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 池田龍夫のマスコミ時評⑪ 「日米同盟」再構築の道  両国首脳の政治理念、具現化を

   

 池田龍夫のマスコミ時評⑪ 

「日米同盟」再構築の道
  両国首脳の政治理念、具現化を
  
 
                     ジャーナリスト 池田龍夫(元毎日新聞記者)
 
 
 オバマ米大統領は十一月十三日、初めて日本を公式訪問、鳩山由紀夫首相と懸案の諸問題につき意見を交換した。

一月誕生したオバマ政権、九月スタートの鳩山政権はともに〝チェンジ〟をスローガンに掲げて長期保守政権を倒して躍り出た「民主党」同士。9・11テロ以降の大混乱と、リーマンショックで破綻した市場原理至上主義からの脱皮を目指して〝船出〟、荒波と闘いながら操船しているのが、両政権共通の姿だ。しかし、ブッシュ政権・麻生政権が残した〝負の遺産〟清算の特効薬はなく、体制建て直しの前途は厳しい。
 

 鳩山・オバマ会談では、両国の基軸「日米同盟」を深化させることを確認したうえで、核軍縮・核不拡散への連携、地球温暖化対策、アジア太平洋地域の安定と繁栄など多角的な協力を話し合い、共同文書と行動計画を発表した。両首脳が掲げる理念と目指す共通目標を再確認した意義を高く評価し、今後の具体的施策に期待を寄せたい。
 
 多岐にわたるテーマを論じる紙幅がないため、本稿では「日米同盟」、特に米軍再編と沖縄基地問題に絞って考えてみたい。
 
 「普天間」解決へ向け閣僚級作業グループ

 「普天間飛行場を県外か国外に移設」――8・30総選挙で訴えて政権を勝ち取った鳩山民主党だが、自民党政権から続いてきた日米外交案件を一気に解決することはできまい。
従って今回の首脳会談で、「普天間問題に関する閣僚級作業グループ設置」に合意し、「早期に結論を出す」と取り決めた点を〝一歩前進〟と評価したい。「問題の先送り」と批判する声もあるが、米軍基地についての再検証・再構築を日本側が求めることは当然なこと。現在、普天間移転に関する両国の主張は異なっているが、対等な交渉を通じて、着地点・妥協点を見出す努力こそ肝要である。
 
 ところが、両国有識者やメディアの一部から、執拗な〝鳩山バッシング〟が依然続いており、不快きわまりない。岡田克也外相と十月二十日会談したゲーツ米国防長官は「普天間を移設しなければ、海兵隊のグアム移転はなく、グアム移転なしに沖縄の兵員縮小やほかの基地の返還もない」と、恫喝的な言辞を吐いた。
 
そもそも名護市辺野古への移転案は一九九六年(橋本龍太郎政権)に決まったものの、地元との調整がつかず十年間放置されたまま。その後、二〇〇六年(小泉純一郎政権)の「在日米軍再編協議」の結果、〝二本の滑走路案〟によって「辺野古」が再浮上、決着するかにみえた。
この再編計画は、米軍の世界戦略見直しの一環で、米国主導で強引に進められたもので、「沖縄駐留の海兵隊八千人を削減、二〇一四年までに完了させる」と決定。しかし、これは普天間移設とパッケージにしたもので、海兵隊のグアム移転の日本側経費負担約七千億円を押し付ける強引さだった。
 
 ところが、それから三年経過した現在も、移設先が決まらず右往左往するばかりだ。十三年間もの無駄な歳月が沖縄県民をどんなに苛立たせているか、〝基地の島の悲哀〟が続いている。
 
 「ゲーツ長官の無礼な恫喝に対して、その非を咎めたメディアがあっただろうか。米海兵隊の基地が沖縄に存在しなければ日米安保体制が崩壊すると主張する人々に訊きたい。御殿女中よろしく日米安保が崩壊すると大騒ぎしているが、なぜ、一つの海兵隊基地を沖縄の外に移すことが安保体制をこわすことになるのか私には理解できない」
 
と、山口二郎・北大教授は「基地存続の罪」をズバリ指摘(東京新聞10・25朝刊コラム)していた。一方、オバマ訪日に合わせ、「日本は米国に冷淡」との見出しを掲げたNYタイムズ11・12付記事にはびっくり仰天。「日米関係は一九九〇年代の貿易摩擦以来、最も対立的だ。日本政府は突然、米当局者と公然と争うことに躊躇しなくなり、不確実な新時代に入ろうとしている」との居丈高な論調を、『朝日』『読売』11・13朝夕刊が報じていた。先に「鳩山論文」を中傷誹謗したのも同紙電子版だっただけに、その偏狭な対日圧力には、〝大国の驕り〟が垣間見える。
 
