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地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

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『Z世代のための最強の日本リーダーシップ研究講座㉛」★『第ゼロ次世界大戦の日露戦争は世界史を変えた大事件』★『勝利の立役者は山本海軍大臣と児玉源太郎陸軍参謀長、金子堅太郎(元農商務大臣)のインテリジェンスオフィサーです』

   

  2019/10/19  『リーダーシップの日本近現代史』(103)記事再録/ 
『「日清、日露戦争に勝利」した明治人のリーダーパワー、インテリジェンス㊵』
 

1・・パリで最高にもてた日本人

 

暗い話が続いたので、パットと明るい、自信のわいてくる話でいきましょう。明治から、大正時代、1920年代にもフランス・パリにはたくさんの日本人が住んでいました。

そのパリで対仏輸出入組合理事長をしていた伴野文三郎著「パリ夜話」(昭和32年、教材社)という、大変愉快な思い出話があります。当時、世界の中で日本がどう見られていたのか、を考えるには絶好の材料です。

当時のヨーロッパ列強の間では軍事大国・ロシアは陸海軍とも世界一,二の戦力を有しており、「北の巨熊」として、恐れられていました。フランスの英雄で戦争の天才・ナポレオンもロシアに負けているほどです。

そんなロシアに、鎖国を解いて、やっと文明国に仲間入りしたばかりの地図上でその位置さえわからないアジアの無名の小国・日本が戦いを挑んだのです。

 

ヨーロッパ各国は「かわいそうにたちまちひねりつぶされてしまうぞ」と日本に同情していました。ロシアは初めから日本をなめてかかり、世界各国ともロシアの圧倒的な勝利を予想していました。当時、フランスはロシアと軍事同盟を結んでいました。

 

ところが、イザふたをあけると、陸戦でも連戦連勝し、日本海海戦では世界一のロシア・バルチック艦隊が日本についたら「ひと飲みにされるだろう」との世界の予想を覆して、東郷平八郎率いる連合艦隊が全滅させたのです。しかも、日本側の損失はほぼゼロという完全勝利はスペインの無敵艦隊をやぶったネルソン率いる英国艦隊の勝利を上回るもので、世界中は2度びっくり。

ヨーロッパや長年ロシアに圧迫され,侵略されていたポーランド、フィンランド、北欧、トルコ、中央アジア各国は驚愕し、「日本人とは一体どんな国民なのか」と驚異の目で見られ、爆発的な日本ブームがおこったのです。

伴野にも「娘があったらぜひ、日本人にもらってもらいたいのに」との話しが舞い込んだり。その年のクリスマスに伴野が一流レストランでフランス人家族と一緒に食事をしていると、超満員の店で酔った男が「あの強い日本人か」「記念にワイフにキスしください」と金髪の美女を客席まで連れてきて、キスを求めたかと思うと、そのうち店内の全女性が総立ちで、次々に伴野へのキスの総攻撃となったといいます。

 

それから客席をかたづけダンス場に早変わり、ダンスの相手をしてモテモテ、最後には胴上げされて、「ビーブ・ル・ジャポン」(日本バンザイ)の大合唱となったという次第。まるで夢心地だといいます。世界各国の人種が集まるパリでも、最高にモテたのが日本人だったとは、何ともうれしい、誇らしい話ではないでしょうか。

 

日本リーダーパワー史(651) 日本国難史にみる『戦略思考の欠落』(44)日清戦争を外国はどう見ていたのか、『本多静六 (ドイツ留学)、ラクーザお玉(イタリア在住)の証言ー留学生たちは、世界に沙たる大日本帝国の、吹けばとぶような軽さを、じかに肌で感じた。

https://www.maesaka-toshiyuki.com/person/13886.html

結婚してエレオノラと名のったお玉は、戦争がはじまったとき33歳、渡伊以来十二年、女流画家として名をあらわしていた。

「知人の、どこへ参りましても、『きっと日本が負けるだろう』と申していました。

まずそれが当時においては、世界どの国でも立てられていた予想だったのでしょうが、私としてはそう言われるのが残念でたまりません。それで朝早くから起きては、戦勝の御祈願をいたしました。

じつのところを申せば、私は結婚いたしましたときから、カトリック教徒になったわけでございます。そしてカトリック教では、偶像崇拝と申しまして、ほかの神仏を祈願することを何より忌むのです。

それは私も百も承知でございましたが、いざ、日本の戦いの大勝利を祈るという段になると、イエス様、マリヤ様ではどうもぴったりと胸に落ちつきませぬ。

そこで第一がお伊勢様。-それからは八幡様、お富士様、香取鹿島様、水天官様、観音様、毘沙門様など、神仏混合で、思い出せる限りの、ありとあらゆる神様、仏様に、一心をこめてお祈りいたしました。

