前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

「王の子供は王じゃない。王になるのは能力者」=南インド映画「数学の天才・アーナンド先生の教室」(2019年制作)をみて、いたく感動した。インド映画は哲学的、アクション、歌、ダンス、ラブコメディーあり、てんこ盛りで超楽しいよ。

   

 

「王の子供は王じゃない。王になるのは能力者」

このところ、インド映画にはまっている。2022年現在のインドの人口は14億1200万人だが、今年中に世界一の中国(14億2600万人)をぬく勢い。インドの経済力(名目国内総生産・GDP)も現状では日本の半分程度だが、6年後の29年時点では日本を追い越し世界3位の経済大国になる見通しだ(日本経済研究センター調べ)。

そのインド大躍進の中心はインドのIT技術者と「国立インド工科大学」(IIT)である。米国シリコンバレーの発展を支えてきたのも同大の出身者であり、多くがGoogle, Microsoft, IBM, Adobe、ソフトバンクなどのCEOを務めてきた。

「IIT」に落ちたから仕方なく「米マサチューセッツ工科大」(MIT)に行く」と言われるほどの優秀な大学で、インドの主要都市に23の分校がある。

「インド工科大」に入れば「引く手あまたで世界の富裕層に入れる」と幼稚園からの一貫教育で英語、数学を授業する高額な塾(予備校)が増え、激烈な受験競争が起きている。日本、中国、韓国などと共通した教育地獄、教育格差の国にインドもなっている。

こうしたインドの「金儲け第一主義」の塾戦争の実態に迫ったのが、南インド映画「数学の天才・アーナンド先生の教室」(2019年制作)で、連休前に見ていたく感動した。

映画の内容はー「数学の天才児・アーナンド・クマールは1973年に貧しい家庭に生まれ育ったが、その天才的な数学の論文が認められ英国ケンブリッジ大学から合格通知が届いた。しかし、渡英する旅費、金がないため辞退する。その後、高額な塾の有名講師となり、貧乏から脱却できたが、金儲け主義一点張りの塾経営者に反発してやめる。

アーナンドは2007年、「将来は宇宙飛行士なりたい、NASAに入りたいなどの大志」を持ってIITを目指す極貧の子供たちのために、私財を投げだして無料塾を開設。食事も提供し、寄宿舎を建てて塾生30人と共同受験生活する私塾「スーパー30」を作って「数学の天才づくり」に挑戦した。「受験マフィア」の強欲塾の妨害工作があり、殺し屋から命を狙われもしたが、生徒と団結して戦いハネ返した。そのうちアーナンドの私財が底をつき、食べるものもなくなると、全員で何日も飲まず食わずの我慢、忍耐生活で勉強する悪戦苦闘、波乱万丈の勇気の物語である。

その結果、2008年、2009年、2010年、2017年には全員を合格させるという「奇跡の学習塾」となった。オバマ米大統領はアーナンドを絶賛、「米タイム」誌が「アジアで最も優れた学習塾」と報道し、世界的に注目された。

私がこの作品に感動した点は父親の遺言にある。「インドの古代の聖典に「王の子供は王ではない。王にしたければ子供は教育せよ」とある。時代は大きく変わった。いまは「王の子供は王ではない。王になるのは能力のある者だ」とアーナンドに教えた。

アーナンドはこの遺訓を守り実行した。「知はすべてを征服する」「知は自らを覚醒」「知は障害・悪習を排除」「知は正義の実現」「知は神の武器」「知は忍耐の獲得」「知は人の幸福」などスローガンにして「自分の頭で考えて、考えて、考え抜く」教育を行った。心身一体で「心の回路に電気を通せば、生まれてくるのはクエスチョンマーク?(疑問符)」と唱え「そこを通って考えて、考えて、考えぬけ」「できないことを考えよう、なぜできないのかを考えよう」「恥を恐れては学べない」「先生に教えよう、学んで教えよう」「10秒間で答えを出せ」など数多くのセオリー作り、生徒たちに実地体験させ「知識」と「インテリジェンス(知恵)」を授けた。

アーナンドはこの教育法で、インドのITデジタル数学と民主化を一挙に推進した。1988年に創業したGoogleは「世界中の情報を整理し、世界中の人々に安く知識を提供、普及させる」を理念としているが、これはアーナンドの学習法のITバージョンアップといえる。

ところで、日本の近代社会の扉を開いた2大塾といえば、明治維新の理念となった開国を唱えた吉田松陰の「松下村塾」。徳川時代の身分制度「士農工商」に反対し「四民平等」を唱えた福沢諭吉の「慶応義塾」であろう。「松下村塾」の門下生が明治維新を起し、福沢の門下生が起業家、実業家となり、日本経済を発展させた。

教育に求められるものは単なる知識の伝達ではない。そこに込められた先生の熱誠,志操、熱量の大きさであり、その高熱体質は生徒の心を瞬時に燃やし,知行一致、イノベーション(知の改革)につながる。

