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*

<一連のオウム真理教事件の全解説>

   

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『明治・大正・昭和・平成事件・犯罪大事件』東京法経学院出版(2002年7月刊)の項目集成
2003年6月 
静岡県立大学国際関係学部教授    
前坂 俊之
1・オウム真理教とは…
オウム真理教は麻原彰晃(本名松本智津夫)が1982 年に設立した「オウム神仙の
会」に始まる。
86 年にはヒマラヤで最終解脱をしたと称して「オウム真理教」に名を変えた。オウム
(AUM)とはサンスクリット語で宇宙の「創造」「維持」「破戒」の意味、ヨガ的な修行で
空中浮揚、超能力を体得できるとして信者を獲得。マインドコントロール(心理操作)し
て信者を増やしていった。
麻原の妄想は順次、拡大し,教義もタントラ・ヴァジラヤーナ(真言秘密金剛乗)によっ
て殺人を肯定するものに変質していく。
90 年2 月,総選挙に「真理党」として立候補して落選したが,国家から弾圧されたため
だと思い込む被害妄想がいっそう大きくなる。
以来,国家革命をめざすようになり,教団の施設建設をめぐって全国各地で住民との
あいだでトラブルを次々にひきおこした。
90 年4 月ごろ,尊師麻原の下に正大師・悟長・署長・菩師など12 階級をつくり,尊師
への帰依,絶対服従を強いる上意下達の独裁体制となった。
破壊的カルト集団と化し,武装化,凶悪化をたどり,最後には麻原はハルマゲドン(世
界最終戦争)の到来を予言。
ハルマゲドンで生き残るのはオウムの信者だけだ,と主張。毒ガス,サリン、武器製
造を「ワーク」と称する修行として信者に行わせ,教団での階級の昇格,競争のテコに
利用していた。
94 年6 月には教団に省庁制を導入,麻原を神聖法皇とし,その下に大蔵省・郵政省・
治療省など22 の省庁に再編成,宗教に名をかりた擬似国家をつくり,「麻原が主宰す
る祭政一致の独裁国家の建設が政治上の主義となった」(公安調査庁の破壊活動防
止法による解散手続き認定)。
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また,その資金源として全国に30 億円の不動産を所有,お布施総額で百数十億円,
関連会社はコンピュータ,パソコン販売会社,出版社,化学商社など20社にのぼった。
95 年の信者数は約1 万人。
信者からは全財産をお布施として取り上げ,信者を勧誘し入信させ,教団につなぎ止
めておき,殺人・誘拐・拷問などさまざまな犯罪・違法行為を行わせるためマインドコ
ントロールを用いた。
ハルマゲドンに備えて国家権力を打倒するため,武器製造だけではなくサリン,マス
タード,ホスゲンなどの猛毒ガスの製造のため,山梨県上九一色村の教団本部に「サ
ティアン」という化学施設をつくって,計30t のサリン製造を指示していた。
この間,教団に反対,敵対したものは次々に殺害,89 年11 月に坂本弁護士一家3
人を殺害,94 年1 月の元信者・落田耕太郎さんなど脱会した信者たちの殺害,また同
年6 月には松本サリン事件の無差別テロをおこした。
95 年2 月には仮谷さん拉致・殺人事件,95 年3 月には世界の犯罪史上でも例のない
一般市民5000 人以上の被害者を出した大量無差別殺人テロの地下鉄サリン事件を
おこしたほか,同月末には国松響察庁長官射殺未遂事件,4 月村井秀夫幹部刺殺事
件,5 月都庁郵便爆弾事件,同月地下鉄新宿駅トイレ青酸事件など,一連の事件を
次々にひきおこすなど破壊的カルト集団,テロ集団と化していった。

(前坂俊之)

