戸は意外に「実力主義」の競争社会―人材登用と開明政策を進めた田沼意次』
日本再生への独創的視点<インターネット江戸学講義(18) 第8章 …
-
-
日本メルトダウン脱出法(850)『Googleは使わない、SEO対策しているから- Instagram有名人のGENKINGが語った10代の「リアル」』●『Twitterが国内ユーザー数を初公表 「増加率は世界一」』●『優れもの「VR開発キット」が日本にやってきたーウェアラブル製品がより実用化する時代に』●『日本は「格差社会」である前に「階級社会」だー「階級」を意識しない不毛な教育議論』
日本メルトダウン脱出法(850) Googleは使わない、SEO対策しているか …
-
-
日韓レーダー照射問題にみる『異文化コミュニケーションの難しさ―『感情的』か、『論理的』かーが文明度の分かれ目』★『外交バトルの底に日中韓ケンカ作法の違いが見える』
米中貿易戦争は軍事衝突に発展する可能性は!? トランプ大統領は20 …
-
-
日本メルトダウン・カウントダウンへ(900)『安倍首相の退陣すべきを論じる①」「消費増税再延期」<君、国をつぶすことなかれ、子供たちに借金を残すことなかれ>
日本メルトダウン・カウントダウンへ(900) 『安倍首相の退陣す …
-
-
『オンライン講座/バイデン氏当選、トランプ大統領往生際の悪さの研究(上)(2020年11月15日までの経過)』★『新型コロナ第3波襲来、バイデン新大統領の勝利確定、トランプ落選決定』★『アメリカ社会の底知れぬ分裂、対立の深淵が浮き彫りになっている』』
2020年11月15j日書く 前坂 俊之(ジャーナリスト) 2020年11月か …
-
-
知的巨人の百歳学(150)ー『日本で最も聡明な女性・野上弥生子(99歳)の晩年の生き方』★『もし文学者たらんと欲せば、漫然として年をとるべからず、文学者として年をとるべし(夏目漱石)』★『今日は昨日、明日は今日よりより善く生き、最後の瞬間まで努力する』
日本で最も聡明な女性・野上弥生子(99歳)の晩年の生き方 野上弥生 …
-
-
池田龍夫のマスコミ時評(58)『再稼動の「大飯原発」内に活断層の疑い』『在京6紙は「脱原発大集会」をどう報じたか(7・18)』
池田龍夫のマスコミ時評(58) ◎『再稼動の「大飯原発」内に活断層の疑い&he …
-
-
日本の最先端技術「見える化」チャンネルー村沢義久氏の『水素電池に未来なし、トヨタは生き残れるか」「時代は太陽光発電と電気自動車へーカギを握るのは蓄電池」(30分)
日本の最先端技術「見える化」チャンネル ENEX2019(第43回地球環境とエネ …