前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

『日本を救え、世界を救うために、決断を!』ー<福島原発事故 最悪のシナリオから考える(2)>(池田知隆)

      2015/01/02

 

『日本を救え、世界を救うために、決断を!』
福島原発―最悪のシナリオから考える(2)
 
                

池田知隆(ジャーナリスト) 

 

●「再臨界は起きているのか」
 
 東京電力は17日、福島原発事故の収束に向けて、今後6~9月後をめどに1~3号機の原子炉を冷温停止状態にすることが柱にした行程表を発表しました。中長期的には核燃料を原子炉から取り出し、建屋全体をコンクリートで覆うことで放射性物質の環境への放出、拡散を防止することを目指しています。しかし、いったい原子炉内がどうなっているのか、再臨界状態は起きていないのか、その損傷度合いなどははっきりと示されていません。事態の予測も制御も極めて困難なようです。
 
 前回、原子炉の「爆発」の危機に迎える前に、できるだけ早期に核燃料を取り出し、日本海溝に廃棄する方法などの打開策を示した。「あまり不安をあおるな」との批判を受けましたが、行程表でみるかぎり、私の疑念は膨らむばかりです。友人からの報告をまとめる際、自らの知識のなさから科学的な視点からの精査を欠いてしまいましたが、私の言いたかったのは、
 
① いま必要なことは、データを集め、科学的な根拠に基づいて吟味し、現実的な対策と行動を決めていくこと。しかしながら、原子炉の現状をめぐる情報の公開が不十分で、専門家たちも十分に議論できていないこと
 
②現場の奮闘している作業員の労働環境、防護体制を十分に配慮してほしいこと
 
③核燃料を早期に取り出し、日本海溝に廃棄する難しい決断が迫られるのではないか
 ということです。とにかくいま、百家争鳴のように議論を繰り広げ、広く英知を結集していくことを強調したかったのです。
 
○再臨界は起きていないのか。
 
 ところでいま、原子炉内はどうなっているのでしょうか。
 
 8日、福島第一原発一号機の原子炉格納容器内の放射線濃度が、毎時100シーベルトに上昇したことを明らかになりました。京都大学原子炉実験所の小出裕章さんは、
 
① 放射線濃度、原子炉の温度や圧力の急上昇していること、
②塩素が中性子に反応して生まれるクロル38という塩素が原子炉内で発見されたと東電と保安院が発表したこと、
 
 などから、炉内で「再臨界」が起きている可能性を指摘しています。「再臨界」は、原子炉が一旦停止して核分裂が止まった後、燃料棒の露出などでウラン燃料が溶け出して、圧力容器の下部に蓄積するなどして、制御されない状態で核分裂連鎖反応が起きる状態を指します。そうなると、原子炉内の温度があがり格納容器下部に滞った水と反応し水蒸気爆発の可能性が高くなります。また一方、ウラン235の量が一定量を超えると、自律的に核分裂反応再臨界が起こるのです。
 
 中性子は核分裂が起きたときに発生し、中性子に反応して生まれたクロル38は、1号機だけに見つかったのか。それらのことについてのできるだけデータを公開し、専門家の論議を求めてほしいと思います。
 
○核燃料をいつ取り出せるようになるのか。
 
 核燃料の持ち出しについては行程表で、中長期的な課題にあげられています。だが、それはいつ、どんな条件になれば、できるのか。現在、格納容器内に絶え間なく水を注入し、放射能に汚染された廃水がでていますが、いつまで続けられるのか。その廃水などによる放射能汚染の広がりを予期した時、どうすればその汚染を最少にすることができるのか。緊急性をめぐっての議論も聞きたいところです。
 
 核燃料を取り出しについても、今回はいわば現在進行中の「動的」状態にある核燃料の熱量(崩壊熱を含む)をいかにとりだすか、という困難さがつけ加わっています。比較的に安定した「静的」状態にある核燃料を移送するのはそう難しいことではありません。定期点検や使用済み核燃料の取り出しの際、機械的に取り出せるように設計されています。しかし、今回はどこまで重機などを活用できるのかはまだ不明のようです。
 
