『リーダーシップの日本近現代史』(131)/記事再録★『陸軍軍人で最高の『良心の将軍』今村均(陸軍大将)の 『大東亜戦争敗戦の大原因』を反省する①パリ講和会議で、日本は有色人種への 「人種差別撤廃提案」を主張、米、英、仏3国の反対で 拒否され、日本人移民の排斥につながる。
2016/05/26日本リーダーパワー史(711)記事再録
Wiki 今村均陸軍大将
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BB%8A%E6%9D%91%E5%9D%87
① 一省 (満洲・支那(日華)事変の過失)
なんと言うても、清洲事変はあせり過ぎた。踏むべき順序、取るべき手段を尽くさずして、やってしまった。
満洲での、わが利権が、また、わが民族の平和的発展が、いかに、蒋介石、張作霖政権の対内政策上の便宜から、条約を無視し、不法に庄迫され、阻害されているかの実状……。そして、これに対し、わが政府、とくに外交機関が、どのように手をつくし、平和的交渉に努力して来たかの経緯を、もっと十分に国民同胞に、また世界に認識させ、日本の行動が真にやむを得ないものであることを納得させ得るまでは、いかに彼(中国)から挑戦されても、隠忍しているべきものであった。
その手順を踏まず、政府の腰もきまらぬうちに、関東軍は堪忍袋の緒を切ってしまい、非が彼にあったにもかかわらず、世界は、最初に泣き声を張りあげた支那(中国)に同情し、いっさい、日本の言うことには耳をかさないことになってしまった。が、この満洲事変については、自分も大きな責任を持つ一人である。
支那(日華)事変も、またそうである。排日、排貨のあらしは強かったが、また蒋介石政権の北支に対する兵力の増強があったにしても、日本としては、どこまでも十分に満洲を育てあげ、世界をして、なるほど、満洲建国は、領土侵略ではなく、在満三千万民衆の福祉増進に意義あるものであったと認識させ、これに対する蒋政権の報復的排日行為は、東洋平和のためによろしくないとの判断を得しめたあとで、対応策をとるべきであり、それまでは、なんとしても隠忍をつづけるべきであった。
いわんや、北支に生じた紛争を、中支の長江方面、やがて南支那にまで波及させることは、世界政策上絶対に避けなければならぬことであった。
中、南支那の飛び火に馳せつけることにしたのが、支那(日華)事変を収拾のつかない、泥田の中での仕事にしてしまった。
支那事変に対する、アメリカの対日干渉が、資金凍結、経済封鎖までに進んでは、これはたしかに日本民族死活の問題で、こうなっては、取るべき道は、二つの中のどちらかである。対米戦争か、または支那(中国) からの総撤兵で、満洲だけに力を集中し、理想的建設をすみやかならしめるかである。
そして、そのいずれによるとしても、こんな大きな真に国家を賭けるような決断は、もっと国民の総意をたしかめてからあとに決すべきで、ここでも手順を省きすぎたと思う。この支那(日華)事変についても、私は責任を負わなければならぬ一人である。
② 二省 (日本民族の宿命)
私が、1941年(昭和16)十二月、南支那から呼びもどされ、蘭印方両派遣軍司令官を拝命したときは、武者ぶるいというのか、身体の全筋肉が細かくふるえるように覚えた。
民族の興廃を決する、また東亜十億の民族を解放する、このような聖戦に、最意要な一方面の最高指揮官に当てられることは、なんとした光栄のことであろう。また、なんという大きな責任を負わされたものであろうとの感激で、緊張したためである。
私は、第一次世界大戦当時、欧洲にいて、つぶさにベルサイユ平和会議の経緯を知り、そのとき以来、わが民族がこうむって来た、米英からの迫害というものを心にし、とうとう大東亜戦争にまで追いこまれてしまったという、民族的宿命の観念をもっていたので、なんとしても戦いを勝ちぬかなければならないとの決意のもとに、ひざまずいて天の加護を祈った。
わが国は、第一次大戦のときは、勝ったほうの連合国に加担し、犬馬の労をとった。そして平和会議のとき報いられたものは、総面積伊豆半島よりも小さい、裏南洋の委任統治諸島だけで、わが海軍の守った独領ニューギニアではなかった。これでは、ふえてやまない民族の生存確保には、なんの足しにもならない。のみならず、わが国が、全有色民族衆望放衆塾の上に、平和会議で提案した、たった一つの条件〝有色人種差別待遇の撤廃″は、無残にも、ウィルソン、ロイド・ジョージ、クレマンソーの米、英、仏三巨頭により踏みつぶされ、次いで、太平洋をめぐるアメリカ、カナダ、オーストラリアにより、つぎつぎに日本人は、入国を拒否されてしまった。
