日本リーダーパワー史(588)史上最強の外交官・小村寿太郎ーその外交力の秘訣は1に胆、2に剛、3に堅実、「ただ誠の一字に尽きる」と述べている。
日本リーダーパワー史(588)
世界が尊敬した日本人(54)
史上最強の外交官・小村寿太郎ー
その外交力の秘訣は1に胆、2に剛、3に堅実と評され、
外交姿勢は「ただ誠の一字に尽きる」と述べている。
前坂 俊之(静岡県立大学名誉教授)
今、日本の「リーダーパワー」が問われているが、史上最強の外交官は誰かと聞かれれば、小村寿太郎に指を屈する。外務省の外交史料館の入り口には日本外交に大きな功績を残した陸奥宗光、吉田茂と並んで小村寿太郎の写真が掲げられている。
小村は1855年(安政2)9月に現在の宮崎県日南市に下級武士の子として生まれた。
大学南校(東大の前身)を2番で卒業、20歳で文部省第1回留学生として米ハーバード大学法律学科に留学。卒業後はニューヨークで法律事務所に勤めた後、帰国して司法省に入省、その後、外務省へ転じた。小村は身長143センチしかない病弱な体格で、顔もやせて目も落ちくぼみ、太い眉毛に、濃い髭をはやし「ねずみ公使」「小村チユ一公」と呼ばれた。
こうした肉体的なコンプレックスの上に、父親がつくった約一万五千円もの借金が小村にのしかかった。銀座の一等地の坪単価が五十円という明治二十年頃の大借金で、連日、外務省には借金取りがつめかけた。親友の杉浦重剛らが連帯保証してしのいだが、剛毅な小村は一向に平気で飲み歩き、料亭から外務省に出勤して一週間、全く帰宅しないこともあり、借金は一層脹らんだ。妻はヒステリ一で家庭的な不和も重なった。
三重苦を乗り越えて外交の勉強に打ち込み不屈の精神力を鍛え上げていった。外務省では不遇をかこっていたが、陸奥宗光にその偉才を見いだされて清国の公使に抜擢され、日清戦争の後は駐韓弁理公使、外務次官、駐米・駐露公使を歴任、1901(明治34)年、桂太郎内閣が誕生すると外務大臣に上りつめた。
ここで小村の卓越した外交力が発揮される。
「光栄ある孤立を」を守ってきた超大国英国と弱小国日本が翌年、日英同盟を締結して、世界をアットいわせた。日露戦争中は戦時外交の舵をとり、ポーツマス講和条約では全権大使としてウイッテ・ロシア全権と対決して決裂寸前で「樺太の南半分」割譲という講和をまとめた。
これには、「日本大勝利」の報道で賠償金など過大な期待を持った世論は「国辱外交」「腰ぬけ外交」と大暴発して、日比谷焼き打ち事件を起こした。
しかし、戦争の内実は日本側に兵力、弾薬とも尽きはて、これ以上戦争継続できなかったためで、小村のタフネゴシエーターによって講和を勝ち取ることができたのだが、国民は知る由もなかった。
精魂つくし大病をして帰国した小村を新橋駅で迎えた元老山県有朋、桂太郎首相、山本権兵衛海相らは激昂した民衆から守るため、自ら護衛しながら小村をかばった。
一身は犠牲の覚悟の上という気概にリーダー、国民ともあふれていたのである。講和でやっと手に入れた満鉄の価値がわからず米鉄道王ハリマンに売却の仮調印をしていたこと知った小村は、病を押して奔走して、これを叩き潰して、国益を守り通した。
これだけではない。
小村外相は1911(明治44)年には日米新通商航海条約など各国との不平等条約を改正させ「関税自主権」「治外法権」を回復し、明治以来、念願の「独立主権国家」をやっと実現した。小村の外交力によって日本は、半世紀をかけてアジアの新興国から名実ともに先進国の仲間入りを果たしたのである。
その小村の外交力の秘訣は1に胆、2に剛、3に堅実と評され、自身の姿勢も「ただ誠の一字に尽きる」と述べており、