2・【坂本堤弁護士一家3 人殺害事件】
1989 年11 月4 日未明,横浜市磯子区洋光台の坂本堤弁護士(33 歳)宅で,坂本と
妻・都子(29 歳),長男・龍彦(1 歳)の3 人が突然行方不明になった。部屋にはオウム
真理教のバッチ「プルシャ」が落ちていた。
当時、坂本は,教団の被害者からの訴えでイニシエーションのインチキ性などを追及,
教団対策弁護団を結成し,民事訴訟の準備をしていた。
またラジオ,テレビでも教団を批判・追及し,教団弁護士の青山吉伸や広報部長の上
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祐史治らと激しく対立していた。その矢先の失踪,行方不明だけに,教団の犯行では
ないかとみて神奈川県警も捜査を行ったが,捜査は難航して謎のまま時間が経過。
95 年3 月の地下鉄サリン事件によって教団メンバーが逮捕されてのち,初めて真相
が明らかになった。
同県警の調べでは,「被害者の会」の結成など坂本弁護士をこのまま放置していると
教団の大きな障害になるとして,麻原彰晃教祖が「ポアしなければならない」と殺害を
指示。
早川紀代秀,村井秀夫,岡崎一明,中川智正,新実智光,端本悟の実行犯6 人は4
日午前3 時ごろ,無施錠だった玄関から坂本弁護士宅に侵入し,眠っていた坂本に
端本が馬乗りになり,岡崎が首を絞めて窒息死させた。また都子の首は新実が絞め
て殺し,龍彦も中川がタオルで口をふさいで殺害した。
その後,近所に聞こえないように布団といっしょに遺体を車に積んで富士総本部に運
んだ。さらにドラム缶に遺体を入れて「捜査をくらますため3 人をバラバラに3 県に埋
める」ことを申し合わせ,龍彦は長野県松本市,坂本弁護士は新潟県内,都子は富
山県内の山林に穴を掘って埋めた。
犯行時,手袋をしていなかった早川,村井は指紋を消去する手術を施していた。この
事件の関係者ではすでに早川,端本,岡崎らが東京地裁より死刑の判決を受けてい
る。                                         (前坂俊之)

