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情報家電の巨大市場

   

情報家電の巨大市場
静岡県立大学国際関係学部教授
前坂 俊之
インターネットで「庫内の食料品を自由に管理できる冷蔵庫」や「調理のメニュ
ーを知らせてくれる電子レンジ」「門にカメラが設置され来客や宅配便があると、
その画像を自動的に携帯電話まで送信してくるIT ハウス」など、われわれの生
活、住宅など身の回りの家電製品のデジタル化、ネット化が今、急速に進んで
いる。「今年はネット家電元年になる」といわれるほど、情報家電が次々に誕
生し、IT の主役に躍り出ているのである。
東芝は冷蔵庫、電子レンジ、洗濯機など3種類の「白物家電」で、近距離無線
通信規格「Bluetooth」を採用した世界初のインターネット家電をこの4 月から
発売した。この3種類と外から操作するさいに必要なアクスポイントという装置
と家庭内での無線液晶一体型のホーム端末も同時に発売。
各家電とホーム端末はアクセスポイントを介してワイヤレスで接続されて、ホー
ム端末の液晶タッチパネルや音声認識機能を用いて、離れた場所から家電を
遠隔操作したり、動作の確認をする仕組み。
例えば、冷蔵庫では買ってきた食品の種類や内容、賞味期限をホーム端末に
登録しておくと、買い物先から携帯電話で買い物リストを確認できる。洗濯機
では衣類の素材に応じた洗濯、乾燥の方法のデータがおくられ、電子レンジで
は素材と家族構成や好みに合わせた調理メニュー、加熱時間を配信してくれ
て、簡単に操作できるようになっている。
故障した場合にも自己診断して、ネット経由で自動的に修理会社に連絡まで
してくれる。もちろんホーム端末ではコンテンツを閲覧したり、電子メールを利
用することは自由自在に出来る。
東芝では6 月には冷蔵庫の開閉状態からの家族の安否を確認したり、
Bluetooth 対応のドアや窓の自動開閉センサーや照明スイッチを用いた家庭
内の防犯・監視などをさらに機能アップする予定で月間1000台の販売目標
を見込んでいる。
このような「白物家電」「AV 家電」などの幅広い情報家電の新製品を各大手
家電メーカーでは昨年から続々、投入し始めた。
情報家電とは「家電、AV 機器、コンピューター、通信機器から照明器具まで家
庭内にあるありとあるゆる機器がソフトウエアを含めて融合され、ネットワーク
化により各種サービスが享受されるもの」をさす。
つまり、情報家電とは家電のデジタル化であり、そのデジタル家電がさらにイン
ターネットに接続されることでネット家電に進化した『デジタルネット家電』なので
ある。
これまでのパソコン中心のインターネットから、家庭にあるすべての家電、機器
がネットトワークにつながって、どこからでも、機器同士でも双方向で情報のや
りとり、チェックが可能になる「ユビキタス・ネットワークス」へと現在、パラダイム
シフトが起こっているが、その主役となるのがこれらの情報家電である。
ITという言葉ばかりが1人歩きしていたが、いよいよ情報家電が離陸期に入っ
たといえる。
今年2月、「社団法人電子情報技術産業協会」(JEITA)が主催して、東京・
多摩ニュータウンで約50種類の情報家電の新しい機能を盛り込んだ3世代住
宅用の新築4LDKモデルハウスが展示された。
松下電器、東芝、日立などが2005年までには実現したい近未来型のIT 住
宅で、驚くような機能が随所に施されている。例えば、門にカメラが設置されて
おり留守中に来客や宅配便があると、その画像を自動的に携帯電話まで送
信してくる。これで話ができ、用件がすむ。
出先から自宅の宅配ボックスの開閉を行ったり、配達伝票に受領印も押すこ
ともできる。玄関には指紋認証で開閉できるカギがついており、指を押しただけ
で認証システムによって開く。ピッキング泥棒もこれでは完全にお手上げで、セ
キュリティーも十分だ。
リビングには大画面テレビがあり、テレビのリモコンで操作すると、照明、カー
テンの開閉、エアコンの調整、などあらゆる家電を自由にコントロールできる。
この技術は白物家電では電灯線を使った『エコーネット』、画像系は『IEEE13
94』、その他の情報はLAN、と複数の通信規格が同一のテレビ画面で制御
できる仕組みなのである。
台所に入ると、冷蔵庫の「ビール自動発注システム」がある。缶ビールが少
なくなると酒屋さんにメールで発注する。缶を置くところにタッチセンサーをつけ、
減れば自動送信するシステムだ。
「このようにオン、オフで制御できる機器なら、外出先から携帯電話を使って操
作でき、宅配ボックス、携帯電話によるふろの給湯システム、不法侵入を検知
して携帯電話に知らせるシステムなどにもすべて応用できる」と主催者はいう。
また、お年寄り向きには音声操作の『エージェント・システム』があり、小さな
画面の機器に、「トイレにいく」と言うと、冬はトイレのヒーターが自動的に入り、
夜だと暗いので寝室からトイレまでの照明が、自動的に点灯するといういたれ
りつくせり。
トイレもネットワークでつながり、おじいちゃんの尿や血圧を自動的に測定して
病院に通知。数値の異常が知らされると、医者から電話くる」など、健康管理
の機能も盛り込まれている。この未来型モデル住宅は大手家電メーカーや、ベ
ンチャーなど約20団体が参加して技術を提供、展示して大人気を博した。
このほかにも、各家電、AV メーカーはそれぞれ工夫をこらした情報家電を開
発、一斉に新製品化した。
