片野勧の衝撃レポート(49)太平洋戦争とフクシマ(24)『なぜ悲劇は繰り返されるのかー 沖縄戦と原発(下)
片野勧の衝撃レポート(49)
太平洋戦争とフクシマ(24)
『なぜ悲劇は繰り返されるのかー 沖縄戦と原発(下)
片野勧(ジャーナリスト)
廃炉作業の先行きは不透明
さて、話を元に戻す。私は名嘉さんに尋ねた。
――第1原発の現状はどうなっていますか。数秒の沈黙後、言葉を継いだ。
「原子炉は仮設システムで冷温の状態を維持していますが、建屋内への地下水流入と汚染水処理にてこずり、廃炉作業の先行きの見通しは立っていません。私は廃炉のための技術提供も行っていますが、その見通しもままならない状態です」
「東北エンタープライズ」の社員は現在、約60人。地元出身者がほとんどだ。彼らは東電社員と一緒に事故に対応した。言うまでもなく、社員も皆、被災者である。福島県内に点在する避難所でバラバラに生活している。
どうやって彼らを現場まで運ぶか。名嘉さんは避難先のいわき市のビジネスホテルから自分で自動車を運転して福島県郡山市、須賀川市、福島市などの避難所を回り、社員をピックアップしていった。
しかし、現場の過酷さは想像を超えていた。高い放射線量の中、社員たちは長ければ1日8時間、現場にこもりきりで作業した。食事は菓子パンや缶詰。睡眠は床に座ったまま。「ご苦労さん」と声をかけても、うなずくだけ。
あきれ果てる野田首相(当時)の収束宣言
そんな中、あきれ果てる事態が起きた。2011年12月16日。野田佳彦首相(当時)の原発事故収束宣言である。ニュースで流れると、外国にいる原発技術者の友人たちから、疑問や非難の電話やメールが次々ときた。「日本はなんとフェスティバルな国なんだ!」と。
「現場を知らない首相が、一人でお祭りをやっているパフォーマンスですよ」
こう言って、名嘉さんは収束宣言を切り捨てた。
「3・11」の事故の2日後、名嘉さんはある政府の担当者に、「第1原発の上に照明弾を打ち上げるよう、自衛隊に要請してほしい」とファックスした。それは沖縄での体験があったからだ。
小、中学校の頃、アメリカ軍の飛行機が何度か島の浜に墜落した。照明弾が夜空に輝くのを見た。昼間のような明るさの下でさまざまな救助活動が行われていた。福島第1原発は、夜になると真っ暗。昼間と同じように作業はできない。
照明弾があれば、夜中でも作業ができると考えたからである。結局、実現はしなかったのだが……。「日本人の危機管理の意識の希薄さが、その背景にある」と名嘉さんは指摘する。
坂下ダムの活用を!
また、こんなことも進言した。福島第1原発の西方約9キロのところにある坂下ダムの活用を吉田昌郎所長らに伝えてほしいと、保安院審議官や東電幹部に進言した。このダムは主に第1原発のために建設されたダムである。
先に述べたように、原発には大量の水が必要となる。ダムと第1原発の各建屋の近くに設置された純水タンクとは、直径約30センチの配管でつながっている。
「この配管を途中で切って取水して、消防車に接続した上で、1~4号機の北西側約35メートル離れたところにある、高さ15メートルの土手にある松林の敷地から、4機の建屋(燃料プールも含む)に連続放水してほしい」(前掲書)というのが進言の中身だった。
しかし、この進言も現場には伝わらなかったようだ。「今からでも遅くはありません。緊急事態が起こったら、是非、ダムからの取水を考えてもらいたい」と強く願う。
「第1原発から全員撤退」報道について
事故の後、「東電は、第1原発から全員撤退する」という報道が流れた。「しかし……」。名嘉さんは言葉を継いだ。「吉田所長は、犠牲を最小限にするため必要な人員を残し、あとは第2原発に避難させる決定を下したというのが真相だろう」と。
「一部撤退」か「全員撤退」か――。一時、マスコミを賑わせたが、それは誤解だった。事実、朝日新聞は、この報道記事に対して、その後取り消した。名嘉さんの証言。
「あのときの現場は、ここを死に場所と見て、必死で事故と格闘していました。現場の名誉のため、そう声を大にして言っておきたい」
オバマ米大統領が半径80キロ圏内のアメリカ人に避難勧告
ところで、オバマ米大統領が原発事故の直後、第1原発から半径80キロ圏内に住むアメリカ人に避難勧告を出した。その最大の理由は4号機が抱える懸念だった。4号機は定期検査で運転が止まっていた。そのため、原子炉内の核燃料はすべて取り出され、使用済み燃料プールに保管されていた。
地震などの揺れに弱い使用済み燃料プールが、大きな余震で損傷でもしたら、中の水が流れ出し、燃料が大気にさらされる。そうなれば、膨大な量の放射性物質が大気に放出される恐れがある。
しかも、4号機の5階フロアには定期検査中のため重量機器が所狭しと仮置きされていた。建屋が余震に耐えられるか心配だった。ともかく、一刻も早く、核燃料を使用済み燃料プールから取り出してほしいと、名嘉さんは訴え続けた。しかし、返事はなかった。
「私は4号機の5階が余震で崩壊したら、東京も避難せざるを得なくなり、もう日本は終わりだと思いました。アメリカも、そこを心配したのでしょうが、それほど事態は緊迫していたのです」
原発は発展途上の技術だった
――原発の安全神話についてどう思われますか。
