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『Z世代への昭和史・国難突破力講座⑲』★『アジア・太平洋戦争下」での唯一の新聞言論抵抗事件・毎日新聞の竹ヤリ事件の真相④」★『この事件のまきぞえの250名は硫黄島に送られ、全員玉砕した。』

      2025/08/31

大東亜戦争下の毎日新聞の言論抵抗・竹ヤリ事件④

以下は新名記者が自ら語る『竹槍事件』(「沈黙の提督、井上成美
真実を語る」新名丈夫著 新人物文庫(2009年)によると、新名の独白である。

 ●まきぞえの二百五十名は硫黄島に送られ、全員玉砕した。

  入隊してまもなく、未知の人から一通のハガキがきた。それには、こう書かれていた。 「私は貴連隊に先日まで勤務していた大尉です。ご苦労ですが、しばらくつとめて下さい。なお連隊本部の香川進中尉に連絡して下さい」

この一枚のハガキが何を意味するか、私にはわからなかった。

やがて、香川中尉から呼び出しがきた。連隊の報道部の士官だった。中尉は私を将校酒保につれて行って、茶菓を馳走し、タバコをくれたうえ、毎日新聞社の丸亀通信部主任を呼んで、連絡をつけた。

 香川中尉は何べんも私を呼び出した。そして、「君はやがて帰るよ」と、いった。三カ月で、私は他の戦友といっしょに除隊になった。その夜、香川中尉が1杯やろう」といって、丸亀市内の料理屋で杯をくみかわしたとき、中尉はおどろくべき話をした。

「丸亀連隊は明治以来の古い歴史を持つ部隊です。だが、その丸亀連隊の歴史あってこのかた、空前の大騒動だったのです。

海軍は強硬で、大正の召集免除の者を二人だけ取るとはどういうことか、とねじこんできた。そこで辻つまをあわせるために、同じように大正の召集免除の者を二百五十名、大いそぎで取ったのです。

君に対しては、中央からは、沖縄、硫黄島方面の球部隊に転属させるという厳命がきていた。だが、いま君を召集解除にする。

君の兵籍簿は、二度と召集令状が来ないよう、ブランクにしてある。しかし、それでも大丈夫とはいえない。必ず再召集が来る。内地にいない方がよい。

陸軍には、支那事変以来、中央に対して批判派がいる。それと海軍が実に強硬であったということ、これを忘れないでほしい。しかし、新聞記者としてこれだけの大騒動をひきおこせば、もって瞑すべきですよ」

  
森日記の「六月二日」には、こう書かれている。

 

新名が帰ってきた。今朝九時六分に東京に着いて、いったん家に落ち着いたことを出社して聞いたが、午後、社に現われる早々会って、あらましの模様を親しく聞き取った。彼の入隊から三ヵ月経ったのである。最初は彼があんな具合で引っ張られていったとき、いったいこんなことで、この大切な時期を乗りきってゆけるものかと、当局のやり口を極度に憤るばかりであった。

その心持ちは今でも変わらない。しかし今日、新名自身から入営から釈放まで隊内で受けた上官や戦友の兵たちの、彼に対する心やりの温かさを聞くに及んで、軍人政治屋の馬鹿者どもが何もかもを打ち壊そうとしている一方、こうした純な人間味が、皇国のこの厳しい時代を温めていてくれるかと思い、感激の深いものがあった。

続いては新名の記述である。

 

除隊になるや、海軍は私を報道班員にしてフィリピンへ派遣した。サイパン、テニアン落ち、フィリピンの決戦となった。私は、第一、第二航空艦隊(基地航空部隊)に従軍した。神風特別攻撃隊の出撃となった。

  そして飛行機がなくなり、司令部が台湾へさがるとき、司令部は私に「内地出張」の命令を出した。内地で戦争の真相を講演してほしい、というのであった。

戦争がすんでまもなく、私は同じ丸亀連隊にいた朝日新聞の井沢淳君(映画評論家)から聞かされた。

私といっしょにいた丸亀連隊の戦友には、あれからまもなく再召集令がきて、全員硫黄島へ送られて死んだと。いまも、その人たちのことを思うたびにたおれそうな気持ちだ。-と新名は述懐した。

つまり、海軍は直ちに新名を報道班員としてフィリピンへ送り、陸軍の再召集を防いだが、新名記者がフィリピンに出発した直後、新名のとばつちりをくって再召集された丸亀連隊の中年二等兵たち二百五十人は硫黄島に送られ、全員玉砕してしまったのである。

「毎日新聞百年史」(1972年刊)はこう書いている。

「この竹ヤリ事件の記事の主張するように、陸海軍航空機の生産力を海軍一本にしぼったなら、あるいはフィリピンの決戦に勝機をつんみ得たかも知れないともいわれる。竹ヤリは、事実、何の役にもたたなかった。

六月十五日サイパンに米軍が上陸、七月十八日東条内閣は総辞職し、七月二十二日小磯国昭内閣となる。吉岡編集局長は八月七日復職した。加茂次長は五月に西部編集局次長となっていたが、十月十三日東京に復活した」

 

新名記者と同じような懲罰召集は松前重義(現東海大学学長)が東条反対派の東久邇宮に接近したというので、四十五歳で第二国民兵なのに召集され南方に送って、電柱かつぎに使役されたという懲兵ケースがある。

 大量の科学兵器に対して、女子供まで竹ヤリを持って対抗するというアナクロニズム、精神主義の無知蒙さ、思考形式は60年前の戦争という異常時の単なるレアケースしてかたづけられるのだろうか。その後の日本人から真に克服されたのだろうか、気になる。

 

 - 人物研究, 健康長寿, 戦争報道, 現代史研究

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