例えば、松下電器の掃除ロボット。これは赤外線や光、超音波など合計30以
上のセンサーを搭載して四方の壁や障害物を感知し自動走行するもので、60
畳分の部屋でも1時間できれいに掃除する能力がある。
三菱重工の「ビーバーエアコン」は部屋の温度をパソコンやワイヤレスから自
動制御できる。
次世代カーナビに相当するトヨタのクルマ向けの情報ネットワーク『G-BOOK』。
これまでのカーナビはDVD だったので、最新の情報は盛り込めなかった。これ
は高速通信用モジュールを内臓した車載端末機がついており、情報センターと
交信してで必要な最新情報をリアルタイムに入手できる。音声認識のため『今
日のニュース』というだけで読み上げてくれる。
また、ネットMDやオーディオがパソコンの要素を取り入れはじめてネット対応
型が出始めた。
「ソニーの新製品の無線LAN を搭載しインターネットに接続できる液晶テレビ
『エアボード』。これはチューナーなどを収めたベースステーションと、タッチパネ
ルの液晶モニター部に分かれており、モニター部は自由に持ち運ぶことができ、
どこからでも見ることができる。
ベースステーションとモニター間は30㍍離れた場所まで無線LAN で結ばれテ
レビ放送やDVD,ビデオ映像、インターネットブロードバンドが楽しめる。音声で
の操作もできる優れもの。ハードディスクを備えており、録画しながら並行して
再生も自由自在なのである。
今後、「テレビはコードレスが基本になり、家中の家電もすべて無線化する。ハ
イビジョン放送の高細密映像が可能になる5GHz 帯の周波数を使用して、高
速ワイヤレス通信で、ハイビジョン放送を見ながら、どの部屋でもパソコンを使
いネットワークを利用して家電の操作もできるものになる」と家電メーカー各社
は口を揃える。
以上のように『情報家電』の範囲は多岐にわたり、その関連市場はすその大き
く幅広い。大別すると、白物系デジタル家電(洗濯機、掃除機、冷蔵庫、クーラ
ー、照明器具、電子レンジ、電気風呂、湯沸かし器など)、AV 系デジタル家電
(テレビ、BS、CSデジタル放送、デジタルテレビ、地上波デジタル放送、STB
=セット・トップ・ボックス=、DVD、DVD再生機、記録メディア、AV用プレーヤ
ー、MD、家庭内ネットワーク、住宅情報化配線、など)通信系デジタル家電(ゲ
ーム機、音楽データ配信、オンラインサービス、非パソコン系デジタル家電(PD
A=携帯情報端末=、携帯電話、カーナビ、ITS など)に分類され、デバイス、
部品となると、とてつもなくも多岐にわたる。
各メーカーの情報家電は家庭(ホーム)、街頭(モバイル)、クルマ(カー)の3つ
の空間での快適なネットライフをコンセプトにしており、「手伝ってくれる」「知ら
せてくれる」「助けてくれる」「楽しませてくれる」の4 つのサービスを消費者に提
供し、私たちの生活を飛躍的に便利にするものである。
情報通信総合研究所がこの2月に行った「ユビキタスネットワークに関するユ
ーザー調査」の結果では、パソコン以外でLANに接続したい情報家電の優先
順はAV機器,住設機器や窓のカギ、照明器具、風呂、湯沸かし器、白物家
電(冷蔵庫、電子レンジなど)、で、白物家電は単体より他の機器とのネットワ
ーク化に志向が示されていた。
こうしたニーズを踏まえて、多くの白物家電の市場はすでに成熟期に入り、や
がて先細りになろうとしている中で、各メーカーは今後、デジタルネット家電が一
大成長産業に発展していくと見込んでおり、その中核に「白物家電」を戦略的
に位置づけている。
今後もインターネットが普及していくことには間違いないが、ネット接続のプラッ
トフォームがパソコンから非パソコンへ、情報家電へと大きくシフトして、2005
年から10年にかけては情報家電の巨大な市場が誕生していくであろう。
情報家電市場はどのくらいの規模に成長していくのだろうか。家電最大手の松
下電器産業は、デジタル家電全体の市場は2003年までに2兆円、2010年
には3倍の約6兆円を超える規模に急拡大していくと見込んでいる。(図1)
その中で、ネット白物家電の市場規模は2003年で1600億円、2005年で
4800億円に3倍に成長するとの試算も出ている。(日本経済新聞2002年2
月6日付朝刊)
また、(社)日本電気工業会の調査では、今後人口的にも大きな割合をしめる
高齢者向けの白物家電は2005年で6127億円に拡大していくが、このうちネ
ット家電は52%の2743億円、2010年では高齢者向けのネット家電市場は
8200億円規模と3倍に急増すると予測している。
また、米国の調査会社Allied Business Intelligence(ABI)は世界中の2002年
から5年にかけてのインターネット家電の伸び率を3倍とみている。(図2)
(図1)
(図2)
インターネット家電の年間販売台数
(100 万台)
Web 端末
(インターネット専用機器)
2000 2002 2005
米国 0.2 1.9 8.2
西欧 0.06 1.2 7.6
アジア 0.1 1.9 13.4
世界全体 0.4 6.5 42.0
インターネット家電
(インターネットと他の機能を持つもの)
米国 1.4 9.0 54.2
西欧 1.5 13.2 78.4
アジア 19.9 69.9 153.8
世界全体 24.6 101.4 322.5
情報元: eTForecasts

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