ところがどうでしよう。来る報知(ニュース、新聞)も、来る報知も、日本の連戦連勝を報じているではありませんか。

そのころは、いまのように通信機関が完備しておりませぬから、イタリーの新聞には、三、四カ月目に一度位ずつしか詳報は伝わらなかったと覚えておりますが、それが載った朝は、平常は見向きもしない小新聞まで買い集めて、みんな眼を通し、それでも飽き足りないで、詳しく書いてある新聞の記事は、三度でも五度でも読み返しました。

あの小さな日本が、こんなにも強いのかと思うと嬉しくてたまらず、東洋地図を開いては日本の図面の上に、何度接吻したもりかわかりません。

戦勝国民のありがたさは、ちょっと買物に出ましても肩身が広く、『奥さん、おめでとうございます』と、会う人ごとに挨拶をかけられたものです」(木村毅編『ラグーザ玉自叙伝』1939年)

戦争が終わったとき、ラグーザ家では盛大な戦勝祝賀の晩餐会を開いた。ラグーザ玉はロには出さなかったが、招待した客たちに、どんなものだと言ってやりたい気持ちでいっぱいだった。

彼女は、シシリー島の一端で、ひとり日本を代表し、心の中で戦争に参加していたのである

2・・日露戦争は世界史を変えた大事件

20世紀の歴史をみると、日露戦争は第一次世界大戦の前に起こり、アジアの国がはじめて西欧の大国を破ったケースとして世界史を変えた大事件だったのです。

250年の鎖国をやぶり明治維新で近代日本がスタートし、わずか30余年で日露戦争で勝利して4等国から一等国家へ仲間入りしたのです。その日本海軍の最高のリーダーが山本権兵衛だったのです。彼はほぼ独力で、日本海軍を建設して、そのCEOとして、組織を変え人材を抜擢して、最新技術を導入しマネージメントに成功して戦争に見事に勝利し、日本興隆の真の立役者です。

 

日本のメディアでは日露戦争といえば東郷平八郎や秋山真之、乃木希典、児玉源太郎らの戦争を戦った人間にばかりに焦点を当てられがちですが、真に国家の興亡のカギを握ったのは山本権兵衛であり、陸軍の建設者の山県有朋と比較してもその国家戦略、実力でははるかに凌駕していました。明治以来現在までの日本の宰相、政治家を比べても、最高の「リーダーパワー」といっても過言でないと思います。

●国家の「リーダーパワー」に必要な条件とは何でしょうか。

① 強い信念=明確で一貫して強い信念を持って、実践する。

② 国家哲学、戦略、作戦の作成=長期と短期の国家ビジョンを作成して、そのプロジェクトを作って計画を年次的に適切に実行、推進していく。

③ マネージメント能力=そのために組織の改革、人事の刷新、新技術の導入すること。旧来の学閥、派閥などにとらわれることなく、能力のある者の適材適所をつらぬく。

④ スピーチ能力=言語、弁舌にすぐれて、プロジェクトの内容を十分説明する説明責任と説明能力を兼ね備えていること。

⑤ グローバル・リテラシーとタフネゴシェーター=国際的視野と外交能力、交渉術のプロであり、海外のリーダーとも互角に渡り合えるだけの見識、能力、語学力を有すること。

⑥ 勝負、戦争の仕方、引き際を心得ていること。―などです。

 

山本はこのリーダーの条件をすべて満たしていた稀有の存在であり、その面でも世界のリーダーと比較しても抜きんでていました。オバマ米大統領の出現で改めて政治家のリーダー力が問われていますが、百年に一度の経済危機、政治危機に直面した現在、山本権兵衛の「リーダーーパワー」とその突破力にこそ大いに学ぶヒントがたくさんあります。

ビジネスマンやFXの投資の読者の皆さんにも「山本権兵衛必勝法」の秘訣が大いに参考になると思います。

 

3・・世界のトップリーダーだった山本権兵衛

山本の戦略、戦術をみていきましょう。

① <国家戦略では>ロシアを仮想敵国とし、ロシア海軍に対抗する軍備拡張を図って戦闘艦六隻、一等巡洋艦六隻の新鋭艦をそろえての六六艦隊の実現を期し、厳しい国家財政の中でやりくり。下瀬火薬をはじめ軍需兵器を完備しました。山本は海軍省官房主事というポストで西郷隆盛の弟である西郷従道海軍大臣を、縦横に動かして大海軍を短期に作り上げたのです。