3・【落田耕太郎さんリンチ殺人事件】
1994 年1 月30 日未明,山梨県上九一色村のオウム教団施設で元信者・落田耕太郎
(29 歳)が殺害された。落田は同教団付属病院で薬剤師をしていたが,その病院で難
病のパーキンソン病を患った女性信者(45 歳)と知りおうむし合った。
落田はオウムが弾圧されているという麻原彰晃の言動に不信を持ち,半月ほど前に
脱会していたが,この女性への教団内での治療に疑問をもち,同病 院から連れ出そ
うとこの女性の息子で信徒の保田英明(28 歳)とともに2 月1 日施設に侵入,第6 サ
ティアンで彼女を発見したものの,逆に捕まってしまった。
2 人は麻原教祖の前に連れていかれたが,麻原は保田に向かい「落田はポア(殺す)
しかない。お前がやれば命は助けてやる」と殺害を命令した。麻原の妻で郵政省トッ
プの松本知子,村井秀夫,新美智光ら最高幹部11 人がいた前で保田は落田の首に
ロープを巻いて他の教団幹部とともに絞めて殺した。
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遺体はマイクロ波装置を組み込んだドラム缶で焼却されて灰となって捨てられた。落
田殺害事件でのみ起訴されている松本知子に対しては,99 年9 月,東京高裁は遺族
とのあいだで示談が成立したことなどを理由に懲役6 年の判決を下し,2001 年6 月,
最高裁で確定している。                        (前坂俊之)
4・【松本サリン事件】
一1994 年6 月27 日夜11 時ごろ,自宅で妻・澄子(44 歳)とテレビを観ていた長野県
松本市の会社員・河野義行(44 歳)は,妻が突然仰向けに倒れ全身を痘華させたの
をみて驚いた。
同時に強い異臭もしてすぐに119 番通報したが,やがて河野と長女も倒れた。
このほか,近くのマンションからも「変な臭いがする,気分が悪い」と119 番通報が
続々入り,この集団ガス中毒事件でマンションの住人ら死者7 人・重軽傷者226 人を
出す大惨事に発展した。
現場検証では河野宅の周辺からナチス・ドイツが開発した有機リン系毒ガスのサリン
が検出された。サリンは猛毒で中枢神経や運動神経に障害が現れすぐ死亡する。
長野県警は翌日,河野宅を被疑者不詳の殺人容疑で家宅捜索して,シアン化合物な
どの薬品を押収。
その後,押収した薬品ではサリンは生成できないことがわかったが,県警は病院を退
院した河野に事情聴取,ポリグラフにかけるなど自白強要の捜査を続け,新聞・テレ
ビでも河野を有力容疑者とする誤った報道が行われた。
事件は謎に包まれていたが,翌年3 月20 日の地下鉄サリン事件によって初めてオウ
ム教団が犯人と判明し,やっと河野の濡れ衣が晴れた。
同事件は教団が松本に支部を設けるために購入した土地をめぐって地元住民とトラ
ブルがおこり,長野地裁松本支部が出した訴訟の判決に不満を持った教団教祖の麻
原彰晃が裁判官へ報復するためと,93 年貢ごろから製造していたサリンの効力をテ
ストするために,6 月20 日に犯行を指示。
加熱式噴霧器を荷台に設置した噴霧車を使用して,村井秀夫,中川智正,薪美智光,
端本悟,遠藤誠一,土谷正美,林泰男の7 人の実行部隊が現場に向かい,風向きを
5
考慮してサリンを噴霧する場所を裁判官宿舎付近の駐車場に決定。
そこで噴霧車とワゴン車を止めて,約10 分間サリンを大型送風機で噴射させたのだ
った。  (前坂俊之)
5・【仮谷清志さん拉致・殺害事件】
1995 年2 月28 日午後4 時半ごろ,東京都品川区上大崎の路上で,目黒公証役場事
務長・仮谷清志(68 歳)が帰宅途中,ワゴン車に連れ込まれて拉致された。
警視庁捜査1 課は逮捕監禁容疑で捜査を開始。その後の調べで,仮谷の妹(62 歳)
は93 年10 月にオウムに入信しており,教団にお布施6000 万円を寄進したが,さら
に土地・建物を寄付し出家するように薬物を飲まされて強要されたため,仮谷に相談
して脱会を決意,身を隠していたことがわかった。
そのため警察庁は,教団が同女の居場所を突き止めようとして,仮谷を拉敦したもの
と判断。拉敦に使われたワゴン車はレンターカーで,その申込書から教団信者の松
本剛(29 歳)の指紋も検出されたため,松本を指名手配。
松本は女装をし,指紋の消去や整形手術をして逃走を続けていたが,6 月に逮捕監
禁罪で逮捕された。
そしてこの事件が,オウム真理教の一連の事件の突破口になった。調べでは,教祖
の麻原彰晃が諜報省大臣の井上嘉鞍らに仮谷を拉鼓するように指示。
林部夫ら8 人がワゴン車で仮谷を待ち伏せして拉致し,車中で抵抗する仮谷に法皇
内庁トップの中川智正が麻酔剤「ケタラール」や自白剤「チオベンタールナトリウム」を
点滴,注射した。
仮谷はその後,山梨県上九一色村の第2 サティアンに連れ込まれ,妹の行き先を追
及されたがいわなかったため,林から麻酔剤を打ちつづけられて約12 時間後に死亡
した。遺体はマイクロ波装置付きのドラム缶で3 日かけて焼却,焼け残った遺骨は木
片で粉々に砕き本栖湖に捨てられた。
また,この事件を知る信者数人に対しては全身麻酔をかけ,頭部に電気を通して記
憶を抹殺する処置もとっていた。
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96 年4 月23 日,東京地裁は「麻原被告が犯行を指示,教団が運転手役,薬物の注
射役,指揮統括役など役割分担した組織的・計画的犯行」と認定し,逮捕監禁と電気
