終戦70年・日本敗戦史(67)大東亜戦争開戦日の「朝日新聞紙面」米英両国に宣戦布告〔昭和16年12月9日朝日新聞(夕刊)
2015/05/03
終戦70年・日本敗戦史(67)
大東亜戦争開戦日の「朝日新聞紙面」
米英両国に宣戦布告〔昭和16年12月9日 朝日新聞(夕刊)〕
大詔換発さる(情報局発表八日十一時四十五分) 只今、アメリカ、英国に対する宣戦の大詔が発せられ、また同時に臨時議会召集の詔書が公布されました。
詔 書
天佑を保有し、万世一系の皇祚を践める大日本帝国天皇は、昭らかに忠誠勇武なる汝有衆に示す。
朕、ここに米国及び英国に対して戦いを宣す。朕が陸海将兵は全力を奮って交戦に従事し、朕が百僚有司は励精職務を奉行し、朕が衆庶は各々その本分を尽くし、億兆一心、国家の総力を挙げて征戦の目的を達成するに遺算なからんことを期せよ。
そもそも東亜の安定を確保し、以って世界の平和に寄与するは、丕顕(ひけん)なる皇祖考、丕承(ひしょう)なる皇考の作述せる遠い遠猷にして、朕が拳々措かざる所、しかして列国との交誼を篤くし、万邦共栄の楽を偕にするは、これまた帝国が常に国交の要義となす所なり。
今や不幸にして米英両国と釁端(さんたん)を開くに至る。洵(まこと)にやむを得ざるものあり、豈に朕が志ならんや。中華民国政府、さきに帝国の真意を解せず、みだりに事を構えて東亜の平和を攪乱し、ついに帝国をして干戈(かんか)執るに至らしめ、ここに四年有余を経たり。
幸いに国民政府更新するあり。帝国はこれと善隣の誼を結び、相提携するに至れるも、重慶に残存する政権は米英の庇蔭を恃(たの)みて、兄弟なお未だ牆(かき)に相閲(あいせめ)ぐを悛(あらた)めず、米英両国は残存政権を支援して東亜の禍乱を助長し、平和の美名に匿れて東洋制覇の非望を達しうせんとす。
あまつさえ与国を誘い、帝国の周辺に於いて武備を増強して我に挑戦し、更に帝国の平和的通商にあらゆる妨害を与え、ついに経済断交を敢えてし、帝国の生存に重大なる脅威を加う。朕は政府をして事態を平和の裡に回復せしめんとし、隠忍久しさに弥(わた)りたるも、彼は毫も交譲の精神なく、いたずらに時局の解決を遷延せしめて.この間、かえってますます経済上、軍事上の脅威を増大し、以って我を屈従せもめんとす。
かくのごとくにして推移せんか、東亜安定に関する帝国積年年の努力はことごとく水泡に帰し、帝国の存立まさに危殆に瀕せり。事既にここに至る。帝国は今や自存自衛のため蹶然起こって、いっさいの障礙を破砕するの外なきなり。
皇祖皇宗の神霊上に在り。朕は汝衆の忠誠勇武に信倚シ祖宗の遺業を恢弘し、速やかに禍根を芟除(さんじょ)して東亜永遠の平和を確立し、以って帝国の光栄を保全せんことを期す。
御名御璽
昭和十六年十二月八日
各国務大臣副署
帝国政府声明(午後零時二十分発表)恭しく宣戦の大詔を奉戴し、ここに中外に宣明す
。そもそも東亜の安定を確保し世界平和に貢献するは、帝国不動の国是にして、列国との友誼を敦くしこの国是の完遂を図るは、帝国が以って国交の要義となす所なり。
しかるに、さきに中華民国は我が真意を解せず、いたずらに外力を恃んで帝国に挑戦し来たり、支那事変の発生を見るに至りたるが、御稜威の下、皇軍の向かう所敵なく、既に支那は重要地点ことごとく我が手に帰し「同憂具現の士、国民政府を更新して、帝国はこれと善隣の誼を結び、友好列国の国民政府を承認するものすでに十一箇国の多きに及び、今や重慶政権は奥地に残存して無益の抗戦を続くるに過ぎず。
しかれども英米両国は、東亜を永久に隷属的地位に置かんとする頑迷なる態度を改むるを欲せず、一方支那事変の収緒を妨害し、更に蘭印を使嗾し、仏印を脅威し、帝国と泰国との親交を裂かんがため策動至らざるなし。