 いっそ、原子炉容器そのものを密閉して運び出し、そのまま大型クレーンで船に積み込み、日本海溝に深く沈めてしまえばいい。そのようなある意味では、荒唐無稽で、「そんなことができるのか」と笑われてしまいそうな大胆なアイデアも検討すべきでしょう。
 原子炉の冷却するために、米国から特殊なゾル状の冷却剤の提供の申し出があり、それについて東京電力側がその継続的な活用法について不安を抱き、断ったそうです。しかし、そのような強力な冷却剤を使って、できるだけ短期に運び出すことは不可能ではないようです。しかし、それを実行するには、作業員たちへの放射線の大量被曝がまぬがれず、かなりの犠牲を強いられかねません。
 
○国際協力体制のもとでの決断を
 
 原子炉を封鎖できるかどうかがいま、瀬戸際状態におかれているとはいえ、地球レベルでみれば「爆発しようも、しないも、大量の放射性物質は確実に環境中に放出されていく」という意見もあります。しかし、福島第一原発に保管、使用されていた全ての燃料棒の総量から発生する放射性物質の仮に30%が環境に一度に放出されたとすれば、チェルノブイリの放出量の3.5倍にもなります。
それによって避難距離について言えば、ちなみに(放射性物質総量の50%が放出されたとみられる)チェルノブイリの場合には、結果的に300㎞圏となりました。しかし、その後の詳細な環境調査では、放射性物質は少なくとも650㎞圏まで飛来降下していたとのことです。
 
 そのようにみれば、今回の放射性物質の環境への拡散による避難範囲が少なくとも850㎞ないし1000㎞圏になるとの計算にあり、北はほぼ北海道全域で南は兵庫県姫路くらいまでになるとみられます。また、チェルノブイリでは現在も管理区域を100㎞としています。その点も粗い計算では、北は青森、西は静岡くらいまでは100年単位で無人区域としなければなりません。
 
 そのような最悪の事態を避けるには、どうすればいいのか。深海への海洋投棄にあたっても、環境への影響は予測がつきません。「海洋生物が絶滅すれば、人類はおろか地球上のほとんどの生物が絶滅してしまいます。こういったところに原発を投棄するということはいかがなものか。海底投棄は環境中に放出される放射能が小さいというのは大きな間違い」との批判も聞きます。
 
 しかし、先走って言ってしまえば、日本国民としての立場から、東日本が破滅し、国家が滅亡しかねないときに、爆発を甘んじて受けられるのでしょうか。それとも国益を守るということで、各国の同意、協力を得られないまま、(将来的な海洋汚染を予測しながらも)海洋投棄を強行するのか。それは極めて難しい判断です。
 いまは、国際的な協力体制を築き、多くの国の同意のもとで解決策を探さなくてなりません。そのためにも情報の公開こそ最優先にすべきだと思います。
 
○おわび・訂正
 
*前原稿「その1」で、「爆発」という言葉をいささか無造作に使いましたが、水素爆発、水蒸気爆発による放射能物質の拡散のことです。一基でも爆発すれば、そのための放射能汚染で、ほかの原子炉にも近付けなくなり、コントロールできないまま連続的に爆発し、最終的にその放射能汚染は広島、長崎の被害を大きく上回ることを伝えたかったのです。
 
*格納容器の壁が「アルミ製」とつい書いてしまいましたが、それは私の聞き間違いで、ステンレス鋼鉄製です。

 - 現代史研究 , , , , , ,

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
<最強の外交官・金子堅太郎⑦>日本海海戦勝利に狂喜したル大統領は何と『万才』と漢字で書いた。

<日本最強の外交官・金子堅太郎⑦>  ―「坂の上の雲の真実」ー 『日本 …

no image
『リーダーシップの日本近現代史』(154)再録/『昭和戦前の大アジア主義団体/玄洋社総帥・頭山満を研究せずして日本の近代史のナゾは解けないよ』★『辛亥革命百年⑬インド独立運動の中村屋・ボース(ラス・ビバリ・ポース)を全面支援した頭山満』★『◇世界の巨人頭山満翁について(ラス・ビバリ・ボースの話)』

