前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

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★「コロナ騒ぎの外出自粛令で、自宅で閉じこもっている人のためにお勧めする<面白い人物伝>★<超高齢社会>創造力は老人となると衰えるのか<創造力は年齢に関係なし>『 ダビンチから音楽家、カントまで天才が傑作をモノにした年齢はいずれも晩年』★『 ラッセルは97歳まで活躍したぞ』

   

 

<創造力は年齢に関係なし、世界の天才の年齢調べは>

前坂 俊之 (静岡県立大学名誉教授)
 
老人には創造的な仕事はできないとも思われていますが、どうなんでしょうか。
 
『これには諸説があるんじゃないのかな。科学的な大発見は大体2,30歳の若い時分にまずそのアイディア、基本的な部分がひらめいて、それが肉付けされて理論が生まれるものです。生まれつきのとびっきりの才能や創造力を持った人間、天賦の才を持った人が天才といわれる。天才少年はいても、天才老人と言う言葉はありませんね。 フランス詩人、作家のレモン・ラディゲは早熟の天才で、『肉体の悪魔』(14歳で習作、17歳で発表)、『ドルジュル伯の舞踏会』を執筆の直後、腸チフスのために20歳で夭折した。まさしく、夭折の天才で、三島由紀夫の作品、死も大きな影響を受けていますよね』      
『音楽界では、若き天才は山ほどいますよね。生誕250年をすぎましたが、神童・モーツアルト(1756-1791)は5歳で作曲し、6歳で宮殿に招かれマリアテレジアの前で見事な演奏を披露、13歳でザルツブルグの宮廷音楽団のコンサートマスターに就任、天才少年はその音楽的な才能を泉のごとく発揮して、30歳で代表作のオペラ『フィガロの結婚』を完成、生涯700曲以上を作っています。
三五歳で病をおして『魔笛』を完成した直後に亡くなっていますね。シューベルト(1797- 1828)はさらに若死にですよ。13歳で交響曲の作曲をはじめ、彼は『一日中作曲していて、完成するとまた次を書き始める』といっています。次々に曲が浮かんでくるんでしょうね、未完成交響曲、ピアノ曲、歌曲、歌劇など1200曲もの膨大な作品を31歳までに作って、急死というか、当時も平均寿命は長くなかったんですね』
●仕事の完成は熟年およびそれ以後という偉人も多い。
例えば、コッホと並んで「近代細菌学の開祖」といわれるルイ、パストゥール(1822―1895)がアルコールの発酵の際の酵母菌の役割を見出したが、彼は四三歳で『ぶどう酒の研究』を公にした。五四歳のときには『ビールの研究』を出版。五五歳のときの、ウシ、ヒツジなどの伝染病たる炭症病の病原菌を突き止めて五八歳で、狂犬病の予防接種を発見した。そして六〇代のなかばになって、パストゥール研究所の設立、その所長となった。
『発見、発明をした年令を調べると、大体、30、40歳以下と若い年齢です。化学分野では三〇歳以下だし、多くの自然科学、数学、医学などは四〇歳以下、哲学、形而上学、音楽などの分野は四〇歳を越すものもありますが、大体「世界に影響を与える大きな仕事は、二十五から四十歳の間に行なわれている」というウィリアム・オスラー(カナダ生まれの世界的な医学教育の基礎を築いた内科医)の説があたっているんじゃないのな。
ただ、年齢によって創造性のすべてが衰えることはありません。人間の脳細胞は100億以上あります。年をとるごとに、1日に約十万というニュウロンが死滅していくのは確かですが脳活動のそれはわずかです。90,100歳になっても肉体の衰えとは逆に、脳活動の元気を保ち続けて、創作、創造活動は持続できるというのは、100歳以上の人の脳の調査からわかってきています』
 立花隆の話では