通信事業法違反などで松本剛に懲役4 年の実刑判決を下した。(前坂俊之)
6・【地下鉄サリン事件】
1995 年3 月20 日午前8 時ごろ,東京都千代田区の地下鉄霞ヶ関駅を通る日比谷・
丸ノ内・千代田線の電車の中で,異常な臭気にょって倒れる乗客や駅員が続出,死
者12 人・重軽傷者5500 人という世界のテロ犯罪史上でも類例のない,猛毒のサリン
ガスによる大規模・無差別なテロ事件となった。
警視庁はオウム教団の犯行とみて・教団施設をいっせいに捜索。5 月16 日,殺人・殺
人未遂容疑で麻原彰晃教祖(40 歳)を山梨県上九一色村の教団施設「第6 サティア
ン」の隠し部屋に潜んでいるところを逮捕した。
この事件で殺人・同未遂で起訴された教団幹部らは13 人。麻原は仮谷清志さん拉致
事件などで教団への強制捜査が迫っていることに危機感を抱いて,捜査を擾乱し首
都圏を大混乱させるために・警視庁に近い地下鉄駅で電車内にサリンを撒くように指
示。
サリンは土谷正美が保管していた中間物質「メチルホスホン酸ジフロリド」で,遠藤誠
一が中心となって7g を急遽製造した。
事件の総括指挿は村井秀夫,現場指揮の井上嘉浩は実行役の林郁夫,林泰男・広
瀬健一,横山真人,豊田亨の5 人に対して傾ヶ関駅で午前8 時に着く電車に乗り,到
着5,6 分前に発生させろ」と具体的に指示していた。
前夜,実行グループは傘の先でサリンの入ったナイロン袋を突き破る予行演習を行っ
ていた。20 日軌サリン各600g を11 のナイロン袋に小分けして,5 人は日比谷線など
3 線に分かれて乗り込み,新聞鰍こ包んだナイロン袋を傘で刺してサリンを撒き散らし
て逃走した。
犯行後,全員が富士総本部の第6 サティアンに戻り,村井が報告すると,麻原は「シ
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ヴァ大神にポアされたね」と述べたという。東京地裁は2001 年末までに,井上,林部
夫 に無期懲役,広瀬,横山,豊田,林泰男,端本悟・岡崎一明らに死刑判決を下し
ている。(前坂俊之)
7・【国松孝次警察庁長官狙撃事件】
1995 年3 月30 日午前8 時半ごろ,警察庁の国松孝次長官(58 歳)が,東京都荒川
区南千住の自宅マンションを出て公用車に向かって歩いていたところ,背後から銃弾
4 発を狙撃され,そのうち3 発が当たった。
犯人は約20m 離れた植え込みに隠れて米国コルト製造の38 口径拳銃から発射,黒
っぽいコートにマスク姿で自転車に乗って逃走。
一方,国松長官は意識不明の重体となったが奇跡的に回復,3 カ月後には職場復帰
した。警視 庁の捜査では,前日にオウム真理教の信者が同マンションで警察を批判
する文書を撒いており,オウム関おうむし係者の犯行とみて捜査をしたが,直接犯行
と結びつく証拠は出てこなかった。
その後・粥年5 月になって・オウム信者の警視庁現職巡査長(31 歳)がr 私が長官を
撃った」と告白し,事件に関与した人物として教団の早川紀代秀や井上嘉浩・林泰男,
平田借の名前をあげた。
この巡査長は88 年ごろからオウム適齢こ通い,地下鉄サリン事件でも応援要員とし
て派遣され,警察情報をオウム側に伝えていたことがわかった。
警視庁は極秘にこの巡査長を調べたが・供述と証拠が一致せず,実行犯の可能性が
薄いことから懲戒免職にし,厳重な箔口令を敷いて監禁・隔離し・警察庁にも知らせ
なかった。
ところが,10 月にこのことを内部告発するハガキが各マスコミに郵送されて不祥事隠
しが′くレ,大問題に発展した096 年11 月・桜井勝警視庁公安部長,井上幸彦警視
総監が更迭。巡査長も再び取り調べられ「神田川に銃を投げ捨てた」との自供で徹底
した捜査が行われたが,拳銃は発見されなかった。
事件は依然,未解決のままである。(前坂俊之)
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8・【村井秀夫オウム教団幹部刺殺事件】
1995 年4 月23 日夜8 時半ごろ,東京・南青山のオウム教団東京総本部の前で,教
団ナンバー2 で科学技術省トップの村井秀夫(36 歳)が数十人のマスコミ・報道陣の
取り囲むなかで,山口組系暴力団羽根組組員・高信行(仮名・30 歳)に突然包丁で襲
われ・病院に運ばれたが腹などを刺されており,出血多量で6 時間後に死亡した。高
はその場で捜査員に殺人の現行犯で逮捕された。
ちょうどオウム教団への捜査が山軌こさしかかったときの事件で,教祖麻原彰晃の命
令は村井を通して実行役に伝えられるケースが多かっただけに,教団の指挿系統の
犯行立証が途切れてしまった。
警視庁の調べに対して,高は羽根組幹か山峰恵三(仮名・48 歳)の指示で殺害したと
供述したため・山峰を殺人の共謀共同正犯として逮捕した。しかし山峰は・捜査から
公判段階まで一貫して事件への関わりを否定。
99 年3 月29 日,東京高裁で97 年3 月の1 審に続いて無罪判決(求刑懲役15 年)
を受け確定している。
一方,高には95 年11 月13 日,東京地裁で山峰の指示による犯行と認定した上で
懲役1β年の判決があり,控訴せずそのまま確定した。事件の背後関係については
オウム関係者が口封じにやったのか、あるいは山口組とオウムのあいだにも武器製
造や麻薬密売などで従来から関係が取り沙汰されてきていたが,それらの疑惑は解
明できなかった。    (前坂俊之)

 - 現代史研究

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