人種的差別撤廃提案
パリ講和会議
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%AA%E8%AC%9B%E5%92%8C%E4%BC%9A%E8%AD%B0
一年に、百万、百五十万とふえてやまない日本民族は、どうすればよいのか。ただ、白人にまさる力をたくわえ、余地の残されているアジアのどこかに発展するより生きる道はないと考えられているとき、蒋介石政権は、支郡(中国)統一の政策として、巧みに列国の対日圧迫の傾向に即応、排日排賃の一点張りに推進してきたものである。
私は満洲事変以来の戦争で、わが国は、取るべき、なすべき準備手段をやらなかったことを反省はするが、こうまでになったのは、民族の宿命であった″という考え方が、どうしてもとりのけられんでいる。
③ 三 省 (大権の侵犯)
かように日本民族の宿命を感じたとしても、それは責任の所在や、将来の教訓を無視するつもりのものではない。私は、こんな宿命論は、おのれ一己の自慰的のものに過ぎないとさえ反省し、もっと理性的に敗戦の原因 -とくに重大のもの-と信ずるところを率直に披歴する義務があることを認め、次のように述べる。
敗戦の第一の大原因は、私を含めて軍の首脳部が、こんなに文化が進み、万事が科学的分科に進んでいる時期に、なおかつ、戦争は軍人のもの、軍部が行うもののような、近代戦争の性格にそぐわない思想で、戦争のことを考え、また進めた誤りによるものだ。
近代国家という大有機体は、人体のように、頭脳というひとつの統制のもとにではあるが、各専門の部分部分が、それ自体健全であり、相互に連鎖し、かつ調和を保ち、はじめて機能を発揮し得るものである。
しかるに、憂国の気持ちからではあっても、いつか、それが独善的に、軍人が、他の部門に干与し干渉し、各部各部の健全と調和とを害したことは否認出来ない。ことに、それが政治部門にわいてひどかった。
軍人の政治干与ということは、今日に始ったことではない。戦いに勝つということは、軍人の国家に負う最大の義務であり、これを果たせば、それに対し、国民多数が尊敬を払うことは自然である。
だから、世界のどこの国の歴史を見ても、戦勝後の軍人の発言権は大きくなる。大ローマ帝国が、幾多軍人政治家の角逐の後、シーザーが、その基礎をたて、クロムウェルや
ウエリントンのような軍人が、英国の主権者や大宰相になり、支那歴代の王朝創始者が、周以降は、ことどとく戦勝軍人であり、民主主義の本場と自負するアメリカでさえも、戦勝直後、参謀総長だったマーシャル元帥を、国務長官の地位にすえ、アイゼンハワー元帥を大統領に選挙したことでも、右の傾向はうかがえる。
わが明治維新は、各藩青年武士の力で、徳川幕府を打倒した結果、成り立ったものであるため、明治政府が、これら武士、なかんずく最も多くこれに貢献した、薩、長二藩の武士出身者の発言を一口を無視することができず、引きつづき日清、日露、日独戦の勝利が加重し、幾多の軍人出身者を首班とする内閣が構成され、この因縁は、その後にもあとをひき、今上陛下の昭和になってからの政府でも、終戦までの十九年間、政治家出身六人、陸軍出身五人、海軍出身三人の首相を見ている。
が、なんと言っても、政治は軍人の本務ではない。軍人は、ただ戦いに勝つだけの研究と、創意と糾兵とに精進してきたものであり、また精進すべきものと信ずる。
だから、時の情勢で、軍人が組閣を命ぜられたとしても、その人一人が、そのほうの知識者と相寄り、相助け、政治に任ずべきであり、軍人幕僚を、その渦中に人らしめてはならない。しかるに、いつもいくらかの軍人が、その渦中に明躍したり、暗躍したりする。そして、その傾向は、陸軍がはなはだしく、ついには、陛下の命ぜられた組閣者を道に擁し、これが断念を強要したような、大権侵犯の罪悪をもあえてしている。
(以上は今村均『幽囚回顧録』秋田書店(1966年刊、240-250P)
つづく
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