「立花隆もその読書論で言っていますが、百歳になると脳の機能が相当低下していると思われるでしょうが、そうではないんです。これは個人差が大きく、健康な人の脳は、六十代の脳と変わらない。もちろん老化はあります。物忘れは激しくなったり、人の名前が出てこなかったりするのはごく小さな脳硬塞が起こっているからです。 しかし、脳は精緻な構造なので小さな脳硬塞はすぐにバイパスが通って機能が保つ。使えば使うほどそういうバイパスができる仕組みで、脳はとことん使うほど、老化しないのですね。教訓は、脳は惜しまず使えって言うことですね。平櫛翁の、<実践、実践、また実践。挑戦、挑戦、また挑戦・・>ではないが、脳を使って、使いと倒せ、知恵をしぼって絞って、しぼりつくせというのが、知的百歳の秘訣というところですね」      
『たしかに、その要素は大きいですね。年輪を重ねることによってますます円熟する、若い天才のインスピレーションから、それをまと整理する巨大な作品は年令の積み重ねによって生まれてきます。体力は衰えても、精神力はますます熟成して、巨木になるのです。
科学分野でも、73歳でなくなったダーウィンも最大の事業「種の起源」を出版したのは50歳のとき、最後の重要な論文『ミミズの土(その土壌の改良作用』)は亡くなる1年前の72歳です。        
78歳という長寿だったガリレオ・ガリレイは17世紀の自然科学に大きな影響を与えた地動説の『天文対話』を68歳で出版、それ以上に科学史上画期的な「新科学対話」を最晩年の74歳で発表していますね。いずれも遅咲きの天才で、条件反射で有名なパブロフは八十七歳で亡くなるまで、二十代の情熱と勇気を最期まで持続させたといわれます』
●ダビンチから音楽家、カントまで
『まだまだあるよ。ミケランジェロがサン・ピエトロ大聖堂を設計したのは八〇代になってからだが、88歳で死ぬ前日まで彫刻をしていといわれる。91歳でなくなったピカソも絵画から、陶芸、彫刻、その融合とジャンルを広げて、一段と高い境地から3万点以上という驚くべき多作を、特にその晩年から死ぬまで多数の作品を残したことは知られているよね。
イタリア・ルネサンス期の巨人・万能の天才 レオナルド・ダ・ヴィンチが「モナ・リザ」を書いたのは五十四歳、ミケランジェロの最大の構想はレンブラントの傑作も五十歳以後のものである。日本でも広重、雪舟、鉄斎など、高齢において名作を残し、横山大観(1868―1958、79歳)の大作「生々流転」も55歳の時の作品ですよ。
 音楽家はモーツアルトのような確かに、夭折の天才も多いですが、高齢でも名曲を作った作曲家も少なくない。ヘンデルは名曲「メサイア」を56歳で作り、ハイドンの傑作「創造」は六十四歳の時、トランンペット狂想曲も六十九歳の時。
イタリア音楽の最も重要な人物の一人でオペラ作曲家のヴェルディ(1813-1901)は七三歳で「オセロ」を作曲したのち、「ファルスタッフ」を八〇歳でつくったが、この舞台稽古を言に六時間から八時間も自分で指揮して人々を驚かせた。貧しい芸術家のための老人ホーム「憩いの家」を完成させたあと、88歳で亡くなったが、葬儀には、25万人もの弔問客が集まった。
ベートーヴェンの代表的な交響曲は、四十五歳から亡くなる五十七歳の12年間に、耳が全く聞こえなくなる中で連続的に創造力が泉のようにあふれ作曲しています。ヴェルディ(イタリアオペラ作曲家 88歳没)の「アイーダ」は六十歳すぎ、ワグナー(69歳没)の「パージファル」は68歳の時の作です。決して若いときに名曲が出来るものではなく、人生の円熟期にこそできるのです。        
世界文学でも同じで、ゲーテが『ファウスト』の第二部を完成したのは、晩年で亡くなった82歳の翌年に発表している。セルヴァンテスが「ドン・キホーテ」を完成したのは57歳、イプセンも最高の戯曲を書いたのは60歳をすぎてからで、ユーゴー、ゲーテ、トルストイ、ヴォルテールらの文豪も晩年になるほど名作、代表作を書いています』
『ドイツの哲学者イマニエル・カント(1724-1804)は80歳で亡くなっていますが、日本の哲学にも一番影響を与えた人物ですよね。彼は毎日夕方、一定の時間に、一定のコースで町を散歩して、その道は「哲学の道」と呼ばれました。カントの散歩は時計の時間に合わせたように正確で1分もの狂いもないといわれたほど。森や、戸外に出て散歩して、気分転換すると頭もスカッと爽快になって、新しいアイディアや思索が次々に沸いてくる。        
