野口 恒のグローバル・ビジネス・ウオッチ②アジア新興勢に惨敗のパナソニック、シャープは、自動車メーカーの将来像?
野口 恒のグローバル・ビジネス・ウオッチ②
アジア新興勢に惨敗のパナソニック、シャープは、
自動車メーカーの将来像?
自動車メーカーの将来像?
by 野口 恒(ジャ-ナリスト)
パソコン、携帯電話(ケ-タイ)、スマ-トフォン(スマホ)など量産汎用型のコモディティ商品のグロ-バル競争において、パナソニック、ソニ-、シャ-プなど日本を代表する家電メ-カ-が、韓国のサムスン電子、中国のハイア-ル、台湾の鴻海精密工業(ホンハイ)といったアジアの新興勢に相次いで惨敗している。
これらのグロ-バル市場で、日本企業はなぜ勝てないのか? 果たして今後日本企業が勝ち残れる道はあるのか?
まず、テレビなど家電分野や、パソコン、スマホなどのIT分野のグロ-バル市場で今起こっている「劇的な変化」に注目する必要がある。
その変化とは、いまやコモディティ商品のグロ-バル市場では、従来の市場競争のル-ルとビジネスモデルがまったく通用しない、「倒すか倒されるか?」の「ストリートファイタ-の世界」に近い激しい競争が展開されていることだ。そんなグロ-バル市場で、日本企業が負け続けているのはなぜなのか?
それは、一言で言えば技術力の差というよりも経営力の差にあるといえよう。純粋に製品技術力を比較すれば、これら家電製品やIT分野のほとんどに日本企業の先端技術を使った機能性部品が使われているように、日本企業はサムスン、ハイア-ル、ホンハイなどの企業よりも確実に競争優位にある。
それにもかかわらず、日本企業はグロ-バル競争で彼らに勝てない。
なぜなのか?
よく言われるのは、日本の製造業は、国内で6重苦(超円高、電力不足、高い法人税、製造業派遣の禁止、TPP対応の遅れ、温暖化ガス25%削減)に苦しめられており、これがグロ-バル競争で大きなハンディギャップになっているという点だ。
確かに、ウォン安や人民元安など政府の有形無形の支援を受けているアジアの新興勢に比べて、きわめて不利な状況にあることは間違いない。
ただ、日本企業がこれまでの経営の常識やビジネスモデルを捨て切らないで、生き残りを図ろうとすること自体が、いまや決定的に難しい。それよりも、既存のコモディティ商品で勝負するのではなく、アジア新興勢が未参入の新商品・新サ-ビスの開発や新市場の開拓に利益の源泉を求め、彼らが容易に真似のできないビジネスモデルを再構築するしか、日本企業の生き残る道はない。
●スピードが違うアジアのオーナー企業たち
そのためには、企業経営者に「スピ-ド」「腕力」「度胸」の3つの要件が求められる。それらは、ストリ-トファイタ-の世界に近いものであり、どれも日本企業のサラリ-マン経営者がもっとも苦手としているものだ。
(1)世界を飛び回り、即断即決する経営の「スピ-ド感」
(2)相手を倒すには損をしてでも勝負をかける「腕力」
(3)チャンスを掴むために、あえてリスクに挑む「度胸」
サムスンのイ・ゴンヒ会長、ハイア-ルのチャンルエシン会長、ホンハイのテリ-・ゴウ会長は全員オ-ナ-経営者の強みを生かして、変化を先取りし、トップ自ら世界中を飛び回って商談に臨み、その場で即断即決する経営の「スピ-ド感」を持っており、日本企業の経営者は足元にも及ばない。
特に、技術開発やマ-ケットの動向は日進月歩(秒進分歩)で刻々と変化する。ところが、日本の大企業は経営方針や大きな商談を決めるときに、何度も取締役会を開いて議論を重ね、決定までに半年から1年近くかかる場合がある。これでは勝負に勝てない。
・ライバル会社を蹴落とすためならば、豊富な資金力を生かして損をしてでも勝負を仕掛ける腕力。
・相手から模倣だと責められようとも、クロスライセンス(相互利用)に持ち込んで製品をつくり続け、最後はコスト競争力で相手を打ち負かし、市場シェアを奪い取る腕力。
・標準技術の部品やソフトを世界中に張り巡らした調達網を使って安く調達し、組み合わせてそこそこの品質水準の製品を安いコストでつくり上げてしまう腕力。