ところで、今の日本政治の実態は「王(政治家)の子供は王じゃない。王になるのは能力者」とは裏腹で、インドとは正反対である。

「日本の国会議員数は710名の3人に1人が世襲議員。衆院の自民党に限れば4割が世襲。首相に至っては平成から令和の32間で「7割が世襲総理という」

https://www.mag2.com/p/money/1207696

まさに徳川封建時代の中央集権・幕藩体制に逆戻りしたような「チョンマゲ殿様政治、若殿政治」が続いている。

その世襲政治の30年間の成績表は「2023年版の国際競争力ランキング(IMD主催)によると、90年代は1,2位だった日本のランキングは30年間にわたって低下の一途で22年には第34位までに転落した「落第国」になっている。

「親ガチャ」(2021年の流行語大賞)という言葉が若者のSNSなどで広がっている、という。「自分は家庭環境、経済環境に恵まれなかったので、容姿、学歴、能力に恵まれていない。親ガチャ失敗した」という趣旨で使われている。この背景には日本社会の家庭格差、所得格差、教育格差、情報格差、地域格差の拡大があり、若者の絶望感、無力感を生んでいる。「超高齢・少子・人口減少社会の未来」に明かりは見えない。

 - 人物研究, 現代史研究, IT・マスコミ論

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

<F国際ビジネスマンのワールド・カメラ・ウオッチ(204)>『7年ぶりに、懐かしのアメリカ★『ブルックリンからイーストリヴァーを挟んでロウアーマンハッタンを遠望― 再建されたワンワールドトレードセンターが見える。』

逗子なぎさ橋珈琲テラス通信(2025/10/04/am8)  &nbs …

no image
『オンライン/真珠湾攻撃(1941)から80年目講座①』★『この失敗から米CIAは生れたが、日本は未だに情報統合本部がな<<3・11日本敗戦>を招いた』★『2021年、新型コロナ/デジタル/経済全面敗戦を喫している』(上)』

    2011/09/09 &nbsp …

no image
池田龍夫のマスコミ時評(67)●沖縄米兵「夜間外出禁止令」に実効性あるか●米兵の強姦事件で、沖縄の怒りは高まる

池田龍夫のマスコミ時評(67)   ●沖縄米兵「夜間外出禁止令」に実効 …

no image
日本風狂人伝⑳日本最初の告別式である 『中江兆民告別式』での大石正巳のあいさつ

  『中江兆民告別式』での大石正巳のあいさつ   &nbsp …

no image
『オンライン/新型コロナウイルス・パンデミック講座』(下)「コロナリバウンド・変異ウイルスの増加・東京五輪の女性差別発言ドタバタ劇の3月狂騒曲(下)」

コロナ・変異ウイルス・東京五輪の3月狂騒曲(下)」             前坂 …

「オンライン講座・大谷翔平「三刀流(投打走)」のベーブ・ルース挑戦物語⓵』★『大谷の才能を世界に最初に報道したのはニューヨークタイムズ』(2013年7/10)が日ハム・大谷投手 を取り上げて日米野球論を展開」★『NTYは日本のマスメディア、スポーツ紙の低レベルとは段違いのスポーツビジネス、リーダーシップ論、選手論を分析』』

『それから8年後、大谷は31本の本塁打を放ち、MLBのスーパースターを射止めた、 …

『Z世代への昭和史・国難突破力講座⑩』★『吉田茂編⑥』★『『笑う門には福来る、ジョークを飛ばせば長生きするよ』★『昭和の大宰相・吉田茂のジョーク集』 ③ 吉田首相は五次にわたる内閣で、実数79人、延べ114人の大臣を『粗製乱造』した。その『吉田ワンマン学校」で、「果たしてステーツマン(真の政治家、国士)を何人つくったのか?」』

2019/05/08   知的巨人の百歳学(163)/ 20 …

no image
百歳学入門(182)-山田恵諦(98歳)の座右銘「勤めは堅く、気は長く、大欲にして心安かれ」 

  山田恵諦(98歳)の座右銘・ 勤めは堅く、気は長く、大欲にして心安かれ    …

no image
日本リーダーパワー史(99) 日本最高の名将川上操六⑮山県有朋陸軍法王を解任、一喝したすごい男

日本リーダーパワー史(99) 名将川上操六⑮山県有朋陸軍法王を解任、一喝したすご …

no image
★『地球の未来/明日の世界どうなる』< 東アジア・メルトダウン(1078)>『日本は「朝鮮半島」に深入りするべきではない 今後の日韓両国関係の在り方とは?』★『北朝鮮問題で今後起こりうる3つのシナリオ 武力衝突か直接交渉か、クーデターは薄い』●『安倍首相、NYタイムズに寄稿…「北との対話は意味がない』★『北朝鮮暴走に対する中国の見解――環球時報社説から』●『北朝鮮の核実験、今後は頻発する公算大』

  ★『地球の未来/明日の世界どうなる』 < 東アジア・メルトダウン(10 …