 「日本の安全保障も沖縄の負担軽減も日米共通の目標なのだ。私が切に望みたいのは、今後、一方が一方に要求を突きつけるのではなく、日米の共同作業の継続を基本にすることである。世界の顕著な変動を受けて将来の日米のあり方をどうするのか、東アジア共同体の考え方や核軍縮と核抑止、あるいは国際安全保障への日米の役割、そして基地問題といったもろもろの課題をきちんと議論し、一九九六年の日米安保共同宣言のような形で首脳宣言をつくる作業を行ってはどうか。

オバマ大統領の訪日はその共同作業をキックオフする機会として捉えるべきではないか」との田中均・元外務審議官の提言(『毎日』11・5夕刊)のような将来展望を、メディア報道に望みたい。
 

  「思いやり予算」を見直す好機

 政府の行政刷新会議が現在進めている〝事業仕分け〟で、「駐留米軍への思いやり予算」も対象になっているため、経緯を振り返っておきたい。ベトナム戦争後財政ピンチに陥った駐留米軍の負担軽減が、当初の目的だった。

一九七八年に金丸信・防衛庁長官が経費の一部を肩代わりすると表明、「思いやり予算」と言われるようになった。発足時の予算は日本人基地従業員の給与の一部に充てる62億円だったが、米国の景気回復後も減額されるどころか負担額は年々上がり続け、贅沢な娯楽費や施設整備費などに拡大してしまった。防衛省HPが公表している年度別予算を示しておくが、予算をむしり取って転用するルーズさに驚いた。
 

▽1978年六二億円 ▽79年二八〇億円 ▽80年三七四億円 ▽85年八〇七億円 ▽90年一六八〇億円 ▽95年二七一四億円 ▽2000年二五六七億円 ▽01年二五七三億円 ▽02年二五〇〇億円 ▽03年二四六〇億円 ▽04年二四四一億円 ▽05年二三七八億円 ▽06年二三二六億円▽07年二一七三億円 ▽08年二〇八三億円 ▽09年(予算)一九一九億円
 
最近多少減額されたものの、日本が七八年以降負担してきた「思いやり予算」総額は三兆円を超す膨大な額。他国でも米軍駐留費負担はあるというが、その額の多さは群を抜いており、「世界一気前のいい同盟国」と言われているという。

まさに一度走り出したら止まらない公共事業費と同じパターンだったことに、改めて驚愕した。「概算要求額一九一九億円のうち一一六四億円が、今回の仕分け作業の対象となる。…在日米軍基地では、司令部の事務職員、レストランやゴルフ場などの娯楽施設職員として計二万五四九九人(08年度末現在)が働いている。

日米両国の特別協定に基づき、このうち二万三〇五五人分の給与は日本政府が、残りは米軍が負担している。この日本側負担分が仕分けの対象になる」(『読売』11・7朝刊)とのことだが、基地従業員に跳ね返る問題だけに、仕分け作業は難航するだろう。しかし、「思いやり予算」垂れ流しにメスを入れなければならず、「米軍基地見直し」と連動して、「思いやり予算」減額に取り組む緊急性を痛感する。なるべく早く〝お人好し〟過ぎる不条理な慣行にストップをかけることが望ましく、米国の顔色を見て判断するような問題でないことを、国民すべてが気づくべきだ。
 

  日米連携で、世界に貢献する提案を示せ

 「ブッシュ政権の八年間、不要な戦争によって多大な犠牲と軍事的弱体化を招いたほかに、アメリカが世界に貢献したものは少ない。日本政府は日米同盟の安定を喜ぶばかりで、とるべき政策を提案することはなかった。

日米同盟の堅持だけに日本の外交を押しとどめてしまうなら、同盟によって何を実現するのか、そもそも現代世界ではどのような制度や政策が必要なのかという課題が忘れられてしまう。日米同盟の堅持が問題なのではない。

日米両国が現代世界で何を実現しようとするのか、そして実現すべきなのか、課題の設定こそが問題なのである。試みに幾つかを挙げるならば、世界金融危機のような市場破綻を阻止するための制度形成、アフガニスタンをはじめとする破綻国家への国際的関与、北朝鮮ばかりかイランにまで拡散しようとする核兵器の拡散阻止。

民主党政権に求められるのは、このようなグローバルな課題に答えるパートナーシップとしての日米関係の構築である」と、藤原帰一・東大教授の論評(『朝日』11・12夕刊)は、日米・民主党政権への力強いエールであり、両国首脳の目指す方向と重なるとの期待を深めた。

                                                                                                     

                                                                                                                                 (池田龍夫=ジャーナリスト)

 

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