前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

『リーダーシップの日本近現代史』(247)/『国家予算、軍事力とも約10倍のロシアに対して日露戦争開戦に踏み切った児玉源太郎参謀次長の決断力』★『ロシアと戦ってきっと勝つとは断言できないが、勝つ方法はある』◎『国破れて何の山河じゃ。ロシアの無法に譲歩すると国民は必ず萎縮し、中国、インドと同じ運命に苦しみ、アジアは白人の靴で蹂躙され、植民地からの脱却は何百年も先となるぞ』

   

  

ダウンロード 

  2017/05/27日本リーダーパワー史(815)記事転載

『日清、日露戦争に勝利した明治トップリーダーのリスク管理 、インテリジェンス㉚『日本史決定的瞬間の児玉源太郎の決断力②』★

前坂 俊之(ジャーナリスト)

寺内陸相は「君に就任してもらえば、軍部としても全く心強い。そして、国民もようやく政府の断固たる決意を知って了解するであろう。しかし、内務大臣ではあり、現内閣の柱石の副総理の地位にある君が、その栄誉ある職をなげうってまで……」

 児玉は「何をいうか、おぬしは後輩の田村の占めていた地位に就くことを我輩のために気の毒ぢじゃと言いたいのか。そんな馬鹿な!ことをいうな。

 親任官であらうと勅任官であろうと国のために、国民のために微力をつくすのは当たり前のことじゃ、そんな斟酌はどうでもいいことじゃ」

 桂首相は「その君の気持ちは分る。寺内のいうことも無理でないが、君が政府を去ったら我輩としては、実に片腕をもぎとられる思いで、天下に公約した行政と財政整理も不可能となるじゃろう……」

 児玉「おぬしも近眼になったものじゃ、開戦する以上は行政改革も財政整理もない!わしの累生の大事業の地方制度の改革の府県合併案も他日を期する。今後は挙国一致、官民文字通り協力し、勝利を得るため1点にしぼって全力を尽くせばよい。」

 児玉はつづけて対ロシア戦の抱負を口にした。

「ロシアと戦って我輩もきっと勝つとは断言せぬ。勝つと断言できないが、勝つ方法はある。考えれば困難、障害は限りなく出てくる。勝つ見込みもやがて曖昧になる。

しかし、ロシアが満州から外交交渉のみによって兵を撤退し、韓国への野望を断つとは期待されぬ。しからば、屈伏するか、起って戦うか、ギリギリの二者択一を日本は選ばねばならぬ!」

「国破れて何の山河じゃ。ロシアに譲歩することによって、わが国民は必ず萎縮し、支那人(中国人)、インド人と同じ運命に苦しみ、アジアは白人の靴で蹂躙され、光明を見るのは何百年の先のことになるかもしれない。

わしは満州の原野に屍を曝しても、白人の奴隷となり、アゴで使われることに甘んずることを断乎として排撃する。」

「桂よ、寺内よ-

我々3人男は明治はじめの血気盛んな『やっとこ大尉』の青春時代にもう一度、還って、内閣総理大臣、内務大臣、陸軍大臣などと、どうでもいい肩書も名誉を放り投げて国のため、国民のため、この日本という国の永遠の発展のために.肉体も心もささげて、眞黒になってロシアに戦いを挑もう。」

と決然たる意志を表明した。

 この児玉の一言に桂首相も奮い立ち、「大阪の兵学寮の時代に還るか。よし!ロシアに対する作戦の全責任はおぬしと寺内と俺が分担しょう!明日にでも山県公を訪ねしてくれ、児玉よ!死なばもろ共ぢや!」と意思統一が出来たのである。

 

以上は宿利重一『児玉源太郎』(国際日本協会、1942年刊、578-586P)の引用である。

この会話の部分は宿利の想像して書いたものだが、児玉の心中を一番よく表していると思うので、そのまま引用した。

大山参謀総長はこの児玉自らの提言に、「すべて児玉さんにお願いする」と辞意を取り下げた。10月12日に児玉の次長就任式が行われた。

式の後、内務大臣だった児玉はフロックコートを軍服に着換え、参謀肩章をつって決然として参謀本部に現われた。参謀本部の部長以下を集めて、『諸君の一層の精励を望む。』とただ一言、語っただけだった。参謀本部は俄然緊張に震えた。

 総務部長井口省吾少将は日記にこう書いている。

『児玉男爵、内務大臣を去って参謀本部次長の職に就かるるに合す。以て天の末だ我帝国を棄てざるを知る。何等の喜悦、何等の快事ぞ・・陸軍、中、少将の内に求めて、適任この人の右に出ずる人はあらじ。』。