「政治家は信じて事を断行し,責を一身に負う覚悟がなくてはならない」とリーダーの在り方を述べている。
1911年11月、外交で心身ともにすり減らし清貧の中で56歳で亡くなった。
関連記事
-
-
日本リーダーパワー史(642) 日本国難史にみる『戦略思考の欠落』(35)世界史を変えた日露戦争勝利のスパイ大作戦→ ドイツ皇帝ウイルヘルム2世は『明石元二郎たった一人のインテリジェンスで、満州軍20万人に匹敵する成果を挙げた』と大絶賛した⑥
日本リーダーパワー史(642) 日本国難史にみる『戦略思考の欠落』 …
-
-
日本のリーダー・初代の総理大臣・伊藤博文は政治力もあったが『好色一代男』
1 日本のリーダー・初代の総理大臣・伊藤博文 04年1月 前坂 …
-
-
『リーダーシップの日本近現代史』(295)★『芥川龍之介の文学仲間で、大正文士の最後の生き残り作家・小島政二郎(100歳)の人生百歳訓ー 『足るを知って分に安んずる』★『いつまでもあると思うな親と金、ないと思うな運と借金』★『起きて半畳、寝て一畳、天下取っても、二合半』
2012/11/23 百歳学入 …
-
-
11月15日●尼崎武庫公民館市民大学での講演レジメ『日米戦争の敗北を予言した反軍大佐・水野広徳』(前坂俊之)
2012年11月15日 尼崎武庫公民館市民大学 前坂 俊之 …
-
-
知的巨人たちの百歳学(181)記事再録/<料理研究家・飯田深雪(103歳)の生涯現役/健康長寿法>「毎日を創造する気持ちで過ごす生活に飽きはこない」「すべては祈りによって与えられた大きな恵みです」
2015/10/13/知的巨人たちの百歳学(129)の再掲載 103歳 料理研究 …
-
-
オンライン講座・百歳現役学入門― 団塊世代は元気な百歳をめざそう, <健康長寿、社会貢献の秘訣は』★「少くして学べば、則ち壮にして為す有り。壮にして学べば、則ち老ゆとも衰へず。老いて学べば、則ち死すとも朽ちず」(佐藤一斎)』
2018/04/14『百歳学入門(198)』再録 前坂 俊之(ジャー …
-
-
『オンライン講座/ウクライナ戦争と安倍外交失敗の研究 ④』★『ロシアに対して日本式な同情、理解は完全に失敗する。ロシアは一を得て二を望み、二を得て三を望む国、。彼らに実力を示さずして協調することは、彼らの侵略に同意するのと同じだ」
『当時のロシア駐在日本公使・西徳二郎の警告』 &nbs …
-
-
『Z世代のための日本近現代興亡史講座(下)』★『「日露戦争の日本海海戦で英海軍ネルソン提督を上回る完全勝利に導いた天才参謀・秋山真之のインテリジェンス②』★『ジョミニ(フランスの少将)、クラウゼヴィッツ、マハン、山本権兵衛の戦略論』
ロシア海軍を視察、極秘中の極秘の「一等戦艦の図面」を1分間ほど見せてくれたが …
-
-
日本リーダーパワー史(607)日本国難史にみる『戦略思考の欠落』③「高杉晋作のインテリジェンスがなければ、明治維新も起きず、日本は中国、朝鮮の二の舞になっていたかも知れない」
日本リーダーパワー史(607) 日本国難史にみる『戦略思考の欠落 …
-
-
『 地球の未来/世界の明日はどうなるー 『2018年、米朝戦争はあるのか』②『米朝戦争勃発の確率は20―25%!』★『予防戦争と偶発戦争の可能性は・!』★『トランプの「なんで今回も迎撃しないんだ。サムライの国だろ?」、安倍首相は「集団的自衛権の範囲内でやれることをやる」』
米朝戦争勃発の可能性はあるのか、その確率は?! 最新の情報(1月18日)では、ト …