 

 

② <人事の刷新、抜擢>戦争になれば中央の海軍省からの命令を即実行する第一線の将官の実力が勝敗の決め手になる。山本は年功序列や先輩後輩にこだわらず大将、将官ら無能力者97人を一斉に首にした。海軍内では非難ごうごうたるものがありましたが、中でも、戦争前に連合艦隊司令長官だった先輩の日高壮之丞を舞鶴鎮守府司令長官の閑職に祭り上げて同長官でやめる寸前の東郷平八郎を連合艦隊司令長官に逆に大抜擢しました。明治天皇は心配して尋ねると「東郷は運のいい男ですし、命令を正しく実行する男です」と太鼓判を押しました。東郷は日本海海戦で空前絶後の戦果をあげて山本の期待にこたえたのです。今の行財政改革と比較すると、首切り人事がいかに難しいかがわかりますが、山本の決断力と実行力のすごさが示されています。     

 

③ <説明能力抜群のスピーチ力>山本は西郷、大久保利通らがうまれた薩摩[鹿児島県]の同じ町内の出身です。日本では多弁な男は軽視されていました。不言実行型、「沈黙は金」「男は黙って勝負する」リーダーが多い中で、山本はしゃべりすぎといわれるくらい弁が立ち、相手が上であろうが自説を主張して譲らない信念の人でした。海軍省官房主事、軍務局長の時には「権兵衛大臣」といわれて、西郷海相を手玉に取ってプロジェクトを実行し、陸軍大将・山県有朋にむかい、「山県君」と呼んで、山県を激怒させたり、井上毅文相との会見中、井上が細かい字句について質問したところ、「そんなことは書記官の仕事で、大臣のやる仕事ではない」とピシャリと叱りつけたり。まるで、大物だったのです。

 

④ <国際交渉力では>外国でも「日本海軍の父」として、その名は轟いていました。   海外のVIPにもいささかの遠慮もせず、ドイツのカイゼルのウイルヘルム二世に会ったとき、「ドイッでなにか見たいものはないか?」と聞かれて、「クルップの機密工場をみたい」といって度肝を抜いたり、アメリカ大統領ルーズベルト(日露講和の仲介者)に会ったときも、英語で日露戦争の勝利についてまくし立ててその弁舌で驚かせたといいます。

4・・「山本権兵衛必勝法」

 

そして、山本が一番すごかったのは戦争で勝利の方程式を作って、勝ったあとの終結を見事にやってのけた点です。戦争に勝つことは難しい、勝ち続けることはもっと難しい、それ以上に難しいのはどこで、戦争を終わらせるか、その引き際です。

日露戦争の直前に、大山厳が満州軍総司令官に任命されると、当時、海軍大臣だった山本を海相官邸に訪ねて懇願したといいます。

「この戦争は三年、あるいは五年ぐらいはかかると思う。しかし勝負はどこまでいったらつくのか、戦争終結が難しい。およそ連戦連勝という場合には、国民は勝つことだけを知って、負けることを思わず、有頂天になる。こういう場合に、軍配を振る(戦争を止める)ということは、まことに大役で、一身を犠牲にする覚悟がなければできない。この大役は貴方のほかにはないので、何とかよろしくお願いしたい」と申し出た。

山本はこう答えました。

「講和の決定は、全く天皇の大権に属することであるが、これが時機を捉えることは、国務大臣の責任である。私はその機会到来すれば、適当の措置をとることに躊躇しないであろう。ご安心いただきたい」

この問答が、有名な「軍配問答」です。実戦経験豊富な大山の意見は、実に戦争の仕方、引き際を心得ており、唯一頼りになるリーダーの山本も見事にこれを受け止めて処理して、奉天会戦を最後として終戦に導き、乾坤一擲の日露戦争で日本の勝利を確定したのです。

 

太平洋戦争では、当時のリーダーたちは明治のリーダーとは全く違って、戦争をどのように終結させていくかを全く考えずに、「清水寺から飛び降りる」気持ちで突入してしまったのです。そして、あのような全面大敗北の結果となったのも、トップリーダーの見識、洞察力の差が明暗をわけたのです。

以上の点から今の経済対策にかかわっているトップリーダーも事前に結果の処理を考えながらことを進める必要がありますし、個人レベルでFXや投信などをする場合も、徹底した研究と同時に、どこで撤退するかを決めておくことが、最低限必要なことはいうまでもあいません。

アベクロミクスの大失敗は出口戦略がなかったことです。

 

 - 人物研究, 戦争報道, 現代史研究, IT・マスコミ論

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