 2010/07/16  日本リーダーパワー史(7 …

no image
日本メルトダウン脱出法(841)『安倍政権は報道を弾圧しているのかー問題は「政治的圧力」ではなくマスコミの劣化だ(池田信夫)』●『サンダースとトランプと米国人の憤怒 「アウトサイダー」への熱い期待が意味すること(英FT紙)』●『「憲法9条にノーベル平和賞」で喜ぶのは韓国 「反日」で鳴らす米国人学者も関与、政治的意図は明確だ(古森義久)』

   日本メルトダウン脱出法(841)   安倍政権は報道を弾圧してい …

知的巨人たちの百歳学(108)ー『世界天才老人NO1・エジソン(84)<天才長寿脳>の作り方』ー発明発見・健康長寿・研究実験、仕事成功の11ヵ条」(下)『私たちは失敗から多くを学ぶ。特にその失敗が私たちの 全知全能力を傾けた努力の結果であるならば」』

再録・ 百歳学入門(96) 「史上最高の天才老人<エジソン(84)の秘 …

『Z世代のための<憲政の神様・尾崎咢堂の語る「対中国・韓国論③」の講義⑪『日中韓150年対立・戦争史をしっかり踏まえて対中韓外交はどう展開すべきか➂ー尾崎行雄の「支那(中国)滅亡論」を読む(中)(1901年(明治34)11月「中央公論」掲載)『中国に国家なし、戦闘力なし』

    前坂 俊之(ジャーナリスト) この『清国滅亡論』の全 …

no image
ANA(全日空)25/11/30/朝ー岡山空港発→羽田空港行の機内から富士山をスマホで撮影(2重窓の外側のガラスが雲っているので写真を拡大すると、富士山、地上もよりはっきりと見える)

駿河湾・相模湾・東京湾上から眺める小さい三角形の白雪富士山は素晴らしいよ!

「Z世代への遺言・日本を救った長寿逆転突破人の研究①」★『「電力の鬼」松永安左エ門(95歳)は70歳から再出発、昭和敗戦(1945年)のどん底から立ち上がり電力増産の基盤インフラ(水力発電ダムなど)と9電力体制を万難を排して実現し、高度経済成長を実現した『奇跡の男』①

  2021/10/05「オンライン・日本史決定的瞬間講座⑩ …

no image
日本リーダーパワー史(805)/記事追加再録版 「国難日本史の歴史復習問題」-「日清、日露戦争に勝利」した明治人のリーダーパワー、 リスク管理 、インテリジェンス⑥」 ◎「ロシアの無法に対し開戦準備を始めた陸軍参謀本部』★「早期開戦論唱えた外務、陸海軍人のグループが『湖月会』を結成」●『田村参謀次長は「湖月会の寄合など、茶飲み話の書生論に過ぎぬ」と一喝』

日本リーダーパワー史(805) 記事追加再録版  「国難日本史の歴史復習問題」ー …

★Z世代へのための<日本史最大の英雄・西郷隆盛を理解する方法論>講義㉑』★『「米国初代大統領・ワシントンとイタリア建国の父・ガリバルディと並ぶ19世紀世界史の三大英雄・西郷隆盛の国難リーダーシップに学ぶ』★『「廃藩置県」(最大の行政改革)「士農工商・身分制の廃止」『廃刀令」「奴隷解放』などの主な大改革は西郷総理大臣(実質上)の2年間に達成されたのだ。』

    2019/07/27  日本リー …

『Z世代のための百歳学入門』★『シュバイツァー博士(90歳)の長寿の秘訣』★『私にはやるべき仕事が常にある。それが生き甲斐でもあり、健康法』★『「世界的チェロ奏者のパブロ・カザルス(96歳)」の「仕事が長寿薬」』

  015/03/08  百歳学入門(104)記事再録再編集 …