彼はもともと虚弱な身体で散歩は健康を保つために規則正しく継続されて、夜は午後十時の十五分前に仕事を止めて、必ず十時に就床して、睡眠もたっぷりとる生活を習慣化していたといわれています。彼の健康長寿の秘訣はこの散歩とその間の思索、熟睡だったのです。歩いて、散歩する。足と頭は連動して血液の循環が活発となって頭に刺激を与え、脳の働きを向上させるんですね。
そうした晩学、晩成によって、四十六歳でケーニヒスベルク大学の教授となり、五十七歳で『純粋理性批判』、六十四歳『実践理性批判』、六十六歳『判断力批判』の哲学三部作の名著はライフワークを著作しているんですね。
歴史家の仕事には高年におよんでいるものが少なくない。日本では徳富蘇峰(1863―1957、93歳)のようにね。ドイツでいえば、19世紀の歴史家レオポルト・フォン・ランケ(1795―1886)は。それまでの列国史、万国史ではない「それは事実いかにあったのか」を探究する実証主義的な研究方法で取組有名な『世界史』一六巻を書き始めたのは八〇歳のときで、第一巻は八五歳をすぎて公にされている。
映画王・「喜劇の天才」とうたわれたチャーリー・チャップリン(1889-1977)も88歳と長寿ですが、晩年まで、元気で旺盛な制作欲を示して、63歳で名作『ライムライト』では音楽まで作曲し、68歳で『ニューヨークの王様』最後の作品は監督だけですが『伯爵夫人』〔カラー作品〕を78歳で完成させていますよね』
 ラッセルは97歳まで活躍したぞ
『19世紀英国の数学者・思想家で世界最高の知性といわれたバートランド・ラッセル(1872-1970)は97歳で世界の思想家では最長寿でしょう。彼は貴族の家に生まれた若き天才で、ケンブリッジ大を最優秀の成績で卒業、すぐ同大の数学の教授になり、38歳から41歳にかけて数学での画期的な業績である『数学原理』(ホワイトヘッドとの共著)を発表します。第一次世界大戦後、ソ連を訪問、社会主義に幻滅してその未来を『ボルシェヴィズムの実際と理論』(1920)で予言、73歳で記念碑的な大著『西洋哲学史』(1945年)をまとめます。
七十八歳でノーベル文学賞受賞。ラッセルは年をとるほどに学問もより深く、円熟していきますが、70,80,90代とになるに従って、社会的な活動に傾斜し、核廃絶に体を張って抵抗します。私生活では八十歳で四回目の結婚を果たしたとおもうと83歳で、世界的に著名な科学者30人による核兵器廃絶のアピール「ラッセル・アインシュタイン声明」を発表。
88歳の時には、ロンドン・ハイドパークで核兵器を廃絶しない国家への市民的不服従運動を唱えて警察に逮捕され、一週間の豚箱にぶち込まれたが、一向にひるまなかった。        
九十才を過ぎても、反戦平和運動に情熱を傾けて米国のベトナム戦争介入に反対し、告発キャンペーンを行っています。一九六八年八月、チェコ紛争へのソ連介入に抗議運動を展開した時、なんと九十六歳という驚異のエネルギーですね』
危機の宰相・チャーチルは「晩年の鉄人」
『ウィンストン・チャーチル(1874-1965、90歳)も同じです。まさしく、『ジョン・ブル』だな、食いついたら話さない闘志はスゴイよ。
彼は第2次世界大戦の勃発で、イギリスが危機に見舞われた際、70歳で国防相・首相にカムバックします。戦時内閣を率いて、戦争に勝利し、戦後は「鉄のカーテン」と冷戦でソ連と対決して80歳まで自由主義陣営を守った鋼鉄の意志とリーダシップーを持ち続けた、「晩年の鉄人」そのものです。彼はわれわれを鼓舞する名言を数多く残していますね。
「成功とは、意欲を失わずに失敗に次ぐ失敗を繰り返すことである。」
「成功は決定的ではなく、失敗は致命的ではない。大切なのは勇気を持ち続けることだ。」
「お金を失うことは小さく失うことだ。名誉を失うことは大きく失うことだ。しかし、勇気を失うことは全てを失うことだ。」
「悲観主義者はすべての好機の中に困難をみつけるが、楽観主義者はすべての困難の中に好機を見いだす。」      

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