すなわち帝国とこれら南方諸邦との間に共栄の関係を増進せんとする自然的要求を阻害するに寧日なし。その状あたかも帝国を敵視し、帝国に対する計画的攻撃を実施しつつあるもののごとく、ついに無道にも経済断交の挙に出ずるに至れり。およそ交戦関係に在らざる国家間における経済断交は、武力による挑戦に比すべき敵対行為にして、それ自体黙過し得ざる所とす。
しかも両国は更に与国を誘引して帝国の四辺に武力を増強し、帝国の存立に重大なる脅威を加うるに至れり。
帝国政府は太平洋の平和を維持し、以って全人類に戦禍の波及するを防止せんことを顧念し、叙上のごとく帝国の存立と東亜の安定とに対する脅威の灘甚なるものあるに拘わらず、隠忍自重、八箇月の久しきに亘り米国との間に外交交渉を重ね、米国とその背後に在る英国並びにこれら両国に附和する諸邦の反省を求め、帝国の生存と権威との許す限り、互譲の精神を以って事態の平和的解決に努め、尽くすべきを尽くし、なすべきをなしたり。
しかるに米国はいたずらに架空の原則を弄して東亜の明々白々たる現実を認めず、その物的勢力を恃みて帝国の真の国力を悟らず、与国とともに露わに武功の脅威を増大し、もって帝国を屈従し得べしとなす。
かくて平和的手段により米国ならびにその与国に対する関係を調整し、相携えて太平洋の平和を維持せんとする希望と方途とは全く失われ、東亜の安定と帝国の存立とは方に危殆に瀕せり。事ここに至る。、ついに米国及び英国に対し宣戦の大詔は換発せられたり。聖旨を奉体してまことに、感激に堪えず。我等臣民一億、鉄石の団結を以って蹶起、勇躍し、国家の総力を挙げて征戦の事に従い、以って東亜の禍根を永久に芟除、聖旨に応え奉るべきの秋なり。
惟うに世界万邦をして各々その処を得しむるの大詔は、炳として目星のごとし。帝国が日、満、華三国の提携により共栄の実を挙げ、進んで東亜興隆の基礎を築かんとするの方針はもとより漁かわる所なく、また帝国と志向を同じうする独伊両国と盟約して、世界平和の基調を画し新秩序の.建設に邁進するの決意は、ますます牢固たるものあり。
しかして今次帝国が南方諸地域に対し、新たに行動を起こすのやむを得ざるに至る、なんらその住民に対し敵意を有するものあらず。ただ米英の暴政を排除して東亜を明朗、本然の姿に復し、相携えて共栄の楽を頒かたんと東急するに外ならず。帝国はこれら住民が我が真意を諒解し、帝国とともに東亜の新天地に新たなる発足を期すべきを信じて疑わざるものなり。
今や皇国の隆替、東亜の興廃はこの一挙に懸かれり。全国民は今次征戦の淵顔と使命とに深く思いを致し、いやしくも驕ることなく、また怠る事なく、よくつくし、よく耐え、以って我等祖先の遺風を顕彰し、難関に逢うや必ず国家興隆の基を啓きし我等祖先の赫々たる史積を仰ぎ、雄渾深遠なる皇護の翼賛に万遺憾なきを誓い、進んで征戦の目的を完遂し、以って聖慶を永遠に安んじ奉 らんことを期せざるべからず。
枢府本会議開く
政府は八日午前七時、首相官邸に緊急臨時閣議を開催、東条首相はじめ東郷外相を除く全閣僚出席し、緊張せる空気の中に宣戦布告の件、政府声明文、大詔を拝し奉る首相の放送内容および臨時議会奏請の件の重要案件を附議、決定、同二十分終了した。東条首相以下全閣僚は直をに参内し、宣戦布告に閲し枢密院の御諮詢を奏請した。
右により枢密院は午前七時三十分、宮中において臨時緊急全体会議を開催し、枢密院側より原、鈴木正副議長以下全顧問官、政府側より東条首相以下全閣僚出席して宣戦変口の件を上議し、政府側東条首相以下関係閣僚より米英との交戦状態、開始に到る情勢を説明、併せて対米英戦完遂に関する政府の所信を披歴、また顧問側より宣戦布告に関連する各種の重要問題についてそれぞれ慎重なる質問が行われて、同九時四十五分、畏くも天皇陛下親臨の下に本会議を開催して宣戦布告の件を全員一致のもとに可決、