『東京朝日新聞』の児玉の後日の訃報記事では

「再昨年の秋、参謀次長の田村中将薨去の後、この人が内務大臣より一転下し、フロックコート脱いで再び軍服を着け、急に参謀本部に入れる時は、わが国民の百人中、九十九人までは、みな露国との戦争の到底避くべからざることを内々に覚悟しおりたる際なりしが、相語っていわく、よくも就きたり、又よくも就かしめたり、と。しかし、この人の果決、精毅が国民の信頼を得ありしによる……

メッケルは「児玉がいる限り、日露戦争は日本が勝つ」と断言していたが、もし、この児玉の名誉も命もいらね、国難に決然とたったリーダ―シップがなければ、明治の『坂の上の雲』はなかったことだけは間違いない。

つづく

 

 - 人物研究, 戦争報道, 現代史研究

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
日本が初の議長国となった20カ国のG20首脳会議(6/28/29日)の結果はー首脳宣言では2年連続で「保護主義ついての文言」は米国の反対で盛り込めず、代わりに入ったのが『自由』、『公平』、『無差別』、『透明性』、『予測可能』な『安定』した貿易」と、単語を六つ重ねて反保護主義を強くにじませる苦肉の文言。

 G20首脳会議の結果は    日本が初の議長国となった20カ国のG2 …

no image
「日中韓150年戦争史」(71)『ニューヨーク・タイムズ』仰天論評(日清戦争未来図ー「日本が世界を征服してもらえば良くなる」

   『「申報」や外紙からみた「日中韓150年戦争史」 日中 …

no image
日本メルトダウン脱出法(876) 『日銀「マイナス金利」導入の「本当の理由」 Foresight-新潮社ニュースマガジン』●『オスプレイで物資輸送へ 熊本地震でアメリカ軍の支援を受け入れ』●『「パナマ文書」で浮かんだ中国「革命家族」の「巨大利権共同体」』●『CIAの陰謀か? 「パナマ文書」をインテリジェンス的に読み解く』

 日本メルトダウン脱出法(876) 日銀「マイナス金利」導入の「本当の理由」 F …

『リモートワーク/鎌倉フィッシング』(2020/5/14/am6)ー鎌倉沖で巨アジ(40センチ)を釣る』★『筋トレ、リラックスカヤックで健康バッテリーを充電!』

 『日本の最先端技術見える化動画』 鎌倉カヤック釣りバカ日記 『リモートワーク鎌 …

『オンライン講座・吉田茂の国難突破力➄』★『2月4日、チャーチルが<鉄のカーテン>演説を行う、2/13日、日本側にGHQ案を提示、3/4日朝 から30時間かけての日米翻訳会議で日本語の憲法案が完成、3/6日の臨時閣議で最終草案要綱は了承,発表された』★

『オンライン講座/日本国憲法制定史➂』    日本リーダーパ …

no image
『オンライン/米日豪印対中国の軍事衝突は日清戦争の二の舞となるのか』★『日中韓の誤解、対立はなぜ戦争までエスカレートしたか」ー中国・李鴻章の対日強硬戦略が日清戦争の原因に。簡単に勝てると思っていた日清戦争で完敗し、負けると「侵略」されたと歴史を偽造する」

『 日本リーダーパワー史(614)』記事再録/日本国難史にみる『戦略思 …

no image
『オンライン講座/近藤康男(106)の100歳突破実践法を学ぶ』★「七十歳は一生の節目」「活到老 学到老」(年をとっても活発に生きよ 老齢になるまで学べ)』★『簡単な健康法を続ける。大切な点は継続することだ』

   2018/07/21百歳学入門(237)ー『簡単で効果 …

no image
日本リーダーパワー史(146)国難リテラシー・『大日本帝国最期の日』(敗戦の日) 陸軍省・参謀本部はどう行動したのか④

 日本リーダーパワー史(146)   国難リテラシー・『大日本帝国最期 …

no image
日本リーダーパワー史(362)『軍縮・行政改革・公務員給与減俸』など10大改革の途中で斃れたライオン宰相・浜口雄幸

日本リーダーパワー史(362) <昭和史の大宰相のリーダーシップ> &nb …

no image
世界史の中の『日露戦争』⑭<インテリジェンスの教科書としての日露戦争>『ノース・チャイナ・ヘラルド』

  世界史の中の『日露戦争』⑭ 英国『タイムズ』米国「ニュー …