「安全性について実態を知る立場にあっても、家族にさえ、それを話せない。そういう環境が長く続いてきました。それが原子力の安全神話を生み、取り返しのつかない事故につながったのだと思います。ここで私が強調したいのは、『原発は安全』という嘘が、すべての元凶という事実です。そもそも、できて間もない頃の原発は、発展途上の技術だったのです」
福島原発は、技術的な改良は進み、システムは安定しても、機械の想定外の劣化や操作ミスなどで危うい事態は絶えなかった。本来、そうした事故、トラブル、故障はきちんと外に出して、改善策を講じていくべきなのに、「原発は安全」という、いわゆる安全神話を守ることに自縄自縛(じじょうじばく)になった電力会社は、それをためらって隠し、事態の悪化を招いたのだと言う。さらに続ける。
「最悪の形で破たんした原発事故は、戦前、大東亜戦争に突き進んでいったのと、よく似ています。昭和天皇の『回顧録』を読んでも、天皇陛下でさえ、政策にストップをかけることができなかったのですから」
誰も責任を取らない日本型社会
責任者の顔が見えず、誰も責任を取らない日本型社会の中で、なぜ日本は太平洋戦争への道を歩んだのか。そして大義も勝ち目もない戦争に、最後は破局を迎えた。この無責任体質こそが「日本病」そのものであり、戦争に突っ走ったといってよい。
同じように福島原発事故に対して、責任を取るものは誰もいない。国民に損害を与えても、国家は責任を負わないという、この体質が事故の本質的な要因ではないのかと、名嘉さんは思う。
――沖縄戦のことについて伺います。名嘉さんは当時、4歳。
「戦局が激しくなり、若者は召集されました。私の一番上の兄も結婚して間もなく学徒兵として沖縄本島に行きました。しかし、島に帰ってくる人はほとんどいませんでした。戦後は食料を求めて多くの人が伊是名島にやってきましたけれども……」
当時、伊是名島には1万人から1万5千人はいたと言われている。さらに私は尋ねた。
――フクシマとオキナワ。国策の被害者としてのフクシマと、軍事利用としてのオキナワの共通点を挙げるとすれば……。
「2つのふるさとを持つ私には、両者に重なるところが少なくありません。米軍普天間飛行場(宜野湾市)を名護市辺野古へ移設する見返りに払われる振興策の補助金と、福島など原発立地県に払われる電源3法の交付金はよく似ています。アメとムチです」
2013年12月25日、仲井(なかい)真(ま)弘(ひろ)多(かず)沖縄県知事(当時)は沖縄振興予算について、「有史以来の予算だ。……(中略)いい正月になるというのが実感だ」と語った。
それに対して、名嘉さんはこう言う。「補助金や交付金は、体裁の良いひも付きの『お年玉』です」と。
特定秘密保護法案に関する地方公聴会で
福島市で開かれた特定秘密保護法案に関する地方公聴会に名嘉さんは意見陳述者の一人として出席した。衆院審議が大詰めを迎えていた2013年11月25日――。
公聴会の資料の中に、「(米国の)原子力委員会によって指定された秘密情報を含む文書等」と明記されていた。名嘉さんは、この資料を見たとたん、「政府は原子力発電所に関連する情報も、国民から隠そうとしているのではないか。特定秘密保護法をそのために使うつもりではないか」と感じたという。
公聴会の席の名嘉さんの発言。
「原発を『特定秘密』にして、秘密のベールに包むとすれば、原発の健全さは保てません。安全神話を守るために、取られるべき対策は先延ばしされ、とどのつまりが、福島第1原発の惨事を招いたのです。同じ轍を決して踏んではなりません」
――では、どうしたら、情報がオープンになるのでしょうか。私は尋ねた。
「実は東電が発表する情報というのは、政府がほとんどコントロールしています。本来、原子力規制等の法律に基づいた説明が必要なのに、それもしない。問題は一方向だけを見て、都合の悪いことを切り捨てる風土も、その背景にあるのではないですか。だから、自由に意見交換したり、討論したりできないのだと思います。また基本的人権を考慮すれば、知らせなければならない情報なのに、それも怠っているのは問題です」
原発の海外輸出は絶対いけない
――原発を海外に輸出することについては?
「私は、原発の輸出は絶対にやってはならないと思っています。たとえば、これから原発を輸出するトルコも日本同様、地震国です。仮に大地震が原発を襲い、事故を起こしたらどうしますか。プラントの売り主として責任を取らなければなりません。福島の事故への対策でさえ、満足にできていない日本に、そんな余力がありますか。それよりも使用済み核燃料の処分と管理。老朽化した原発の廃炉という目の前にある課題が大切ではないでしょうか」
福島原発を知り尽くした名嘉さんに話を聞き終わった時、もう約束の1時間を過ぎていた。フクシマとオキナワ――。「脱原発」は可能なのか。「普天間問題」をどう解決するのか。私は駅までの道、言外の意味を考えながら空を見上げた。(かたの・すすむ)
片野 勧
1943年、新潟県生まれ。フリージャーナリスト。主な著書に『マスコミ裁判―戦後編』『メディアは日本を救えるか―権力スキャンダルと報道の実態』『捏造報道 言論の犯罪』『戦後マスコミ裁判と名誉棄損』『日本の空襲』(第二巻、編著)。近刊は『明治お雇い外国人とその弟子たち』(新人物往来社)。
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