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日本リーダーパワー史(809)『明治裏面史』 ★『「日清、日露戦争に勝利』した明治人のリーダーパワー、リスク管理 、インテリジェンス㉔『対ロ外交が望みないと判定されれば、一日でも早く開戦に踏み切る方が有利であり、シべリヤ鉄道完成以前に勝負を決することが唯一の対ロ陸軍作戦勝利の道である」

   

 日本リーダーパワー史(809)『明治裏面史』

★『「日清、日露戦争に勝利』した明治人のリーダーパワー

、リスク管理 、インテリジェンス㉔

明治36年10月1日、田村参謀次長(49歳)急死すー

の報は日本に一大ショックを与えた。国家存亡を賭けた日露戦争直前、わずか4ゕ月前のことで、しかも二代続けて参謀総長(次長)が急逝するという国難に見舞われたのである。

もともと、田村はモルトケ流の「はじめに熟慮。おわりは断行を徹底して叩き込まれた川上操六の秘蔵っ子だけに、ち密なインテリジェンスとロジスティクスの持ち主だった。

どちらかというと主戦派の猛将タイプではなく、守勢論の智将であった。

そのため、1903年(明治36年)1月時点では、ロシアが日本のどこに上陸して攻めてくるかをシュミレーションして、対応すべき部隊を決め、速やかに撃退する作戦の「守勢大作戦計画案」をまとめて大山総長に報告していた。

 

4月8日は、ロシアが列国に公約した第2期撤兵の時期であった。

このときに日本全国民が朝野の別なく撤兵が無事に行われることを期待していたが、見事に裏切られてしまう。

4月11日、清国保定の立花小一郎少佐から、撤兵が行われないばかりでなく、ある部分は増兵されているとの電報が入った。また在芝罘(チーフの守田少佐からは、ロシアが軍用食糧を製造し、石炭を買入れているとの報告があった。その後、ロシアの軍備増強情報が各所からきた。

田村次長も見過ごせない事態だとし井口総務部長に命じて、各部長を会同して至急準備すべき事項を調査させ、5月9日に借行社に会同して次長に復命させた

 翌5月10日、日曜休日にもかかわらず、各部長は参謀本部に出務し、特に第一部長は、ロシア通の荻野少佐、朝久野大尉を補助としてロシアの挙動に対し、日本が決心しなければならない趣旨と情報とを起案し、翌11日作業を終り、田村次長の手を経て総長の許に達した。

これが5月12日、参謀総長大山厳から天皇に上奏され、総理、陸相、海軍軍令部長にも通報された。

 『「帝国軍備の充実整頓」に関する大山参謀総長の上聞の要旨』

 

「満洲におけるロシアの行動は漸く活気を呈するに反し、バルカンにおける(当時マセドニア問題を中心としてスラブ諸国が連合してトルコに開戦しようとしていた)態度は一変し、極力平和の維持を希望しつつある。

これは即ちロシアが全力を満州方面に傾注し、東三省(遼東半島)の占領を企てんとする理由で、今後におけるロシアの行動は、その常套手段である恐喝をもって、帝国を威喝し、その態度の硬軟を見て多少の利益を占めんとするか、もしくは飽くまでも兵力に訴え勝敗を決せんとするかどうかはわからない。

目下の戦略関係はわれに有利であるが、年月を経るに従がい、ロシアの情勢は変化して、韓国がロシアの勢力下に置かれてしまえば、帝国の国防は安全ではなくなる。宜しく速に帝国軍備の充実整備を図るべし』

との内容である。

 この頃、緊迫するロシアの軍事行動に対して、陸海軍、外務の意思疎通の必要性が高まり、529日には、陸海軍、外務省の中老連(中堅・ベテラン)の外務では山座・落合・石井、海軍では富岡・八代・松井、陸軍では井口・松川・木下らが東京・烏森の待合「湖月」で秘密裏に会合して対ロシア政策を研究し、満場一致で次の意見を可決した。

 

 『帝国は、今の時を持って、一大決心をなし、戦争を賭してロシアの横暴を抑制するに非ざれは、帝国の前途は憂慮すべきものとなる。而して、今日の機会を失してしまえば、将来決して国運回復の機会はない。

但し、この決議は、ただ各自一身の覚悟を決するための研究に止めて、政治運動をなすべきために非ず』

しかし、当時政府の主脳者、元老間には確乎たる決心を有するものがなく、外交交渉による妥協に望みをかけていた。

 6月8日、大山総長、田村次長が出席して参謀本部会議が開かれた。井口省吾総務部長、松川敏胤第一部長(作戦)、大島健一第四部長(兵站)らの主戦派は、「兵力動員で有利な早期に開戦してロシアの野望をたたくべきだ。時間の経過とともに、シベリア鉄道の輸送から戦力差は不利になる」と主張した。大山総長は慎重論を唱え、田村次長は席上、「熟慮」しており、発言しなかった。

福島安正情報第2部長の報告

 

7月に入って、参謀本部第2部長の福島安正が、ロシア軍に関する最新情報を田村次長に報告した。

➀ロシア陸軍が戦時、極東に使用できる兵力は約23万人で、その内訳は、シベリア現有が約16万人、ヨーロッパロシアからの派遣軍約7万人。

②7万人をシベリヤ鉄道で極東へ輸送し、しかも23万人の総兵力を養うための準備は最少限約4ヵ月が必要。

➂以上の点で、日本軍13個師団で対戦するには目下の状況は、日本軍に有利であるが、時日の経過と共にロシャ軍の兵力予想は増大することになるので開戦の好機は今をおいてない。

④在満ロシア陸軍部隊の編成は、現在すべて平時編成で、戦時編成の準備は不十分である。

⑤部隊訓練、出動準備はお粗末で現在の16万人のロシア軍の素質は中以下。

⑥シべリヤ鉄道は全線が単線で、一応の軌道設定工事は概成したとはいえ、最大の欠陥はパイカル湖南岸工事未完成のため、ヨーロッパロシアからの一貫輸送ができず、湖上の連絡船や氷上橘で中継している。

⑦また給炭・給水・機関庫等の施設の不備により鉄道輸送力は不十分であり、特に冬期間の凍結による故障が多い

以上を綜合判断すると、陸軍作戦に関する限り、今後対ロ外交が望みないと判定されれば、一日でも早く開戦に踏み切る方が、それだけ有利であり、問題はあくまでシべリヤ鉄道完成以前に勝負を決することが唯一の対ロ陸軍作戦に勝利することのできる方策である、

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