こうした資金力、調達力、製造力に裏付けられた腕力において、アジアの新興勢はは日本企業よりもはるかに勝っている。
弱肉強食のグロ-バルな競争に敗れたら、その事業・市場から撤退を余儀なくされるだけでなく、膨大な負債を背負って企業倒産に追い込まれるリスクがある。それでも企業成長や飛躍のチャンスと見るやあえてリスクに挑む「度胸」が経営トップにあるか否かは、この市場で生き残るための経営者の重要な要件になっている。日本企業のサラリ-マン経営者にこうした度胸を求めるのは無理がある。
製造業の経営には2つのタイプがある。
1つは、種を播き、稲を育て、米を実らせる米づくりのように、時間をかけて自らの技術を磨き、製造業の経験と努力をコツコツと積み重ね、高い品質のものづくりを実現する「農耕型ものづくり」である。もう1つは、獲物の在りかを見つけたら、さまざまな猟具を用いて獲物を一気に捕獲する狩猟のように、競争に勝つために必要な技術・部品・設備・人材は資金力を生かして世界中から調達し、そこそこのレベルの製品を一気につくり上げて、市場シェアを獲得する「狩猟型ものづくり」である。
日本企業はもちろん前者の農耕型である。それに対して、アジアの新興勢は後者の狩猟型である。
市場変化へのスピ-ディな対応と低価格競争力による市場支配力が有利に作用するコモディティ商品のグロ-バル市場においては、いまや農耕型よりも狩猟型のものづくりが圧倒的に優勢になっている。価格競争力で一気に市場を支配する量産汎用型のこうした市場で農耕型の日本企業が生き残るのは非常に難しい。
●技術開発、マーケティングに特化する
こうした現状において、今後日本製造業が生き返り、生き残る道として、当面、次の2つの道が考えられる。
(1)コモディティ商品のボリュ-ムゾ-ン(低・中価格帯の量産品)は狩猟型のアジア新興勢にまかせ、技術供与・生産委託・業務提携などを通じて、米アップルのようにそれらの企業を戦略的に活用し、国際的な水平分業体制を展開する。新技術・新製品・新サ-ビスの試作開発、新たな生産システムの開発や製造方法の革新、新たな市場開拓や顧客創造を行うマ-ケティングに経営資源を集中投入し、世界的な主導権を発揮する。
(2)日本企業にとってこれからとくに重要になるのが、プロダクト・イノベ-ション(画期的な新製品開発)とマ-ケティングである。従来のようにハ-ドウェア製品の低価格や多機能で勝負するのでなく、その製品を使ったら利用者の生活やライフスタイルがどう変わるのか。みんながあっと驚くような画期的なアプリケ-ションや斬新なサ-ビスの開発に経営資源を集中投入し、それらに利益の源泉を求め、新たな顧客層やビジネス市場(世界市場)を開拓していく。
それを実現するビジネスモデルを構築することである。ジョブズのアップル社はiPod、iPhone、iPadの開発でそれに成功したが、ジョブズ後の同社はその成功をどこまで維持できるか、いま正念場にある。
今年1月米国ラスベガスで行なわれた世界的な家電見本市CES(コンシュ-マ-・エレクトロニクス・ショ-)に出品された日本企業の最新4Kテレビ(フルハイビジョンの約4倍の解像度の動画映像が可能なテレビ)を見ても、相変わらず受信機のハ-ドウェア機能強化で差別化を図ろうという発想から抜け切れていない。製品開発に対する根本的な発想の転換が必要である。
日本の電機メーカーの生き残りをかけた取り組みと苦悩は、自動車産業の近未来の縮図でもある。自動車産業も、家電産業と同様に技術の標準化、生産のモジュ-ル化(標準部品の組み合せ生産)、商品のコモディティ化が今後、予想を超えるスピ-ドで進み、経営スピ-ドと低価格競争力が市場を支配する狩猟型が支配的になる可能性は十分考えられる。
現在の家電産業の栄枯盛衰から何を学ぶかが、大事になってくるのではないか。
(文=野口恒/ジャーナリスト)
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