かくて歴史的な枢密院本会議は何十で時十分終了したかよって政府は直ちに御諮諭案の御下げ渡しを乞い、宣戦布告の大詔に全国務大臣玖副署を行って、同十一時四十分、宣戦の大詔は換発あらせられた。なお政府は九日の定例閣議において、来たる十五日召集される第七十八臨時議会に提出すべき戦時予算案及び緊急非常法律案を附議、一決定するはずである。
関連記事
-
-
★5<まとめ記事再録>『歴史の復習問題』/『世界史の中の日露戦争』-『英タイムズ』,『米ニューヨーク・タイムズ』は「日露戦争をどう報道したのか(連載1回―20回まで)①』★『緊迫化する米/北朝鮮の軍事的衝突はあるのか、日露戦争勃発直前の英米紙の報道と比較しながら検証する①』
★5<まとめ記事再録>『歴史の復習問題』/ 『世界史の中の日露戦争』 再録・日本 …
-
-
『Z世代のための「原爆裁判」の歴史研究講座」★『「原爆裁判―アメリカの大罪を裁いた三淵嘉子」(山我浩著、毎日ワンズ)の書評』★『オッペンハイマーは原爆被災者に涙の謝罪、孫は核廃絶の連帯を訴えた』
「原爆裁判」は必読の歴史的ドキュメントです。 今年4月から始まったNHK朝の連続 …
-
-
世界/日本リーダーパワー史(915)-『米朝首脳会談(6月12日)で「不可逆的な非核化」 は実現するのか(下)
世界/日本リーダーパワー史(915) 一方、日本の対応と、日中のパワーバランスの …
-
-
日本リーダーパワー史(771)―『トランプ暴風で世界は大混乱、日本も外交力が試される時代を迎えた。そこで、日清戦争の旗をふった福沢諭吉の「外交論」を紹介する」★『日清講和条約(下関条約)から3週間後の福沢諭吉の外交論である。 『外交の虚実』『時事新報』明治28年5月8日付』●『今日の順風も明日の逆潮に変化するその間に立て、虚々実々の手段をめぐらし、よく百難を排して、国の光栄利益を全うするは外交官の技量にして、充分に技量を振わせるものは実に朝野一般の決心如何に在るのみ。』
日本リーダーパワー史(771) トランプ米大統領の誕生で『世界は大混乱の時 …
-
-
『リーダーシップの日本近現代史』(58)記事再録/『日清戦争の引き金の1つとなった防穀令事件 <1889年(明治22)>とは』★『防穀令を布いて日本への穀物の輸出をストップし、朝鮮地方官がワイロを貪ったのが原因(林董の証言)』
2016/04/24 /日本リーダ …
-
-
終戦70年・日本敗戦史(68)大東亜戦争開戦日の「毎日新聞紙面」「東条首相、国民に殉国の覚悟を説くー」
終戦70年・日本敗戦史(68) 大東亜戦争開戦日の「毎日新聞紙面」 「 東条 …
-
-
(まとめ記事再録)『現代史の復習問題』★ 『ガラパゴス国家・日本敗戦史②』150回連載の16回~30回まで』『日本の最も長い日(1945年 8月15日)をめぐる死闘―終戦和平か、徹底抗戦か①』 ★『終戦を死闘の末になんとか勝ち取った首相官邸と外務省』★『問題は「サブジェクト・ツー」の解釈』★『『大日本帝国最後の日 -かくして「聖断」は下った!』
(まとめ記事再録)『現代史の復習問題』★ 『ガラパゴス国家・日本敗戦史②』150 …
-
-
世界/日本リーダーパワー史(967)-『トランプ大統領弾劾問題と米中テクノナショナリズムの対立(下)』★『米中通商協議の期限は3月1日』★『中国経済失速へ!「中所得国の罠」にはまったのか』★『中国の「テクノナショナリズム」「<中国製造2025>のスパイ大作戦』
世界/日本リーダーパワー史(967) 『トランプ大統領弾劾問題と米中テクノナショ …
-
-
書評 「静岡連隊物語―柳田芙美緒が書き残した戦争」静岡新聞社編 静岡新聞社刊(2009年7月刊)
書評「静岡連隊物語―柳田芙美緒が書き残した戦争」 静岡新聞社編 静岡新聞社刊(2 …
